軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

375.写本師の仕事ぶり

キノコハウスで結構な量の本を読む。

これ、真面目に通えばすぐだな、800冊。まあ、さすがに一日を本に費やすことはできないが。しかもアンジェリーナさんの本屋じゃないしね。

「ウォルトさん、ここは何時頃までやってますか?」

「別にセツナ君が夜通し読みたいなら開けておくよ。こっちは交代要員もいるし、気にしなくていい。アランブレだってそうだろう?」

「いえ? 基本来訪者でアンジェリーナさんのお店を利用しているのって俺だけだし、アンジェリーナさんの負担になってはいけませんからね。俺は朝の九時から夕方五時までしか貸本屋には行きませんよ」

美容のために時間は守る。

「それで、君はここで何時まで読むのかな」

「朝まで読みます!」

「わかりやすい……。まあ、どうぞ。俺も写本の仕事をしようかな」

といって眼鏡……眼鏡かけよったっ!! 眼帯してるから片方だけのやつ。イケメンが、眼鏡、眼帯プラス? 情報量多くない? それでも、落ちる女子いるだろな。男子も?

「写本の仕事は奥でやるんだよ。借りたい本があったら声を掛けてくれるかい?」

「……写本の仕事ちょっと見てもいいですか?」

「何? 結局やってくれるの? 写本師」

「やらないです! アンジェリーナさんと修復師をするんですよっ!」

「来訪者はやると決めたら何個も職掛け持ちするだろう? 写本師も楽しいよ」

やたらと誘ってくるな、この男。なぜだ。

「今ねー、ケルムケルサの仕事で普段の仕事がちょっと受け付けられなくなりつつあるんだよね。そうなると、もう一人有名な写本師は第11都市の男になってね」

「ハカカチャですね」

あ、ドワーフだ。俺の表情に渋い顔をする。

「そうなんだよね~。ドワーフはドワーフらしく金属叩いていればいいものを」

わーい、確執確執。

ほんっっと仲悪いんだな。

「あ、来訪者のドワーフにはなんにも思ってないよ。君ら幻影族はその地のものをまとうんだろう?」

「その幻影族っていうのもよくわかってませんけどねー、俺らは俺らでこの身体は気に入ってますよ」

みんな好きなアバターを選んだのさ。

「ま、どうぞ。こっちの部屋でやるよ」

案内されてついていくと、キノコ二つ目だ。外から見て手前と奥にキノコがあったのだ。貸本屋スペースと、作業スペースかな? 階段も見えるから上がプライベートな部屋だろうか。

階段はアンジェリーナさんのおうちにもあったんだよね。

俺はそれ以上想像するのをやめましたよ。ログアウトしちゃうからな。

オルロは自宅を持っていたが、イェーメールの貸本屋さんは確かに奥のスペースはなさそうだった。その人の持つ店舗の大きさによるのかもしれない。

部屋の三方は壁が本棚とたくさんの引き出しになっていた。なかなかに壮観。

薬棚みたいな感じで小さめの引き出しが山ほどあるのが浪漫だった。いいなぁ。

目の端でステータスがチカチカする。

ああ、写本師光ってる。

無視無視。無理! 絶対ダメっ!

アンジェリーナさんを前に二足のわらじなんて絶対しないよ。

机はアンジェリーナさんのところと同じように広い。棚にあった本を取り出し、さらに紙の束を持ってきた。少し黄色みがかった紙の束だ。

「さてさて、達人の域に達した写本師の写本は一種の芸術だよ、ご覧じろ」

そういって机の上のインク壺に羽根ペンをつけると――まるで躍るようにインクがペン先から跳ねて紙に染みを作っていく。

いや、染みではなく、文字になっていくのだ。

「写本師は写す本を読むことで己に取り込み、特別なインクとペンであっという間に書き上げる。もちろん、言っただろう? 達人だって。このレベルになるにはどれだけの本を写し取らねばならぬか……」

そう言っている間に文字で埋まった紙を脇へ避け、次の白紙が並ぶや否やインクが舞うのだ。

普通の写本ではない。

それは間違いない。まあ、ゲームだからね。写本本気でやってたらヤバイ。ただ、たぶんこの域に達するにはかなり書くんだろうな。

動画作って募集する際にはきちんとそこら辺の予想も入れておかねば。

この男の顔に釣られてやってきたプレイヤーから恨みを買いかねない。

生産職は一応戦闘にも関わりがあるものが多い。EP回復用の料理やポーションなどを作る調薬だ。衣装も戦闘用かな。反対に家具は違うだろう。修復師はどうやら退魔師の本を作るようだし、写本師は何になるのか。

まあでも趣味職っていいよね。

ゲームって気晴らしなんだし。

その後はログアウトの時間まで本を読ませてもらった。

ログイン。

寝心地のいいロフトベッドから降りる。

一等地のクランハウスだけあって、今度の個人部屋は大きな窓付きだ。二階に個人部屋空間があるのだが、真ん中に廊下が通ってて左右に部屋がある。窓の方向は一応それに準拠している。

綺麗な海が見える。

そう、カーテンがない。

「これだけ部屋からの眺めが綺麗だと立ってログアウト立ってログインはちょっと悩ましいのよぉ。でも私の部屋はタンスとクローゼットだらけだし」

「部屋の拡張は金だからな。第一回拡張は金って書いてあったから第二回からたぶん、アイテムかなんかが増えるぞ」

リビングのローテーブルであーだこーだとクランハウスの内装の話をしているのはソーダとピロリ。

このローテーブルは案山子の物だそうだ。みんなで買ったテーブルは今二階のテラスに野ざらしになっている。まあ汚れないし雨に打たれないのでOK。

「お金よ。お金が足りない。ハマドリュアスバブーンもねえ……効率はじき出せないというか、あいつは経験値稼ぎの方よね。もっとこう、がっと儲けられないかしら」

しばらく洋服買うの禁止令が下っているピロリがソファでごろごろもだえている。

「ミラエノランには杖作りが多かったのじゃ。鍛冶職人はほとんどおらぬ」

「食器作りの職人さんはいたよッ!」

「エルフの忍びもいるはずなのでござるが……まあ見つけたところで今は金がないので無駄でござる」

「金なあ……金稼ぎと言えばファマルソアンだろうが」

八海山の言葉に脳内に彼を思い浮かべる、と、寝転んでいたソーダが飛び起きる。

「酒運びの時期じゃん! 忘れてたよ」

「あ、そういえばそうでござるね」

「ファマルソアンさんに聞いてみようか」

もちろん連絡を取るのは俺だ。