作品タイトル不明
第168話見違えた
僕らはカメラ君の向かった先で、モンスター相手に激しく戦闘を行う見知ったパーティを発見した。
しかし……彼らの戦闘は今までの戦い方とは一線を画していた。
相対しているのは、巨大なカブト虫のようなモンスターで非常にそそるデザインだが、今注目するのはやめておこう。
突進する巨大カブト虫はダンプカーのようだったが、一歩も引かずに耐久役の剣士が立ちはだかっていた。
「行くぞ……」
メガネ男子のハバキリ君が剣を構えて大きく上段に構えると、その周囲に鱗の影が現れる。
その影はカブト虫の突進を受けとめ、触れた瞬間巻き付いて、突然現れた水流が渦巻くと、完全にカブト虫を拘束していた。
「よし! 止まったぞ! 草薙!」
「おう!」
そしてもう一人の剣士が飛び出し、桃山君辺りで見覚えのある墨をぶちまけたようなエフェクトが津波のように押し寄せて、カブト虫の全身を叩き潰した。
耐久力に優れていそうなカブトムシは大きくのけぞって、どう見てもダメージが通っている。
クサナギ君の今までの気を引くことしかできなかった剣撃とは明らかに違う攻撃手段は、威力が段違いに増しているようだった。
「マキ、カノン! とどめ頼む!」
「OK! 任せて!」
更に巨大な火の玉が太陽のように輝いて、天音さんの手から放たれた。
灼熱の輝きがモンスターに直撃すると、跡形もなく硬そうな甲殻ごと焼き滅ぼしてしまった。
「私は必要なかったわね……」
そして月読さんが残念そうにため息を吐いていたが、この中で誰が一番異常であるかと問われたら、僕は間違いなく彼女を推す。
なぜなら―――彼女の周囲には、遠目からでも見てわかるほどに強烈な魔力があふれ出ていたからだ。
「……あれ、なに? ヤバァ……」
思わずカメラ越しに眺めて、浦島先輩が声を漏らしていた。
これは浦島先輩が失礼と言うわけではなくて、見るからにまさしくヤバいのは僕も同感である。
「……!」
レベルが上がって、魔力に対する理解が深まった今だからこそ感じる異常さは、常軌を逸しているレベルと言っていい。
ただ、どうしてあんなことに? と思った瞬間に僕には心当たりが瞬時に頭に浮かんでしまった。
「……あー」
いや、いったん落ち着こう。まだ憶測の域を出ない。
というか、今までの経験ではわからない異常事態なら、こういう時こそ頼りになるのは攻略君だった。
なにあれ……。どういう状態?
思い浮かべて質問すると、攻略君の答えは簡潔だ。
『精霊が飽和している』
……どういうこと?
『彼女のキャパシティを越えているのに精霊が離れたがっていない。実に特殊な彼女の性質が起こした状態だよ』
思い出されるのはガチャガチャいっぱいに入っていた、数多の精霊達のことだ。
あれだけ手に入れたら大抵は去っただろうなと思っていたけど、そうはならなかったのだという事なんだろう。
……大丈夫な奴?
しかし何となく答えは分かっていたが、攻略君の答えは否だった。
『あまり良い状態とは言えないね。魔力のオーバーフロー状態だ。身に余る力は体にキツイ。それこそすでに変調を感じていてもおかしくないほどに』
「……」
それは良くなさそうだ。今はまだ平気そうだったが、近い将来危険ならばどうにかできる人間は限られる。
何とかしなきゃならないかと唸っていると、その時浦島先輩に肩をゆすられた。
「ね、ねえ。ワタヌキ後輩? おかしくない? 精霊集まってない?」
「え?」
浦島先輩に言われて初めて顔を上げるとそこにはいつの間にか無数の精霊が集まっていて、騒がしく明滅しながら僕の周囲をグルグル廻る。
別にポップしたモンスターというわけでもないようで、敵対する意思も感じないそいつらは、普通のモンスターとは違うらしい。
「な、なにこれ!?」
『どうやら何か訴えているようだ。……彼女にきっかけを与えて欲しいようだね』
だが攻略君の言葉を聞いて、精霊達が何をしたいのか僕は察してしまった。
……直接催促しに来やがった精霊共!
こいつら調子がいいとは思ってはいたが、あながち間違っていなかったか。
しかし、このまま放っておくのもまずそうなのもまた事実。
僕は眉間に皺を寄せて、攻略君に訊ねた。
解決するにはどうすればいい?
『改善する方法は二つ。精霊を追い払うか、精霊と相性のいい上級ジョブに変えればいい。精霊使いなんていいんじゃないかと思う』
上級のジョブかぁ……。
でもそうか、精霊と相性のいい上級のジョブに変更すれば、テイムできる上限はなくなる。
しかしどうやってそんな条件を満たすのか、それが問題だった。
しかし僕の懸念は、見当違いだったらしい。
『難しいところはもうこなしている。精霊を10体使役した状態でアイテムを使用すればいい』
……特殊条件系。ならどうにかできそうだ。
『ああ。パラメーターも精霊が手を貸すらしい。良ければチャートを用意しよう』
なるほど? そういうのもあるのか。ならやってみるのもアリかもしれない。
僕は方針を決めて、さっそく準備することにした。
「フー……先輩……本当にすみません。今すぐいかなきゃならないところができたんで、ちょっと行ってきます」
「……またあのパーティ、なんかあるの?」
「……そうです。なんかすごいことになってるもんで」
「だよなぁ……あれ放っておくとヤバそうなやつ?」
浦島先輩も冷汗をかいているあたりよっぽどのことだと理解してくれたみたいだが、自然に解消するかはその時になってみなければわからない感じだった。
「ゆくゆくは……解決できるかも運しだい?」
「そりゃ急いだ方がいい。不思議な縁だし……乗り掛かった舟だから、私も手伝うよ」
「……いいんですか?」
「もちろん。あれ、精霊がらみでしょ? 精霊の階層はよく廻っているから、私も役に立てるかもしれないよね?」
浦島先輩はそう言って、ポンと自分のお腹を叩く。
先輩の立てた仮説はおおむね正しい。
精霊使いになるためのアイテムが眠るのは精霊達の支配する階層だった。