軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

113話 対応

「……なる、ほど」

第一王子ヘルクの現状について、大まかなことは聞いた。

納得できる部分もできない部分も、共感できる部分もできない部分もあった。

今、安易に結論を出すべきことではないだろう。直属部隊の人間も憶測で語っている部分が多くあったことだし、詳しくは直接聞かなければ分からない点も多い以上今は一先ず置いておくべき。

そう判断した第三王女派閥の面々は、次の。そして恐らく一番重要な議題に移る。

「では……あの、カルマという存在。──どう倒します?」

リリアーナの言葉に、流石に全員が沈黙した。

無理もないだろう。単体戦力としても規格外、加えて正体不明なことに加えてあの精神性。今まで戦ってきたどの相手と比べても、あらゆる意味で異質な相手だ。

これまで相手をしてきた王家直属部隊の面々でさえも突破口が見つからずに黙り込む。

その中でもとりわけ衝撃を受けているのは、恐らく──

「……エル、大丈夫?」

カティアが問いかける。

そう、間違いなく最も影響を受けたのはエルメスだろう。

これまである意味で自分の特権だった『相手の魔法を再現して自分のものにする』能力。その特性に加えて再現までの速度も、再現精度も威力も、加えて魔法的な基礎能力まで。

あらゆる意味でエルメスの上位互換と呼べるような存在だ。さしもの彼といえど、相当メンタル面でのダメージは避けられないのでは。

そう思っての問いかけだったが……

「………………」

「……エル?」

「え、ああ……すみません、あの魔物の対策についてですよね」

珍しく、カティアの言葉に対して気付かない様子を見せるエルメス。

その後の問い直しでようやく反応したのち、静かな口調で。

「そうですね。……本音を言うと、思ったよりもショックは受けています」

「!」

「正直、自分のお株を奪われるというのがここまで堪えるとは思いませんでしたね。これまで僕は他人の魔法を特に何も考えず再現してきましたが……これまでそうされた方の気分が少しは分かりました。──ええ、率直に、悔しいです」

微かな驚きが、一同を包む。

だが、その直後。「なので」と一息置いて。

「……だから、ずっと考えています」

「え」

「あの時、カルマと対峙して観察して得た情報を忘れないうちに。向こうがこちらの魔法をコピーした際に、向こうの魔力はどのように変化したのか。向こうとこちらの魔法再現で違う点は何か、どこまで魔法を理解して再現しているのか、どういう風に変化して、どういうカラクリで、魔法から何を読み取って、何の要素をどう組み合わせて再現を行っているのか。こちらとの違いと差異、こちらでも真似できるものとできないもの……」

「!」

「直属部隊の皆さんからも、ヘルク殿下からも核心的な情報は得られなさそうだと判断したので。 なら(・・) 、 自分で(・・・) 解析(・・) する(・・) しか(・・) ない(・・) 。あの戦いで得た情報全てを統合して、いくつかの仮説を組み立て考えうる限りで検証して。一応現状は十数通りに絞れてはいますが、恐らく仮説を深めればもう少し狭く、系統立てて絞れるはず……なので」

言葉を紡いでいるうちに考えもまとまったのだろう。

エルメスは顔をあげ、一息にこう告げる。

「── 絶対に(・・・) 、 攻略法は(・・・・) 見つけます(・・・・・) 。

このままやられっぱなしは……端的に、我慢がならないので」

その言葉と、そう告げた彼の何処か透徹した表情を見て。

彼を知るものは、再度一様に驚いた。

今までの彼は、戦いそのものに多少の高揚こそ持っていたが、勝敗には然程頓着していなかったように見えた。戦いの結果そのものよりも、その過程で得られるものや突き詰めることそのものを重視しているように……更に言うなら、それ以外に興味がないように思えたから。

だが、今。そんな彼が、現在の様子を敢えて俗な表現で述べるなら。

──リベンジに燃えている、のだ。

今までとは違う熱意を持って、必ずやり遂げる意志を持って。

その希薄な表情の裏に凄まじい熱量を宿し、全力でその頭脳を回転させている。

……この上なく、頼もしい。

やはり、彼もあの出来事を経て確かな変化を見せているのだ。そしてそうであるならば、自分達のやることも決まっている。

「だからすみません、もしできるなら……」

「ええ。分かっているわ、エル」

続くエルメスの申し出を完全に予測したカティアは、静かに告げる。

「あなたはそのまま、カルマ対策に集中してちょうだい。それ以外のことは私たちで進めるわ。宜しいですか? リリィ様」

「ええ、それが良いと思いますわ。どの道魔法的な対策を詰められるのは、直接対峙した師匠が一番適任です。なので……」

現状把握は済んだ、あとは分担を決めるだけと切り替えて。

リリアーナは、表情を指揮官のそれに変えて一同を見渡す。

「まず、ローズ様は師匠のサポートをお願いいたしますわ。魔法理論的な意味で師匠についていけるのは、あなただけだと思いますので」

「りょーかい。あたしもそのふざけた魔法再現の能力には興味がある、願ってもない」

「私はリリィ様と部隊の再編に向かうわ。奴がまた襲撃してこないとも限らないし、護衛も兼ねて」

「だね、一番立場的にも力があるのがその二人だから適任だと思う。……それじゃボクは、郊外でアルバート君たちとの情報共有に向かうよ。なんだかんだで一番目立たないのがボクだと思うし」

「ふむ、ならば私は何をしたら良い?」

「ルキウスさんは私たちと一緒に部隊編成の場に。カルマではない、『普通の魔物』対策の知見をいただきたいです。この場で最も対魔物の経験があるのは恐らくあなたなので」

「なるほど、そういうことなら力を貸そう。今までとは勝手こそ違うが、魔物狩りは魔物狩り。できる限り対抗できるよう努めるとしようか」

流れるように次の動きを決めて、お互いがお互いのやるべきことを完璧に把握して。

この未曾有の苦境にも適切に対処すべく、第三王女陣営が動き出す。

「…………な」

そして。

それを呆然と見ている、国王直属部隊。

彼らの頭の中には現在、一様に一つの感想が浮かんでいた。

── なんだ(・・・) この(・・) 子供たちは(・・・・・) 、と。

主要人物は全員が十五歳やそこら、リリアーナ殿下に至っては十一歳だぞ。

ローズやルキウス等大人もいるにはいるが、話を聞いている限りむしろ二人とも指示を受ける側だった。

それ以外の戦略決定や役割分担、意志共有と段取りの把握。それら諸々の全ては──子供たちだけで行っていた。

この、間違いなく過去に前例のない危機であり窮地。実際国王直属である自分達ですら現状維持が精一杯で何も有効な策を見出せず、狼狽えてばかりだったこの現状に。一切動じることなく、全員がやるべきことを諒解して、正しい意味での理想的な『作戦会議』を経て的確に動いている。

どう考えても、この年齢の子たちができて良いことではない。

こんなものは……

「自分達とは違う何かだ、とでも思ってんのか?」

そのタイミングで。

またもローズから投げかけられた言葉に、部隊の全員が固まる。

「お前らは、自分たちのことを他の貴族連中よりは多少上等な存在だと思ってるのかもしれないけどな。あたしにとっちゃその思考が浮かぶ時点で大差ないぞ」

どうやら、ローズと言えど過去の因縁がある相手にはある程度辛辣になるのか。

残酷に……けれど核心をついた言葉を叩きつける。

「生まれながらの違いなんかない。ただあの子たちは、お前らよりも遥かに過酷な状況に置かれ、ギリギリの戦いを常に生き延びてきて、その結果あれだけの胆力と対応力を身につけた。お前たちにとっちゃ未曾有の苦境でも、あの子たちにとっちゃこれまで何度も乗り越えてきた、これからも乗り越えるべき試練の一つなんだ。……もっと言ってやろうか?」

そして、抉るように一息。

「── お前たちが(・・・・・) 不甲斐ない(・・・・・) せいで(・・・) そう(・・) ならざるを(・・・・・) 得なかった(・・・・・) んだよ(・・・) 」

それが。

多分これまでで一番深く、彼らの心に突き刺さる。

「それを理解したなら、大人しくあの子らについていけ。猫の手よりは役に立て。それがお前たちの……そんで多分、あたしたち全員の贖罪だよ」

それを最後の言葉にして。

ローズもそれ以降は目線すら寄越すことはなく、リリアーナの指示通りエルメスについて行き。程なくして第三王女派閥全員がその場を後にする。

……何一つ、言い返せなかった。

否。言い返したり逆上したりしない……彼女の言うことを受け入れ、自らを省みることができる分、彼らは自己評価通り他よりは幾分かまともだったのかもしれない。

それに。

確かに、ローズの言う通り……彼らが、自分の不甲斐なさのせいでこうならざるを得なかったとしても。

それでも──この状況を変えてくれるかもしれない彼らに、希望を見出してしまっている自分達が居るのも確かだったから。

ならばやはり、彼らに託して自分達の力をできる限り貸すのが正解なのかもしれないと。

情けなさ、自分達への苛立ち。そして……期待と、希望。

様々な感情を抱きつつも、直属部隊の面々も。自分達のやるべきことを行うべく、彼らと共に動き出し。

対魔物の一軍、そして対謎の魔物カルマの。

本格的な戦いが、ようやく動き出すのだった。