軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第547話 「逆効果」

マーレが負けてしまったのは残念だったが、あれは仕方がない。

自ら視界を封じ、気配と『真眼』のみで戦うマーレにとって、伯爵の戦法は相性が悪すぎた。

その次の試合、ドロテアとイエオリたちの戦いは順当にドロテアの勝利に終わり、これでハガレニクセンとMPCからの参加者は全員一回戦負けとなってしまった。

ただいかにも魔族という姿のドロテアはMPCやハガレニクセンのメンバーにはたいそう新鮮に映ったようで、内部に新たに「ドロテア派」というものが発生したらしいと後から聞いた。他に何派があるのだろう。

「次は一回戦最後の試合だね」

「いやー。これは見ごたえあるんじゃない? ちょー楽しみなんだけど!」

「派手な戦いになることだけは確かだろうがね」

「戦う前からすでに派手だけどな。怪獣大決戦より見栄えあるんじゃねーかこれ」

***

ライラはベヒモスのコクピットで顔を上げた。

今の妙な感覚は『召喚』によるものだろう。

予選ではベヒモスを使う事はなかったが、本戦、それもあれが相手であるなら使わざるを得ない。

マグナメルム・オクトーの手札をひとつ公開する事になるが、勝つためならば仕方がない。

ライラはこの闘技大会でひとつ、自分だけの目標を定めていた。

それはレアに「姉としての威厳」を見せつけることだ。

最近はあまりかっこいいところを見せていないせいか、レアからの扱いが雑になっている気がしていた。

ここはひとつ闘技大会で優勝し、お姉ちゃんの偉大さというものを分からせてやる必要がある。

そう、例え愛する妹と相見える事になったとしてもだ。

スキルや能力値を考えればライラがレアに勝つのは難しいが、何も数値に記されているデータがすべてではない。

それに、本来勝てるはずがないライラが勝つからこそ、レアもきっと尊敬してくれるはずだ。

そのためには、何としても決勝まで行かなければならない。

一回戦第一試合に勝ったレアと、一回戦の最後の試合に出るライラが戦うとしたら、それは決勝の舞台しか有り得ないからだ。

いや、先の事はいいだろう。

まずは目の前の一回戦だ。

これも決して油断していい相手ではない。

そう、ベヒモスを出さざるを得ないほどには。

《──それでは、闘技大会本戦! 【マグナメルム・オクトー】VS【ウルル】! 試合開始!》

先に動いたのはウルルだった。

これは仕方がないと言える。なにしろベヒモスは動きが遅い。

しかし踏みだしたウルルの足は地面にはつかなかった。

まるで見えない台を踏んでいるかのように、そしてそのまま見えない階段を駆け登るかのように上空へと上がっていく。

「──! 『天駆』か! そんなの覚えてるのかあいつ!」

しかし数歩駆け登ったところでウルルは大きく飛び、ベヒモスに体当たり、いやフライングボディプレスを仕掛けてきた。

どうやらウルルが滞空出来るのはほんの数歩、つまり『天駆』ではなく『空歩』だったようだ。

しかし『空歩』による数歩であってもウルルのサイズと歩幅であれば十分な高度まで上がることができるし、その高さに蓄えられた位置エネルギーは洒落にならない。

「マナシールドレプリカ起動!」

バリアを発生させ、ウルルのフライングボディプレスを受け止める。

消費されるMPはすさまじいが、まともに受けてどこかが破壊されてしまうよりはマシだ。

──ゴゥン……。

衝突の衝撃をバリアに相殺され、ベヒモスの頭部に覆いかぶさるような状態になっていたウルルは、そのままベヒモスの顔を蹴って離れた。

バリアを消した直後だったベヒモスはそれをまともに受け、顔の一部がほんの僅かにへこんだ。

──ゴォ!

へこんだベヒモスの顔を見て、自分の攻撃が通用するとわかったウルルは、着地と同時に突進してきた。

『完全無欠』たるベヒモスの顔にわずかなりともダメージを与えるとは、さすがはレアの配下である。

「させる、か!」

ライラもベヒモスを突進させ、下から掬い上げるように、頭部から伸びているリニアレールカタパルトの砲身をウルルにぶつける。

しかしウルルは砲身をうまく抱え込むことで直撃を避け、そのままベヒモスの頭部をロックしてしまった。

ウルルの全長とベヒモスの全高はほぼ同じだ。

ベヒモスの頭部から伸びるリニアレールカタパルトの砲身をウルルが脇に抱え込むと、少しベヒモスの頭部が下に向いてしまう形になる。

ベヒモスと繋がっているライラの視界にはウルルの下半身しか見えていない。

──ゴォン!

ずしん、と衝撃が来た。

ベヒモスの角を抱えて押さえこんだウルルが、もう片方の手でベヒモスの頭部に腕を振り下したらしい。

もしかしたら根元から角を折る気なのかもしれない。

「『完全無欠』の地上要塞を……舐めるなぁ!」

ぐっ、と前脚に力を込める。

すると角を抱え込むウルルの足が浮いた。

「どっ……せい!」

さらにベヒモスの首にもありったけの力を回し、角にしがみついていたウルルを上空へ投げ飛ばした。

ウルルには質量兵器信奉者のレアが重宝するほどの重さがある。

そのウルルを投げ飛ばすなど尋常なことではないが、『完全無欠』の名は伊達ではない。

しかし投げられたウルルは無重力状態に慣れているのか、『空歩』で空中を蹴り、体勢と軌道を修正して再びベヒモスにフライングボディプレスを敢行しようとしている。

だが来るとわかっていれば対処は可能だ。

しかもウルルの狙いはベヒモスの角の根元。

つまり、顔めがけて落ちてきている。

「『空歩』はもう使ったな! ならば避けられまい! マナチャージキャノン起動! 食らえ『セディメントディザスター』!」

『空歩』は一定回数だけ空中を蹴ることができるスキルであり、この回数は連続した状態でなければならず、一度の滞空で一度しか発動できない。

フライングボディプレスのために発動させた以上、一度地面に下りるまでは回避のためには使えない。

ベヒモスの鼻先の、ひと回り小さな角から増幅された魔法が放たれた。

『完全無欠』が発動した状態のベヒモスの能力値で放たれる最上位魔法の威力は魔王のそれにも匹敵する。しかもマナチャージキャノンによって増幅された状態だ。

迸る土石流は落ちてくるウルルを迎撃し、その身体をさらに上空へと押し流した。

ウルルに小さくないダメージが入ったが、それよりも高く打ち上げることができた事の方が大きい。

『空歩』が使えないウルルではもはやどうすることも出来ない。

「まだだ! リニアレールカタパルト起動! 発射!」

パリリ、と一瞬電気がカタパルトに走り、次の瞬間、人と同じくらいの大きさのアダマスの塊が撃ち出された。

試合前にあらかじめ入れておいた砲弾だ。

普段ならゴーレムを使うところだが、試合会場にはグループを組んでいる仲間以外は連れて来られない。

リニアレールカタパルトは対象に使い切りのスキルを付与する効果があるが、これは対象がキャラクター以外でも可能だ。

以前に魔法の効果を込めた使い捨ての投げ槍を作らせたことがあったが、基本的にはあれと同じ原理のようだ。

カタパルトには弾倉がないため左右それぞれにひとつずつしか弾を込めておけないし、射出したアダマスもただの高速質量弾にしかならないが、普通に考えれば十分すぎる威力である。

普段やらないのはアダマスがもったいないからにすぎない。ゴーレムだったらそのうち復活するのでコストが安い。

今大会では使用したアイテムは後で帰ってくるので使わない理由はない。

超高速で撃ち出されたアダマス塊は、上空で身動きが取れないウルルの右腕と左脚を吹き飛ばした。

さらに吹き飛ばした手足の周囲にも衝撃波で無数の罅が入った。

「急所は外したか! もっと練習しないと……。いや、砲弾が丸かったから空気抵抗で逸れたのかな? この方向性で行くのなら、弾丸もそれっぽい形状のやつを作っておいた方がいいのかも。いやそういう形のゴーレムを生み出した方が安いかな」

残念ながら即死は狙えなかったものの、全身に罅が入ったウルルは自身の落下ダメージに耐えきれず、そのまま砕けて散っていった。

《──試合終了です! 勝者、【マグナメルム・オクトー】! ご観覧の皆さま、素晴らしい戦いを見せてくれた両選手に拍手を!》

***

「……なんつうか、思った以上にむちゃくちゃだったわ」

モニターを見ていたバンブが呆れたように言った。

そうして初めて、一同はそれまで誰も一言も言わずモニターに釘付けになっていた事に気付いた。

「……謎のスピード感あったよね! 超かっけー! でもせっかくだから『雷魔法』使って欲しかったなー」

「打ち上げる時かね? あれは重たいウルル氏を押し流すだけの質量も必要だっただろうし、『地魔法』か『水魔法』のどちらかである必要があったんじゃないかな」

「明らかに今の試合だけ別のスケールだったね。怪獣大けっ、ユーベルとアビゴルの試合もかなりあれだったけど」

「……あの、次私あれと戦うんですか? どうしたらいいんですか?」

ドロテアがおろおろしている。

──でも、ライラも随分と楽しそうだったね。見てたらやっぱりわたしも鎧獣騎が欲しくなってきちゃったよ。ユスティースにあげちゃうなんてしょうがない奴だな本当に……