軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

190.先見の明を得るための本

「先ほどからあなたたちの動きは見せてもらっていました。私の所蔵品である絵画、『優雅な春のひととき』を欲しがっていそうだと思いましてね。あなたたちが思っている通り、私がトレードしてもいいと思ってるのは32番さんの『海うさぎの涙』と呼ばれる真珠の首飾りです、が、別にそこまでというわけではないのですよ……あなたたち、来訪者の方ですよね」

会場の片隅で4人で立ち話をしているが、それを気にする者はいない。11番はにこやかな笑みを浮かべたまま続けた。

「実は、手に入れたい、というか、【鑑定】したいものがあるんですよ。もしそれに手を貸してくれるなら、私の『優雅な春のひととき』をお渡しすることも可能ですよ。ああ、品物を的確に判断されていたので、【鑑定】持ちなのは把握しておりますから、隠さなくても結構ですよ」

『全部バレバレなのじゃ。どうするせっちゃん?』

『正直トラヴィス面倒くさくなってきました……ただ、柚子さんのクエストがなぁ。あと、普通と違うルートってことですよね』

『そうじゃのう……』

「ふふ、困りますよね、こんな話をされても。こちらの手の内はすべてお見せしましょう。実は、どこの街かはわからないのですが、市井に本屋があるらしいのです」

俺は、反応しないようにするのに必死だった。今までと変わらぬ表情を作り続けることに全力を尽くした。

「本屋で店主に『先見の明を得るための本を探している』というと渡される本があるらしいのですよ。出来ればそれを手に入れたい。無理でもタイトルを知りたいのです。そして、その本を【鑑定】した結果を知りたい。どうです?」

『せっちゃん、本屋って……』

『ううん……うーん。これって、クエストの流れってやつなんでしょうね』

『だとは思う。あまり貸本屋さんのことは知られていないから……いや、私もスレを検索したりはしてみたのじゃが、貸本屋は話題に上ってこないのじゃ。せっちゃんにイェーメールの貸本屋を教えてもらったから隙間時間で通ってはいるのじゃが、他のユーザーに会うこともない』

『なんだか色々と気になるので、ちょっと依頼を受けてみましょうか……ただ、アランブレの貸本屋には行きません』

『まあ、それはそうじゃろな。私も未だに見つけられぬ』

探してたの!?

柚子を見ると、目をそらされた。

「本屋さんですか……変な犯罪に巻き込まれたりしません?」

俺が不審そうな顔で言うと、男は笑った。

「なんなら、先にこの絵画を渡してもいいよ」

「その方が怪しい度があがりますよ……」

「ハハ、そうだろうね。なかなか暇が無くて、本屋を探しきれないんだ。どこの街にあるのかもわからないしねえ」

「ねえ、受けてくれよ。そうすれば――」

「ちょっと黙っててもらえます?」

「あ、はい」

トラヴィスはすでに蚊帳の外だ。余計なことをしそうなのでそこで直立しててくれ。

「そうそう、それを知りたい理由なんだが、貴族の間で噂があるんだよね。素晴らしいお宝を手に入れる鍵だという」

「お宝!? じゃあそっちを――」

「もう黙っとるのじゃ!!」

柚子がトラヴィスの向こうずねを蹴り上げる。

「私は資産もあるし、欲しいものは手に入る。だから、今欲してるのは暇つぶしなんだよ。お宝探しなんて、最高の暇つぶしだと思わないかい?」

アンジェリーナさんが関わっているのか? それともどこかの街の貸本屋が知っているのか。そこはわからないが気になりすぎるので受けることにした。

「わかりました。俺の方で探してみます。どうやって連絡を取ればいいですか?」

「そうか、受けてくれるか!! ならば、3日後の今の時間くらいにアランブレのどこかにしようか?」

「うーん、イェーメールの神殿でもいいですか?」

「構わないよ。ではそうしよう。あの絵画も持っていくよ。約束は守る。是非情報を得られることを祈っているよ」

そうやって会はお開きになった。

馬車で再びイェーメールまで移動する。

「ねえ、大丈夫なのかな? あの絵は手に入るのか?」

腕の中に1000シェルの価値しかない花瓶を抱えながらトラヴィスが尋ねてくるのを無視し、俺は柚子とフレンドチャットで話し続けている。

『どこの貸本屋に行くのじゃ?』

『悩んでるんですよね。正直あの人の言うこと真に受けていいものか……貸本屋のみなさんとの信頼関係を崩すのも嫌だし……』

なんならこの馬車さえ付けられているかもしれない。

『そこら辺はせっちゃんに任せるが、私にも出来ることはあるか?』

『とりあえずこのままトラヴィスさんのお屋敷に行って、ウロブルに飛びます』

柚子にはトラヴィスと分かれてそのまま普段通りに過ごしてもらうことにした。

俺は遠回りになるが、ウロブルへ飛び、無駄に街中をうろついてアランブレのクランハウスへ。そこからは【隠密】でイェーメールへ移動した。

『本好きの証』くれたのはオルロだった。アンジェリーナさん以外で1番信頼関係を結べていると思うのだ。

【隠密】のまま店に入り、姿を現すとオルロが少しだけ眉を上げる。

「こんばんは。少し相談があって来ました」

貸本屋の信頼関係を崩すということは、アンジェリーナさんとの信頼関係を崩すということ。トラヴィスの信頼と天秤に掛けたら、いや、掛ける余地もない。

ということで俺は、暴露作戦に出ることにした。

「実はちょっと知り合いの金策を手伝うことになっていて、その過程で、貴族の人から相談を持ちかけられました。どこかにある市井の本屋で『先見の明を得るための本を探している』と言って渡される本のタイトルを知りたいと」

オルロさんは俺をじっと見つめたまましばらく動かなかったが、やがて深くため息をつく。

「それを俺に全部話してしまうのはどうかと思うが……」

「正直どんなことに関わってるかまったくわからないから……よく聞かれるんですか?」

「そうだなぁ……それは、符丁だな。言われたらこれを見せるんだよ」

と、カウンターの下から1冊の本を取り出す。

『過去と老人』というタイトルの文庫本だ。

「俺にそれ見せちゃって大丈夫ですか?」

「構わん。その貴族の名前はわかるか?」

「一応聞きましたけど、本名かはわからないですよ。あと、その本を【鑑定】して欲しいとも言われました」

「セツナは【鑑定】持ちか!」

オルロは面白そうな顔をして本を開き、奥付を俺に見せた。

「ほら、【鑑定】してみろ」

いや、ダメだこれは。

「あ、ごめんなさい。嘘というか、ああ……えーと」

俺の、【翻訳】が働いてる。

オルロが目を見開く。

「まさか、【翻訳】持ちかっ!」

情報ギルドへの連絡方法が書かれていた。