軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

63話 派閥

実を言うと、予想はしていた。

自分たちだってできたのだ。ならば第二王女ライラ、彼女も自分たちと同様あの王都の混乱を潜り抜けて、自身の後ろ盾である教会に身を寄せている可能性は十分考えられた。

……しかし。身を寄せた後の彼女が教会でどうしているか、ましてや今の教会のいざこざにどう関わっているのかまでは流石に読めず。故に初手で現れたことに大なり小なり驚きを見せるエルメスたちに、ライラは。

「……それで」

ちらり、とエルメスたち──の背後。自分たちをここまで護送してきた教会兵たちの様子を見て、告げる。

「兵士たちの鎧に、傷ついた後があるわね。……やっぱり襲われたの? 『連中』に」

「それは──」

「その通りでございます! 殿下!」

その問いに、エルメスが答える前に。

彼の返答を遮るようにして大声を上げたのは、教会兵の責任者。そのまま、エルメスたちが口を挟む隙を与えずに……こう、捲し立ててきた。

「そして、あろうことか此奴らは! 我々の静止を振り切って敵に突撃していったばかりか──『兵装が同じで紛らわしい』と言いながら容赦なく、 我々ごと(・・・・) 敵を(・・) 魔法で(・・・) 焼き払った(・・・・・) のです!」

「──」

「そのせいで、本来ならば我々だけで十分対処できたはずなのにこの有様! 道中もいつまた襲われるかと怯えながらの護送でございました。殿下、此奴らはとんでもない大悪党、有用とは言えこのような悪魔どもは危険でございます!!」

…………なるほど。

どうやら、自分たちの立場を守るために虚偽の報告をするつもりらしい。絶妙に真実が混じっているあたりもっともらしいし、恐らく教会的に悪名高いエルメスたちの言い分よりも教会兵である自分たちの言葉の方が通ると見ての報告だろう。

そして、それを聞き届けたライラは。

「へぇ、なるほど。そういうことだったの」

「ええ、ええ! やはりこのような連中は信用に値しません、あのような背教者共を罰するのは我々だけの力で十分! 神もきっと我々に祝福を授けてくださるに──」

にっこりと笑って頷くライラに、気を良くして更に自分の意思を通そうとする責任者。

そんな彼にライラは表情を固定したままゆっくり歩み寄ると、ぽん、と肩に手を置いて。

「──舐めてんの?」

一転、底冷えのする声でこう言った。

「!?」

「『あんたたちごと魔法で焼き払った』? へぇ、随分と愉快な冗談ね。あの大司教ヨハンを打倒して? 北部の怪物、フロダイトの長男にすら真正面から勝てる魔法使いを擁する第三王女派閥が? あんたたちに魔法をぶつけたって?」

「そ、その通──」

「──じゃあ、なんで その程度の傷(・・・・・・) で済んでんのよ」

紅玉の瞳に、対照的に冷徹な光を宿して。

ライラは紛れもない、王族の覇気と共に責任者を糾弾する。

「おまけに、私言ったわよね? 『もし連中が現れたら、確実に倒すためにリリィたちに協力を要請しなさい』って。なのになんでそんな、兵装で混乱するような紛らわしい布陣にしてんのよ。最初から協力してたなら、リリィたちの援護に回るなり何なりしていくらでも回避できたでしょ」

「そ、それは……」

「まさかとは思うけれど。──私の指令を無視して、勝手に自分たちだけで倒そうとした……なんてことじゃないわよね」

「ッ!」

状況証拠と、的確な分析で。当初の状況、教会兵たちの行動を正確に読み切ったライラは、追い詰めるように告げる。

「それと、あなたたちに支給した兵装なんだけど。

──『音声記録の魔道具がついている』ってことは気付いてた?」

「な──っ!!」

「ああ、言っておくけどもう回収済みだから。……で、申し開きは?」

完璧に。虚偽を咎められるだけの決定的なものを突きつけられて。

何も言えなくなり、それでも尚──屈辱と共にだんまりを決め込む責任者に対し、ライラは嘆息を一つ挟むと。

「無いのね、よろしい。……追って沙汰を下すから、それまで兵舎で謹慎してなさい」

「……っ、しょ、承知いたしました……ッ」

最後に、冷え切った一声で。

容赦ない言葉を投げかけたライラに、責任者はようやく何を言っても無駄だと悟ったか。俯いて肩を震わせ、踵を返して歩き去る。

その、間際。

「……くそっ、お飾りの王女様如きが……!」

エルメスたちだけに聞こえる声で、呟いたその内容が。やけに耳に残るのだった。

「……」

色々と、疑問はあるが。

とりあえず道中エルメスたちを呆れさせた教会兵のことは、きっちり上の人間の責務として罰したライラは、引き続いて──少し、驚いたことに。

「……悪かったわね」

立場上、頭こそ下げないものの。しっかりと、謝罪の言葉を述べてきた。

「あの連中、信仰と功名心が暴走するところがあって。それでも教会の任務を私情で改竄までするとは思わなかったんだけれど……私の見立てが甘かったわ。これなら、音声記録の魔道具の存在を最初から言っておくべきだった。あいつらにはきちんと然るべき罰を与えるし、埋め合わせもします」

「随分と殊勝ですね、第二王女殿下。……しかし、あのような兵士を迎えに寄越すとは。かの教会本部ともあろう組織がよもや人手不足なので?」

ライラの謝罪に、ユルゲンが皮肉まじりに探りを入れる。しかしそれにも必要以上に動じず、ライラは肩をすくめると。

「トラーキア。あなたがそんな言い回しをするってことは、概ね分かってるんでしょ。……ここであなたと腹の探り合いをするのも面倒だわ、それらも含めて全部話すから、ついてきてくれるかしら」

淡々とそう告げて。

自身の護衛である別の教会兵と共に身を翻し、エルメスたちを促しつつ教会本部の中へと歩いていくのだった。

……正直、割と驚いた。

エルメスがライラと邂逅したのは、あの謁見の一回だけ。しかしそこで抱いた彼女への印象は、高慢で狭量、とても器と呼べるようなものは見当たらない人物だったのだが……

……いや、これはまさしく偏見と決めつけか。

少なくとも、リリアーナが懐いていたからには。リリアーナの家族であるということ以上の……何かが、きっとあるのだろう。

そう考えつつ、エルメスはカティアたちと共にライラの後ろを歩く。

「……お姉様」

彼の隣を歩く、リリアーナの表情は複雑だ。

ライラと再会できた喜びは、確かにあるのだろう。けれど王位継承に関する敵同士であるという立場は未だ変わっておらず、ライラの方もリリアーナに歩み寄るそぶりは見えない……どころか、先ほどの会話でも意図的にリリアーナに注意を向けないようにしていた雰囲気さえあった。

「……」

エルメスも思考を続ける。

……当然だが、世界は自分たちだけで回っているわけではない。

これまで、自分たちと敵対してきた人物にも事情があって。あの大司教ヨハンにさえ、彼なりの信念と行動が存在していた。

ならば、きっと。──『話す』ことも、これまで以上に重要になってくるのだろう。知ることで、ひょっとすると……戦わない道が、見えてくることもあるのだろうから。

差し当たっては、第二王女ライラ。

彼女が何を考えて、どういう立場で、どの結末を狙っているのか。

まずは、それを知る必要がある。向こうが話してくれるというのならば、それだけでもここに飛び込んだ甲斐はあるだろう。

そう、思考をまとめた所で。大聖堂の中の大きな一室に到着し、ライラに付き添う兵士たちの案内に従って所定の席に各々が腰を落とす。

そして、一室の最上位。教会の代表者として腰掛けたライラが、挨拶もそこそこに口を開き。

告げてきた。

「……さて。まずはそうね……あなたたちには、感謝するべきかしら」

「……感謝?」

「ええ。本当に助かったわ── 大司教(・・・) ヨハンを(・・・・) 倒して(・・・) くれて(・・・) 」

「!」

その、言葉が意味するところは。

全員が直感したところに合わせ、ライラは続けて。

「ここにくる道中、『連中』に襲われたならもう分かっているとは思うけれど。……現在教会は、二つの勢力に分かれて争っているわ。お恥ずかしながら、内輪揉めね」

「……やはりか」

「ええ。で、その内訳だけど──」

納得の頷きを返すユルゲンを見遣ってから……核心に踏み込む。

「まず一つが……私が現在所属している『教皇派』」

「!」

「そしてもう一つが──『大司教派』……『旧教会派』ともこちらは呼んでいるわ」

つまり。

教会のナンバーワン、トップである教皇と。

その下に位置する、大司教に分かれての争い。

「分かるでしょう? 私たちの敵は大司教……ヨハンを含めて四人いる、『大司教全員』よ。

詳しくは後々話すけれど……実質、教会のほぼ全勢力を敵に回していると言って良いわ」

その時点で、概ねの構図や背景は見えてきていたが──

それを理解した上で、改めて。ライラは、静かに手を出して。

「そういうわけで。もう察しているでしょうけど、教皇派があなたたちを呼びつけた理由は一つ。ヨハンを『倒してしまった』以上、あなたたちにも無関係ではないし、確実にメリットもあることよ。だから……」

何かを押し込めたような読めない表情と、美麗な声色で。

「──手を組んで、くれないかしら。

一緒に…… 教会(・・) 、 滅ぼさない(・・・・・) ?」

様々な思惑が絡んだその要請。

教会全て……或いはそれ以上を。巻き込んだ大事件の始まりを、口にするのだった。