軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

171話 リベンジマッチ

同刻。王都中心部、地下深くにて。

「……………………」

クロノ・フォン・フェイブラッドが。

『組織』のボスにして、この王国を崩壊させる主犯の一人が。

長い──長い、長い沈黙ののち。

「…………、へぇ」

そう、呟いた。 真顔で(・・・) 。

繰り返すが、真顔で、だ。……これまでエルメスたちと出会ってからずっと、その表情を微笑から一切崩すことのなかった彼が。

初めて、それ以外の表情を見せる。

そこから、感情は読み取れない。

怒りを抑え込んでいる、というわけではないだろう。それもないとまでは言わないが、それよりも更に複雑な何かを内側に宿した真顔で、端的に呟く。

そして、同時にクロノは気づく。

自分のところへも、強大な魔力の持ち主が向かってくる。……当然か、自分を狙うとすれば創世魔法が崩れた今しかないのだから。

そう考えた直後、魔力を感知してからと考えると驚くべきスピードで。天井を破壊し、地下に降り立った人影は。

「……なるほど、あなたですか」

青の短髪と、金色の瞳を暗闇の中光らせ、こちらを見据えてくる。

そんな彼の後ろには、淡い金髪の可憐な少女も。

「ルキウス・フォン・フロダイト。そしてサラ・フォン・ハルトマン。……私への刺客は、あなたたち二人だけですか?」

「ああ。死霊の脅威がなくなったとは言え、現在真っ当に向かえる戦力は限られているのでな。……それに、付け加えても良いのなら」

そのままルキウスは、どこか獰猛に笑って。

「 リベンジマッチ(・・・・・・・) だ。秘匿聖堂での一件、忘れたとは言わせない。

これ以上の言葉は不要だろう。──行くぞ、サラ嬢」

「はいっ!」

単純に時間がないという理由もあるのだろう。言葉は最小に、ルキウスが突撃を仕掛けてくる。

その速度は流石王国最強の剣士。常人であれば反応すら不可能なレベル──だが。

クロノは、『組織』のトップにして二重適性の血統魔法使い。常人どころか通常の魔法使いですら遠く及ばない能力の持ち主。

加えて、非常に頭も回る。死霊の王国が切れた時点で、感情の動きはありながらもここまで予期していた彼は、ルキウスの剣がこちらに届く直前。

予め詠唱しておいた、彼のもう一つの魔法を起動する。

「血統魔法──『 白夜の天命(アイン・ソフ・オウル) 』」

それは、秘匿聖堂でも一瞬見せたクロノのもう一つの血統魔法。

彼の純粋な魔法使いとしての実力をまざまざと突きつけた魔法であり、今突撃しているルキウスとサラを一瞬にして行動不能にして追い込んだ魔法。

それが改めて、一切の容赦なく改めて二人に襲い掛かり──

「言ったはずだ。リベンジマッチだと」

──弾いた。

一度目は反応することすらできなかった魔法を、確かに。

その場で急停止したルキウスが、ぐるりとその場で縦に回転。それに合わせて振るった剣が、上空部分で重い音と共に『何か』を弾き飛ばす。

見ると、サラも。同様自身の上に『 精霊の帳(テウル・ギア) 』を張ってその何かの攻撃を防ぐ。

その結果を確認したのち、警戒と共に一度足を止めたルキウスが告げる。

「秘匿聖堂で『その魔法』を受けたのち、エルメス君も合わせて魔法の検証を行った」

「……」

「流石だな、彼は。私の口頭と感覚による情報だけで全てを見抜いたぞ。

曰くその魔法は──『力場』のようなものを発生させる魔法だと」

力場。つまりは特定の点で、特定の方向にかかる『力』の場所のこと。

奇しくも、クロノの持つ魔法は双方とも純粋な力に関するものだ。或いは、多重適性の魔法使いはある程度持つ魔法の系統が似通うのかもしれない。

秘匿聖堂では、その『力場』をルキウスたちの真上に直接働かせ、不意打ち気味に行動力を奪った、というからくりだろうと。

この魔法の恐ろしいところは、その隠密性。『力場』は無色透明であり音も匂いも無い。感知することが極めて困難──なのだが。

「魔力の波動だけは騙せない。魔力感知を最大に働かせれば、自分やサラ嬢級の魔法使いなら辛うじて察知は可能。そして……」

エルメスに言われたことを、ルキウスがなぞる。

「魔法の仕組みは想像以上に単純。警戒すべきはその特殊性であり、からくりさえ分かれば対処は十分可能。

つまり──『二度は通じない』、ということだ」

クロノは、何の反応も示さない。

けれど、彼の僅かな魔力の動きからそれが真実であることを確信し、続けて。

「更に。今のやりとりからいくつかのことが判明した」

笑って。エルメスから聞いた情報ではない、ルキウスの洞察を続ける。

「まず──貴殿は今、 創世魔法を(・・・・・) 使えないな(・・・・・) ?」

「──」

「反動、というやつか。無理やり死霊の魔法を打ち切られたことによって貴殿にも少なからず影響が出ていると見える。更には……それによって通常の血統魔法も弱体化しているようだ。今の魔法の感覚、秘匿聖堂で見たものより一段圧が劣っていた」

暴く。彼の膨大な戦闘経験と、それで培われた洞察力。それに確信を持たせるべく、丁寧に言語化していく。

それに対しクロノは、やがていつも通りの微笑を取り戻して。

「……随分とおしゃべりかつ知的なんだね、フロダイトの長兄は。噂に聞く限りだと、もう少し猪突猛進なまさしく猪武者のイメージがあったのだけれど」

「間違ってはいないさ。事実少し前までの私はそうだった、何度も妹に怒られたとも」

はっはっは、と快活に笑って。

「だが」

その上で、告げる。

「それではいけないと、北部反乱の折に理解させられたのでね。今までの私のままでは同じことが起こった時に対応できない。何より、エルメス君を上回ることもできない」

「……そうか」

「ああ。故に最近はちゃんと頭と、そして言葉も使うようにしているのだ。散々これまで周りから言われてきた『訳が分からない』『そんなことができるのはお前だけだ』と評される私の感覚を、ちゃんと他に伝えるために。私が授かった財産を、いずれ皆が使えるようになるために」

それは。

まさしく、彼が王にと据えるリリアーナの理念。ルキウスもそれを体現すべく、まずは己を伝えるように変わった。

そう、変わっていく。進化していくのだ、世界を変える才能、エルメスを中心として。彼によって変えられた人から、更に伝染する形で。

それもまた、クロノの大事にする『理念』の形。

その事実を踏まえた上で、クロノは──それでもやはり、変わらず。

「一つだけ、訂正してもらおうか」

魔力を、高めて。

「私の『 白夜の天命(アイン・ソフ・オウル) 』。仕組みが分かれば対処可能で、二度は通じないと」

──ずあっ、と。

一気に自らの周りに十数の力場を展開する。

その全てが、直撃すれば大ダメージを与えうるもの。ルキウスをもってしても、一息に捌ききるのは不可能なレベルの物量。

「流石にそれは、甘く見過ぎだよ。この国の価値観で語るのは気が進まないけれど……二重適性の、 魔銘解放(リベラシオン) まで習得した血統魔法使いを相手にしている自覚はあるかな?」

「……たった今、しっかりと理解したとも」

言葉通り、ルキウスは評価を修正する。

実際、『 白夜の天命(アイン・ソフ・オウル) 』の仕組みは思った以上にシンプルだった。そしてシンプルということは……それだけ、分かっていても対応困難ということ。

「分かってはいたが、弱体化していても簡単な相手ではないな」

とは言え、概ねこちらの推測通りではある

であれば、ここからは自力勝負。

「では、サラ嬢。事前に立てた通りの立ち回りで」

「はい、ルキウス様。……お好きなように暴れてください。必ず、ついていきます」

サポートとして来たサラも、以前までの彼女にはない確かな意思の光を宿した表情で頷いて。

ルキウスはそれに驚きつつも、頼もしいと笑って、改めて突撃を開始する。

こうして、エルメス対ラプラスと時を同じくして。

またここでも、一つの因縁を決めるための苛烈な戦いが始まった。