軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

99話 整理

「……ごめんなぁ」

まずは戻った瞬間、ローズに抱きしめられた。

「この国の本当にやばい部分の存在は知ってたし、それとお前との相性が悪いことも気付いてた。

その上で、情緒の発達を優先してお前の歪みを放置したんだ。……あたしの、育て方に問題があった。……本当にごめんな」

ローズの唯一の懺悔。

魔法は美しいもので、その極限を求めることが絶対的に正しい。

エルメスのそんな無意識下の決めつけや認識を、そうと知りながら放置したという謝罪を受け、エルメスは。

「……いえ」

当然、彼女を責めることはなく。

軽く抱擁を返し、こう述べる。

「それ以上に、師匠にはたくさんのものを頂きましたから。師匠が間違っているとは思いませんし、仮に間違っていたとしてもそれだけを責めるのは筋違いだと思います。

だから、また。……この先も、教えていただけると」

「っ」

それで、仲直りは終わりだ。

元より、この程度で揺らぐほど師弟の絆は脆くない。

加えて──端的に、今はそれどころではないという理由もある。

合流したローズに案内され、カティアと共に辿り着いたのは教会本部、以前も使った会議室。

そこにはニィナ、サラ、アルバート。そしてルキウス、リリアーナと。第三王女派閥の面々が勢揃いしていた。

ルキウスとは軽く、そしてリリアーナには全力で抱きつかれつつの。それぞれ復活への感謝と労いを告げられたのち。

「……それじゃあ、エルも戻ってきてくれたところで」

代表して、ローズが進行を務めての──

「言えることは全部話す。隠してたことも可能な限りは開示しよう。そして、そっちも言いたいことは全部言ってくれ。

その上で……これからどうするか。第三王女派閥の、作戦会議を始めよう」

価値観を否定され、信じたものがひっくり返って、何もかもがぼろぼろになって。

──それでも、と立ち上がるための。

改めての、全てを取り戻すための戦い。その始まりの会議の、幕が上がるのだった。

「まず聞きたいのは、やっぱり──」

「──『組織』についてですよね。ローズ様」

「ま、だよな」

想定通りの質問をカティアからされ、ローズが頷いて口を開く。

「当たり前だが、自然発生する組織なんてものは存在しない。どんな古い組織であっても、元を辿れば作られた上での理念と、そして何より作ったやつが存在する」

「……ですね」

「その点で言えば……あの組織はその点においては分かりやすい。作ったやつは間違いなくあのクロノって男。作られた理念は『王国の破壊』。破壊した上で何かをしたいわけではなく、何かを作るためにやむを得ず破壊するわけじゃない。

── ただ(・・) 壊したいほど(・・・・・・) 憎いから壊す(・・・・・・) 。純粋な破壊意志であり、破滅意志の権化。故に相容れる事はない。この辺りの認識は、全員相違ないな?」

全員が頷く。

あの光景を、そしてクロノのあの様子を見れば、最早そこに疑いを持てる人間は存在しないだろう。

「そんで構成員としては、その理念を知ってか知らずか従っているやつが中立貴族を中心として相当数。そして──その理念に賛同して従っている、つまり国の存続を望むなら、絶対に倒さなければならない幹部が三人」

「っ」

「一人ずつ、整理していこうか」

予想外の……加えてこの場にいる全員に因縁がある三人だ。

宣言通り、ローズは古く分かっている順から解説を開始した。

「まずは、ラプラス。

恐らくクロノの右腕みたいな存在で、幹部の中でも最古参。カティアたちから聞いた情報を統合するに、組織のブレイン的な役割も担っていると思われる」

「ええ。……出自不明にあるにも関わらず、第一王子派閥に取り入っていたんだもの。その時点で相当立ち回りも上手い人間なのだろうと推測できるわ」

「だろうな。そんで血統魔法は──『 悪神の篝幕(ゴエティア) 』。『拒絶』を主体能力とした結界魔法で、性能も応用性も桁違い。曲がりなりにもあたしに一撃入れられたってことも考慮すると……多分純粋な戦闘力も幹部の中で随一だろう」

改めて並べられると、紛れもない難敵であることが分かる。

この場の全員に共有された情報に、これまでラプラスをよく知らなかった人間も息を呑む。

「続いて、オルテシア。

幹部になった時期は不明だが、大司教派閥との件で考えると、相当古くからだろうな」

「はい……その、『空の魔女』様は──」

「ローズで良いぞ、サラ。君のことは魔法学園での対抗戦の映像で知ってる」

「は、はい! えっと、ローズ様は……オルテシア様と、昔馴染みなんですよね。魔法とかも、ご存知だったり……?」

「……ああ、知ってるっちゃ知ってる」

サラの問いかけに、ローズは頷きつつもどこか歯切れの悪い様子で再度口を開き。

「あいつの魔法は、『 霹の廻天(キィ・レイカーラ) 』。起動が遅い代わりに強力、という点を除けば特段癖のない雷の血統魔法のはず、なんだが……」

こう、述べる。

「正直、この情報は信用しない方が良い」

「え?」

「あの秘匿聖堂で感じた魔力で、確信した。

あいつの魔法、多分何かしらの理由で──『変質』してやがる」

──ひどく不穏な響きで述べられた、その言葉を。

「……変、質……?」

「ああ。魔力の感じから察するに、あたしの知っているその魔法よりももっと禍々しく、危険な代物に。

血統魔法にそんなことできるなんて聞いたこともないが……少なくとも、あいつに誰を当ててどう倒すとしても覚悟はしておいたほうが良い」

……そう言えば。

秘匿聖堂での去り際、ラプラスはオルテシアのことをこう述べていた。

──対『空の魔女』の切り札、と。

……いずれにせよ。

誰を当てるかは、慎重に決めておいた方が良いだろう。

「そんで、三人目。

──ユルゲン・フォン・トラーキア」

「!」

続けて述べられた……この場で最も衝撃的な幹部の名前に全員の、とりわけカティアの表情が強張る。

「血統魔法は、『 救世の冥界(ソテイラ・トリウィア) 』。霊魂を……とりわけ奴は怨霊悪霊を呼び出す攻撃的な戦闘に優れている。

幹部になったのは最近だろうが、裏切り者であることに変わりはない。相手をするのは──」

「私に。お願いします、ローズ様」

ローズが最後まで言い切るより前に。

カティアが、確かな覚悟と決意を決めた表情でそう嘆願する。

「……ああ。そういう決まりだったな、お前の覚悟が決まってるなら言う事はないさ」

ローズも頷き。他の面々も……心配そうな目線こそむけていたが、確かに魔法的にも因縁的にも、カティアが立ち向かうより他はない。彼女自身がそう望んでいるならば言うべきことはなく、自然とそこの割り振りだけは決定する。

そして。

「最後に……組織のトップ、クロノ・フォン・フェイブラッド」

最も謎の多い存在に、言及がかかる。

「フェイブラッド家嫡男……というのは不老を誤魔化すための虚偽で、その実態は謎多いフェイブラッド家、そして国を脅かす組織の本拠地であるこの公爵家に数十年から君臨する怪物」

「不老……」

「血統魔法は二つ、まずは『 白夜の天命(アイン・ソフ・オウル) 』。……実のところ、あたしもこれに関してはよく知らない。突然変異的に出てきた魔法か、あるいはどこか昔に失伝した血統魔法が隔世遺伝したか」

「師匠でもご存知ないんですか」

それに関しても驚きはしたが。

だが、今は気にならない。何故なら……恐らくはこの場の全員が、最も気になっているだろう事項が。次に控えているからだ。

「そして、もう一つの魔法。あたしの三つ目の血統魔法と同じく、『聞き取れない』詠唱で始まる魔法についてだが──」

そして、いよいよ。

恐らくはクロノの、そして『組織』の謎の根幹に関わる魔法について。

ローズが口を開いて。

「──言えない」

そう、語った。

「………………え?」

知らない、でもなく。分からない、でもなく。

言えない、と。

「ああ、言えない。少なくとも今この場では、『言うことができない』ということだけ知っておいて欲しい」

「!? いや、え、それは……どうして……?」

あまりに予想外の回答。

驚きに目を向いて問い詰めるカティア。その当然の質問に対して、ローズは慎重に……この上なく、驚くほど慎重に言葉を選ぶような表情ののち。

神妙に──こう、告げる。

「 聞かれている(・・・・・・) 可能性がある(・・・・・・) 」

ひどく。

途轍もなく、不気味な響きで。

「聞か、れている……? 今……この瞬間、ですか」

「ああ」

「だ、誰に……いいえ。ローズ様……何に?」

「何処に、どうやって潜んでいるかも分からない存在に。

普段は無害だ。だって『奴ら』の目的は『その魔法』にしか無いからな。だが一度それを聞きつければ、地の果てまでその魔法を奪いに狙ってくる。

そしてそうなれば……組織を相手取っているどころじゃない。下手をすると『奴ら』の一体だけでも直接戦えば──あたしとエル以外は全員死ぬ、いや、あたしとエルですら危ない」

「な──」

あまりにも、信じられない情報の羅列。

絶句する一同に対し、ローズは淡々と言葉を紡ぎ。

「だから、普段はその魔法を明確に口にしない。

あたしの魔法だって『 □□□□□(アルス・ノヴァ) 』と呼ぶのは、現状そうとしか発音できないからでもあるんだが……加えて『直接発音して聞き取らせない』ためでもあるんだよ」

銘を(・・) 呼んですら(・・・・・) いけない(・・・・) 。

それほどまでに、どこからか分からないところから耳を澄ませている存在。

恐らく──否、間違いなく……人間の枠を超えた、何か。

裏を返せば。

今からエルメスたちが立ち向かわなければいけないのは……そのレベルの、魔法なのだと。

「もちろん、絶対に対抗しなければいけない以上いずれ必ず詳しくは話す。

だが、今それを話して下手に広めるのは、それだけでもリスクが高い。だから今は──とにかく、今までとは次元が数段違う魔法、とだけ覚えておいてくれ」

改めて、これから打倒しなければならない敵、そして魔法の強大さを実感させられつつ。

──それでも、最早立ち向かう以外の道はないとばかりに覚悟を決めて。

一同は再度、ローズの次の話に耳を澄ませるのだった。