軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

53お願い事は直球で

「奥様~! 今日も養殖池の整備だっぺか? 精が出っぺなぁ~」

「ソンチョさん、お疲れ様です」

あの石灰を撒く作業をお手伝いさせていただいてからというもの、公爵領の領民の皆さんが結構頻繁に領主の館であるこの城に訪ねて来てくれるようになったのだ。

石灰効果はてきめんだったみたいで、一時期枯れかけていた田畑は、完全に元気を取り戻している。

「あの、いつもの貝セット、準備できています!」

そう。皆さんの目的は、この牡蠣とホタテとアサリの詰め合わせセット。

来年に向け、また石灰を作るストック用として、頻繁に貝類を食べる習慣をつけて貰おう大作戦発動中なのだ。

緊急時に大々的にパーティをやるよりも、日常的に少しずつ食べては貝殻を集めておくことで、領民の皆さんの健康増進にも繋がるし、なにより、毎日のおかずが一品増えるのは、嬉しいものである。

「奥様、いつも助かるっぺ~」

ソンチョさんは、いつもなら、ここで今の畑の様子や、貝をどうやって料理して食べたか、などを教えてくれるのだが、今日は挨拶もそこそこに、その人の好いニコニコ顔から、笑顔を消し、少し不安そうな眼差しでわたしを見つめた。

「……実はオラの村に、大急ぎで奥様に会いたいっちゅー男が来てるっぺよ」

「へ? ……わたしに、ですか?」

「んだ~。三十代くらいの割となんか、ちょっと疲れて苦労してそうな感じの兄ちゃんだったっぺ」

30代くらいの男性??

誰だろう? バードラ様だったら、ソンチョさんもお顔を知っているから違うし……

他に30代くらいの男性の知り合いなんて、わたしには居ない。

「今日も、坊ちゃまもバードラ様もお城でお仕事だっぺ?」

「は、はい……」

わたし以外は 魔導人形(オートマタ) しか居ない屋敷に30代の若い男性を連れて来るのは気が引けて、ソンチョさんの村で待っていてもらっているのだそうだ。

「なんでも、幼い娘さんの命を助けられるのが奥様だけなんだって言ってたっぺよ」

「え? わ、わたし……料理はできますけど、回復魔法や治癒魔法は……」

その分野はわたしよりもマリクル様の方が適任だ。

と、伝えようと思った瞬間、どたどたと人の走る音が響いて、一人の男性がこちらに駆け寄って来るのが瞳に映った。

「あンれまぁ! ついて来ちまったっぺか?!」

ソンチョさんの叫び声に、血相変えて走っているあの男性が、わたしに用が有ると言っていた方なのだろう。

……うーん、お顔を見ても分からない……ど、どちら様でしょうか?

『不法侵入! 不法侵入!! これ以上進むと、攻撃します!』

と、わたし達から少し離れた時点で、 魔導人形(オートマタ) さんに取り囲まれ、身動きが取れなくなる男性。

「……っく!」

ばばっ!!

「お願いします!! ミルティア様、娘を、キディを助けてくださいッ!!」

すると、そう叫ぶなり、その場で頭を地面に擦りつけて懇願を始めてしまった。

「えっ、あ、あの? わたし、回復魔法や治癒魔法は……」

使えませんが、と言おうとしたのだが、それをかき消すように男性が叫んだ。

「俺は、リラン伯爵家で働いているヒャトイと言う雑用係でございます!!!」

『不法侵入! 不法侵入!!』

土下座のままの姿の男性を、 魔導人形(オートマタ) さんが敷地の外へ連れ出そうと、ヒャトイさんを引きずろうとしていた。

「ミルティア様をリラン伯爵家に連れて行かないと人質に取られた娘が殺されるんです!! お願いします!! ミルティア様、俺に攫われてくださいっ!!!」

超・直球の誘拐宣言に、思わずわたしとソンチョさんは目を丸くして顔を見あわせてしまったのだった。