軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第589話 「嫁小姑、先輩後輩」

このままいけばそのうち倒せるな。

──とか考えてるんだろうなあレアちゃん……。

ゼノビアと交互に『邪眼』で状態異常をかけながら、ライラは内心でため息をついた。

今のところ黄金龍の行動はある程度阻害出来ているが、それもいつまで出来るかわからない。

この黄金龍本体も端末と同じく、耐性などはないようで、状態異常をかけるだけなら問題ない。しかしやはり徐々にだが効果時間が短くなって来ている。

このままでは早々に、予備動作のキャンセルくらいにしか使えなくなるだろう。

黄金龍の足元──足は見えないが──のプレイヤーや、罅割れから現れる端末と遊んでいるプレイヤーたちの様子を見る限り、たとえ黄金龍が反撃に出たとしてもレアやライラに有効打が与えられるとは思えない。ブランに至ってはそもそも物理攻撃が効かないし、ダメージ自体発生しないだろう。

しかし、だからと言って油断してもいい理由にはならない。

端末はともかく、この本体は誰もが初見で戦う敵であるはずだし、ならば警戒はしておくべきだ。

強いて言うならジェラルディンは初見ではないが彼女も何も考えずに上空から魔法を降らせている。

この様子では、前回も何も考えずに攻撃だけをしていて、方針が封印になった決定的な理由については知らない可能性もある。

頭が痛い限りだが、そういうところがレアと気が合う要因のひとつなのかもしれないと思えば、若干羨ましく感じられなくもない。

つまりライラが何を警戒しているかといえば、まさにその、前回戦った者たちが封印という選択をせざるを得なかった理由である。

曲がりなりにもワールドクエスト最終章だ。

確かにLPは減っているのかいないのかわからないくらいの馬鹿げた量だが、単に倒しにくいというだけが倒せない理由なわけではあるまい。

そう思い、ふとライラの発動している『真眼』に意識を向けてみれば、黄金龍のLPの輝きが少し薄らいだような気がした。

それ自体はレアが何本も首を落としたときと同じであり、あれから何度か同様の攻撃をしているため、別段珍しい事でもない。

しかしタイミングがおかしかった。

手に持った長柄の得物を振り抜く動作である以上、いかにレアといえど連続して攻撃できる間隔には限度がある。

今のはそう、ちょうどその間隔の中間くらいの妙なタイミングだった。

これはレアの型の癖を熟知しているライラでなければ違和感すら見逃していただろうな、と謎の優越感と共にレアの方を見てみると、レアはハルバードを構えたポーズのまま硬直していた。

何かをされたというより、驚いてつい止めてしまった風に見える。

一体何に驚いたのか。

黄金龍が何か妙な行動でもしたのか。

いや、状態異常はひっきりなしに与えているし、何かしようにもそう簡単には──

「っ! おい、お義姉様! 麻痺が強制解除されたぞ!」

「何?」

ゼノビアの声に、黄金龍に視線を移す。そして視界に入れた黄金龍に、とりあえず何かを確認するより前に『邪眼』を撃ち込んだ。

解除されたとしても、これで再び麻痺にかかったはずだ。

ぴしり、と動きを止めた黄金龍を改めて見やる。

その姿はどこかおかしかった。

いやおかしくはないのだが、おかしくないのはおかしいのだ。

「これは……。首が、再生してる?」

レアが何本も切り落とした黄金龍の首が。

その全てが再生し、元の本数に戻っていた。

いや元の本数など数えてないので知らないが、少なくともつい今しがたまであったはずの切り口は全て無くなっている。

「──なるほど、再生するのか。これだけの手数を持っている上に、多少削ったところで一瞬で再生してしまうとなれば、確かに倒し切るのは難しいな」

ただ、無条件で元通りというわけではない。

再生に要するコストは本体のLPだろう。妙なタイミングで減ったLPがおそらくそれだ。

具体的な割合は不明だが、レアの斬撃と同程度減っていたと考えると、再生に必要なLPは切り落とされた事で失ったLPの数割と言ったところだろうか。

黄金龍のLP自動回復は膨大な総LPの割りに控えめと言えるため、攻撃自体は無意味ではないし、再生するためにLPを消費するのであればその分も削れて一石二鳥と言えなくもない。

しかし、膨大な残りLPを考えると、それがどうしたと言われているように思える。

部位破壊をしてもLPをコストに再生されるということは、黄金龍は完全にLPを削り切るまで全くパフォーマンスが落ちないという事を意味している。

こちらは攻撃すれば何らかのリソースを失っていく中で、相手だけ最後まで一定の戦闘力で戦えるのだとすれば、普通に考えて勝ち目は薄い。

「厄介なやつだなこれは……」

レイドボスとしてそれはどうなのか。面白みのかけらもない。

挑戦者に絶望感を与えるという一点のみにおいては優秀なのかもしれないが。

「あと、さっきドサクサに紛れて妙なこと言ってたねゼノビア。

誰がお義姉様だよ。それと敬う気があるのかないのかどっちなんだ。様をつけるなら敬語も使え」

「出た出た。嫁は敬語使って当然みたいな奴だこれ。コジュートって言うんでしょ。おーやだやだ。

そんな事より、そろそろ状態異常の持続時間、1秒切りそうだよ。継続使用はやめたほうがいいかも。でもそうすると僕ら役立たずになっちゃうんだよね」

「まずセプテムちゃんは婿にも嫁にも出さないし、私は小姑じゃない。

あと、継続使用を一端やめるのは賛成だけど、私は別に役立たずにはならないよ。君と一緒にするな。何のために巨大化したと思ってるんだ」

ライラは『天駆』と特性「蛇行」を使い、ぬるりと上空へ滑り上がる。

そしてそのまま適当な首に下半身を巻き付けた。

さらに背中から無数の触手を伸ばし、引き剥がそうとライラに向かってくる別の首を縛り上げる。

「まきつく、しめつける、ってところかな。まあ何ターンもかける気はないけど」

ライラもSTRは上げてある。

レア相手にはまるで敵わなかったが、黄金龍の首程度が相手なら力負けすることはない。

締め付けた下半身をひねり、首を捩じ切りながら、そこを支えにして触手で縛った首も絞め殺した。

「……いや、単純にフィジカルなアドバンテージじゃんそれ。ずるくない?」

「失敬な。巨大化だって蛇身だって努力の賜物だよ。君がどこぞで何百年も寝ている間に邪王も進化してるんだよ。君もセプテムちゃんの役に立ちたければ、もっと精進することだね」

「ぐ。でもなんか、ギリギリ羨ましくないラインで迷うな……」

***

──首、再生するのかー。

ならば『血の杭』で開けた穴はどうなのだろう、と見てみれば、そちらも同じタイミングで塞がってしまったようだった。

『血の杭』はMP吸収も狙っていたのだが、何故か発動しなかった。

闘技大会でスレイマンにしたように魔法と『血の杭』を併用すればコストパフォーマンスも悪くないのだが、MP吸収効果がないのであればそうもいかない。

いや単に併用するだけなら可能だが、継戦能力が著しく落ちてしまう。

見たところ、ブランの杭でもライラの寝技でも、レアのずんばらりでさえ目立つほどのダメージは与えられていない。

当然長期戦が予想されるし、MPを素早く回復する手段がないのは良くない。

そういえば教授やバンブも戦っているはずだが、何処にいるのだろう。

バンブは真面目だし、サボっているということはあるまい。きっと小さすぎて見えないだけだ。

教授はわからない。サボっている可能性もある。

いや、他人のことはひとまずどうでもいい。

どうせ穴を開けても塞がれてしまうなら、『血の杭』は控えた方がいいだろう。このスキルの真価は追加効果であり、ダメージ効率は元々あまり高くない。

しかし別のダメージソースと言っても、他にブランが得意な攻撃といえば魔法だ。

現在の霧状態であれば物理攻撃によるダメージは受けないが、魔法を使うためには頭部だけでも実体化させる必要がある。

今は巨大化しているため、頭部だけと言っても人型部分の上半身は丸出しになってしまう。

弱点を剥き出しにして攻撃を受けるリスクを上げるくらいなら、このままLPを消費して『血の杭』で地道にダメージを稼いでおいた方がいいだろうか。

それに『血の杭』でMPが吸収出来ないから魔法も乱打出来ないと考えたばかりだ。MPのやりくりについては何も解決していない。

などと考えていたその時だった。

黄金龍の触手──ではなく、無数の頭部が大きく口を開け、そこから白金の光の帯が放たれた。

まるでライブ会場のムービングライトのようで実に綺麗だ、とか言っている場合ではない。

──いたたたたたた! なんじゃこりゃあ!

光の帯はブランの赤い霧を引き裂き、ダメージを与えてきた。

物理攻撃ではなく魔法攻撃のようだ。いや物理攻撃には見えないので、当然といえば当然だが。

しかし、何故急にそんな行動を取るようになったのだろう。

先ほどまではそんな事はしなかった、というか、ほぼ何もしてこなかったというのに。

何か、突然動き出したくなるような理由でもあったのか。

ともかく、無差別にビームを乱射してくるのなら、霧状態で被弾面積を広げているのは悪手だ。

ブランはすぐに霧状態を解除した。

そしてふと思いつき、実体化すると同時に巨人の腕で手近なウツボの首を抱え、ビームの矛先を黄金龍本体に向けてみた。

お前もビームの餌食にしてやろうか、という訳だ。

自分の撃ったビームでダメージを受けるのかどうかは不明だが、人間だって嘔吐すれば食道や口内が荒れる事もある。状況的にはそれと変わらない。全く無傷ということはないだろう。

自分のリソースを使いたくないのなら、相手のそれを利用すればいい。

とっさのことだが、これは中々いいアイデアに思われた。

ウツボの放ったブレスは 黄金巾着(オウゴンギンチャク) の胴部分に直撃し、その表面を焦がした。

LPの色合いにはあまり変化はないが、あれでダメージが入っていないということもないはずだ。

しかしそんなブランを脅威に感じたのか、周辺の空間の罅から顔を出した端末がブレスをブランに吐きかけてきた。

──オールレンジ攻撃かっ!

いや、空間を越えて攻撃してくるわけだから、ワーム何とかだろうか。

と言っても空間の罅割れは最初の咆哮の時に現れて以降、増えも減りもしていない。自在にどこからでも攻撃できるわけではない。

どちらかと言えばスタイリッシュな固定砲台なのかもしれない。

固定砲台なら破壊してやればそれまでだ。

ブランは捕まえたままの首を空間の罅に向け、後頭部をべしべし叩いてブレスを吐かせた。

ブランの手から放たれた黄金龍のブレスは大地の氷を引き裂きながらいくつかの空間の罅を打ち抜き、中の端末ごと罅を破壊した。

破壊されると罅は消え去り、そこは何もない普通の空間に戻った。

レアに聞いていたウツボ型の端末と比べると随分と脆い気がする。

あれはあくまで砲台専用の端末で、長年地底に潜んでいたタイプとは違うということなのだろうか。それとも破壊できたのは罅だけで、時空の狭間にはまだ端末が元気に存在しているのだろうか。

いずれにしても今この場から居なくなったのなら同じことだ。ブランは気にしないことにした。

「──あいたたたたたた!」

と、そこにジェラルディンの悲鳴が聞こえてきた。

何事かと上空を見てみると、ジェラルディンが霧状態から人型に戻り落下してくるところだった。

「……何してるんすか先輩」

よりによってブランの真上に落ちてきたため、仕方なくお姫様抱っこで受け止めた。下半身の巨人の手のひらのほうが楽だったろうが、そちらは黄金龍の頭部で埋まっている。

「いや、ノウェムさんが霧解除したから、それなら私が霧化してもいいかなと思って。そうしたら黄金龍のビームが霧に掠ったのよ。

ああそういえば、前もそんな攻撃を食らったなと……」

「マジ何してるんすか先輩……」