軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第141話驚異の吸引力

『95階層は狭かっただろう? あそこから100階層までは、全部守護者だと思った方がいいね。言ってしまえば強制ボスラッシュだ』

「……ぞっとするなぁ」

刀プロジェクトの解説をしていると思ったら、アクションゲームの終盤みたいなことを言い出した攻略君だが、先日の猿を思い出すと与太話とも思えなかった。

『まぁ区切りがいいから特殊なのさ。それに100階は新しいセーフエリアが解放できる場所でもある』

「それはすごい。それだけ深いとまたいろいろできそうだ」

『そういうことだね。まぁ挑戦するのはチャートの最後だ。刀が完成してから挑まなければ意味がない』

「どういうこと?」

随分特殊な条件のようで確認してみる。

とはいえ、攻略君なら東雲さんのオーダーにバッチリ応えられるチャートを準備しているに違いない。

『魂が宿った刀を作りたいんだろう? なら倒したモンスターの魂を取り込めばいい。いわゆるソウルイーターというやつだ』

と思ったが……随分意見が割れそうなチャートだった。

「…………それはまた。コンセプト邪悪な奴チョイスしたなぁ」

『お望みとあらば他にもあるけど、威力がね。ギターの時もだけど、やっぱりモンスターの力を利用した方が、より高度な武器になる。ただ……』

「いや、いったんまぁいいよ」

何か言いかけた攻略君の言葉を遮ったのは、彼が一番最初に提案した攻略が最有力だと思ったからだ。

妙に注文を付けて、オーダーに応えてもらったら、おそらく性能的に言えば劣化したものになりかねない。

「強くてかっこいい方がいいに決まってる。要するに倒したモンスターの力を吸収する刀ってことで大丈夫?」

『その通り。ではそれでいいなら製作チャートを聞かせようか』

それに言われてみれば、攻略君の提案の方向性は一度経験があった。

モンスターを利用した武器作りっていうのは精霊だけの話じゃなかったのか。

これは環境さえ整えば、もっと別のパターンもポロポロと出て来そうな話だった。

「OK攻略君。この先の攻略はとにかく試してみないと始まらないよね」

『よしでは、桃山氏の刀の弁償の為にも精々いい物を用意できるようにしようじゃないか』

「……そうだねー」

『君のダンジョン外の技術を当てにする試みもいいと思う。私がホームセンターを一押しするのは少なくとも君達の技術の精製技術の方が錬金での生成を上回っているからだ。そこに魔力の概念が加われば、より質のいい物が出来上がるのは必定だよ』

「完成度は東雲さんに期待しようか」

じゃあ、メンバーに声を掛けていざ攻略スタートだ。

材料確保のため次に目指す場所は、メンバーのうちの一人を歓喜させた。

「ついにですか? ついにですね! いいでしょう! 行きましょう! ワタシの準備は万全です!」

レイナさんは興奮して語り、やる気は十分すぎた。

そしてそういうノリに、浦島先輩も触発されちゃった。

「おいおい……随分と面白い事してんじゃん? 私も混ぜな?」

「なんだかすまないでござる」

そして自分の武器作りがメインという事もあって恐縮する桃山君だが、そいつは水臭いというものだった。

「―――よし、久々にフルメンバーで攻略行きましょう」

目指すは64階層。

アンデッドモンスターひしめくゴースト階層はレイナさんが大好きなゾンビなんかもたっぷりいる、恐怖の階層だった。

僕は階層に向かう移動時間で、軽く今回の攻略をみんなに解説した。

「今回の目標は、スケルトンの墓場にある吸魂石を手に入れます」

「きゅうこん? 結婚かな?」

「浦島先輩? 吸収する魂と書いて吸魂ですよ。この階層の厄介なところはとにかく相手が多い事。そして基本、死なない事です」

「死なないですか?」

「そうともレイナさん。アンデッドだから」

「その通りですね!」

言ってしまうともうすでに死んでいる判定のモンスターに厳密な死は存在しない。

バラバラになることはあってもそのうち復活するし、攻撃可能なら攻撃してくる厄介なモンスターだ。

だがお化けが怖い以外は、なんてことはない。

なぜなら対抗する手段が僕らには存在するからである。

その最も身近な例は、うちのエースの存在だった。

「ワタシがいるから楽勝です!」

ギターをかき鳴らしただけで音の中にいるアンデットは皆、無条件でレイナさんに支配される。

状態としてテイムではなくチャーム、つまり魅了状態の一種で一時的な支配だが、その分数に制限はない。

だけど……いざ実際にやってみるとコイツはひどいものだった。

「……」

背後からゾンビとゴーストの群れが付いて来る。

敵じゃないから、もちろんそのまま放置である。

「さ、さすがに不気味でござるな」

「……こんなにどこから湧いた?」

「攻撃しちゃダメだよ? チャームが切れるかもしれない」

一応注意は促してみたが、正直一掃してしまいたい。

単純に不気味。それに尽きた。

腐った死体と霊体モンスターは、ひんやりとした冷気を漂わせながら独特な臭いをまき散らしていた。

そんな不気味な集団を嬉々として空中から眺めているのはレイナさんである。

彼女の周囲には、ネクロマンサーの出す黒い魔力が、ピリピリと稲妻のように迸っていた。

「いいじゃないですか! まさに映画の世界です! ちょっと緊張感がないのがホラーとしては難点ですか?」

「……君がその気になったらすぐ解放できるんだから勘弁して?」

「そうでした……いくら何でもこれに背後から襲われるのは勘弁ですね!」

とはいうものの、趣味的にホラーとか大好きそうなレイナさんは油断ならないから要観察である。

しばらく極めてリアルなハロウィン版パレードを引き連れて探索していると、僕らは不気味な谷にたどり着いた。

「谷でござるな……まさか目的地はこの先でござるか? 底が暗くて見えないでござる」

桃山君は崖っぷちを覗き込み、吸い込まれるような暗闇を見て喉を鳴らしていた。

「結構高さあるね?」

「ワタシがゾンビ達に手を繋がせて、ロープ代わりにさせましょうか?」

などと非常にホラーな提案をしてきたレイナさんだったが、ゾンビにしがみつくのは勘弁して欲しい。

それに、こんな時に便利な魔法はすでに用意していた。

「大丈夫……そんなことをしなくても、僕にはとっておきの魔法がある!」

僕はさっそく空中に魔法を掛ける。

そして何もない崖に足を一歩踏み出すと、空中に抵抗を感じた。

「お? 浮いてる?」

僕の足元を見て浦島先輩が言うが、浮遊とは少し違う空間魔法のなせる技だった。

「いや、空間を固定してます。空中に見えない板があると思ってください。このまま全員乗ったら崖を降りますよ」

「おお。変わった使い方ができるんだね空間魔法」

「他にもいろんな使い方がありそうで楽しみですよ」

うまく使えれば、ぐっとダンジョンを歩くのに役に立つことだろう。

一旦ゾンビパレードは解散。

全員が僕の魔法の上に乗ったのを確認して、固定した空間の座標を下へ下へとずらしてゆくとエレベーターのように見えない床が下がって行く。

だが足下が一切見えないエレベーターというのもおっかない物で、桃山君は生まれたての小鹿のようになっていた。

「うぅ……拙者高いところはちょっと苦手でござる」

「まぁ流石に落ち着かないよねー」

「……めっちゃ余裕じゃないでござるか部長は」

「こういうのは私、平気なんだよ。というかたぶん私たち落ちても死ななくない?」

「……試したくはないでござるな!」

レイナさんの弾くBGMも不気味さを演出するもので、ちょっと今は勘弁して欲しかった。

後半は僕も慣れてきてスピードも上がり、そう時間も掛けずに僕らは谷の底までたどり着いた。

さてここからが本番だ。

気合を入れ、僕の頭の炎の光が周囲を照らすと、本格的なアンデッドの巣が姿を現した。

「……空気が淀んでいるでござるな、あと頭の火が和むでござる」

「……背筋が凍り付く感じあるね。こう暗いと、頭だけ見えるから人魂みたいだわ」

「……なるほど、不気味なはずなのに不思議と力が漲りますね。雰囲気あってナイス照明ですよ!」

「僕も思ったより視界が確保できてビックリだよ……でもほら来るよ」

この谷は生者の気配を敏感に感じ取る。

そして獲物が掛かった瞬間に牙をむく天然のトラップとなって活動を開始した。

闇が蠢いて、そして地面から無数のスケルトンとあまりにも巨大な骨の集合体が次々に現れゾクリと寒気が走った。

「うおおおお!」

「ぎゃああああ!」

桃山君と浦島先輩は悲鳴を上げたが、こうまで白骨が多いとさすがに不気味である。

しかし今回は攻略の中でも効率を突き詰めたお手軽コースだ。

敵であるスケルトン達にとっては残念だが―――強みを発揮させて正面から攻略するなんてありえない。

僕はこんなこともあろうかと用意していた物をレイナさんに手渡した。

「これ! 使ってみて!」

「なんですって……これは!……掃除機ですか?」

「そう! 最大パワーでGO!」

「GO!」

言われた通りにレイナさんが掃除機のスイッチを入れると、強烈なバキュームは周囲のアンデッドからオーラを吸収してゆく。

その吸引力はアンデットに対してだけ驚異的で、スケルトンから次々と青い炎がすっぽ抜けて掃除機の中に吸い込まれていった。

「ワオ! いったいこれなんですか!」

あまりにも圧倒的なパワーにレイナさんも驚きを隠せないようだが、実はその吸引力、レイナさんの力のなせる業なのである。

「対アンデッド用魂掃除機だよ! あいつら魂の定着弱いから、ネクロマンサーの力で引き寄せて無防備にしてから相手の支配権を奪うんだ」

「支配権って……何かに操られてるんですか?」

「ここの場合はそうだね……ホラ、アイツがそうだ」

この掃除機はネクロマンサーの力を増幅する捕獲用の杖みたいなものだ。

そして素晴らしい吸引力でスケルトンが無力化されていくと、奥の方にフードを被った個体を見つけた。

僕は一見地味に偽装された猪口才なそいつに狙いをつけてスレッジハンマーに力を籠めてオーラを集中。

「よっと!」

一息に飛び出して、そいつを一撃で叩き潰した。

ハンマーの威力はすさまじく、周囲のスケルトンもまとめて吹っ飛んだそれは確実にレベルの暴力だった。

「ふぅ……よし! 無力化完了。じゃあレイナさんはそのまま掃除機付けて安全確保しておいてね。吸収した奴は好きにしていいから」

「り、了解です!……え? これ貰ってどうするんです?」

「では二人はこっち来てスコップもって金属探して! この辺りから出る金属は大抵吸魂石だから!」

「分かったでござる!」

「えぇ! ここ掘るのなんかやだな……死体とか出てこない?」

「骨ならそこら中に転がってますけど人骨っぽくても全部モンスター素材です! あとここいらのアンデッドは無限湧きですから」

「……まぁそうだね」

アイテムの採掘位置に間違いはない。

手早く複数個の吸魂石を見つけて、僕らはその場所を後にした。