軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レオの思慕【前編】

「それで? 我が親愛なる弟分は、一体どのような経緯で伴侶に望む相手を見つけたのかな?」

手紙を書き終えて封書したエイデスは、鈴を鳴らして呼び出した秘書にそれを手渡すと、ニヤニヤとレオに問いかけて来た。

ーーータイミング逃した……。

内心で舌打ちしながら、レオはにこやかに答える。

「いやいや、我が親愛なる兄貴分にお伝えするような特別なことは何も」

「レオ。私の前で仮面を被ろうとはいい度胸だな?」

嗜虐的な光を浮かべて目を細めるエイデスに、レオはじわりと額に汗が浮かぶのを抑えきれない。

王太子として指名されたのは、12歳の頃。

他国の王族ならその時点で婚約者が指名されていてもおかしくないのだが、今をもっていないのには幾つか理由がある。

一つ目は、7歳頃までレオ自身の体が弱かったこと。

二つ目は、そんな王子の婚約というカードを切るほど、内情が切羽詰まっていなかったこと。

三つ目にして最大の理由は、内憂外患がない場合、この国の王太子が婚約者を決めるのは『貴族学校に上がる年齢になってから』という慣例があることだ。

レオは優秀だったが、その病弱さを理由に、父王は王太子として指名していなかった。

体が丈夫になったと認められるまで、その座は空席だったのだ。

第二王子タイグリムは3つ歳が離れていて、レオ、長女、双子の次男と二女、三男、の順に生まれていた。

長男を差し置いてタイグリムを次期王太子と定めるには、少々幼い。

また、別に妹が女王として立ち、優秀な人材を王配とすることもこの国では認められているが、よほど問題がない限り長子継承と男子継承が推奨されている。

側妃に懐疑的な王家であるため、妃は丈夫な体を持ち、複数の子を成すことが求められている。

そうなると、一時期は常に妊娠している可能性があるため、王として采配を振るうことに支障をきたす懸念があった。

どれほど丈夫であろうと、悪阻や子の成長は本人の意思ではどうにもならない。

体調を崩さぬよう配慮するのは至極当然の話で、頑丈と評判の母ですら、三番目の子を腹に宿していた時は悪阻が酷く、起き上がれないほど消耗していた。

そうした懸念の内、レオの体調が改善したことで無事に立太子されたのだが……婚約者決めに関しては、難航した。

というか、決めなかった。

元々、王家に話を持ってくるような上流貴族の年頃女性には血の近い者しかおらず、遠い者は格が劣るし、何人かの候補者には病弱なレオが立太子されていなかったこともあって既に婚約者がいた。

それでもレオ自身が気に入れば、改めて婚約を結び直す手もあっただろうが。

あいにく、既に婚約者がいる者をわざわざ引き離してまで見繕うほどではないと自身は思っていたし、父王も特に急いではいなかった。

これが適齢期が短い王女であれば話は違っただろうが、妃が若い分に関しては問題なく、外交上の理由から他国の姫君を娶る、という選択肢も残されていたからだ。

そういうわけで、レオは今現在でも婚約者はいない。

弟分のそんな事情を知っているエイデスは、当然ながら初めてレオが自ら関わったご令嬢に興味津々というわけだ。

「成績を見たところ、さほど優秀というわけでもなさそうだ。容姿に関してはむしろ悪い話しかない。社交界でも妹に比べられては壁の花として嘲笑されていた、と」

ーーー分かってて言ってるよな? これ。

エイデスはこういう奴だ。

相手を好ましいと思っていればいるほど、からかうような、いたぶるような、相手の神経を逆撫でして楽しむような……そういう一面がある。

度を越しはしないが、逆に興味のない相手には本当に冷淡なので、どちらにせよ『残虐非道で女嫌い社交嫌いの魔導爵閣下』の名をほしいままにしている。

「妹に対する配慮だよ。レポート見たら分かるだろ」

イオーラは、本当の自分を隠している。

それは外見のみの話ではなく、レポートの交換からも分かる様に、成績の総合評価に至るまで徹底的に『妹よりも下』であることを自分に課していた。

『何故そこまで?』と数度聞いたが、返ってくる答えはいつも同じ。

『わたくしがウェルミィよりも何かで上になると、両親は気に入らないのです。それでわたくしがなじられると……ウェルミィが、悲しみますから』

そう言って、寂しそうに微笑むイオーラのことが、最初は理解出来なかった。

あの悪辣なウェルミィが、そんな風に思うものなのかと。

イオーラが自分の心を守るためにそう信じ込んでいるだけなのではないか、と。

しかし、ウェルミィに関してレオが批判的な物言いをすると、それすらもイオーラは悲しむのだ。

最初はまるで分からなかったが、今なら分かる。

「あの二人は仲が良い、というと語弊があるけど……お互いを想いあっているが、ウェルミィがイオーラに嫌われようとしている、という方が正しい」

「ほう、理由は?」

「両親に目をつけられない為だ。あの二人は、自分の両親が、自分たちがどう振る舞えば満足するかを理解している。理解した上で役割を演じているんだ」

「なるほど。それで虐げられる役割を押し付けられた姉を、何としてでも助けようとしているわけだ。健気なことだな」

同じ内容の二通の手紙を指先で撫で、エイデスは笑みを深める。

ーーーよっぽどウェルミィが気に入ったんだな……。

会ったこともなさそうな、接点のない二人だろうに。

そんな風に思っていると、エイデスが再び足を組む。

「それで? お前とイオーラ嬢の馴れ初めを聞いていないが?」

話を逸らすのは無理らしい。

レオは諦めて、エイデスに向かって語り始めた。

イオーラと初めて出会ったのは、学校の中庭に通じる廊下だった。