軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

142話 王女様・2

「……そん、な」

王都の異変は、隠す必要もなくなった以上速やかに第三王女派閥の面々の知るところとなった。

惨状を余すところなく聞き届けたリリアーナが、絶望の表情で声をこぼす。

「ま、端的に言って地獄絵図だな」

対して、飄々と告げるのは先代の第三王女であり、『 無縫の大鷲(フレースヴェルグ) 』を用いて王都内部を偵察しその惨状を報告したローズ。

「多分、もういくつかの貴族家は全員死んでる。一応血統魔法がある以上即座に全ての貴族が滅亡──とはならないだろうが、それも時間の問題だろうな。何せ血統魔法は魔力が尽きれば終わりだが、向こうには 限界(それ) がない」

「限界が……無い、のですか? こんな、訳の分からない規模の惨劇に……!?」

「そーゆーもんなんだよ、創世魔法ってやつは」

創世魔法。

『もう隠しても意味無いな、あいつらが派手にやっちまったし』との言葉と共にローズから明かされたその魔法に、全員の背が強張る。

何より信じられない、仮にも同じ魔法を持つカティアの最大の衝撃に応えるようにローズが続ける。

「カティア、お前も直感した通りこれは『 救世の冥界(ソテイラ・トリウィア) 』だけの効果じゃ説明が付かない。十中八九創世魔法のサポートを受けての形だ。そいつを可能にするのは……第六辺りかね、また一番厄介なのを引き当てたもんだ。それが前提にあったとしたら完璧だよ、あのラプラスとかいうやつのここまでの計画は」

現状を可能とする魔法、それを用いての王都に今起こっていることの分析。

客観的に見てもほぼ正解と言えるそれを済ましたのち。

「んで、現状とそれが起こるカラクリは今言った通りで……それを踏まえた上での、あたしの見解を述べておく」

ローズは、淡々と告げる。

「──自業自得だよ、 貴族共(あいつら) の」

「っ」

「まーひどい有様だが、正直なところ同情だとか可哀想だとかは全く思わん。むしろ当然だろ、とすら思う」

彼女がこれまでの人生で見てきたこの国のありよう、それを踏まえた上で忌憚なく。

「先人が用意した極めて便利なものに頼り切って理解も発展もさせず、遺産を笑いながら食い潰してきた連中としちゃ当然の末路だ。負の遺産に食い潰されるって点も皮肉が効いていて大変あたし好みだな」

どころか、向こうのやり方を称賛すらしてのける。

「こうなりたくなかったら、どっかで『このままでは先細りだ』と気づいて、頼りきりにならない方法を早くに模索するべきだった。それで、過去のものなんかに負けない力を身につけて発展を目指すべきだったんだ」

『過去』がいつだって現在の味方をするとは限らないからな、と締め括ったのち。

「と、ゆーわけで。あたしは本音を言うと王都の貴族連中はどうでも良い。提案としては完全無視して殴り込んで、ユルゲンとオルテシアにだけ落とし前をつけさせてからお前たちを連れてどこへとでも逃げるのが良いだろ。普通に、どこ行ってもあたしたちならどうとでも上手くやれると思うしな」

だから、と言葉を区切って、一息。

「──これを踏まえて。お前はどうする? リリアーナ」

「!」

過去の第三王女から、現在の第三王女へと。

ローズほどではなくとも、国の現状をこれまでの旅で見据えてきた。自分たちの担ぎ上げるべき存在であり、この国の未来を担うべき少女に、問いかける。

ローズの言う通り全て見捨てるのか、或いはそれ以外の道を模索するのか。

「……」

リリアーナは、しばしの沈黙を挟む。

軽率な答えを返して良い問題では、当然ない。

これまで多くの場面、他の多くの優秀な配下に頼りきりで、今もこれからもきっと多くのことを頼り切ってしまうだろう自分だけれど。

それでも、進むべき道を決める決断だけは譲ってはいけない。それが、ここまで自分を盛り立ててくれた人たちへ、王女として通せる最低限の義理だと思うから。

その、意志のもと。

数十秒の沈黙を経て、彼女は口を開く。

「……確かに。今の王都の惨状について、貴族たちの……わたくしたちの責任が全くない、とは言えないのだと思います。これまでの歪な繁栄と怠慢の結果がこれだと言うのならば、滅亡もやむを得ないと言うのならば、受け入れるのしか無いのかもしれませんわ」

その場に集った一同の空気が沈む。

それは、大なり小なりここにいる誰もが体験してきたことだったから。

陰鬱な空気に、場が支配されかけ──

「でもっ」

それを、少女の高く甘い、けれど確かな意志を宿した声が遮った。

「── こんな滅亡の(・・・・・・) 仕方は違う(・・・・・) 。わたくしは、そう思いますのっ!」

ローズの目が、軽く見開かれる。

「わたくしは、この国に良い思い出しかないだなんて言いません、むしろひどくて辛い思い出の方が多いでしょう。

けれど……それでも、わたくしは師匠に逢えました。今まででは考えられないくらい素敵な方々にも、たくさん。お兄様とお姉様も、今まで通りでは無いかもしれないけれど素敵なところが戻ってきてくれてっ」

どんなに、ひどい場所だったとしても。終わって当然と、誰もに烙印を押されてしまうような国だったとしても。

「それでも……滅びて当然のものしか存在しなかった、だなんてことは絶対に認めませんわっ! この国にだって、綺麗なものはありますの! 仮に、それでもどうしようも無いくらいに『滅び』に向かう力が強くなってしまったとしても──!」

そこで、感情を吐き出し切ったのち。

決意を、幼い瞳に宿して、凛とした声で彼女は告げる。

「だとしても……その、結末は。全てを尽くした果てのものであるべきですわ。どう足掻いても滅亡だから何もせずに受け入れろ、だなんて。そんな結論を受け入れてしまうのは、この国の綺麗なものを根こそぎ否定するのと同じだと思いますの」

まだ、全てを尽くしていない。

今、この惨劇を起こしているものが、この国の良くない面に心から賛同し、滅亡こそを当然と考えているのだとしたら。

ならば自分は、それを否定する。どうしようもない相手だとしても、勝ち目がなかったとしても、良いところはあって、美しいものはあって。

それがある以上、全てを滅ぼすのは間違いだと立ち上がる。それこそが、この国の王家の一員として生を受けた自分のやるべきことだと、自らを定義する。

「抗いますわ」

その決意とともに、小さな星の王女は再度口を開く。

「この国が、この先どうなるかなんてわたくしには分かりません。でも──こんな、何もかもを泥の底に沈めるような結末だけは、許しません。だから」

どうか、ついてきてくださいますか、と。

彼女は、頭を下げる。今のは今代の第三王女として、もっと言えばリリアーナ個人としての意見であり、エルメスたちが従う義理はないということを理解した上で、しっかりとそちらにも筋を通す。

そして。

そんな彼女の懇願に反対するものは、最初からここまでついてきてはいない。

「──了解だ」

リリアーナの答えを受けて、ローズが微笑んで口を開く。

「その考えは、確かに良いな。元々協力自体はする気だったが、今ので更にやる気が出た」

「……ローズ、様」

「元々エルはお前の味方で、あたしはエルの味方だ。そんで……あたしとしても、可愛い姪っ子のためにひと肌脱ぐのはやぶさかではない」

空の魔女から、星の王女へ。

元々彼女は、自分の都合でしか動かない。そんな自分を誇りには思っているが──それでも、自分もこの王女様と同じく、王家に生を受けたことは事実だったから。

こんな意志を見せられて、かつ自分が王家の一員としてやってこなかったことを行なってくれるというのであれば。

もう、迷いはない。

「そんじゃ、改めて」

周囲の一同も、軒並み決意に満ちた表情をしているのを確認した上で。

現状を最も理解しているローズが、突破口となる一言を、述べるのだった。

「──人が使う、神様の魔法。

その攻略法を、教えようか」