軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第542話 「予選終了」

結局、モニターで見つける前にメリサンドは帰ってきた。

やはり苦戦するような相手と当たる事はないらしい。

これは確かに足切りという運営の都合もあるのだろうが、実力差が大きい事で試合時間が極端に短くなるという合理的なメリットもあるように思える。

実力が足りずにここで落とされてしまう参加者にとっても、死の危険無く強者と戦う経験が積めるというのは悪い事ではあるまい。

「どこも試合が終わるのが早すぎて、要注意参加者のチェックもロクに出来ないね」

「見覚えがない顔で圧勝してる奴なんかは要チェックと言っていいだろうけど……」

「そもそも見た瞬間に終わってたりするし、たまたま目に止まったとかでもないと分かんないよねこれ。普通のっていうか、一般の人間たちは見てて面白いのかな予選」

地上では酒に酔って騒いでいる人々の姿も見える。

人間やエルフ、ドワーフ、獣人たちが仲良くしているのは中央大陸や西方大陸の者たちなのだろう。きっちりと別れて固まっているのは南方大陸のNPCだろうか。

観戦用特設エリアでは戦闘行為は行なえないため、対立するグループが近くにあると口げんかでやかましくなる。それが鬱陶しいのか無関係な集団が無理やり両者の間に割り込む事で、物理的に場所を離して緩衝材になろうとしている集団もあるようだ。

服装がみすぼらしいが容姿は美しい者たちが遠くに固まっているのが見える。あれがブランやスガルの報告にあった精霊たちか。あれはどこかと対立しているから離れているというわけではなく、単に人見知りであるようだが。

他にも魚人や人魚、長靴を履いた猫の群れなどもいる。

人魚はメリサンドの応援だろうか。だとしたら本戦からはインディゴに一緒に乗るよう誘ってやった方がいいかもしれない。今も遠巻きにプレイヤーたちに見られている。

「そういえばジャネット」

「あっはい!」

「きみたちがその、グループで参加したということは、きみたちが異邦人であることは広く公開されてしまう事になると思うのだけど、それはよかったの?」

ジャネットたちは断罪する何とかという名前のレジスタンスに、一応はNPCの王侯貴族として参加していたはずだ。

今はもう袂を分かち、別々に行動しているようだが、ジャネットたちを王族にまつわる者と信じてついてきている獣人もいるだろう。

また聖都グロースムントでジャネットたちと戦ったプレイヤーもいる。

チームを組んで参加しているところを彼らに見られたら面倒な事になりかねない。

「そうですね。いろいろ考えたんですが、別にデメリットとかはないかなと思いまして」

「アド・リビティウムの住民たちには、王族や貴族ではないって事はもう周知してますし」

「それ以外の人たちは基本敵ですからね。攻撃される事に変わりはないなら、異邦人でも現地人でも一緒かなって」

ジャネットたちが敵だと認識していても、相手もそうだとは限らない。であればもし相手がジャネットたちの正体を知った場合に、要らぬ逆恨みを買う事になるかもしれない。

そう思ったが、本人たちがいいならいいだろう。

何かあってもモニカやライリーのサポートもある。

「ご心配ありがとうございます! あの、お弁当作ってきたんですけどよかったら……」

「ジャ姉女子力高いな! ずるい!」

こういう時はだいたいライラが割って入ってくるのだが、と思って見てみると、あちらはあちらでアリソンにまとわりつかれていた。

「あっ──」

そこにイエオリの声が響いた。

何事かと思って見てみると、隣の男子エリアが消失し、上に乗っていたバンブたちがバラバラと落下していくところだった。

アビゴルが喚ばれたらしい。参加していたのか。

インディゴは不参加らしいのでこちらは問題ないが、参加者を足場にするとああした危険もあるという事だ。

インディゴにはまだ余裕があるので、本戦は男子エリアもこちらに統合してやった方がいいだろう。かなり手狭になってしまうが仕方ない。

その後も何度か予選に喚ばれたが、レアは問題なく通過する事が出来た。

ジョー・ハガレニクス率いるハガレニクセンなる国のメンバーやMPCのメンバーの中には予選で落ちてしまった者も多いようだが、ジョーのグループや先ほどのイエオリのグループは予選通過できたようだ。

あの辺りが合格ラインとなると、世界中に連絡網を回したわりには上位のNPCの参加者は少なかったらしい。

システムメッセージなど普通に考えれば怪しい毒電波に過ぎないし、強者であっても慎重な性格なら無策で飛びこんできたりはしないということだろう。

やはり普段からプレイヤーと接する機会の多いNPCならその心理的なハードルは低いようで、プレイヤーでもなさそうな参加者は大抵が人間に近い姿かたちをしているようだった。ほとんどは予選で落ちていたが。

「なんか慌ただしく終わっちゃったな。オクトー、見どころとかあった? わたしたちの知らない強者の参加者とか」

「私もあんまり見れてないけどね。でも気になると言えば、見覚えのない獣人とか二足歩行の豚とかが本戦に出てくるっぽいよ。最後の試合で勝ってたし」

二足歩行の豚といえばオークだ。ただのオークが予選を通過できるとは思えないので、オークの上位種だろう。

オークたちの社会形態がどんなものかわからない、というか文化的な社会を形成しているのかさえ不明だが、もし実力によって支配されるような社会だった場合、自分の部下たち全てにもあのメッセージが聞こえていたとするなら、それは参加せずにはいられないはずだ。

参加しないという事は、すなわち自分の強さを主張しないという事になる。それはそのまま自分の権力基盤を揺るがす事態になりかねない。

同じ事はオーク以外の群れでも言える。

ライラに見覚えのない獣人とはもしかしたら南方大陸の獣人の国、ユーク帝国の皇帝かもしれない。

あそこも確か腕力でボスを決めていたはずだ。

「あとあれ、南の大悪魔さんたちも出てたみたい。2人だけだけど。名前なんだったかな。スレイマンと……シトリンだったかな」

「……シトリーじゃないの?」

「そうそれ」

スレイマンは大悪魔たちの首領、シトリーは下っ端だったか。幹部の一番上と一番下を参加させる事で、大会参加者たちのおおよそ実力を測ろうというのだろう。

南方大陸は今、中央大陸から多くのプレイヤーや魔物が上陸している。

今後ますます世界中が混じり合っていく事を考えると、自分たちが世界においてどの程度の位置にいるのか知っておきたいといったところか。

スレイマンが容易に負けてしまうようだと大悪魔勢力全体が侮られる事になりかねないが、スレイマンがボスだということは言われなければわからない。そもそも彼女らが大悪魔だということさえ知らない者がほとんどだ。

スレイマンはどちらかと言えばドラゴンに近い見た目だし、シトリーはヒューマンか何かにしか見えない。

予選が終わった事で、観戦特設エリアからは徐々に人が捌けはじめた。

このエリアと外部との転移は一定間隔で設置されている転移装置を使わなければ行なえない仕様になっている。『召喚』も反応しない。

そのため帰るには一度地上に降りる必要があるが、真下を見るとレアたちが下りるのを待っている人ごみがある。

予選開始前にエリアに入った時にいた、自称ファンのプレイヤーたちだ。

以前から、SNSでちらほらそういう妄言を書き込む輩がいるのは知っていた。

なので現在はそれらのプレイヤーは一括してジョー・ハガレニクスに任せ、災厄神国ハガレニクセンを窓口にするよう申しつけてあった。

ジョーもその旨をSNSに書き込んでおり、マグナメルムへの協力を望むプレイヤーはそのほとんどがハガレニクセンにコンタクトを取っていた。

そのハガレニクセンを通さず、こうして直接接触を図ろうとするのは横紙破りと言われても仕方がない連中だ。対応する必要はない。

まとめて吹き飛ばしてやりたいが観戦特設エリアでは戦闘行動はとれない。

ブランに頼み、インディゴを移動させる事にした。

観戦特設エリアは広い。

どのくらい広いかと言うと、端が見えないほど広い。

さすがにどこかには終わりがあるのだろうが、軽く飛行した程度では端に到達したりはしない。

転移装置はこの広いエリアに一定間隔で設置されているため、しばらく飛べば人の少ない装置もある。

それを見つけて手早く下りると、レアたちは転移で戻る事にした。

本戦は翌日からスタートだ。

広すぎて場所取りが意味を成さない観戦エリアで夜を明かす理由はない。