軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

136話 最後の示唆

「……おや」

決着がついたのち。

エルメス、ルキウス、ヘルクの三人は戦いの跡地へと向かう。そこには、

「まだ、死んでないんだ。……我がことながらすごいねぇ、ぼくの体」

仰向けに倒れ込み、体のほぼ全てを凍り付かせ崩れさせながらも。

それでも、未だ意識のある様子で呆れと感心を覗かせ語るカルマが居た。

とは言え、彼がそう遠くないうちに死ぬ事実は変わらないだろう。魔力の感覚からも、外見からもそれは間違いなく。

それでもまだ生き残っているのは、偏にカルマの桁外れの生命力が故。強大な力を持つものは、相応に滅ぶにも時間がかかるという妥当な道理だ。

……まぁ、ある意味で都合も良い。

そう判断したエルメスは、そう時間も残っているわけではないので端的に。

「聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「いいよー」

問いかけ、対するカルマの思った以上に軽い返事に面食らいながらも、言葉を選んで続ける。

「──貴方は、 何なんですか(・・・・・・) ?」

「あははー、随分曖昧な質問だね。……でもまぁ、きみの聞きたいことも分かる。ぼくはどういう存在で、何を目的として、なぜこのタイミングでここに現れたか、あたりかな?」

続けて驚く。

全くもってその通り……なのだが、カルマがそこまで見抜いたこと自体が意外だった。

これまでの彼は、ある意味で思慮が浅く行動原理も単純で、ここまで深い思索と洞察を行うような存在ではなかったはずだが……察するに、この短時間。ヘルクとの決着をつけるまでの間に、その辺りも『進化』したのだろうか。

……改めて、今このうちに倒せてよかったと。

安堵するエルメスの前で、友好的な響きでカルマは口を開く。

「とは言っても、残念ながらぼくにこれ以上開示できる情報は無い。きみたちと戦う中で語ったことが全部だからね」

「……」

「ぼくは魔物。目的は人間の扱う全ての魔法の回収と、魔法を不当に扱っている人間の抹殺。そう在るように、ぼくを作った魔法に定められた。きみたちとかち合ったのは完全な偶然だよ、ただ目についた人間の魔法を見て、殺していたらこうなっていただけだしね」

嘘の気配は、無い。それを確認しつつ、エルメスが続けて問う。

「……その、『貴方を作った魔法』とは何ですか?」

「ごめんね、それも答えられない。何となく『そういうものがある』と感覚で分かるだけで、詳しいことは何も分からないんだ。……ああ、でも」

返る答えも、概ね予想通り。何かしら今後の手がかりになればと思ったが──と、落胆しかけるエルメスの前で。

カルマは、こう答えた。

「多分、だけど。──今王都に居る連中なら、答えを知ってるはずだよ」

「!」

それが何を指しているのか、分からないものはこの場にはいない。

「ラプラス卿……『組織』の皆さんのことですよね。彼らとも繋がりが?」

「へぇ、そんな名前なんだ。繋がりは無いよー、ただ、すごく強い力と魔法を持った人間たちが王都から遠巻きにぼくのことを見ているのは分かってたから。きみたちを殺した後はそいつらを殺しに行こうかなとは思ってたけど……」

そこで、言葉を区切って。

カルマは……ある意味では初めてかもしれない、どこか言葉を躊躇うような間を見せて。それでも、こう語る。

「……感覚が今まで以上に研ぎ澄まされた今なら分かる。あいつらは、ぼくが何なのか知っている。だって、感じるもん。

王都の中に── ぼくの(・・・) 大嫌いな(・・・・) 存在が(・・・) 『 二つ(・・) 』 ある(・・) 」

「! ……それは、単純に『人間』であるという理由だけでなく?」

「違う。人間なら普通に嫌いなだけ。でもあれは、なんていうか……同族嫌悪、ってやつに近いものなんだと思う」

……色々と、考察が必要な情報を得た。

『二つ』というのも気になる、これは頭に入れておくべきだろう。

「同族、という言葉を聞いて思いついたのだが」

そこで、別の声。今度はルキウスがカルマの回答を踏まえた上で問いかける。

「正直考えたくないことなのだが……君と同じ。言葉を解する規格外の力を持った魔物は、他に存在するのか」

「うん、すると思う」

全員の背筋が凍った。

けれど、カルマはそこでこう続ける。

「でも、王都にいるやつとは違うよ。本当にその意味の『同族』ならぼくは仲間意識を持つはずだし」

「……では、今どこに?」

「そこまでは分かんないけど……多分、心配はしなくて良いんじゃないかな」

軽く目を見開くルキウス。

「そいつらが、今すぐやってくることはないと思う。だってきみたち、話を聞く限り今はその同族で争ってるんだよね? じゃあ、好きにやらせておけってスタンスでどこかに隠れてる……んじゃない?」

「……それが、貴方との違いですか」

「うん。ぼくは『魔法の回収』も命じられたからこういう行動をとったけど、他の連中にはそれが無いって考えるとしっくりくる。だって、人間を滅ぼしたいならむしろ身内争いは歓迎すべきだし、その間に向こうも戦力を整えたりしてると思うよ」

「……」

それはそれで、決して看過できない状況だ。

けれど、カルマの言う通り今すぐやってくる心配がないのであれば……少なくとも、今考えるべきことではない。

何は、ともあれ。

「……今は、玉座を取り戻すことに専念すべき、ということですね」

エルメスが、そう締めくくる。異論が出ることもなく、とりあえずの情報を得ての行動指針に変更はない。

それを確認したあたりで……カルマの体の崩れが、いよいよ頭部にまで達し始める。

「時間切れ、かな。……もったいないことしたなぁ」

それを自覚してか。カルマも、寂しげな響きで呟く。

「魔法に縛られていないからこそ、魔法以外も使って何でもできる。生まれつき何もかも足りないからこそ、自分達で考えて進化する。

……人間がそういうものだって。きみたちの在り方の方が本質だって。もっと早く知れていれば、もうちょっと素敵な自分になれたのに」

その言葉には、今まであったような見下すような毒気の強い響きではない。純粋な憧憬と、敬意と、そう在れなかったことへの無邪気な後悔があった。

……きっと、こちらの方が彼の、この少年の本質なのだろう。今までは、この国の貴族──与えられたもので全てが決まる価値観しか知らない貴族たちばかり相手にしていたから、持ち前の対応力で彼らと同じようになってしまっていただけで。

「……まぁ、ぼくに言われても変な話かもしれないけど……頑張ってね」

その響きを残したまま、カルマが続けて告げる。

「人間は嫌いだけど、人間の中でならきみたちは好きだ。ぼくを遠巻きに見るだけの連中はもっと嫌いだし、きみたちが勝ってくれた方がぼくとしても嬉しい」

「……はい」

「…………そして……もし。ぼくが何かしらの形で……また、生を受けたなら」

途切れ途切れの声で、カルマがヘルクの方を見る。

「……その時は……もっと教えてよ。きみたちの言う……人間の戦い方を。特に、きみにさ」

「──断る。お前のような存在とまた関わるなぞまっぴらごめんだ、命がいくつあっても足りやしない」

対するヘルクは、言葉通り嫌そうな顔と共にそう告げた後。だから、と一言置いて。

「もしそれを願うなら、まずは僕の臣下に降れ。人を殺さず、僕の手足になってこき使われる覚悟ができてからなら教えてやる。そうじゃないと、お前のような奴は危なっかしくて僕なんかじゃ手元に置けもしない」

「……あはは」

飾らない言葉と、ほんの少しの譲歩。

それを聞き届けたカルマは、朗らかに笑って。

「確かに……それは、すごく、嫌だなぁ…………」

言葉とは裏腹に。

納得と安堵と、満足を浮かべた表情で。

彼らに多くの恐怖と、絶望と、そして最後に示唆を与えた。

魔物の少年は、消えていった。