軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

姉から妹へ

画面がパッと明るくなり、スマートフォンのインカメラに彼女の姿が映し出された。

「あ……映ってるかな。声、聞こえますか?」

画面を覗き込み、目を細める。

シホさんは、コメントが流れるのを数秒待つ。

「あ、こんばんは。よかった、聞こえてるみたいですね。……お久しぶりです、夏目シホです」

飾らない白い壁を背に、薄手のカーディガンを羽織り、髪を簡単にまとめただけの姿で座っていた。

「半年ぶりですかね。久しぶりに配信やってみようと思って。なんか急に思い立って」

カメラに向かって、少しだけ照れたように笑う。

「最近どうしてたかって言うと、特に何もなくて。仕事して、ご飯食べて、寝て。そんな感じです。あ、でも、最近は散歩するのがちょっとした習慣になってきて。近所の川沿いを夕方に歩いてますね。人が少なくて静かで、穴場なんですよ」

「あと、料理もよくするようになりました。昨日はポトフを作ったんですけど、じゃがいもが思ったよりほくほくに仕上がって。ちょっと嬉しくなっちゃいました」

彼女の口元がわずかに緩む。

「そんな感じで、元気です。平穏な日々を過ごしてます」

言い終えた後、わずかに沈黙する。

少しだけ時間をおいて、すぅ、と息を吸い込んだ。

そして、口を開く。

「最近、家にいることが増えたんで、よく動画とか配信を見るようになったんです。それでね、最近すごく好きな推し、っていうんですかね。そういう方ができたんです。姫川ユリナさんって言うんですけど、知ってますか? Vtuberの方なんですけど、デビュー当初からずっと見ていて」

少し声が明るくなった。

「ゲームが上手いのも尊敬するし、配信中も堂々としてて。クールで落ち着いてる印象なんですけど、たまにすごく抜けてるところがあるんです。こないだのコラボ配信なんか、堂々と指示ミスして、コラボ相手の人を死なせちゃったりして。それ見て、思わず笑っちゃいました」

「私は、なんかそういうところ見てて、可愛いなと思っていて。不意に見せるギャップのある一面が、私は大好きで」

姫川ユリナについて話していた。しかし、その言葉は霧島さん、妹自身のことを言っているようにも聞こえた。

「あと、声も好きで。聞いていると落ち着くんですよね。長い配信でも、最後まで聞いていられるというか。声を聴いているとなぜか元気がでてきて、この人の声をずっと聴いていたいと思うんです」

ふふっと笑ってから、一呼吸をおいて続ける。

「……なんか、そういうところ見てたら、自分の妹のことを思い出しちゃって」

声のトーンが僅かに落ちる。

「私、妹がいるんです。今、ちょっとうまくいってなくて。喧嘩したまま、しばらく会えていないんです」

元気のなさそうな雰囲気で、シホさんは言う。

「喧嘩したのは、妹の仕事のことでちょっと問題が起きて、口論になっちゃったからなんですけど」

「言いすぎちゃったなって、すごく後悔してます」

その言葉には、深い悔恨が滲んでいた。

そんな喧嘩中の妹なんですけどね、とシホさんは切り出す。

「すごくいい子なんです。すごく頑張り屋な子なんですよ。しんどくても平気な顔をして、文句も言わずに一生懸命に頑張ってる。あと、遠慮しいで、人を頼るのが下手なんです。昔からそうで。だから私、ずっと心配で、つい口を出しすぎちゃって。よくうざがられてました」

少し笑った。困ったような、でも温かい笑い方だった。

「妹からしたら、私みたいな姉は過干渉で苦手なのかもしれないです」

でもね、とシホは言う。

「お姉ちゃんだから、やっぱり心配しちゃうんです」

「連絡が取れなくても、会えなくても。今頃ちゃんとご飯食べてるかな、元気にしてるかなって、毎日思ってるんです」

自分で言ってて不思議ですね、なんだかお母さんみたい。そう言って笑った。

「絶賛喧嘩中なんですけど、喧嘩したくらいで、大事に思う気持ちは変わらないんです。私にとってのお姉ちゃんって、そういうものなんです」

その言葉は、力強かった。安心するような、信じさせてくれるような、そんな声。

「最近も何度かメッセージ送ってるんですけど、ずっと既読がつかなくて。読んでくれてるか、受け取ってくれているのかもわからないんですけど」

机の上で手の指を組んで、手のひらを擦り合わせる。

「もし、この配信をどこかで聞いてくれてたら、伝えたくて」

その顔は、妹に見せる姉の表情とでもいうのか、穏やかで柔らかい印象だった。

「そりゃあ、喧嘩した時は、ちょっとムカッとしたよ。けど、今は別に怒ってない。だから、謝りづらいなとか、喧嘩のことをを気にして、連絡しづらくなってるなら、そんなの全然気にしなくていいからね。私も考えなしで迷惑かけたんだから、お互い様」

声が、少しだけ波打った。

「ずっと、大好きだから。あなたのいいところも、ちょっとどうかなって思うところも。全部含めて、大好きだから」

少しの間、黙った。目元を指でそっと拭った。

「いつでも、返事待ってるからね」

顔を上げた彼女の目元はほんのりと赤かったが、その表情は穏やかだった。

「……あーあ、なんか急に湿っぽい話しちゃってごめんなさい。見てくれた皆さんもありがとうございました」

ふふっと笑う。

「でも、なんかすっきりしました」

最後にもう一度だけカメラのレンズを覗き込んだ。

「それじゃあ、またいつか」

小さく手を振ったシホさんを映しながら、配信は終わった。