軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

上妃陛下の提案。

「ダリステア様」

イオーラが、魔導陣の構築をしている彼女の元にヒルデ夫人と共に戻ると、先に足を運んでいたベルベリーチェ上妃陛下と設計図を手に何かを話し込んでいた。

近くには、彼女の兄である〝もう一人の魔導卿〟マレフィデント・アバッカム氏の姿も見える。

動きやすい服装に後ろに括っただけの髪型と、装いに気を遣っておらずとも気品のあるダリステア様は、真剣な表情のまま、こちらに目を向けた。

彼女も疲れている筈なのに、そんな様子は一つも見せず、ダリステア様が頷く。

「イオーラ妃、ヒルデ夫人。丁度いいところに来て下さいましたわ」

この大規模魔導陣は、彼女がデルトラーテ夫人となった後に公表した、古代の遺失魔術を元としたものである。

その関係から、イオーラと共に全体の責任者であるダリステア様は、八芒星魔導陣の設計図に指を二本立てた。

「ベルベリーチェ上妃陛下に、この位置にソフォイル卿とテレサロ嬢を配置して、四角から八角にしてはどうか、とご提案いただいたのですが」

その二点は、ウェルミィのベッドを中心として丁度東西の左右に当たる位置から、少し上にである。

「……八角にするのは、どのような意図が?」

八芒星魔導陣の効果は、『魂の交流』によってお互いの意識を触れ合わせるものである。

ウェルミィのベッドを中心として、限りなく近しい者たちを同じ部屋に。

彼らが八人揃えば、部屋の外の東西南北に、〝光の騎士〟ソフォイル卿と〝桃色の髪と銀の瞳の乙女〟テレサロ、残りの二点に二日後に到着なさる〝神爵〟タイグリム猊下と〝もう一人の乙女〟イルマ様を。

そして協力を依頼した【聖剣の 複製(レプリカ) 】の遣い手が八人揃えば、最外殻の八芒星頂点にそれぞれ配置する、予定だったのである。

「人材を遊ばせておく理由がないでしょう」

と、ベルベリーチェ上妃殿下はあっさり口にした。

「そもそも調和の六芒と破邪の五芒による複合魔導陣故に、調和六芒の頂点に最低破邪の6名を、可能であれば残り二つの頂点と合わせて8名を配しているのでしょう?」

「その通りですわ」

「そして中心の同室に、3名の核となる術者と、近しい者らを7名で10名。数秘を合わせているのならば、調和の人数を4名から8名に、同室の者をもう1名召集し11名とすれば、より安定するでしょう」

「それは、最適であるとは思いますが……」

上妃陛下の言わんとすることは理解出来る。

この魔導陣が安定する術者の配置は、魔導陣単体で考えて五角、六角、複合で考えて八角と、六芒と五芒の上三つの頂点が重なっていることを計算に入れての十一角、の四種類である。

「ですが、女神に選ばれし聖の頂点に見合うだけの人材を、残り四名……『銀環の紫瞳』の持ち主であるディオーラ妃陛下を合わせて、残り三名は?」

「わたくしとアバッカム公爵、ラウドン子爵ならば、見劣りせぬ能力を持ち合わせているでしょう。それで8名ですわ」

「なるほど……」

イオーラは浄化の力と治癒の力、そして聖剣を中心に考えていたけれど。

『金環の紫瞳』を持つ〝導師〟と〝もう一人の魔導卿〟、そして『夢見の一族』の長であれば、確かに力量に不足はない。

「魔導陣を書き換える必要はないのですね」

「そこまでの時間がないことは、わたくしとて把握しておりますわ。立ち位置の変更だけで十分です」

「であれば……後は同室の1名ですが」

と、イオーラが顎に手を添えると、少し前にどこかから戻ってきていたゴルドレイが、静かに口を開いた。

「妃陛下、発言を宜しいでしょうか」

「ええ。どうしたの?」

「先ほど、ラウドン氏と共に『夢見の一族』による重要な示唆を受けて参りました。今のお話に関係がありそうでしたので」

小さく笑みを浮かべたゴルドレイは、剣の者らが集まっている場所に目を向ける。

「魂の絆をより強固に繋ぐには、『その記憶の善悪に拘らず、共に過ごした時の長さと濃さ』が重要なのだそうです。幼少に近ければ近いほど良い、とも。……残り1名に適任な者として、ウェルミィ様と共に長く過ごし、二つの『きっかけ』に関わった男が1名おります」

彼が目を向けた先では、オルミラージュ私設騎士団副長であるシドゥが、大男たちに囲まれていた。

豪華なメンバー総出で【聖剣の 複製(レプリカ) 】の扱いに関する指導をしている様子が見える。

イオーラの目に、そんな彼らの横で、疲れた顔で眠そうにしている槍を持った男性の姿が映った。

「ああ……」

その顔を見て、ゴルドレイが何を言いたいかを悟る。

13歳の時にエルネスト伯爵邸に『イオーラの婚約者』として現れ、ウェルミィの行動の『きっかけ』になり。

四年間をウェルミィと共に過ごして、イオーラとの婚約を18歳の卒業記念パーティーで破棄して、計画始動の『きっかけ』になった人物。

「ーーーアーバインなら、確かに適任ね」

ウェルミィは嫌がるだろうけれど、鮮明に彼女の記憶に焼き付いている一人であることは間違いなかった。

「それで人数は揃いますが、後は魔導陣の進捗ですね……ウェルミィが保つ間に……」

「少しでも早いほうが良いのは当然のこと。わたくしは以前、似たような術式を一度構築したことがあります」

上妃陛下は、手にした長杖の先で、トン、と地面を叩いた。

「図像が予め 描かれていれば(・・・・・・・) 、神爵猊下の到着と同時に起動出来るよう、間に合わせられるでしょう?」

上妃陛下の魔力が光の筋に形を変えて、まだ未完成だった魔導陣の一部を描き出す。

その奇跡の所業に、イオーラ達が思わず顔を見合わせて絶句していると、彼女は事もなげに告げた。

「魔力墨で上からなぞる必要はありますよ。流石に全体を描いた訳でもない複合魔導陣の柱となりながら、描かれた魔導陣を維持することは出来ませんので」

そこで、今まで黙っていたアバッカム公爵が笑みを浮かべて口を開く。

「……十分ですよ、上妃陛下。格段に進みが良くなります。勝手に柱の役割まで負わされたのは少々無礼ではないかと思っておりましたが、帳消しにして余りありますね」

エイデス様と並び称されるだけあって、ジョークか皮肉か分からない物言いで彼がそう口にするのに。

上妃陛下も不敵な笑みで応じた。

「魂を侵食した【魔王】の瘴気を滅するという、成功すれば医療の歴史に刻まれるであろう術式の当事者となるのです。栄誉の間違いでは?」

そんなやり取りの後ろで、甥のアーバインを手招きしたゴルドレイが彼に役割を説明していた。

全部聞いたアーバインは、寝耳に水の表情で自分を指差す。

「は? 俺が? いや、もう十分過ぎるほど頑張……」

「幾ら詫びても足りない愚行の償いとしては、上等な役割でしょう。断る権利は勿論ありません」

甥に対しては厳格極まるゴルドレイに、途中で言葉を遮られたアーバインは。

彼の笑顔に何を思ったのか、額に汗を滲ませながら『了解しました……』と力なく呟いた。