軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第590話 「フレンドリーファイア」

上の方はやばい。

ごく短い間隔で横一線に致死のラインが引かれるし、魔法は降ってくるし、赤い杭も降ってくる。

実際どうなるかはわからないが、邪王どもの視界に入れば諸共に状態異常を食らうかもしれない。

しかも黄金龍と違って普通の種族であるバンブは数秒で麻痺から回復したりもしない。

そういうわけで、バンブはあの無数の頭部に攻撃を仕掛けるのは避けていた。

ひと目見て分かる異常なLPだ。

常識的に考えれば、弱点を狙っていかなければとても削りきれるものではない。

レアやバンブが事象融合を積極的に使っていけばそうでもないかもしれないが、撃てる回数には限りがあるためそうもいかない。

レアたちが上の方で景気良く頭部を刈り取っているのはその判断からだろう。

普通は頭部が弱点部位のはずだ。

これはこのゲームにおけるほとんどの生物に共通する特徴である。

吸血鬼など一部該当しない者もいるにはいるが、いや吸血鬼は生物の枠でいいのだろうか。そもそもゲームそのものにとって異質な存在な気がするのは気のせいか。それはたまたま知っている吸血鬼のサンプルが偏っているからなのか。

しかしながら、その頭部をああも、まるで秋の稲穂のように景気良く刈り取られる姿を目にしても、そしてその上で大して減りもしないLPを目にしても、なおそれが弱点であると信じ続けるというのは無理がある。

色的にもちょうど稲穂のようでもある。

もっとも景気良く刈り取るというのはあくまで農家目線の話であって、稲穂にしてみればそれもやはり致命の一撃に他ならないのだから、この例えが今正しいのかどうかバンブには判別できないが。

「っと、思考が流れてんな。偏った吸血鬼のせいだなこりゃ」

とにかく、ただひとつ確かな事は、黄金龍の弱点を突くという点においては頭部に拘泥しても益はなさそうだという事だ。

それについてレアが気付いていないとは思えない。

あれはたぶん、それとわかっていて敢えてこだわっているのだろう。

弱点でなかったとしても、押しきって倒してやると。

実際、レアは初手で生み出したハルバード以外にはそれほど消耗が激しい技は出していない。ちょこちょことスキルは繰り出しているが、あれの消費量など魔王にとっては自然回復量より低い。

大人しく状態異常攻撃に専念している辺り、ライラもそれに付き合ってやっているようだ。

ブランはよくわからない。おそらく何も考えていないに違いない。

教授は──どこにいるのか。いや、そもそもいただろうか。

そういえばメリサンドの姿も見えない。野生の邪王と真祖は、それなりにお仲間に合わせて戦っているようだが。

上へ混ざる事を諦めたバンブがとったのは、下へのアプローチだ。

下と言っても足元ではない。そもそも足など見えない。

無数の頭部が生えている土台、いや、遠目では普通に触手にしか見えないため、正しくイソギンチャクの幹とでも言うべき部位。

上に弱点がないのなら、下にあるかもしれない。

そもそも弱点部位など存在しない可能性ももちろんある。

しかしその場合、ならばどこを攻撃しても同じだということであり、やはり下を攻撃しない理由にはならない。

バンブは六つの拳を握りしめ、獰猛な笑みを浮かべてイソギンチャクの胴を殴りつけた。

「──って、硬えなおい!」

航空機用のタイヤでもぶん殴ったかのような衝撃が手に伝わる。

もちろん比喩であり、ゲーム内ならバンブの身体能力であれば航空機用のタイヤも拳で貫通させられる自信はあるし、ゲーム外ならそもそも触ったことさえない。

タイヤに例えたのはその弾力性のためだ。

どの角度で拳を入れても、同じ力ではじき返される。

一度も攻撃していないレアたちがこの性質を知っているとは思えない。しかし頭部にこだわって攻撃している以上、何かしらの防御力を備えている事は予想していたのだろう。

そういえば、開戦当初ブランは全包囲から杭を撃ち込んでいた。無数の首の至る所に穴を開けている。

しかし杭のいくらかは胴にも入っていたはずだが、その痕は微塵もない。

「くそ。こいつは、ハズレか……?」

と考えはするものの、である。

普通に考えれば、空を飛べない他のプレイヤーたちが黄金龍を攻撃する場合、上から襲来する頭部を除けばこの胴体部分にしか攻撃できない。

その前提なら、まったくの外れということもないはずだ。

もちろん、本来は全員が飛行手段を備えた前提で挑むコンテンツであるという可能性もあるが、プレイスタイルによってはどうしたって地に足を付けて戦わざるを得ない者だっているはずだ。いや地に足というか、足元は氷なので地などないのだが。

上は倒しても倒してもキリがなく、下はそもそも攻撃が通らない。

いや、逆に言えば。

下は攻撃さえ通してしまえば、その先も開けるのではないか。

つまりこの分厚い皮膚さえ突破出来れば、その奥に弱点たる柔らかい 腸(はらわた) が待ち受けているかもしれない。

そう考えると、次に、ではどんな攻撃ならばこの皮膚を攻略出来るだろうかと考える。

しかも人間サイズでという条件付きでだ。

もし皮膚の下に弱点があるのであれば、この皮膚を突破するのになけなしの事象融合を使うというのは悪い手ではない。

想定通りにこの先に弱点があるのなら、そこにさえ到達してしまえばあの馬鹿げた破壊力は必要ないだろうからだ。

しかし、それはあくまでバンブが希望的観測から考察しているだけで、皮膚を突破してもその先に弱点があるとは限らない。

そもそも頭部と思われる部位をあれほど刈り取られても平気な顔をしているような化け物だ。いっぱしの生物らしく内臓など備えているかわかったものではない。

しかし。いやしかし。とはいえ。

適当にゴムタイヤを殴りながらどうするか考えていると、不意にイソギンチャクの幹が震えた。

なんだ、と何気なく見上げてみれば。

今年は豊作だとばかりに刈り取られたはずの首が、すべて元通りになっていた。

これならもう一度収穫できる。たった一日で二期作が可能とは素晴しい作物だ。

とはならない。やはり思考が偏っている。

「こりゃ、仮に皮膚をぶち破れたとしても、そこもすぐに再生されちまうかもな……。となると、とっかかりのために切り札切るのもうまくねえか……」

ならばやはり、胴体の奥にアプローチするという方針は変えないのだとしても、そのアプローチに至るまでの道筋は通常の攻撃手段で切り開く必要がある。

上の方では再生した頭部が口からビームを撃っている。

あまりに数が多い事と、バンブの位置からは距離があるせいで頭部が小さく見える事で、光ファイバーの束か何かにも見える。

だがとりあえずは放っておいていい。

さすがに自分自身の身体に誤射するほど愚かではあるまい。

幹に張り付いている限りは安全なはずだ。

とりあえず握りしめた拳を開き、手刀にスキルを纏わせてなんどか幹に攻撃をしてみる。

さくり、とまでは言わないまでも、ずぶ、という程度には手刀が埋まる。切れなくもない。

しかし切り開けるかというと疑問だ。

幸い、常に再生し続けているというわけではなく、大きく戦力が失われた時にだけまとめて再生しているようだ。

そのインターバルの間にどうにかできる算段さえつけば何とかなるかもしれない。

バンブはその戦闘スタイルから、基本的に打撃がメインだ。それに対してこのイソギンチャクの胴はどうやら打撃にはめっぽう強いらしい。

しかし今突き入れた手刀のように、刺突や斬撃を伴う攻撃が出来ない訳ではない。

「問題はサイズ感だな……」

殴った感じでは、そして手刀を突き入れてみた感じでは、敵の皮膚はどう考えてもバンブの腕の長さより厚い。

ゲームの世界の不思議パワーで、リーチを遙かに超えて届くような攻撃を繰り出す事も不可能ではない。

ただ、これまであまり必要無かったのでバンブはそういうスキルを持っていない。というか、拳闘系のスキルには斬撃属性の遠距離攻撃がそもそもない。

さて、どうするか。

そう何度目かのため息を内心でついたところだったか。

「っ!」

不意に最大級の危険を感じ、慌てて『天駆』で空を蹴って横に跳んだ。

バンブがたった今まで立っていたその空間を、金色の光が薙いだ。

あのブレス攻撃だ。

正直そこまで黄金龍にとって鬱陶しい攻撃を出来ていた自信は全く無かったが、それでも身を切ってまで排除するだけの価値はあったということなのか。

見れば、ブレスによる一閃は文字通り黄金龍の身を斬っている。

焼き裂かれた皮膚は嫌な臭いを発しながら、バンブの目の前に亀裂を晒していた。

これだったらバンブのちまちました攻撃など放っておいた方が賢かったのでは、とビームを放った頭部を振り返ってみると、偏ってる吸血鬼らしき巨人が捕まえた黄金龍の首を抱え、後頭部をどつきながら罅割れた空間を焼き払っていた。

「──何やってんだあいつマジで……。フレンドリーファイアってレベルじゃねえぞ……。俺にとっても黄金龍にとっても」

もっとよく見て攻撃しろと言いたい。

何も声を掛けてこなかったという事は、そもそもここにバンブが居た事さえ認識していなかった可能性もあるが。

しかし、第六感じみた何かとはいえ、あのブレス攻撃を回避できたのは僥倖だった。

運営が設定したラスボスが放つものだけあり、その威力は凄まじいの一言だ。

それはあれだけ攻略に苦労していたイソギンチャクの皮膚を焼き切った事からもわかる。

そう、図らずも、どう攻略しようかと頭を悩ませていた皮膚は焼き切られ、黄金龍にとっては些細な、しかしバンブにとっては巨大な裂け目を生じさせていた。