軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エイデスの悪巧み。

「……それで、どうなったの?」

ウェルミィの問いかけに、エイデスは静かに答える。

「ヘーゼル嬢とミザリ嬢は、治療を終えた後に本人たちの希望を聞いて本邸に保護した。ルトリアノは現在、事情聴取を終えて裁判の判決待ちだ。情状酌量の余地ありとしても、手口が残虐な為、おそらく斬首か吊るし首だ」

「……友達だったのよね」

「ああ。同期の中でも優秀な男だった。マレフィデントも悔やんでいた。当時、ルトリアノが行方不明となり、捜索によって見つからなかったのは、厄介ごとに巻き込まれるのを恐れた猟師がそのまま匿ったからだ」

ウェルミィは、自分達は本当に運が良かったのだ、と痛感した。

レオとお義姉様が知り合わなければ、あるいはエイデスがウェルミィに興味を持たなければ。

同じような破滅の末路を辿っていたとしても、決しておかしくはなかったのだから。

ダリステアやズミアーノ、テレサロのことだって、一つ掛け間違っていれば。

「……俺には、理解出来ない」

ポツリとつぶやいたのは、憔悴した様子のレオだった。

「もしもイオーラが殺されたら、全部を奪われたら、俺も同じような行動に走るのかもしれないと、想像は出来る。けど、その為に何もかも巻き込んで自分も死ぬようなこと……あの人の奥さんは望んだんだろうか」

ルトリアノの妻の死体は、屋敷の庭から見つかったという。

掘り起こされた白骨死体は、本人だと断定された。

「……これほど深い爪痕を残す事情を抱えた少女たちは、流石に他にはいない。だが、旦那に裏切られたり、イオーラと同じように虐待をされていた少女も、本邸には数多くいる」

決して特別過ぎることではなく、ありふれたことなのだと。

「ありふれさせないことが、為政者の、あるいは権力を持つ者の役目だ。しかしそれでも、手が届かない者もいて、こぼれ落ちてしまうことは多い」

「特務卿になって痛感したよ。俺たちが動けるのは、何かが起こってからだ。何も起こっていない、見つかっていないことまでは手が回らないし、王として国を豊かにしても、結局は起こってしまうことだって」

「でも、減らすことは出来るでしょう?」

ウェルミィは、まるで懺悔するような二人に、眉根を寄せた。

「その為に頑張ってるんじゃないの?」

「勿論だ」

「なら、それでいいじゃない。レオ。あんたも神じゃないんだから、そんなこの世の終わりみたいな顔しなくて良いのよ。……だから、私を本邸に行かせたくなかったのね?」

「それもあるが」

エイデスは、軽く眉を上げて空気を変えるように口にする。

「父上が保護した未亡人などが多数いる以上、その中には娘を私にめあわせようという野心を持っている者もいない訳ではないからな」

そのせいで、ウェルミィが嫌な思いをすることもあるだろう。

彼はそう思っているのだ。

でも、人の欲や羨望、嫉妬が入り混じっているのが世の中という場所。

貴族だろうと平民だろうと変わらないし、そこが戦場であろうと社交界であろうと、手にしたものを使って生き抜いていかないといけないことに、変わりはない。

「話は聞いたけど、私は予定通り、イオーラお義姉様と一緒に行くわ。……そのヘーゼルさんを選ぶかどうかは本人の資質次第だけど、別に顔に傷があっても能力には関係ないしね」

ウェルミィは、そんなことで人を差別したりはしない。

見目の良さだけで言いよって来る男なんて腐るほど見たし、そういう連中ほど中身がなくて口さがないのだ。

「後、レオ。さっきの疑問だけど。奥さんが望んでいようがいまいが、その伯爵家を潰した人には関係ないのよ」

「え?」

「私はお義姉様に幸せになって欲しかったけど、エイデスをお義姉様が想ってるかどうか、なんて関係なかったもの。人の行動なんて、しょせん自己満足でしかないわ」

内心なんて、お互いに言い合ってみないと分からないんだから。

結局お義姉様が、ウェルミィを嫌ってくれなかったみたいに。

「奥さんやその人の気持ちなんて、奥さんやその人本人にしか分かんないのよ。うじうじ悩んでる暇があるなら、貴方もお義姉様とそういうことについて話したり、自分が良いと思うことをしなさいよ。王様になるんでしょ?」

ウェルミィが告げると、レオは目をぱちくりさせて……それから、苦笑した。

「そうだな。そうする」

「ええ。貴方とお義姉様なら、きっと今よりも良くしていけるわよ」

レオは、決して無能じゃない。

大事にされてきた人間らしく甘いところもあるけれど、王子としてしっかり勉強もしてきていて、バカじゃないし、人の話もちゃんと聞く。

……素直に認めるのは癪だから、ちょっと顔を逸らして言ってやると。

さっきまでの暗い顔じゃなくて、憎たらしいニヤニヤ笑いになってレオは肩をすくめた。

「期待に応えられるように努力するよ。イオーラと一緒に、な」

「っそーゆーところが憎らしいのよね! いちいち言わなくてもいいでしょ!」

ウェルミィだってお義姉様と一緒にいつだって居たいのに、我慢してやってるのである。

「しばらくお義姉様は私のものよ! ふふん、顔が見れないようになっちゃうわね! 残念ね!」

「あー……やっぱイオーラ行かすのはやめとこうかな……」

「許さないわよ!」

そんな軽口の言い合いに、ククッと喉を鳴らしたエイデスは。

「ふむ。まぁ準備の間に、ウェルミィには一つやっておいてもらわなければいけないことがある」

と、頭を撫でながらエイデスが言った。

「何をするの?」

「社交界の掌握だ」

言われて、ウェルミィは首を傾げる。

「え? 何で?」

「最近、こちらの陣営の子息がとても大きな問題を起こしてな。第二王子派と呼ばれる教会勢力は、彼が継承権を放棄することで中立派に回るが、ヒャオン第一王女の旦那に自分の息子を当てがおうとする勢力や、優秀なナニャオ第二王女を擁立しようという勢力は残っている。他にも、宰相や軍団長と反目している公爵や侯爵もいる」

国の穀物庫や文武を統括する勢力が、最大なのは間違いない。

しかし、権力目当てにそれをよく思わない人たちが当然ながら存在する。

あのズミアーノの起こした事件は、そうした人々にとって次代の付け入る隙だというのである。

「なので、女性陣側の不穏な動きだけは抑制しておきたい。イオーラとウェルミィも、本来は決して我々と婚姻を結ぶことを歓迎されていないからな」

エイデスの言うことは、仰る通りだった。

なんせ二人とも、問題を起こして没落したエルネスト伯爵家の令嬢だから。

「実力で存在感を示してきてくれ。もちろん、王家や筆頭侯爵家の後ろ盾は存分に使ってくれて構わない」

「お義姉様の為に、敵対する連中を掌握してこい、ってことね?」

ふふん、とウェルミィは鼻を鳴らした。

イオーラは魔術師連や国王夫妻の後ろ盾はあるが、直接的な背景はその程度しかない。

本人の功績を含めても弱いので、もう少し周りを静かにさせる必要がある。

「得意よ? そういうの」

「分かっている。今のところイオーラはレオの多忙を手伝っているのもあって社交を控えているが、専属侍女も決まれば社交が本格的になる。王妃の治療をした彼女の存在感自体はきちんと増しているが……」

「妹として私がちゃんと纏めて、そこからお義姉様と仲良しなところを見せつければ良いのよね! 任せて!」

元々、嫌われるのや人を籠絡するのは得意技。

裏返せば、人がどういうことを嫌がって、どういう部分をくすぐってあげれば好きになるかっていうことも、ウェルミィはちゃんと理解していた。

そういう演技がいらない人たちが周りにいるので、あまり発揮する機会がないだけだ。

ウェルミィ自身が周りをオトして社交界で存在感を発揮すれば、結果として筆頭侯爵家であるオルミラージュ侯爵家が、お義姉様の後ろ盾として十分な存在になるのである。

「じゃ、働いてあげる代わりに、エイデスとレオには、侍女選びの時に必要な人を引っ張ってきてもらうわね。良いでしょう?」

二人が了承して、エイデスが問う。

「誰が必要だ?」

「まずはセイファルト様。嫡男を降りたなら今暇よね? 学校が長期休暇の間に、侍女選びをするから、執事見習いくらいの立場で本邸に引き入れて。

それとカーラ。あの子の人を見る目はお義姉様や私と張るし、お義姉様や私の正体がバレないようにサポートする人員として欲しいわ。ご実家の関係から、使用人に必要な資質にも詳しいでしょうし。

後はダリステア様。背格好が似てるから、実際に接待を受ける側で見てもらえるよう、私の身代わりとして本邸に入って貰えないかしら? 難しそうなら別の人でも良いけれど、所作がきちんとした人が良いの。

それともう一人。この人が一番面倒かもしれないけど……」

ウェルミィは片目を閉じて、指を立てた。

「コールウェラ夫人にお出まし願って、王家に仕える侍女としての素養がある人を、最終的に見極めて欲しいの。以上よ」

最後の一人の名前に、レオが首を傾げる。

「コールウェラ夫人、って、母上の教育係だった方だろう? 知り合いなのか?」

「ええ。私とお義姉様の家庭教師を務めて下さった方よ」

「は?」

意外だったのか、レオが目を丸くしたが、すぐに納得したように頷いた。

「なるほどな。だからイオーラと君の所作があんなに洗練されてたのか」

「ええ。といっても、私は幼い頃に習っただけだけどね。王太子妃に対するのと、同等の教育をお義姉様に施してくれたのよ」

誰よりも厳しく、そして信頼出来る人。

人選に異論はないのか、エイデスはすぐに頷いた。

「良いだろう、手配しておく」

「コールウェラ夫人への打診は、母上にお願いしておくよ」

そうして決まった話に、ウェルミィはニッコリと笑みを浮かべた。

「じゃ、私は準備が整うまでの間、社交界の淑女がたを落としに行くわね!」