軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第24話 新しい予告文

――次の演目を知っているかい?

五年前に客席に置き忘れた

パンフレットを開いてみてくれ

予定の公演が済んだら

捨てられた子猫を 舞台に上げよう

案内人は霧の深い夜に現れる

月が隠れたら 思い出すがいい

王都のあちこちで、新聞の号外がばら撒くように配られています。駅前や、公園広場や、市場の入り口で。

人々はその場で足を止めて、紙面に釘付けになっています。

大きく印字されているのは、霧の爆弾魔からの、最新の予告文です。

誰もが、文章の中から意味を見つけようとして早口で話しています。

「次の演目は、爆破予定のことだろう?」

「そんなのは誰でもわかるよ!」

「五年前のパンフレットは?」

「以前の予告文……?」

「それって、アレじゃないか?!」

「いやいや! だからさ……!」

みんな少し……楽しそうです。なぜなら今は昼間だから。爆弾は自分の家には仕掛けられないと知っているから。

走馬灯の知識に『対岸の火事』という言葉がありました。自分に被害の及ばない川の向こう側の火事は、娯楽にさえなり得るという意味です。

暗い顔をしているのは、何かしらの工場で働いている人でしょうか。

わたしは、もらった号外を丁寧に畳んで、ハドソンおじいちゃまの家へと足を向けました。

今のわたしは、詰所とダグラスお父さんの家だけでなく、エバンスお父様の家も立ち入り禁止になってしまったのです。

それはおそらく、エバンスお父様も霧の爆弾魔事件に深く関与しているから。

詰所の皆さんや、シャーリーお母様、マーサおば様に会いたいです。もちろんエバンスお父様とダグラスお父さんにも。

「はあ……。ヘンリー、こんなのいつまで続くんでしょうね……」

ヘンリーに愚痴りながら足早に歩いていると、後ろからわたしを呼ぶ声がしました。

「おおい、エルシャ!」

むむ、この声はビリーくんですね。号外を読んで、またきっとはしゃいでいるのでしょう。

「ビリーくん……。どうしたんですか?」

「おれさ、心配で……。この子猫ってエルシャのことだと思うんだ」

ビリーくんが両手を添えて耳元で囁くように言いました。内緒ばなしの正式な作法です。

「なんで……そう思うんですか?」

「えっ、だって……犯人は、 あ(・) の(・) 人(・) に異常に執着してるし、エルシャは子猫っぽいし……」

キョロキョロと周囲を気にしながら、言葉を濁してそう言います。

実は……わたし自身も、この予告文を読んでそう思いました。グリーンウッド家の事情を犯人が知っているとしたら、わたしを『捨てられた子猫』と表現しても不思議ではありません。

ビリーくんは違う観点から、そう思ったみたいですけど……。わたしって猫っぽいですかね?

「ハドソン先生の家まで、送って行くよ」

真剣な顔をして言いました。あっ、これはもしかして、号外で浮かれているわけじゃなくて、本当に心配してくれてる……?

「ありがとうございます。お願いします」

本当はヘンリーが一緒だから大丈夫だけど、ちょっと色々と話してみたくなりました。

* * *

「さっきの話……ちゃんと聞かせてもらえますか?」

ハドソンおじいちゃまの家の、わたしの部屋で改めて聞いて見ました。

「霧の爆弾魔は、エルシャのお父さん……ダグラスさんのこと気にしてるだろ? 前回の声明文でも“ヒーローは落ちぶれてしまったけれど”って、ダグラスさんのことだろう?」

「お父さんは落ちぶれてませんけどね」

「うん。でも、そういう風にえっと、侮辱する? 言い方するのは、気になって仕方ないってことだと思うんだ。そういうの、執着って言うんだろ?」

ビリーくんの言い方、わたしが辞書で難しい言葉を調べて、使ってみたい時に似てます。少し……親近感が湧きました。

ビリーくん。確かにちょっと軽薄ですけど、ミステリー小説が好きなだけあります。

「わかりました。一緒に考えてもらえますか?」

学校のカバンからノートを出して、霧の爆弾魔から今までに届いた予告文を、最初から全部書き出していきます。

「えっ、ちょっと待ってエルシャ。全部、覚えているの?」

「そうですね。一応……」

予告文の隣には、爆破された施設も書き込みます。

「これは、警ら隊が阻止しました」

中央駅の機関車倉庫です。ビリーくんが大きく頷きました。

「この四つはフェイクって言われていて、爆破はありませんでした」

「この二つは、警ら隊を挑発してるだけみたいだな」

「はい。けっこう犯人は感情的ですね」

バッテンを書きます。爆破なしの意味です。

「これは、最近のだよな?」

「はい。活動再開の、宣言みたいな感じですかね」

予告文が届いた日付、爆破があった日付を書き加えます。

「それで、これが……さっきもらった号外の予告文」

――次の演目を知っているかい?

五年前に客席に置き忘れた

パンフレットを開いてみてくれ

予定の公演が済んだら

捨てられた子猫を 舞台に上げよう

「おれはこの部分が、次の爆破箇所だと思ったんだ。それで、それが終わったら、エルシャを狙うぞって言ってる気がして……」

「わたしも、そう思いました。でも今、重要なのはその部分じゃなくて……」

『五年前』

『客席に置き忘れたパンフレット』

予告文の二行目と三行目を、えんぴつの線で囲みます。

「こっちです」

「次の演目は今回の爆破のターゲットで、パンフレットは……五年前の予告状かな?」

「これが五年前の最後の予告文……。この中で爆破された施設はありません。爆破されたのは……」

「ダグラスさん家と、マーサおばさんの工房」

「この五年前の、爆破しなかった施設を、爆破するぞっていう予告状なんだね?」

「おそらくは……」

まだまだ煙突は王都中にあるぞ!

発酵する罪、癒しの熱、砕け散る芸術、憐憫の成れの果て……!

防げるものならやってみろ!

『発酵する罪』『癒しの熱』『砕け散る芸術』『憐憫の成れの果て』

「このどれか……または全てが、犯人のターゲットだと思います」

「そもそもさ、犯人は本当に煙突がある建物を狙っているかな?」

「五年前に狙われた建物は、ある程度高い煙突なんです。煙突を高くする理由、わかりますか?」

「えっと……煙がたくさん出るから……?」

「たぶん、そうです。でも、わからないのは……」

『なぜ?』

煙がたくさん出る煙突を壊したい人って、どんな人なんでしょう?

「煙…… 煤(すす) ……。なあ、煙突掃除したことあるか?」

「えっ、ないです」

ビリーくんが呆れたような顔をしています。わたしは元ドアマット幼女ですが、貴族の屋敷で、さすがに煙突掃除はしませんでした。

「煙突の汚れって、真っ黒でベタっとしてて、顔も手も真っ黒になるんだ。身体に悪いって話もあるよ」

ああ、それは走馬灯の知識にありますね。煙突掃除人癌(皮膚癌)が多発していたって……。

「だから、犯人は煙突が……煙が嫌い……?!」

思わず椅子から勢いよく立ち上がってしまいました。後ろに倒れた椅子が、大きな音を立てます。

「石炭煤煙による健康被害……!」

つい、走馬灯の知識のままの言葉を、口に出してしまいました。ビリーくんが、目を丸くしています。

でも……。わかった気がします。今まで誰もわからなかった、霧の爆弾魔の『犯行理由』が……!