軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第467話 「目標は高い方がいい」

「──なんか、結局バラバラになっちゃった感じだよね……」

「……そうだなあ」

「……」

ウェインは明太リストたちと共に、リフレの街で初心者プレイヤーのサポートを行なっていた。

サポートと言っても手とり足とり教えてやるというわけではない。もちろん請われればそういう教え方もするが、基本的には序盤で稼ぎやすい狩り場を教えたり、初心者同士で知り合える場を用意したり、運営が教えてくれないゲーム内ルールを教えたり、といった事だ。

運営が教えてくれないゲーム内ルールというのは実にたくさんあるが、一番はやはり「プレイヤーはお客様ではない」という事である。

もちろん、お金を払ってサービスを受けているという意味では間違いなく客である。

しかし運営がサービスの一環としてやってくれるのはあくまでこの世界へとプレイヤーを 誘(いざな) うところまでであり、そこから先はプレイヤーがそれぞれの力と意志で行動していく必要がある。

当然それによって引き起こされる様々な事態は全て、実際に行動したプレイヤーに責任がある。

と言っても法的に責任が生じるという意味ではない。ここはあくまでゲームの中の世界だからだ。だがゲームと言えどもひとつの世界であるのもまた事実であり、責任とひとくちに言ってもそれで済ませられる事とそうでない事がある。

それがわかっていなかった者が多すぎた。

その結果があの大陸大戦だ。

あれが公式イベントとして発表されていた以上、あるいはプレイヤーたちにその事を思い知らせるというのも運営の狙いのひとつだったのかもしれない。

ドライな言い方をすれば、運営としてはサービスが継続できさえすれば後はどうでもいいのだから、戦争が起きようが何だろうが大陸が荒廃しきってしまいさえしなければ構わない。いや、仮に荒廃してしまったとしても、それはそれでポストアポカリプスなヒャッハー世界として売り出す事も出来る。

どう転んでもいいように大陸中、世界中の至る所に様々なNPCを用意し、それぞれにそれぞれの思惑を持たせて行動させている。そういう自由なNPCたちの引き起こす自然な形でのイベントこそが、このゲームの最大の魅力だと言える。

あるいはプレイヤーでさえ運営にとってはそうした駒のひとつなのかもしれない。

最近始まった公式イベント開催サービスなどを見ると強くそう思う。

そういうウェインたち自身も、あの大戦の直接の原因となった事件に大きく関与していた。

今、こうして初心者プレイヤーへのサポートをやっているのもその罪滅ぼしのようなものだ。

NPCとはいえ、失われた命は戻ってこない。

死んでしまったキャラクターたちにウェインが出来る事は何もない。

だからせめて、これからこのゲーム世界に降り立つルーキーたちが同じ過ちを繰り返さないようにと、そういう思いでこうした活動をするに至ったのだ。

ちなみにローカルルールの他の例としては「マグナメルムに手を出すな」という物もある。

これは手を出すなというよりは表だって敵対するなと言った方が近いが、とにかくそういう意味合いの戒めだ。

まず勝てないからというのも理由の一つだが、それ以上に万が一マグナメルムを本気にさせてしまうような事があれば、またいくつもの国が滅んでしまう事になるかもしれないからだ。

余計なちょっかいをかけて刺激するな、という事である。

これはウェインたち自身に対する戒めでもあった。

「……このクランを作ったのも、みんなで協力してプレイできたら、って、最初はそれだけのつもりだったんだけどな」

「ウェイン……」

今はもうほとんどのメンバーが抜けてしまった、クラン「シュピールゲフェルテ」を創設したのはウェインだ。

当時、プレイヤーたちの中でトップ層と言われて持て囃されていたメンバーに声をかけ、そのほとんどが加入することで結成したクランだった。

その皆の力を合わせれば、かつてヒルス王都でセプテムを退けた時のように、きっと大きな何かを成し遂げる事が出来る。

そう考えていた。

しかし今にして思えば、そのヒルス王都での決戦こそがクランのピークだったのではないだろうか。

当時はまだクランという形は取っていなかったが、ということはつまり、ウェインたちはクランとしてまとまる事自体が間違いだったのではないか。

そう思えて仕方がなかった。

「……確かに、協力してプレイするのは大事だしいい事だけどさ。いつもそれがいいかっていうと、そうとも限らないってことだったのかもね。

ヨーイチたちとかみたいに、明らかにソロ向けの奴なんかもいるしさ」

「お、おい明太──」

「でも、それだってウェインがみんなを集めてみなけりゃわかんなかった事だと思うよ。

結果的にこういう形になっちゃったけど……。

それでも誰も、ウェインに付いてクランに入った事は後悔してないと思う」

「──ありがとう。明太……」

ウェインがこのゲームを始めて、一番良かったのはこの2人に出会えたことなのかもしれない。

「……よおし! 気分転換だ! こんなとこに引きこもってるから暗くなっちまうんだよ。

久々に3人で冒険にでも行こうぜ! まだ行った事ねえ場所なんてたくさんあんだろ!」

「こんなところって、ここの家賃払ってんの僕なんだけど……。文句があるならギルだけ出て行きなよ」

ここリフレの街の地価は高い。

最初に皆で決めたクラン費はウェインは今も納めているが、物件を契約したのは明太リストであるため、そのあたりの支払いは明太リストに一任してあった。

メンバーが減ってもその分を賄えるだけの蓄えはあるからと言っていたが、具体的にどのくらい明太リストが負担しているのかはウェインも聞かされていない。

聞いても教えてくれないどころか、謎の小遣いまでくれる始末である。

明太リストはウェインたちのブロマイドみたいなものが売れたとか何とか言っていたが、どういう商売をしているのだろう。信頼できるフレンドだからと、詳細を聞かずに安易に許可を出したのは失敗だったかもしれない。

「そういう意味じゃねえって。せっかくのゲームなんだし、冒険しようぜって事だよ」

「冒険かあ……。確かに、久しくそういう事してないね」

「ここに来る初心者も減ってきてるしね……。初心者まとめみたいなサイトとかも作られてるし、みんなそっちを見てるのかも。まあ、俺たちもいつも同じようなことばっかり教えてるからしょうがないけど」

「じゃあ何か、俺らがここで教えた事がまとめられて転載されてるってことか?」

「そうなるね」

「おいおい、いいのかよ」

「俺たちの目的は情報の周知であって、この家に人を集める事じゃないからね。むしろ、そうやって自然と広まっていくようになったって事自体が、俺たちの活動が実を結んだ結果だって言えるんじゃないかな」

これで少しでも考えなしの行動をとるプレイヤーが減ってくれたらいい。

ウェインはそう思った。

「だから別に出かけるのは問題ないと思うよ。

不在だってことはいつも通りご近所さんに伝えておけばいいだろうし」

「なんなら玄関の扉にその初心者まとめサイトのアドレスでも書いて貼っておけばいいしね」

「それはさすがに……」

「いやいや、そんくらいの面の皮でちょうどいいんじゃねーの? 初めて会った時もそうだけどよ、ウェインはちょっと何でもかんでも抱え込みすぎなんだよ。もっと適当に生きようぜ。ゲームの中くらいよ」

ギノレガメッシュの言う通りかもしれない。

「──そうだね。

よし、じゃあ久しぶりに3人で冒険に行こうか。どこに行く?」

「んー……。ヒルスはちょっと思い出が多すぎるしな」

「ウェルス、は確かハセラたちがよくイベント開催してたりするよね。知り合いに鉢合わせてもあんまり冒険って感じしなくなるか」

「いや、イベントか。何かそれもちょっと楽しそうじゃないか? まあ冒険ってのからは遠ざかっちまうけどよ」

「ギルが冒険したいって言ったんだろ」

「別にいいだろ気分転換になれば何でもよ。

──一番近いイベント予定は、と……、これか。お、料理コンテストだってよ。バフ有り部門とバフ無し部門があるみたいだぜ」

料理コンテストとはまた。

ありがちではあるが、ゲームの中で本気でやるとなると確かに珍しいかもしれない。

「バフ有りバフ無しって、どういう意味があって分けてあるの? バフ有りの方が基本的に優秀ってことなんじゃないの?」

「えーとな……、バフ有り部門はスキル、装備、魔法何でも有りってことらしい。スキルやら装備効果やらを乗せて作った料理はバフが乗るから、ってことだな。

バフ無し部門は完全に腕の勝負で、味だけを競うって事だ。使える道具にもレギュレーションがあって、効果付きの調理道具はNG。スキルも魔法も無しだ。なるほどな、面白そうじゃねえか」

つまり、バフ無し部門は現実で普通に作る料理と変わらないという事である。

「……それだったら現実でやればいいのでは」

「現実だったら場所とか距離とか費用の問題も出てきたりするだろ。リモート何とかってやつだよ」

「ああ、そういやギルって料理できたね」

いつかの本屋では料理関係の本を購入していたし、その日ギルが作った料理は意外なほどおいしかったものだ。

なんでもあれ以来料理にハマってしまい、暇を見つけては自分で作っていたらしい。

「出るの?」

「いいのか? 付き合わせちまう事になるが……」

「今さらだろ。冒険だったらコンテストが終わってからでも出来るしね。ウェルスにもまだ行った事ないダンジョンもあるし」

「じゃあ、決まりだ。次の目的地はウェルスで、目標は料理コンテスト優勝ってことで」

「おいおい、優勝はさすがに──」