軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第541話 「足切り」

ポートリー第三騎士団長ロイクは、国王エルネストと主であるラッパラン伯爵に許可をとり、怪しげな闘技大会とやらへの参加を決めていた。

観戦用特設エリアとやらも用意されているらしいが、ロイクは一歩足を踏み入れてすぐに戻って来てしまった。

現在のポートリー騎士団には大勢で観戦に行くような余裕は無いし、ああした場所にひとりでいても寂しさが募るだけだ。

今は元ウェルス王都の一角にある、騎士用宿舎の一室で静かに時を待っていた。

ふいに、これまで感じた事のない浮遊感と、目の前が揺れるような感覚があった。

──来たか!

そして一瞬の後、ロイクの視界はだだっ広い荒野のような風景が埋め尽くしていた。

おそらくここが試合会場だろう。

足元には消えゆく魔法陣。そしてそそくさと離れていくローブ姿の者たち。

ついにロイクの予選が始まるのだ。

相手が誰だか分らないが、ポートリーの騎士団を代表する者として、せめて予選は突破したい。

ロイクにそのくらいの実力が無ければ、おそらく国王エルネストが国を取り戻すことなど出来ないだろう。

ロイクもかつてユスティースに負けてから、鍛錬は毎日欠かさずやってきた。魔物の討伐にも積極的に参加した。

あの頃と比べても格段に強くなっている自信があるし、それはラッパラン伯爵も認めてくれている。

騎士団においてはこの「主に認められる」という事が何よりも大事だ。強くなるには主による強化が絶対に必要になるが、それだけの価値を認められなければ強化などしてもらえないからだ。

今やロイクは第一、第二騎士団と合わせても、いや同盟関係にあるウェルス騎士団まで含めたとしてもトップクラスの実力を持っている。

参加や観戦こそしないものの、【正統なる断罪者】の上層部は今回のロイクの活躍を目安に今後の活動の計画を立てていこうと考えているようだった。

ロイクが荒野に現れてすぐ、少し離れた場所にも次々と何かが『召喚』されてきたのが見えた。

「……次々と?」

この大会への参加は1人ずつではなかったのだろうか。

複数で参加できるなど聞いていない。

うろたえるロイクを余所に、相手側の魔法陣からは合計で8つもの大きな金属が『召喚』されてくる。

サイズもおかしい。人を縦に2人か3人並べたほどの高さ、中心のひときわ大きい物体はさらにその倍はある。

あれが仮に参加者だとするなら、あれはゴーレム系の魔物とかそういうものなのだろうか。

合計で8体もの金属塊を『召喚』し終え、ローブの者たちは転移装置から去って行った。

そして巨大で異形な集団はゆっくりとロイクの方に近づいてくる。

予想外の展開に未だロイクの覚悟も決まらぬまま、間もなく開戦の合図が出されよう、といったところで最も大きい異形から声が掛けられた。

「──あれ? キミ確か……ロイク、だっけ」

ロイクにはこのような異形の知り合いなどいない。

いないが、この声には聞き覚えがある。いやそれどころか、片時も忘れたことがない。

この声は。

「ユ、ユスティース? 騎士ユスティース、か? な、なぜそんな姿に」

《戦闘を開始してください》

「あ、試合開始だ。悪いけど、私も国を代表して来てるから、やるからには本気で行くよ。

話はまた後でね。どこかで会えるといいんだけど──」

「ちょっ、待っ──」

ユスティース、と思しき異形が剣を抜き。

「はっ!?」

気が付くと、薄暗い石造りの部屋にいた。

さっきまでいた自分の部屋だ。

慌てて自分の身体を見まわすが、呼ばれる直前と何も変わっていない。

じわりと冷や汗が垂れてくるが、これもたった今吹き出してきたもののようだ。あの荒野でもダラダラ冷や汗をかいていたはずだが、そんな痕跡も微塵もなかった。

まるで白昼夢でも見ていたかのようだ。

だとしたら、どこからが夢だったのか。

のろのろとした足取りで部屋を出て、訓練場に行ってみる。

この時間なら部下は他の騎士団と合同で訓練をしているはずだ。

「あ、ロイク団長!」

訓練場に行くと副官のトマが駆け寄っていた。

模擬戦の相手をしていたらしい、元団長のファビオも一緒だ。

「なんだ。ずいぶんと顔色が悪いな。そんなざまで闘技大会とやらは大丈夫なのか?」

闘技大会。

ということは、少なくとも10日前のあのメッセージは夢ではないらしい。

「……いや、そうだな。闘技大会か……」

「どうしたんですか? もしかして、もう予選終わったんですか?」

「その、どうなんだろう。私にも何が何だか……」

あの白昼夢が夢でないのなら、もう予選は終わったのだろう。ロイクの敗退という形で。

しかしそれをここで言うのは憚られた。

あれだけ応援してくれていたというのに、あっさり負けたとも告げにくい。

それにまだ、あれが悪い夢だったという可能性も残っている。

「まあ、ロイクは正統なる断罪者の中でもトップクラスの実力がある。少なくとも予選くらいは突破出来るだろう」

「そうですね。ファビオ元団長と違って毎日真面目に訓練してますしね」

「俺だってしとるわ!」

どうすればいいのだろうか。

わいわいとはしゃぐ同僚たちを前に、ロイクは途方に暮れていた。

***

「──っと、これが『召喚』される感覚か。妙なもんだな」

「そのうち慣れるんじゃね?」

「……敵、きた」

「えーと、いち、に……、7人か。フルじゃないけど、こっちのが少ないし不利だな」

「やっぱ5人で参加ってのは舐め過ぎだったかも」

タクマたちはいつもの5人でグループを組み、闘技大会に参加していた。

勝てる見込みのまったくない大会ではあるが、別にデメリットもないため、プレイヤーからの参加者は多い。

タクマたちもそうしたグループのひとつだ。

万に一つでも決勝まで残れれば儲けもの、といったところだ。

とはいえタクマが参加を決めたのは雰囲気に流されたからだけではない。

もしかしたらかつて一度だけパーティを共にした、あのマーレというプレイヤーに会えるかもしれない。

そう思ったからだ。

観戦特設エリアでもそれとなくあちこち見て回ったのだが、あまりに広く、またあまりに人が多かったために、そもそもあの中で人探しをするというのが無謀だった。

「しかし複数人いるってことは相手もプレイヤーか。運が悪かったな。NPCだったらワンチャンあったかもしれんが」

顔をしかめるしいたけの肩を叩く。

「いや、そうとも言えんかもしれんぞ。今回の予選はどうも、あえて実力的に差がある組み合わせにして試合時間を短縮しているきらいがある。

この試合もその傾向があるとしたら、相手と俺たちには大きな実力差があるはずだ。俺たちだって中堅上位の力はある。相手がトップ層のプレイヤーだったとしてもあっという間にやられちまうほど弱くもないし、そう考えれば相手がルーキーの寄せ集めって可能性はあるだろ」

そう言いながら相手グループを見据えた。

相手は全員、統一された白いケープのようなものを纏っている。

前衛に立っているプレイヤーが邪魔でいちばん奥にいるプレイヤーがよく見えないが、金色の髪が光をはじいているところだけがちらちらと見えている。

髪だけでもその美しさが手に取るようにわかってしまう。まるでいつかのマーレのようだ。

いや、ただ髪の色が同じというだけでマーレを連想してしまうのは、あの対戦相手にもマーレにも失礼だ。

「……あ」

「どうした、蓬莱」

普段は無口で、必要な時以外口を開こうとしない蓬莱の様子がおかしい。

「……逆かも」

「何がだ?」

「……あれ、例の聖女様のチームかもしれない。そうだとしたら、実力差のある雑魚はこっちの方、なのかも」

「え」

《戦闘を開始してください》

その瞬間、試合開始の合図があった。

「──くそ、どっちだったとしてもやるしかねえ! 行くぞ!」

タクマは最前列に立ち、盾を構えた。

これでひとまず様子を見て、相手が遠距離攻撃をしてこないようなら少しずつ距離を詰める。

同時にコウキが魔法を準備する。相手の遠距離攻撃がもし魔法攻撃なら、後出しで魔法を放てば相殺出来るかも知れない。コウキもそうした小手先の技を練習し、使えるようになっていた。

「……なんか飛んで来たぜ!」

「任せろ! 『アローバウンス』!」

タクマは盾を構えたままスキルを発動した。

対飛来物専用の防御スキルだ。

うまく発動できればノーダメージで弾くことができ、さらに衝突に合わせて盾を押し出す事でそのまま跳ね返す事も出来る。もっともそこまでするには、飛来物の速度に対して遙かに高い能力値を持っていなければならないが。

飛んできたのはナイフのようだった。

速度はあるが、この程度ならノーダメージで──。

「──何!?」

しかしナイフは跳ね返せなかった。

飛来する途中から妙な光を発するようになったそのナイフは、タクマの構える盾にそのまま突き刺さり、さらに振動しながら少しずつ盾を破壊しようとしている。

「ただのナイフじゃない!」

どうやら振動する事で着弾のタイミングをずらし、『アローバウンス』の効果を外されてしまったらしい。

本来は投げるためのナイフではなかったようで、盾が受けたダメージ自体は大したものではないが、継続して盾を破壊せんと動き続けているのは非常に不気味で厄介だ。

「タクマ! とりあえず抜いてやる。じっとしてろ!」

「っ! しいたけ! どけっ!」

タクマの盾に刺さったナイフを抜こうと手をかけたしいたけを、その盾を使って押しのけた。

こちらが動揺している隙に相手のアタッカーが迫っていたからだ。

凄まじい移動速度である。やはり上位のプレイヤーだったらしい。

「──仲間をかばうその姿勢には感服するが……。ボディがガラ空きだぜ!」

しいたけを盾で押しのけたために、タクマは相手のアタッカーに身体を開いて晒してしまっていた。

まずい、と感じた瞬間、その荒っぽい口調の女グラップラーの拳がタクマの鎧を殴りつけた。

タクマの鎧は鋼の鎧だが、奮発して前面の一部にアダマスを使ってある特別製だ。そう簡単に抜かれる事はない。

そう考えていたのだが、蓬莱の見立て通りなら相手も聖女を守る一流のプレイヤーである。その武器も当然並のアイテムではない

「ぐうっ!」

グラップラーのナックルガードにもアダマスが使われているらしく、ダメージが鎧を通してタクマにも伝わってくる。

しかし鎧のおかげもあり、重篤なダメージとまではいっていない。

軽装のグラップラーは肉薄しなければダメージを与えられないが、肉薄した上で倒しきれなければ反撃を受ける事になる。

タンク相手では分が悪いのがグラップラーの宿命だ。

タクマは持っていた剣をくるりと逆手に持ち替え、背の低いグラップラーの背中に向けて突き刺そうとした。

「──まだ俺のターンは終わっちゃいないぜ! 『浸透勁』!」

「かはっ!?」

タクマの鎧に触れたままだったグラップラーの拳から、さらなる衝撃が放たれた。

その衝撃は鎧を透過し、今度こそタクマの身体を貫いた。

接触状態からでしか放てない、物理防御無視の攻撃スキル。今のはそういう類のものだろう。

とはいえ一撃で沈んでしまうほどタクマも弱くはない。このグラップラーとの間にはそこまで圧倒的な実力差はないようだ。

であればこうしてタクマが攻撃に耐えている間に、他のメンバーが相手を攻撃してくれるはずだ。

先ほど押しのけたしいたけもすぐにでもこの女グラップラーを攻撃してくれるだろう。

「……おっと、時間切れか。倒しきれなかったな。もっと精進が必要みてえだ」

懐に入り込んでいたグラップラーはそう言うと、バックステップでタクマから距離を取った。

しいたけの攻撃を警戒したのだろうか。

「みんな、まずはあの女拳士からやるんだ! コウキ! 魔法を! しいたけも牽制してくれ!」

しかし返事がない。

目の前の女も腕を組んで余裕の表情でタクマを眺めている。

「トンボでもいい! 槍を!」

おかしい。

静かすぎる。

「……みんな、どうした?」

女グラップラーに警戒を向けたまま、ゆっくりと振り返る。

しかしそこには仲間は誰も居なかった。

驚くタクマの視界に、金髪がふわりと舞った。

***

「これ、考えてみれば結構すごいメンバーだよな」

聖リーガンが仲間を見まわしそう言った。

ウェインも同じ事を考えていた。

周りにはいつも通り、ギノレガメッシュと明太リストがいた。

さらにその隣にはヨーイチとサスケ。

蔵灰汁にハウストもいる。

「『儀式魔法陣』持ちが5人に、鎧獣騎が3騎か。これ結構いいとこ狙えるんじゃね?」

「だといいが、油断は──」

《抵抗に失敗しました》

どうやらウェインたちの予選が始まるようだ。

転移のような感覚が終わると、ウェインたちは荒野にいた。

対するは生身のプレイヤー8人。

あれが予選第一戦の相手らしい。

『真眼』で見える限りでは大した実力者ではなさそうだ。やはり噂通り、予選は足切り程度の意味しかないのかもしれない。

「──やべえぞ、鎧獣騎が3騎もいやがる!」

「──ばっか、やってみなきゃわかんねーだろ! 諦めんな!」

対戦相手の話し声が聞こえてくる。

「っ! あの足、あいつ、ナースのヨーイチか!」

どうやら風でヨーイチのローブが一部めくれてしまったらしい。

こちらのメンバーについて気付かれたようだ。

「てことはもしかして、ウェインやギノレガメッシュもいるのか!」

敵チームがさらに警戒したように身構えた。有名になるのも善し悪し、ということかもしれない。

もっとも彼らはこちらの鎧獣騎を見た時点で警戒していたようだし、今さらではあるが。

「おっと、有名だな俺らも」

「……僕は?」

明太リストが沈んだ声を出した。別に忘れられているわけではない、と思う。

《戦闘を開始してください》

「試合開始か。しかし一方的にこっちだけが名前を知ってる、ってのもフェアじゃないな。

戦う前に自己紹介しとこう! 俺の名はヴェイン!」

ヴェインと言うと、いつかのスレで一瞬だけ見たあの彼か。ウェインの名前に似ていたためによく覚えていた。

「ったく、しょうがねえな。俺はギルガメッシュだ!」

こちらはギルの名前のそっくりさんのようだ。

「そして俺は──」

となると、もしかしたら他のプレイヤーも。

「俺は、無臭でつかいやすい、だ!」

「僕の偽物じゃないのかよ!」

なお試合は勝った。圧勝だった。