軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

176話 忘れていた『魔法』

創世魔法の出力を上げる。

その宣言通り、クロノが魔力を臨界まで高める。

弱体化領域の強度が更に上昇し、どうにか抑えていたエルメスが再び押され始める。ルキウスが咄嗟にカバーに入るが、その彼に向けられた拒絶の魔法も今までより更に強い。彼も体勢を崩されかけながら、どうにか抗う。

ローズが何かを叫んでいた気がするが、爆発音にかき消されて聞こえない。

併せて何かが聞こえた気もするが、これも聞き取れない。

「『【四は円環 無垢の天啓 星を繋ごう 星を繋ごう】』」

辛うじて拮抗状態には戻した。押されていることには変わりないが──ローズも舌打ちをしながらも復活し、何か止めるような声と共に焦りながら魔法を撃ち放つ。

何か詠唱のような(・・・・・・・・) ものが聞こえる(・・・・・・・) 気がするが(・・・・・) 、 それどころではない(・・・・・・・・・) 。

「『【星は 天(あめ) より 天(あめ) は神より 繋ぐ 縁(えにし) は世界の 導(しるべ) 】』」

そのまま抗う。何とか押し切られないように耐える。

こちらが圧倒的に不利だが、向こうも『賭け』だと言っていた。無茶な強化は長く続かない可能性が高い、まずはこちらもそれに賭けてひたすらに耐える。

微かな足音が、届くような戦闘音ではない。

「『【故に其の画を座と称し 紡ぐ道にて秩序を 徴(しる) し 未だ来ぬ画を知り 賜(たま) う】』」

ただ、耐えるだけでは恐らくだめだ。向こうがこのタイミングで強化をしてきたということは、押し切れる計算だということ。であれば何も策なく耐えているだけでは計算通りやられる可能性が高い。

だから、こちらからも反撃する。ここで更に限界を超えて抗う。その意思が伝わったのか、ルキウスとローズも抵抗の勢いを強めて。

故に、どこから飛んできた何かを誰かが受け止めた音がしたが、誰も気づけない。

「『【然して流る理を 真に連なる事の 象(かたち) を 変わる炎に祝福を】』」

こちらもギアを上げたことに、向こうも気付いたのだろう。

ここからが最後のぶつかり合い。それを自然と双方が悟り、更に集中を高める。味方と相手以外の周囲の全てが、意識から消える。

これ以上別の何かなどここに来るはずがないのだから、当然である。

「『【起こる全ては雫となりて 定め刻みし紋を 擦(なぞ) る その術記を占と呼ぶ】』」

魔力を高める。構えを整える。

これより始まるは正真正銘最後の削り合い。最早双方限界は近く、次の攻防終了と共に立っているのは片方のみ。その覚悟を、お互いが決める。

そして。

「『【終わりは 非(あら) ず 周り廻れと 彼方の空にも届きましょう】』」

息を合わせて、意志を交換して。

気高く真っ直ぐに、雌雄を決する一歩を踏み出し──

「『【◻︎◻︎◻︎◻︎ ◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎ ◻︎◻︎◻︎◻︎ ◻︎◻︎◻︎◻︎】』」

そこで(・・・) 。

ようやく(・・・・) 、 気付いた(・・・・) 。

「……………………、え?」

エルメスが。

あまりにも隙だらけに、呆然とした声を上げた。

だって。それくらい目の前の光景が信じられなかった。

今まさに、クロノたちと最後の激突をしようとした、その丁度中間地点に。

いつの間にか、立っている人影があった。

その人影……あまりにも見覚えがある赤髪の幼い少女に、エルメスは問いかける。

「リリィ、様?」

そう、その姿は紛れもなく、自らが主君と仰ぎ師と慕われる可憐な少女の姿。

エルメスの中で、いくつかの疑問が浮かび上がった。

何故来た? いや、そもそもどうやって来た?

いくらリリアーナとは言え。魔力を用いた身体操作能力に優れる彼女とは言え。

ここは自分たちの強力無比な魔法が飛び交う戦場の真っ只中。その中心地まで、血統魔法も持たない彼女がやって来るなど、まず無理。

考えられる可能性としては──純粋にやってくる彼女に、 たまたま(・・・・) 偶然(・・) 都合良く(・・・・) 魔法が(・・・) 全部(・・) 届かなかった(・・・・・・) 、というくらいしか……いや、でも、そんなこと。

(いや、それより! あれは……!?)

続けてエルメスが目にしたのは、いつの間にかリリアーナが持っていたもの。

魔道具。しかも見覚えがある。翼の生えた分厚い書物……翼が蠢き、本の部分が開き、そこからいくつもの円環が飛び出しているという変貌点はあるが、その魔道具は、ニィナから聞いた特徴と一致する。紛れもなく……

「 古代魔道具(アーティファクト) :スカルドロギア……?」

そうだ。スカルドロギア。

かつての北部反乱での戦いで、大司教ヨハンがエルメスたちを追い詰める際に使用した『未来予知を可能にする』という規格外の古代魔道具。

何故、それを今リリアーナが持っている。リリアーナは何故ここにきた。何をしに。どうやって。

(……いや、そもそも)

あまりにも多くの疑問が渦巻く中、エルメスはそこで恐ろしい違和感に気づく。

それはスカルドロギアについて。北部反乱で大司教ヨハンを打倒したのち……そうだ、打倒した後。

(スカルドロギアの行方について……北部反乱以降僕たちは、誰も知らなかった。いや──気にすることさえしなかった。あんな危険な魔道具を? 北部反乱以降、 全員揃って(・・・・・) 都合よく(・・・・) 存在を(・・・) 忘れていた(・・・・・) ? な……んだ、この、感覚……!?)

ぐにゃりと。

視界が歪むような感覚さえしてきた。

何かが、何かがおかしい。何かとんでもないものが致命的にズレている、否、意図的にズラされている。

無理やり最悪のあり得ない偶然を引かされたような、ギリギリ不自然ではない不都合に強制的に誘導されたような、あまりにも気持ち悪い違和感。

その全てが集約した先が、今眼前に居るリリアーナのような気さえしてきて。

主君に対してあるまじき感覚だと思い、まずはそれを解消すべく問いかける。

「リリィ、様? その、魔道具、は……?」

その言葉に答えて。

リリアーナが、顔を上げて──

笑って。

「『よく、ここまで連れて来てくれました』」

違う(・・) 。

そう、即座に分かった。

だってリリアーナはこんな笑顔を見せない。あまりにも美麗で、あまりにも慈愛に満ちた……そしてどこか底知れない、到底十一歳の女の子が浮かべて良いものではない笑顔。

(──ぁ)

それを、見た瞬間。

エルメスの中で、とある文言が思い出される。

それは、秘匿聖堂の中での出来事。教会が保持していた過去の文献に記されていた、恐ろしく意味深な文。

『王族、王家の人間であるにも拘らず一切の血統魔法を持たぬものが現れた場合』

『その者は真に神に愛された神子であり巫女である。王よりも丁重に扱うべし』

現在のこの国の価値観とは真っ向から反するその内容。

更に連想して思い出されるのは、この内容を踏まえての、王都に向かう際に問いかけたローズへの質問。

すなわち……この文の中で唯一分からない単語で、恐らく最も重要だろう単語。

そう、『巫女』について。

『あたしも詳しくは知らないが別の国の役職だな。まぁウチで言う神官の一種みたいな者らしい、主に神様と人とを繋ぐことを役割として、できることの内容としては……』

そんな言葉と共に聞いた、『巫女』の役割、『巫女』ができること。

まず、神との交信。神に対する奉仕や奉納。神事の執り行い。

そして。最後の一つが。

── 神の依代(・・・・) 。

「リリィ、様……いいえ」

その単語が、エルメスの中に浮かんだ瞬間。

あまりにも疑問だらけのこの状況の中、新たに浮かんだ特大の疑問を、ぶつける。

「あなたは……誰、ですか?」

その問いに、リリアーナ──の姿をした何かは答えず。

ただ、無言で。持っている魔道具、スカルドロギアを掲げる。

「……あ」

そこで、更に思い出す情報。今まで得てきた断片的な何かが、徐々に繋がっていく感覚。

古代魔道具(アーティファクト) :スカルドロギア。それはクロノが奪ったエスティアマグナと同格の魔道具……七つあると言われる始まりの古代魔道具の一つであり、クロノはそれを創世魔法を起動するために使った。それが、本来の使い方だと。

七つの古代魔道具。七つの創世魔法。

それは順当に考えれば、各々の魔道具に対応する創世魔法があるということであり。

つまり……スカルドロギアにも、エスティアマグナと、同じく。

そして。

今しがたの攻防で──聞き取る余地も、気にする余地も『何故か』なかったが。

ついさっきまで、リリアーナの姿をした何かが、リリアーナの声で。

七階節ほど(・・・・・) 、 何かを詠唱(・・・・・) しては(・・・) いなかったか(・・・・・・) ──?

そこまでエルメスの思考が辿りついたのを、見計らったかのように。

リリアーナの姿をした何かが、にこりと。あまりにも人間離れした美麗な笑顔で。

「── 魔銘解放(リベラシオン) 」

こう、宣誓した。

「 第四創世魔法(・・・・・・) ──『 ◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎(アルス・トロギア) 』」