軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第511話 「明日やろうは」

落ち着いたアザレアたちが淹れたロイヤルミルクティーを飲みながら簡単に自己紹介をした。

給仕の3人は浮く事も出来るはずだが、あえて水の中を歩いて移動している。カップがテーブルにあるためその方がやりやすいからだろう。

人魚たちはそれを手伝おうとしていたがポットが熱すぎたため断念していた。

レアたちはもとよりヒューマンなど普通の人類にとってもポットの取っ手はぬるい程度だ。しかし人魚たちにとってはそうではないらしい。取っ手はなんとか我慢できても湯気を浴びると火傷するようだ。種族的に熱に弱いとのことだ。

──ふむ。ポットの取っ手は人魚にとって耐えがたい、か。

「──そういうわけで、我がカナルキア王国もマグナメルムと同盟を組みたいというわけじゃ」

重要な考え事をしていたらいつの間にかレアに視線が集まっていた。

メリサンドの今の言葉はレアに向けられたものらしい。

「ああ、わたしに聞いたのか。もちろん構わないよ。ブランとも仲が良いようだし、わたしとも仲良くしてもらえると嬉しいな」

「そっ──んなにこやつと仲が良いというわけでもないが、そうじゃな。お主と仲良くするのはわしも望むところじゃ」

「えー。仲良しじゃないですかわたしたち」

「う、うっさいわ!」

レアのカップにお代わりを注ごうとしたカーマインがよろけた。

よく見ると水中でメリサンドの尾がせわしなく動いている。この動きで発生した波を受けたようだ。

なるほど、ブランが気に入ったのも分かる。これは歳の割に可愛らしい人物だ。実年齢は知らないが。

「まあいっか。メリーサンとの仲の良さはこれからわからせていくとして。

次はイベントのリザルトっすね。

──ごめんなさい。ホントは3日くらいもたせるつもりだったんだけど、何か1日で終わっちゃいました」

ブランが頭を下げた。

と言っても水上に浮いているため、水の中で座っているメリサンドより 頭(ず) が高い。

メリサンドにはそんなブランの顔が見えたらしく、フォローするように口を開いた。

「ブ、ブランが悪いわけではないぞ! あれは人間どもが弱すぎたんじゃ! そうでなければもっと時間がかかっておった!」

「ああ、それは確かにそうね。夜襲とはいえ、きちんと警戒していれば防衛は出来たはずよ」

メリサンドをさらにジェラルディンがフォローする。ブランは災厄級のNPCたちに愛されている。

しかし残念ながらフォローの効果は薄かった。

「え、夜襲なんてしたの? 滅ぼす気まんまんじゃん」

「殺意が滲み出ているな」

ライラと教授がそう分析する。

レアも確かに、と思った。

メリサンドやジェラルディンはピンと来ないのかもしれないが、プレイヤーに対しての夜襲というのは必殺の意味を持っている。例えどれだけ強い力を持っているとしても、ログアウト中は回避も防御も反撃も出来ないからだ。

ゆえにレアたちは信用できる場所以外ではログアウトはしない。それが難しい場合は仲間や配下に守らせている。

現在ブランはカナルキアに世話になっているとのことだが、ブランの就寝中はそれとなくジェラルディンが気にかけてくれているはずだ。

今回のイベントに集まったプレイヤーたちも、公式アナウンスをされるほどのイベントで、まさかセーフティエリアごと破壊されるとは思わなかった事だろう。どう考えても運営の罠である。たちの悪い運営もあったものだ。

クソ呼ばわりされるのも仕方がない。

「……まあ過ぎたこたあしょうがねえだろ。何の成果もなかったわけじゃねえんだし、プレイヤー連中の経験値についちゃ次回の課題にするしかねえな」

おろおろするメリサンドを見かねてか、バンブが助け舟を出した。困っている姿にシンパシーでも感じたのか、それともああいったタイプが好みなのだろうか。

そんなバンブにライラは呆れたような視線を飛ばした。

「バンブと教授は経験値サービスは明日やるとか言いながらひとりでやりたい放題やってたからね。君らの担当区域のプレイヤーが経験値を得られなかったのは君らが調子に乗ったせいだろ。反省しなよ」

「……わあってるよ」

「明日やろうは馬鹿野郎、という言葉を思い出すな。これからは気を付けたまえよバンブ氏」

「てめえもだろうがタヌキ!」

レアはそのやりとりを無表情で見ていた。

何しろレアも「沼地は明日探索すればいいか」と考えていたからだ。刺さる。

とはいえレアの基本的な考えとしては、どちらかと言うと「明日で問題ない事を無理して今日やる必要はない」である。

今日という日に費やせるリソースは限られている。明日でもいい事に手を出すくらいなら今日しか出来ない事のクオリティを上げるべきだ。

西方大陸の探索は行き当たりばったりのぶらり旅だったのでそんなかっこいい物でもないのだが。

「──さて。とりあえずブラン主催の中規模イベントは終わった。SNSを見る限りでは評判はともかく 成(・) 果(・) はまずまずのようだね。

複数の場所で同じような事を言ったおかげで、プレイヤー間での情報の共有は出来ている。今回は秘匿するような者もいなかったというか、秘匿しきれなかったと言うべきかな」

まとめたレアの言葉に皆が頷いた。

今言った情報の秘匿とはバンブと教授の存在についてだ。

以前にも教授はナースの変態の前で、バンブも何とか言う共和国に攻めた時に自己紹介をしている。

にもかかわらずそれらの情報はあまり広められていなかった。

教授の存在や風貌は拙いながらも伝えられていたようだが、バンブに至っては全く情報なしだ。

これはバンブと戦った共和国に後ろ暗い事情があったためだと考えられる。

バンブの共和国襲撃はライスバッハ周辺での渡航詐欺をやめさせるためのものだったが、共和国襲撃によって渡航詐欺が止まった事が広く知られる事は共和国にとってデメリットしかない。詐欺犯罪との関連性を自白するようなものだからだ。

これを回避するためには襲撃自体を無かった事にするしかない。

ゆえに彼らは協力者全員に緘口令を敷いたのだろう。彼らがアウトロープレイヤーだった事がそれを可能にしていた。もともとそういうプレイヤーは公式SNSに書き込みをする事は少ないし、口を滑らせれば今後はPKにもPKKにも狙われる事になるとわかっているからだ。

共和国への襲撃が無かった事になるのであれば、当然そこへ襲撃してきた首謀者もいなかったことになる。

バンブがプレイヤーだと思いもしなかった彼らはそれでしのいだというわけだ。

もちろん今回のイベントの目的は教授とバンブの自己紹介だけではない。

黄金龍に対する意識の向上を図り、プレイヤーたち全体に戦力の底上げを意識させる目的もあった。

必要であればマグナメルムが援助する。片道切符になるが。

教授やバンブ、ついでにジェラルディン、ゼノビア、メリサンドらの存在感と共にそうした情報を周知させる事が出来た。

マグナメルムはこれらをもって今回のイベントの成果としている。経験値を稼がせる事は元々の目的ではあったが、実効果としてはおまけにすぎない。

「しかしあれだな。前はせっかく活躍しようと思って詐欺をやめさせてやったのによ。もうまったく無意味になっちまったな」

「いや、重要なのはある程度の人数が西方大陸に渡る事だ。それはもう達成されている。無意味ではない。というより、バンブ氏の仕事の成果はすでに出ている」

1人や2人ではなく、何十人、何百人単位で西方大陸にプレイヤーが渡る。

そうすることで西方大陸の情報がある程度広まる事になり、後に続きやすくなる。

情報源が多ければその精度も信頼性も上がる事になる。あのタイミングではそうした第一陣を送り込むことこそが重要だった。

残念ながら第二陣は中央大陸の商人たちの勇み足により失敗する事になり、その流れで港をひとつ失う事になったわけだが。

「それに、次の航路ならすでに開拓が始まってるよ。そのうち開通するんじゃないかな。これからは西方大陸への移動はぜひ我がオーラル海運をご利用ください、ってね」

「そんな会社あるの?」

「このイベントの結末はライスバッハの防衛か崩壊の二択しかなかったからね。こうなる事も予想してたから作っておいた。まさか1日で終わるとは思ってなかっただけで。まあ国の事業だから正確には会社じゃないけど。

──で、新しい航路の安全についてはお任せしてもいいんだったっけ?」

ライラがメリサンドに視線を向ける。

「うむ。ブランから聞いておる。この紋章を船体に焼きつけてある船の安全については保障しよう」

メリサンドはやや身構えながらも、紋章を描いた紙を示しながらはっきりと答えた。

ライラに見つめられたことで少々緊張したようだ。まだこのメンバーに慣れていないため仕方がない。これから仲良くなっていけばいいだろう。

「──じゃ、こないだの中規模イベントの話は終わりでいいか?」

新航路について話がまとまったところでバンブが片手を上げた。

イベントについては、主なところではこのくらいだろう。

他にもウェルス地方でジャネットたちが拠点を作ろうとしていたり、旧ヒルス王城で伯爵の配下が災厄級に転生したりと細々した変化はあるが、大勢には影響はない。

皆の顔を見渡したレアはバンブに頷いた。

「うし。ひとつ聞いてもらいたい話がある」

「ひとり舞台の自慢話? そういうの別にいらないんだけど」

ライラがからかうように言う。

珍しくブランがライラの揶揄に耳を傾けている。そこから得られる物などないと思うが。

「そっちじゃねえよ! MPCの活動の延長だ!

イベントと並行して、ってほどじゃねえが、実はダメ元で進めてたプロジェクトがある。南部の大樹海についちゃ前に話したな」

「野生のクィーンアラクネアがいるところだっけ」

ラコリーヌの森が出来た頃、確かその大樹海で得られる素材を仮想ライバルとして設定していた気がする。

「一応あっちは王制を敷いてるって自称してるから、野生って言うのはやめてやれ。まあシステム的にゃただのダンジョンだけどな。

そこの女王とウチのリックってプレイヤーが交渉しててな。南方大陸行きの船が出せる港を樹海に建造できねえかってな」