軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48話 進歩

ひとまずの先制攻撃を終え、地面に降り立ったエルメス。

彼は戦場の向こう側、己の魔法が炸裂した先を見て──こう呟く。

「……思ったより、威力が弱いな」

「いやどこがよ」

呆れたような返答が横合いからやってきた。

見ると、その声色から想像される通りの表情をした主人の姿が。

「迷宮の主クラスを複数体同時に吹き飛ばしていて、まだ不満なの? ていうか今の何よ」

「複合血統魔法、とそのままですが仮称しています。一応理論上はまだ出力は高くできるはずなのですが……上手く組み合わせるには、流石にまだ修練が足りませんね」

「……まぁいいわ。助かったのは事実だし」

しばらく見ていなかったせいで忘れていたが、そう言えば彼はとんでもないのだった、と呆れと関心を等分に含んだため息をついて話を打ち切る。

「よく駆けつけてくれたわ、エル。……でも、思った以上に遅かったじゃない。これ以上責めるつもりはないけれど──何をしていたの?」

「…………向こうのスパイに、足止めを食らっていました」

「!」

カティアは聡い。

スパイという単語、エルメスにしては珍しく話すことをかなり躊躇したこと、そして未だこの場に駆けつけていない少女。

これだけ揃えば、可能性の一つとして推察するには十分だ。

「……ご安心を。もう妨害をしてくることはないと思います」

「……そう。分かったわ」

だが、今それを問い詰めるわけにはいかない。

状況はまだ、長話をできるほどではないのだから。そう判断してこの話も切り上げ、主従揃って魔物の方を見る。

同時に、アルバート達Bクラス生がやってきた。エルメスが労いの言葉をかける。

「お疲れ様です。……あのレベルの魔物を複数相手に、ここまで持ち堪えてくださったのですか。素晴らしい戦果です」

「それを一撃でまとめて破壊した貴様は何なのだ──と言いたいところだが。大人しく賞賛と受け取ろう、お前はこの手の嫌味を言う性格ではないからな」

それに、と引き続きアルバートが険しい表情で逆側に目を向ける。

「皮肉を言える場合でもあるまい」

「……ええ」

その視線の先には、未だ多くの──恐らくは今しがたと同格レベルの魔物達が。

それどころか……先ほどエルメスが吹き飛ばした魔物の集団も、生き残りが別の魔物に『回復の魔法をかけてもらった上で』戦線に復帰しつつある。

──補給まであるとは。最早軍隊と何が違おう。

とにかく、対処する他あるまい。そう認識を共有し、まずアルバートが口を開く。

「それで。お前は──あいつらを倒せる手段があるのだな」

「はい。今の魔法以外にもいくつか」

「単騎の方がやりやすいか、それとも俺たちに出来ることはあるか?」

端的な、そして的確な確認にエルメスとカティアが目を見開く。

だが、ありがたい事は確実だ。

「……あれを全部となると、流石に僕も魔力が足りません。大技で削るか動きを止めるので、止めをお願いしたい。カティア様は撃ち漏らしのサポートを」

「ああ」

「分かったわ」

中心の三人で情報を共有し、素早く戦法を決定。──そこで、エルメスは疑問に思って問いかけた。

「……というか」

「む?」

「カティア様はいいですし、アルバート様もまだ分かりますが……Bクラスの皆さんは……その、驚かないんですか? 僕の魔法を見て」

そう。

彼はここにきて、学園で初めて全力の『 原初の碑文(エメラルド・タブレット) 』を解禁した。

そしてかつて、それを見た人間は例外なく驚愕し、動揺し──人間によっては忌み嫌い、排斥を望んだ。それこそが、エルメスの実力開示を封じたユルゲンの恐れるところだったから。

今は緊急事態故に解禁することに躊躇は無かったが……当然、それに伴うユルゲンに言われたような視線を受けることも覚悟していた。

自分の魔法が今の貴族社会に劇薬となることくらいは、いい加減彼だって理解できてきたのだから。

……だが。

そんなエルメスの疑問と言外の疑念を読み取った上で、アルバートは一度Bクラスの人間達と視線を合わせると。

頷きあって、再度エルメスの方へ向き直り、代表として述べる。

「……まぁ、驚きはした。クラスの面々はそうだし、俺もだ。……何だあれは、血統魔法の再現だけではないのか貴様は。規格外にすぎるだろう」

「……」

「そして。察するにお前は、それを恐れると思ったのだな。理解の及ばない存在と切り離し、排斥されても仕方がないと考えたのか。……分からなくはない、事実かつての俺たちがそうだったという自覚はある。が……あえて言わせてもらう」

そこで言葉を切ると、アルバートはこちらに歩み寄り──

──徐にエルメスの胸ぐらを軽く掴んで、告げてきた。

「──ふざけるな」

そのまま、決して荒らげはしないが強い語調で。

「 そうでない(・・・・・) 在り方を(・・・・) 教えたのは(・・・・・) 、 貴様(・・) だろうが(・・・・) 」

「!」

「この学園の意識を良しとせず、俺たちを焚き付けて。魔法の可能性を教え、下を向くばかりの必要はないと見せつけたお前が、今更そんなことを恐れているのか。俺たちが、未だそうすることを考えているのか。

──ふざけるなよ。それは気遣いではなく、俺たちへの侮辱だ」

そう続けるアルバートの瞳は、恐ろしいほどに鮮烈で、確かな怒りに満ちており。

──けれど、今までの貴族から感じたような、粘りつくような意思は微塵もない。

苛烈で、されど高潔な。そう──誇りが、あった。

「先を示したのであれば最後まで前を向け。それほどの魔法を持っているのならば素直に誇れ。先頭に立って、在るべき姿を見せてくれ。──俺たちはもう、その程度で折れるつもりはない。分かったか?」

そう言い切って、ようやく彼は胸ぐらから手を離す。

地面に足をつけたエルメスは、彼にしては珍しくしばし呆然としていたが、その後。

「……はは」

──人に叱られるのは、久しぶりだ。それこそカティアに再会した時以来ではないだろうか。

そして、初めて知った。……喜ばしい叱られ方も、この世にはあるのだと。

故に、エルメスは素直に返す。

「……申し訳ない。仰る通りです、貴方がたを貶めていたのは僕の方でした。先の発言は忘れてください」

……今ならば、躊躇わずに言える。

──師匠、この国は変わっていますよ、と。

そんな思いと共に、エルメスはもう一度Bクラスの面々に向き直り。

少しばかり不敵な、師匠譲りの微笑と共に告げる。

「では、改めて言い直しましょう。──とりあえず暴れるので、後始末をお願いします」

「……はっきり言われるとそれはそれで腹立たしいな。だが了解した」

応じるように、アルバートは憎まれ口を叩きながらも口の端を緩ませて。

同時に、Bクラスの面々も各々の賛同を返した。

──同時に、横合いから声がかかる。

「……話はまとまったかしら? なら急いだほうがいいわよ、いい加減向こうも体勢を立て直したし、これ以上のお話を待ってはくれないもの」

カティアだ。魔物の方角を指差し、あと心持ち頬を膨らませているのは多分気のせいではない。

……多分完全に話に置いてきぼりにしたからだなということはエルメスでも予想がついた。

「そうですね」

「あ、ああ」

だが、指摘自体は妥当だ。エルメスはスムーズに、アルバートは若干ばつが悪そうにしつつも体勢を整える。

そしてエルメスの大技、その時間を稼ぐべくBクラス生がまず飛び出す。

それを己の魔法でサポートしつつ、カティアがエルメスの隣でぽつりと呟いた。

「……羨ましいわ」

「はい?」

「何でもないわ、独り言だから。魔法に集中しなさい、エル」

言われた通り詠唱の準備に入るエルメスに、再度彼女の言葉が風に乗って届く。

「……どうしてAクラスになっちゃったのかしらね、本当に。──この分の怒りも、彼に被ってもらおうかしら」

……何だか少し黒い気配を漂わせる隣の少女に若干の悪寒を感じつつ。

エルメスは魔力を高めて息を吸い、詠唱を開始する。

──先ほどよりも、迷いなく。