軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

289.正義のクエスト

聖地は夜も眠らない。不夜城である。

ということで日もすっかり暮れたのに、まだまだ道行く人の数は変わらない。店の軒先にランプが掲げられ、それがまた色とりどりで白い聖地を明るく仕上げていた。

『お、第10都市は牡牛座かぁ』

後ろ足で立ち上がっている白い牡牛だ。

『ゼウスの変身した姿じゃろ? ナンパするために』

『むしろ誘拐でござるね』

ギリシャ神話はやりたい放題だ。

『ゲームでのキーワードは?』

ソーダに聞かれて俺はまた知識の項目を調べる。

『繁栄や富の象徴、男性、荒れ狂う』

『うーんなんだろうなこれは……』

『お金お祈りするしかないかなッ!』

順番が来たのでみんなでまた参拝する。

『お金ください』

『クラン資金をがっつり貯めたい。そろそろ金が大量にいるようなことが起きそうな予感がする』

『なんでござるかその予感は……お金くださいでござる』

『お洋服もっと買いたいです。お金ください』

『お金がっぽして鉱物をもっと買いたいのじゃ~ゴールドラッシュ分使っちゃったのじゃ……』

『お金が手に入ったらッ! あのお金で集める食材採りたいッ!』

欲にまみれたお願いに、神は答えてくださるのだろうか……。

『とりあえずメンテナンス分のお金が常にてもとにあるようにしたいです』

細剣(レイピア) の耐久値はまだまだ大丈夫だけどね。

金の話しかしない俺たちの祈りに、牡牛座の神は答えてはくれなかった。

当然か。

第9都市は天秤座。正義、公平、観測といったもの。善悪を図る天秤……の、彫像だった。まあ、水瓶座の神様みたいに体があるよりずっといいな。天秤そのものの神様だった。

『ここはなんだろうな、何をお祈りする?』

『うーん、ようは、悪いことしたらだめって話じゃない?』

多分違う。

『俺は俺の正義を貫いてこの世界を楽しみます。これだな!』

とソーダ。みんな我が意を得たりと祈り始めた。

『今後もアホな来訪者は全力で潰します。地元民とは仲良くやっていきたい!』

ピロリ姐さんの宣言に柚子が怖いのじゃと漏らした。

『拙者は拙者の忍びの道を貫くでござる。それが人と相容れぬものだとしても』

暗殺してるからなぁ。天秤座の加護はもらえなさそう。

『俺はッ! 料理でみんなを笑顔にするッ! ご飯は大切ッ!』

もう祈りですらない。

『私の正義……正義なあ。クランメンバーとイェーメールの 小人族(ドワーフ) をいじめる奴らは許さないのじゃ!』

酒飲み仲間とは強い絆が結ばれているようだ。絆……絆システム発生してないよね?

『俺はアンジェリーナさん! アンジェリーナさんの笑顔を守ることがジャスティスッ!!』

アンジェリーナさんが喜ぶなら裏工作も何のそのです。多少グレーな道も行けます。

『そのときによって人の正義は変わるもの。己の正義を信じるのみ』

八海山が締めた。

塔にはまだまだ参拝者が入っていく。もう明け方近くになっているというのに、聖地は騒がしい。が、普通よりも騒がしい。なんだろう?

耳を澄ませて見れば怒鳴る男……というには若々しい声が聞こえてくる。

「…………風情が! 己の街に引っ込んでいろ!」

「ここは聖地、誰もが平等に受け入れられる場所だ」

「畜生は建前もわからないのか!? 人語を解することが難しいか。ならば仕方ないな」

わめいているのは若い男だ。しかも……聖騎士の鎧着ております。それはヤバいんじゃないか?

「畜生は畜生らしく小屋に戻っていろ」

そこには聖騎士が5人。

一方何か言われているのは犬系獣人だった。そちらの服装は普通の旅装。

周囲はそんな彼らを遠巻きにしている。

『早速正義のクエストかな?』

『公平のクエストでござろうか?』

『話しかけるしかないねッ!』

誰がいく? などとつつき合っていると、いつの間にか彼らのすぐそばに辿り着いてしまった。そうしたら、嫌でもあちらの目に留まる。

嫌な感じの聖騎士はもちろん八海山を見て顔をしかめた。

「ほら、お仲間が助けに来たぞ」

「群れぬとやっていけない畜生どもが」

これには、思わず笑った。

ギロリと睨まれる。

ごめんってば。

『セツナwww』

『だってーwww』

『私はこーゆうのをコテンパンにするの大好きなんですけど~!』

『ピロリ殿はオーバーキルが過ぎるからやめてくだされ』

「冒険者風情が何を笑う」

「え……いやぁ……ね?」

「我々が何者かわかっていない愚か者か?」

『これ、喧嘩売っていいの?』

『面白いから売って行こうぜ! 絶対クエスト入る予感する。獣人のNPCはアランブレでもあんまり見ないんだよなぁ』

『イェーメールの聖騎士団の団員にいるけどね』

『え、見たことないのじゃ』

『みんな奥まで行ったことないからね。それじゃあまあ喧嘩売りま――』

「群れているのはそちらのようだが」

俺が勢い込んで行こうとしたら、先に八海山が始めました。

「何!?」

「5対1で何を揉めているんだ? こんな人通りの多いところで、品性の欠片もないような話をしていたなあ。俺の知ってる聖騎士団員は皆礼儀正しく素晴らしい方たちばかりだったが」

いつも案山子のご飯を前にお利口ちゃんですね。

「貴様! 我々を愚弄するのか!?」

「こんな往来で怒鳴り声が塔の方まで聞こえた。お前たちを皆が避けて通っている。お前らがどう思われているのかわからないのか?」

「だいたい怒鳴ってる方が頭悪いのよねぇ~」

「数で優位に立ってるようにしか見えないなぁ~」

「ださださなのじゃ」

最後の柚子の言葉がダメージが大きかったらしく、聖騎士の彼らは顔を真っ赤にしていた

「お前らどこからきた!」

と言って剣の柄に手をかける。

お、抜いちゃう? 抜いちゃうの?

「ゲートの向こうからでぇっす」

語尾にハートを飛ばすピロリ。

「そーじゃねえだろwww」

突っ込むソーダ。もうニヤニヤしてる。

「来訪者風情が、こちらのルールも知らぬくせに余計な口を利きよって」

「来訪者ではあるが、公衆の面前で相手を面罵するようなヤツに碌な者はいないということはわかっているつもりだ」

「ヒドイこと平気で言うヤツはだいたいヒドイヤツッ!」

「聖騎士の鎧を纏いながらやることじゃないっすね。こんな恥ずかしいことするの、どこの都市の聖騎士団なんだろ?」

俺も付け加えておいた。これさ、……ヴァージルに迷惑かかりそうなんだよなぁ。そしてイェーメールの騎士団みんなこっちの仲間になりそうだから、こいつらの所属を知っておきたい。

「貴様っ!!」

聖騎士団の名前出されたのが癇に障ったらしい。男は俺に全振りしてきた。

が、そこで大きな声が響いた。

「お前らそこで何をしている!」

やってきたのはかなりごつい赤い短髪、頬に傷のある聖騎士様だった。