軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第465話 「期待を込めて星3つです」

「──よし、こっちはだいたい書けたかな。次行こうか」

「了解。じゃあ南下するよ」

ジャネットたちはいつもの4人でウェルス王国の上空を飛んでいた。

飛んでいると言っても自分の力で飛んでいるわけではない。

セプテムより賜った飛行型のモンスター、その背に乗って、である。

セプテムがやたらと推していたオウルベアなる筋骨隆々のフクロウについては、非常に心苦しかったものの辞退させてもらった。

マーガレットはお揃いがいいとか言っていたが、聞いてみるとセプテムも別に普段からオウルベアに跨って空を飛んでいるというわけではないらしい。

そんなものに頼らずとも彼女は自力で飛行できるし、誰かの背中を借りるときはドラゴン系の魔物が多いと言っていた。理由は背中が広くて安定しているからだそうだ。それならどうしてよりによってめちゃくちゃ揺れそうなオウルベアを推してきたのか。使ってもいない商品のレビューをするのはよくない。

かと言ってさすがのマーガレットも、さんざん毛の生えた魔物がいいと言っていた手前、やっぱりドラゴンにしてくれとは言えなかったらしい。それ自体はマーガレットが個人的に言っていたわけではないが、パーティ4人の総意ではあった。

ジャネットとしてもオウルベアは出来れば避けたかったというか、せっかくその気になっていた事もあるしグリフォンがよかった。

セプテムが移動の際に安定性を重視してドラゴン系の魔物を使っているという言葉から、ジャネットはそこを攻める事にした。

つまり、安定性を求めるのであればやはり四足型が良いのではないか、その四足が翼とは別に存在しているのであればなお良いのではないか、という具合である。

これを聞いたセプテムはなるほどと呟き、それならグリフォンがいいかと続けた。

ジャネットは心からホッとした。と同時に、わくわくもしたものである。

このわくわくは今度こそ裏切られる事はなかった。

セプテムに案内された山岳地帯で首輪を使って鷲を『使役』したジャネットたちは、次にいつかの時に行った森の広場に連れていかれた。

あの時ジャネットたちを改造したアーティファクトらしきものは撤去されていたが、今回はセプテムが自らスキルを使って作業をするようだった。

ジャネットたちの鷲はセプテムの手によって謎の卵に飲み込まれ、どこからか連れてきた炎獅子と融合した事で新たにグリフォンとして新生した。

この時何度かシステムメッセージから確認が来たが、問われるまますべてに「はい」と答えておいた。

『使役』状態にある眷属のステータスは主人であれば全て見る事が出来る。そうでなければ経験値を与えて能力値を上げてやったり出来ないからだろう。ある意味で自分の分身のようなものというわけだ。

それによって判明したグリフォンの正式な種族名は「フラムグリフォン」。

どうやらただのグリフォンではなく、属性的に強化された上位種であるらしい。融合素材に炎獅子を使ったからだろうか。

毛並みも全体的に赤みがかっており、近付くとほんのり温かい。

『使役』された状態にあるせいか、誕生したフラムグリフォンはジャネットたちに甘えるように頭を擦りつけてきた。

非常に可愛らしく、無限にモフモフしていられる──のはいいのだが、この状態ですでにジャネットたちよりも戦闘力が高い。

鷲は初心者では勝てない程度の普通の雑魚だったが、炎獅子の方の実力は実はよくわからない。あれはセプテムが用意したものだ。ペアレの南部遺跡で見かけた種族に似ていたが、フラムグリフォンの性能を見るに明らかにあれよりも強い。セプテムが予め何かしていたのだろうか。

システム上、主君よりも強い相手を『使役』するのは非常に難しいのだろうが、もしセプテムがそれを見越して素材の炎獅子を強化していた場合、このやり方を使えば誰にでも強力な眷属を用意する事が出来る。

システムの穴を突いた裏ワザ的な手法である、ように思えるが、これを行なうためにはセプテムのような強大な力を持つ存在と仲良くなる必要があり、普通に考えたら容易なことではない。

問題になるほど頻発する事例でもないだろう。

ともかく、そうして可愛らしくも頼もしい相棒を手に入れたジャネットたちは、セプテムの新たな指示に従って旧ウェルス王国に飛び、その空を駆けているというわけである。

セプテムの指示とは、旧ウェルス王国地方の詳細な情報を地図にまとめる事だ。

地図自体は精巧なものをセプテムから受け取っていた。

魔物の領域やダンジョンなどが詳細に書き込まれている。

しかしそれはあくまで大陸大戦前のものであり、現在もそのまま変わっていないわけではない。

特に旧ウェルス王国地方には最大のプレイヤーズ国家、神聖アマーリエ帝国が建国されている。

聖都グロースムントという街を首都とし、オーブの街やキアーロの街をも飲み込み、旧ウェルス王国の中心部にその存在感を示している。

多くのプレイヤーズ国家が地図上では点でしか表わされていない中にあって、これは異常とも言える面積だ。

元々のウェルス国民に気を使ってか、崩壊した旧王都はその領土に含めていないようだが、旧王国領の中心部で神聖帝国が周辺に睨みを利かせているというのは大きい。

この領土以外にも神聖帝国に賛同する領主がいる街はいくつもあるし、飛び地になっているがそれらの街も神聖帝国の領土である。

魔物も出没する以上、人の住む街以外のエリアはほとんど利用できない事を考えれば、旧ウェルス王国領の大半は事実上神聖帝国の支配下にあると言っていいだろう。

セプテムはその実態を知りたいと言ってきたというわけだ。

セプテムがその気になれば、神聖帝国などあのペアレ王都のように一夜にして更地にしてしまうことも可能なはずだ。

それをしないのは、そんな事をしても何も得る物がないからだろう。

いくらプレイヤーが神聖帝国だ何だと喜んでも、それはあくまでマグナメルムの慈悲と気まぐれの上に成り立つ砂上の楼閣に過ぎない。

そんな彼らを憐れみながら、ジャネットたちは上空から俯瞰して地図と大地を照らし合わせ、時には地上に降りて現地のNPCに話を聞き、それを元にして地図に勢力図を描き込み、セプテムの望む地図を完成させようと頑張っていた。

「──次の都市が見えてきたみたい。あれは……SNSにあげられてたスゴロク地図からすると、確か神聖なんちゃらには参加してない都市国家、だったっけ」

森エッティ教授という伝説的な考察プレイヤーがほぼ独力で完成させたといわれている「スゴロク地図」なるものがある。

これは現在でもSNSを通じてプレイヤーの間に流通しており、街限定ではあるものの、非常に精度の高い地図として重宝されていた。

建国サービス実装により、大陸の大まかな形や一部の大国の国境が分かるようになって来た事もあり、その地図も有志によって徐々にアップデートされ、今ではプレイヤーの間ではベーシックなツールとして定着しつつあった。

そんな地図よりさらに精度の高いマグナメルム印の地図を持っているジャネットたちには必要ないアイテムだが、プレイヤーたちの情報と照らし合わせる上では重宝する事もある。

各都市国家がどの勢力に属しているのかを調べる時などだ。

単に所属勢力を調べるだけなら、いちいちジャネットたちが街に降りて聞き込みをするよりもその街で活動しているプレイヤーの書き込みを見た方が早い。

「……うん、確かそのはず。てことはプレイヤーも少ないだろうし、実際に降りて聞き込みしてみないと周辺地域への影響力とかはわかんないか。面倒くさいパターンの街ってやつだ」

「だからこそ、セプテム様も私たちに調査を命じられたんでしょ」

「面倒くさいことを自分でしたくないからってこと?」

「そうじゃなくて、こんな強くて可愛いペットを貰っちゃった私たちが申し訳なく思わないように敢えて大変な作業を命じてくれたっていう──」

「それはさすがにないでしょ」

「はいはい。何でもいいから行くよほら。ちょっと遠くに降りて歩いていかなきゃいけないんだから早く」

いつも通り、街の政治的スタンスと周辺地域への影響力を調べたらすぐに次の街に行く。

そう考えていたのだが、どうやらそうもいかないようだった。

〈異邦人か! って怒鳴るように聞かれたのって初めてじゃない?〉

〈そうね。ウェルスは神聖帝国のおかげか、プレイヤーに対する印象がそう悪くないからね〉

これが例えばペアレ王国の中央部あたりだと、大戦中にプレイヤーがシェイプ王国騎士団と合同で軍を構築し、ゲリラを殺しながら北上した件もあり、プレイヤーに対する住民感情は最悪のひと言である。

ここ旧ウェルス地方ではそういった事は少ないのだが、この街はその限りではなく、訪れたジャネットたちは強く異邦人かどうかを問いかけられたのだ。

街の入り口には検問もあり、そこでは他の街と違ってひとりひとり通行希望者を取り調べ、異邦人であるかどうかを確認してから入場させているようだった。

〈とっさに違いますって答えちゃったけど……。信じてもらえたのかな〉

〈通してくれたってことは信じてくれたんだろうけど……。プレイヤーが嫌いとかっていうよりは、プレイヤーだと公言して活動している者を警戒している、って感じかしら。それとも神聖帝国を警戒している?〉

その後街なかで住民に聞いてみたところによれば、この街はやはり神聖帝国には否定的なスタンスを取っている街らしく、そもそも異邦人──プレイヤーの台頭自体も快く思っていないらしい。

そんな空気の為かやはりプレイヤー自体の数も少なく、居たとしてもNPCの傭兵の振りをしてつつましく活動しているようだ。

そうしたことから住民たちもプレイヤーらしいプレイヤーというものを見た事がなく、他の街や外国から噂に乗って齎されるイメージが先行してか、「異邦人とはおかしな格好をした残虐な連中である」という印象が強いようで、駆け出し傭兵然とした革装備のジャネットたちを見てもプレイヤーだとはわからなかったらしい。

ジャネットたちも、どこかの街でNPCの駆け出し傭兵のふりをして追い剥ぎ強盗を返り討ちにして以来、そういうロールプレイが少し楽しくなってきていた事もあり、人前ではあまりプレイヤーらしさを見せる事はない。

聞かれて困る話はフレンドチャットで行なうようにしているし、そうしながらも今では並行して口ではどうでもいい世間話をすることさえ出来るほどである。

〈何にしても、ウェルス地方の街でこうもあからさまにプレイヤーを警戒してるところってのもあまり見ないし、これはちょっと調査の必要があるかもね〉

〈地図にこの街の様子も書き加えておけば、高評価でまた何かご褒美いただけるかも〉

「──ウェルスには初めてきたけど、この街はいいわね。異邦人どもが少なくて」

「ほんとほんと。ペアレじゃ、あれだけうちらの仲間を殺して回ったってのに戦争が終わった途端に何事もなかったみたいに振る舞っちゃって……。反吐が出るったらないわ、ほんと、異邦人のクソどもは」

「こっちの街に逃げてきたのは正解だったかも。噂じゃ、オーラルも異邦人が多いらしいし、シェイプは未だに食糧難だって言うし。ヒルスもあれだし」

「何とかひと泡吹かせてやりたいけど、あたしらじゃ異邦人に勝てるほどの力もないし、数もいないしね」

ジャネットたちはそこそこ繁盛している酒場らしき店に入り、食事と酒を頼んで異邦人への愚痴を言っていた。

わざとらしく聞こえないよう、それでいてある程度は通るくらいの声量でだ。

まだ昼間だが酒場にはそれなりに喧騒があり、このくらいの声の大きさでは周りの声にかき消されてしまい、雑音のひとつとして埋もれてしまうだろう。

ただし、この酒場の中で異邦人というワードに人一倍敏感な者がいたとしたら話は別である。

例えば立食パーティなどでのざわめきの中、自分の名前や自分にとって興味がある単語が聞こえたとしたら、それだけは何故か印象に残りやすい。

人間にはそういう、雑多な情報の中から自分にとって必要なものだけを優先して処理できる能力があると言われている。

これを選択的聴取、いわゆるカクテルパーティ効果という。

もっともこれは現実の人間の話で、ゲーム世界でこれが再現されているかはわからないが。

先ほどの会話の中で、ジャネットたちは全員が意識的に「異邦人」というワードを口にしていた。

もし、この中に異邦人という言葉に格別な思い入れのある人物がいたとしたら、その人物がジャネットたちの会話を聞きつける可能性は低くはない。

たまたま街を歩いていただけの一般市民でさえ異邦人に対する不信感を表していたくらいだし、あれはこの街の住民の一般的な反応だと見ていいだろう。

人や情報が集まるこうした酒場であれば、ジャネットたちの会話に興味を示し、その内容を詳しく聞こうとする者がいるかも知れない。

その会話の内容が異邦人に対して否定的なものであれば、無意識にシンパシーも感じてくれるはずだ。

しばらくはそうしてペアレ王国の異邦人について愚痴めいた話をしていたが、すぐにネタが尽きてきた。ジャネットたちは直接異邦人から被害を受けたわけでもないし、元々愚痴るほどのネタなど持っていない。

主な情報源はSNSだが、あれに書き込むのは加害者側であるプレイヤーであり、当然その所業の全てが語られる事はないし、ペアレ住民の感情に寄り添った意見や見方も出てこない。

仕方なくジャネットは、ペアレの事についてはもう思い出したくもない、という形で話題を終わらせ、次にこのウェルス王国内について話す事にした。

話題は神聖アマーリエ帝国についてだ。

これまでに調べたところによれば、神聖帝国の建国に異邦人が大きく関与している事実はNPCの中でも周知の事であるようだった。

この街が神聖帝国に参加しておらず、異邦人に対していい感情を持っていないのであれば、神聖帝国にも思うところがあると見るのが自然だ。

ジャネットたちはそのあたりを意識して、神聖帝国についてある事ない事憶測を並べ立ててこき下ろした。

聖女と呼ばれる現地人は異邦人に弱みを握られて協力させられているに違いない。

そのせいでウェルス聖教会も異邦人に協力せざるを得なくなったのだ。

ウェルス王家も異邦人の策略によって表舞台から姿を消す事になったのだろう。

そういうあれこれである。

不思議なもので、自分と全く関係ない人々に対する噂話というのは意外といくらでも話せるものである。

途中から、例えばこういう話はどうかとか、こういう展開だったら面白いなど、まるでシナリオか何かでも考えるかのように意見を出し合うようになり、思いのほか盛り上がってしまった。

話が一息つく頃には食事も酒も消費しきってしまっていた。

その間にジャネットたちに接触してくる者はなかった。

この作戦は失敗か、と席を立とうとしたときである。

ジャネットたちのテーブルに近づいてくる者がいた。

「──お嬢さんがた、ずいぶんとあの帝国に恨みがあるみたいじゃないか」

「見たところ、ペアレ出身の傭兵のようだね。それもこの国に来たばかりの。

今、長期で契約している仕事なんかはあったりするのかな。もし無いのなら、どうだろう、今の話の続きを我が主の館でするというのは。

もちろん、この店よりも上等な食事と酒をお出ししよう」

身なりの整った、いかにも貴族の家で働いていますと言わんばかりの青年たちである。

いやこの青年たちも貴族の端くれかもしれない。顔立ちも整っている。

まったくもって怪しすぎる声掛けだが、ナンパではないだろう。この青年たちはヒューマン系種族のようだ。

ジャネットたちもそれぞれ自分のアバターの美しさには自信があるが、この世界では他種族間での恋愛は推奨されていない。

ともかく、運よく情報が得られそうなカモが現れた。

傭兵だとわかって声をかけてきている辺り、もしかしたらキナ臭い案件かもしれない。