軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

男爵令嬢の告解。

ーーーテレサロの実家は、少し裕福な平民の商家だった。

と言っても、生活に困らない程度に成功していただけで、大きな商売を手広くやっている貴族ほどの資産があるわけではない。

そんなテレサロの実家が男爵に叙されたのは、父がたまたま、とある公爵の命を救ったことがきっかけだった。

公爵は治癒の力が強く、解呪という特別な素質ある血筋で、教会や慈善家との繋がりが強いことから養護院や救貧院への支援などをよく行っていたそうだ。

その支援の謝礼に食事会に招かれた帰りに、護衛と共に痺れ薬を塗られた短剣で斬りつけられ、攫われそうになったところをたまたま通りかかった父が助けた。

父は体格がよく、また武術を嗜んでいて、商人というよりも兵士や騎士に間違われる人だった。

商売道具の中から彼らに痺れ薬の解毒薬を煎じて飲ませ、しばらく家で休ませた。

ナーヴェラ・リロウドと名乗った彼は、必ず礼はする、と言い、結果、多額の謝礼と男爵位を授かったのだ。

運がいい、と父は笑っていたが、そうして商売上で少し懇意に接するうちに、ナーヴェラが挨拶したテレサロの容姿に気づいた。

自分が珍しい桃色の髪をしていて、銀の瞳を持っていることは当然知っていたけれど、まさか自分が聖女の素質を持っているなんて思いもしていなかった。

平民で魔術を使える人なんか、ほとんどいないし、当然魔術に関わるあれこれを知っているわけもなかったから。

男爵家になったことで、今までよりも礼儀礼節や教育に力を入れられて、テレサロは貴族学校に通うことになった。

それを了承する代わりに、テレサロは幼い頃からよく下町で遊び、面倒を見てくれて慕っていた、穏やかなソフォイルと婚約を結ばせてほしいと頼んだ。

彼も貧乏な男爵家の人だったけれど、好きだったから。

うちも男爵家になったなら、と父に頼み込んで『ソフォイルに自分でいいと言わせなさい』と言われて、頑張った。

とっても幸せだったけれど、ソフォイルが騎士になって、認められて遠くに行ってしまって。

帰ってくるまでに立派な淑女になれるように、貴族学校に入って、第二王子様に治癒魔術を習ったり、勉強を頑張ったり、敬虔に祈りを捧げたりしている内に、一人の令息にちょっかいをかけられるようになった。

それが、セイファルト・アウルギム伯爵令息。

婚約者がいる、と言って断っていたけれど、彼はとても強引だった。

テレサロが聖女候補であることを理由に、教会に働きかけ、またテレサロや婚約者の実家に圧力を掛けて、婚約を解消させられてしまった。

その頃には、ご実家の方で何かあったのか、ナーヴェラ様は引退して次男様が家を継いでいたみたいで、助けを求めることも出来ず、その間にソフォイルのご実家が了承してしまって。

申し訳ない、と頭を下げられたけれど、すごく悲しかったし、怖かった。

ーーー何で、私なの?

好きだって言われたって、こっちが好きじゃないのに全然嬉しくない。

セイファルトは、すごく傲慢だった。

顔立ちは整っていて、確かに成績も上位で優秀な人だったけれど、テレサロにとってはソフォイルと比べる必要もないくらい子どもだった。

彼をずっと避けていたけれど、運悪く人のいないところで捕まり、キスされそうになった時。

「ーーーいやっ!」

とっさにタイグリム様に魔力制御を習う内に使えるようになっていた〝魅了の聖術〟を、発動してしまった。

それによってセイファルトはテレサロに手を出すことが出来なくなったけれど、その現場を別の令息に見られてしまった。

ツルギスは、それを黙っておいてくれる、と言った。

代わりに、自分の言う令息たちに、同様の魔術を掛けて欲しい、と。

彼からは、嗅いだことのない花のような香りがしていた。

ツルギスから教会に〝魅了の聖術〟を使えることをバラされたら。

バレたら学校にいられなくなり、王都に戻ってきているソフォイルとも二度と会えなくなるかも、と恐怖を感じたテレサロは、それに頷いてしまった。

セイファルトは、自由には動けてもテレサロへの忠誠心から、不利益になることは出来ない。

だから、私の聖術のことを言わないように、と言うと、本当に黙った。

今まで、テレサロが何を言っても聞こうとしなかったのに。

自分の力が恐ろしくなると同時に、これを他の人たちに掛けろというツルギスも恐ろしかった。

でも、従うしか手はなくて。

「王太子殿下にも、夜会で術をかけて」と言われた時に、目の前が真っ暗になったような気がした。

そんなことが、もしバレたら。

でも、やらなかったら、教会に連れ込まれてしまう。

気持ちのせめぎ合いを覚えながらも、フラフラとレオニール殿下に近づき、声をかけたところで。

ーーーパァン! と音を立てて、伸ばした手が打ち据えられた。

そこにいたのが、意志の強そうな朱色の瞳をした、プラチナブロンドの小柄な美少女……かつて父が助けた公爵様の孫に当たる、ウェルミィ・リロウド伯爵令嬢だった。

かつて父が助けた公爵家の人に、今度は助けられた。

ウェルミィ様は、噂されるような人ではなくて、力の波動が包み込むように暖かかった。

だから、尋ねられて。

ーーーテレサロは気づけば、全てを彼女に話していた。