作品タイトル不明
第193話 ガーデンデート
俺たちは家族皆に見送られながら家を出る。
因みに、渚沙も一緒に連れて行こうかと思ったが、母さんが「孫との触れ合いの時間を奪わないで!」なんて言うものだから、今日はセレスと二人きりだ。
「今日はどこに行こうか」
「私一か所行ってみたいところがあるんです」
「そうか? それじゃあそこに行こうか」
セレスに連れられ、電車に揺られること1時間程。
見慣れない街並みに目をやっていると、セレスが足を止める。
どうやら目的地に着いたみたいだ。
「ここは?」
「フラワーガーデンですよ、最近見つけたんです」
街角にそっと潜んでいるようなその店は、外観からその大きさを掴まさせてはくれない。本当に秘密の園といった様子だ。
「入口はこちらみたいです」
「ああ」
植物でできたアーチを潜り抜けると、そこには見事な造園が広がっていた。
「凄いですね、なんだか秘密基地見たい」
庭は幾つか覚えがある。
向こうの世界で招待された邸宅や城の造園はそれはもう見事だった。
然したる知見があるわけではないが、どう美しいかを掴むだけの感覚はあるつもりだ。
向こうの世界の造園というのは、広大な敷地にミリ単位でそろえられたアシンメトリー。要所要所にベンチや珍しい植物を置き、己の権威と財力を華やかに魅せしめる。
一方こちらのフラワーガーデンは、大きな敷地は持っていない。そしてアシンメトリーでもない。
だが、配置されている花々の顔はしっかりと見え、互いに尊重しあうように魅力を引き出している。
「こちらのフラワーガーデン、カフェスペースもあるそうですよ」
「散策したらそちらも行ってみようか」
俺たちは並んでこの庭園を楽しむ。
場所もそこまで広いわけではないので、自然と距離が近くなり、どちらともなく手を触れ、そして繋いだ。
「このバラ、珍しい色をしてますね」
「確か、青いバラだったか。本来こちらの世界のバラには青の情報は持ち合わせていないが、どうにか遺伝子交配で青を引き出した……だったか?」
「流石カズヤさん、博識ですね」
「そんなことないさ。でも、セレスにすれば珍しくはあっても、見たことはあるだろう?」
「ブルーファイアローズ、確かに王宮にはありましたね」
こちらの世界と向こうの世界は似ていても、違う。
似たようなものはあっても、まったく同じ植物はないのだ。
そのうちの一つが、青いバラ、ブルーファイアローズといえるだろう。
サファイアブルーの花弁を持つそれは、美しさとは裏腹に猛毒を持つ。
まあ、そんなことはどうでもいい。
完璧に青いバラを見たことがあるセレスからすればそう珍しいものではないかという懸念だ。
「そんなことはありませんよ? この世界の人々の努力の結晶だと思うと愛らしく思えます」
そういって花を愛でる彼女の姿非常に絵になるというか、美しかった。
「他にも、色々あるみたいですよ」
セレスに手を引かれ、俺は造園散策を楽しむ。
しばらくして、俺たちはカフェスペースに落ち着いた。
「お花の紅茶、おいしいですね」
「いつもとは違う不思議な味わいだな」
軽食と共に紅茶に舌鼓を打つ。
「こちらの世界のお庭には初めて来ましたが、なかなか面白いですね。あちらの世界の植物の空気も感じつつ、どこか新鮮で」
「俺も自分の意志でこういったところに来たことはなかったから、なんだか新鮮だな」
「なんだかすみません、今日の主役はカズヤさんなのに」
私ばかり楽しんでしまってというセレスの手を撫でながら俺は言う。
「俺はセレスが楽しんでいる様子が見れて楽しかったよ」
「……もう」
お茶を楽しみながら植物たちの吐息に耳を澄ませる。
うん、今日も平和だ。