軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

62話 相対

「答える義理はないのを承知で聞くが……どうやってここが分かった?」

エルメスの目の前で振り返った男が、そう問いかける。

外見から……年齢は、読めない。エルメスたちよりは上だろうが、逆にユルゲンと同年代でもおかしくない印象を受ける。

くすんだ灰色の髪に、蒼の瞳。顔立ちは恐ろしく整っているが、逆にそれが雰囲気も相まって何処となく野生的で危険なイメージを与えてくる。

そんな男が、また口を開いた。

「一応結界解除時点で十分離れていたし、俺の魔法で魔力は完全に遮断していた。追跡は不可能だと思ったんだが……」

「そう複雑なことではありませんよ」

確かに答える義理はないが、隠す必要もない。

それに、ある程度情報を引き出したいのはこちらも同じなのでエルメスは回答する。

「逆に、 魔力が(・・・) 不自然に(・・・・) 消えている(・・・・・) 跡を辿ったんです。大気中にも微弱ですが魔力は存在していますから、貴方が魔力を遮断すれば不自然な空白ができる。そこから移動ルートを逆算して突き止めました」

「──」

男が絶句した。

……なるほど、理論上は不可能ではない。魔力を色で例えるなら、濃い場所ではなく逆に他よりも薄い場所を感知して辿ったわけだ。

だが──それを可能にするには、本当に微弱も微弱、常人どころか並みの魔法使いには絶対に見分けられないはずの大気中の魔力の多寡すら判別できるほどの、桁外れの魔力に対する敏感さが必要になるのだが。

当然、男にもそんな真似は不可能だ。それを正確に理解した上で、彼は再度冷や汗を流して返す。

「……はは、どんな感知能力してんだよ。引くわ」

「……」

一方のエルメスはそれを見た上で──尚、警戒を強める。

如何にも追い詰められているかのような動作に、飄々とした態度。

けれど……そんな様相にも関わらず、立ち居振る舞いには微塵も隙がないのだ。

そして、この男があの学園全体を覆う凄まじい出力の結界を維持していたという事実。加えて、隠さなくなったからだろう。感じ取れるようになった、異質で底知れない魔力。

間違いなく、相当の手練れだ。

迂闊な動きを見せないエルメスをしばし見ていた男だったが……どう思ったか、思考を切り替えるように笑って。

「……まぁ、どうせ面も割れちゃったしな。いい機会だと捉えようか」

戦うつもりはないと言うように手を広げて──こう告げてきた。

「君さ、こっちに来ない?」

「……はい?」

「おや、そんな意外か? 君は結構聡明そうだし、俺たちの目的も思想も大まかには察していると思うんだが」

意表を突かれたエルメスに対し、男は薄く笑いながら語る。

「俺たちも、強い仲間はぜひ欲しい。さっきまで見ていたが君は文句なしに強いし……これは勝手な印象だが、考え方も他の貴族とは違うように感じる。むしろこっち側の方が性に合っていると思うんだが」

「……似たようなことは、ニィナ様にも言われましたが」

「ニィナ……? ああ、あのスパイの子か。そっちは俺の管轄じゃないから詳しくはないけど……そっちにも勧誘されたんなら尚更欲しいな。どうだい?」

今の返答にも、様々な情報が詰まっていた。

それを慎重に整理しつつ……けれど、返答だけは迷う必要はないのでエルメスは答える。

「申し訳ございませんが、お断りします」

「へぇ。何で?」

「いかなる考えであれ……人の執着を煽り立て、せっかく変わろうとしていた場所を無為に壊すような方々の手は取れません。思想を否定はしませんが、行動を受け入れたくはない」

「……やっぱり、あの学園の変化は君が主導だったのか」

エルメスの言葉に、男は納得の響きと共に呟くと。

「……はぁ。つまんないなぁ。どうしてあんな連中を庇う? あんなの、潰し合わせてそれを上から眺めて楽しむくらいしか使い道ないよ、もう」

「……」

「君でも……いや、むしろ君だからこそ分かっただろう? ……この国が、どれだけどうしようもないか」

……否定は、しない。この学園で味わったことが、プラスの印象ばかりをエルメスに与えたとはとても言えないからだ。

でも、とエルメスは心中で意思を固め、それを表すように前を向いて告げる。

「それだけでは、ない。僕はそう信じます」

その真っ直ぐな視線を男は受け止めると、諦めたように息を吐いて。

「……流石に、すぐに鞍替えしろって言っても無理があるか。りょーかい、今日のところは諦めよう。知ってもらえただけでも十分だ」

そこで話を切り上げて、身を翻そうとする。

「ま、気が変わったらいつでも言ってくれ。あのクラ……なんだっけ。自意識過剰なお坊ちゃんとは違う、これは本当の勧誘だ。君がそっち側につくなら、いずれまた対面するだろうしね」

「……」

「一応俺、組織の中じゃそこそこ偉い人だから。言ってくれれば十分取り次げる。……そういうわけで! お互い多少は親睦を深めたところだし、ここで解散と──」

「……」

「──いうわけには、いかなさそうだねぇ」

流れのまま解散……及び逃げ出そうとした男だったが、当然エルメスは許すはずもない。

腰を落として入口を塞ぐエルメスに、男は殊更にため息を吐く。

「……うぇ。マジでやるのぉ……? やだよ、君強いじゃん……俺、リスクのある戦いは極力避けたい派なんだけど……」

「すみませんが、避けられないとご理解いただければと」

「いや、いくら君でも学園でのあの大立ち回りの後だ、万全とは程遠いでしょ? 俺もあのレベルの結界を張り続けて相当消耗してるしさ。ここは痛み分けということで一つ……」

返答は、既にない。

そこでようやく男も覚悟を決めたか、更に大きくため息を吐くと──笑って。

「──しょーがない。そんじゃ、痛い目見てもらおうかな」

「!」

気怠げな雰囲気を吹き飛ばして、顔を上げる。まさしく切り替えたように、戦意を瞳に宿して告げる。

「君は強いよ。でも…… ただ(・・) 真っ当に(・・・・) 強い(・・) だけだ。それじゃあこの先は生き残れない。──先達として教えてあげよう、この国の『底』は、君が思っているほど浅くはないと。代償は大怪我だけど、必要経費と受け入れな」

「ご忠告どうも。ではどうぞそれを示してください。貴方の魔法で」

ようやくやる気を見せた男と、エルメスが正面から相対する。

最後の言葉を交換し、お互いに魔力を高め、魔法の準備を完了し。

「血統魔法──『 悪神の篝幕(ゴエティア) 』」

「術式再演──『 灰塵の世界樹(レーヴァテイン) 』」

郊外で人知れず、二人の強者が激突した。