軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

結婚式【前編】

「花嫁、入場!」

式そのものは、小ぢんまりとしたものだった。

お披露目はあるけれど、式そのものは身内のみで行うことを、皆が望んだからだ。

最初は、テレサロ。

彼女の父は元々、成り上がり男爵だが、武人でもある。

大柄な体格に合わせた礼服は着慣れない様子でも、緊張した様子はなかった。

ーーー度胸あるわねぇ、あの人。

ウェルミィはそう思った。

美しく清楚に着飾ったテレサロに腕を組まれながら、トラフ男爵は落ち着いた様子でバージンロードを進んで行く。

そんな彼とテレサロを、どこか感慨深げに眺めているのは…… ナーヴェラ・リロウド元・公爵。

ウェルミィの祖父であり、テレサロの父がかつて誘拐犯から救った人物である。

テレサロの父が叙勲され、聖女テレサロが誕生するきっかけとなった彼は、おそらく関わりのなかったウェルミィよりも彼女の方が、心情としては孫に近い存在なのだろう。

そのきっかけで様々な苦労があったけれど、結果的にウェルミィは祖父を失わずに済み、それを遠因としてズミアーノが救われたのである。

左右に並んだ席に座る人々の中を、テレサロ達が奏でられる演奏に合わせて中程まで進むと。

神前に横並びの花婿の中から、ソフォイルが足を踏み出して前に立つ。

鎧こそ身につけていないものの、彼は腰に聖剣を佩いて、聖教会式の白い礼服を身につけていた。

ふわりとした、テレサロの可愛らしい容姿に似合う、白地に薄桃色のレースを縫いつけたウェディングドレス姿を眺めて、元々細い目をさらに細めたソフォイルが、手を差し出した。

幼い頃からソフォイルの顔も気質も知っているのだろう男爵は、娘を預ける男に対して、力強い笑みを見せた。

ヴェールの奥で緊張しているだろうテレサロは、差し出されたソフォイルの手を受けて、定められた位置に赴く。

二人目は、ニニーナ様。

学者のような容姿をした彼女の父、カルクフェルト伯爵の方が、男爵であるテレサロの父よりも緊張した様子だった。

ーーー線が細いけれど、お顔を拝見できて良かったわ。

ニニーナ様が、ズミアーノの件で引きこもり研究に没頭し始めたことを咎めもせず、支援し続けた心優しい男性である。

社交界に出なくなったニニーナ様が立場を失わないよう、彼女の研究成果を積極的に公表し続け、また必要な者の元に届くよう尽力していたのは、紛れもなく彼の功績だった。

ウェルミィ自身も、お義姉様を狙ったサバリンの魔導具を解呪する際に、体調を整える薬を服用していたけれど。

それがニニーナ様の開発したものだったと、後からお父様に聞いた。

動機は娘のためであったとしても、多くの人の手に届くようにしたカルクフェルト伯爵を尊敬し、感謝している貴族や平民は多い。

ニニーナ自身は、普段はメガネの奥に隠している美貌を、今日は薄いヴェールに包んでいる。

身を包むのは、彼女自身の気質を表すような、高級な布地を使いながらも飾り気のない、ハイネックのウェディングドレス。

二人もつつがなく進み、その先に立つのはズミアーノ。

外すわけにはいかない禍々しい腕輪が不似合いだけれど、ハーフである彼の身につける帝国式の礼服は小憎らしいほどよく似合っている。

結婚式自体は退屈で面倒臭い、と 口憚(くちはばか) ることなく口にしていたが、ニニーナを見つめる目は他の誰も見たことがなさそうな程に優しげだった。

三人目は、ウェルミィ自身である。

望み通り、お義姉様とお揃いのウェディングドレスを身につけ、お父様の手を取る。

父、クラーテス・リロウドは、いつも通りふんわりと優しい笑みを浮かべていた。

解呪の師であり、ウェルミィの実の父親でもあり。

誰よりも、自分の決意を支えてくれ続けてくれた人。

ーーーありがとう、お父様。

心の中で感謝を伝えながら、そっと手を取って歩き出す。

暖かくて柔らかい、大きな手のひらに支えられながら、赤い絨毯を一歩一歩踏みしめていった。

義父となるイングレイ・オルミラージュ元・侯爵が、最前列で楽しそうにしているのを視界の端に捉えながら、ウェルミィは伏せていた視線を前に向けた。

その先に立っているのは、エイデス。

魔導士として多大な功績を残した人物のみに着用を許される魔導士の礼服を身につけ、家紋を刻んだ杖を手にしている。

ステンドグラスから注ぐ陽光に煌めく銀の髪。

知性を湛えた、青みがかった紫の瞳。

初めて、異性として惹かれた人。

そしてウェルミィの策略をことごとく覆し、死の覚悟から掬い上げてくれた人。

誰よりもお義姉様を大切に想うウェルミィを認めて、共に支えてくれる……今となっては、誰よりも信頼出来る人。

「娘をよろしく、弟君」

眼前に立ち、ウェルミィとエイデスにだけ聞こえる小さな声で……お父様が、エイデスの、黒い手袋をした左手を見ながら、そう口にすると。

エイデスは小さく瞳を揺らしてから、ウェルミィの手を取り、同様に小さく応じた。

「貰い受ける。……兄よ」

そのやり取りを聞いて、ウェルミィは少し泣きそうになる。

大切に思っていた義母と義姉を失い、自身も火傷を負ったエイデス。

彼が、魔導具や魔術によって不幸になる人々を救う為に邁進する傍ら、人と距離を取り始めたのは、その経験があったからだと、ウェルミィも知っている。

そんなエイデスが結婚することを決めたのを、誰よりも喜んでいるのは、きっとお父様なのだ。

ーーー幸せになるわ。

心の中でそう告げ、席にはけていくお父様を見ながら、ウェルミィはエイデスに導かれて、レオの脇に立った。