作品タイトル不明
第12話 ネックレス
午後は日用品を中心に見て回った。
向こうの世界で使っていたものをそのまま使うのも考えたが、お茶碗で当たったり、箸などがないことからこちらで買い揃えることにした。
「お父様、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫」
両手に3つ以上ずつの紙袋を提げている俺を見て心配してくれるアリシア。
やたらコミカルな光景であろう自分の姿を想像して笑ってしまう。
「大丈夫だよ」
そう答えて次の店に向かう。食器類を中心に置いている店だ。
「お父様!これ、可愛くないですか?」
アリシアが指さしたのは醤油などを入れると模様が浮かび上がる醤油皿。彼女の目線の先には猫の柄が浮かび上がるものだ。
「アイデア商品だな、面白い」
「可愛らしいです」
二人して様々な柄をどれがいいか話しながら選んでいる。彼女たちの中では購入することが決定しているらしい。
そんな光景を見て、俺の口角は無意識に上を向く。
「次は……お茶碗か」
「それはどんな食器なのですか?」
「ほら昨日食堂でご飯、ルイスがよそわれていた食器があったろう?あれだよ」
現代でいうヨーロッパ文化が向こうは根強い。なのでどちらかといえばパンが主食だった。
それにあまり苦を感じなかったが、やはり俺は日本人。
米が恋しいと思いながら勇者として活動している時、見つけたのだ。向こうではルイスという名前の穀物は、まさしく米であった。数年ぶりに食べた米に内心感涙の滝を作っていたのは内緒の話だ。
「これなんて如何でしょう?」
セレスが持ってきた茶碗は淡い水色で彩色されたご飯茶碗。素朴ながらも可愛らしさを感じられる品だ。
「可愛らしいし、家族茶碗か……それにしよう」
他にも数点食器を購入し、店を出る。
時計を見ると時刻は17時ごろ。
直近必要そうな日用品は買い揃えられたと思うので、次の店で最後にしようと二人に告げる。
「次はどんなお店なんですか?」
「着いてからのお楽しみだ」
「今日はずっと楽しいですよ!お父様!」
無邪気に笑うアリシアに頬が緩む。
貴族としての重責からある意味解き放たれた彼女の年相応の振る舞いに心のどこかが緩むのを感じた。
「ここだ」
「アクセサリーショップですか?」
「ああ」
中に入ると店のイメージカラーをさりげなく彷彿とさせる内装にショーケースがいくつも並んでおり、明らかな高級感が漂っていた。
向こうのパーティーで何度も経験している感覚だが、未だ慣れる気がしない。
「いらっしゃいませ、何をお探しですか?」
「ネックレスを見たくて」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
希望を伝えると店員さんが案内してくれる。ショーケースを見ると大きな宝石がついたものから小さなハートがあしらわれたものまで色々と揃っていた。
「お相手は……」
「隣にいる妻です」
「まあ、それはそれは。ではどういったシチュエーションでおつけになられますか?」
セレスを見ると答えが目線で返ってくる。
「普段使いできるものをお願いします」
「それでしたら、あまり装飾が華美ではないものがよろしいかと思います。この中からだと――」
そういって店員さんはショーケースの中から二、三点ネックレスを出してくれた。
「どれがいい?」
聞くとセレスは存外早く商品を指差す。
「これが……気に入りました」
セレスが指したのは月をモチーフにしたであろうプチネックレス。装飾物もシンプルでセレス好みだ。
「おつけになってみますか?」
「ええ、お願いします」
「旦那様、こちらのフックでつけることができますよ」
「え、俺ですか?」
「はい、せっかくですから」
「そうですよお父様」
「おと?……失礼しました」
セレスがその白磁のように美しい首を俺へ向ける。店員さんからプチネックレスを受け取り、少し苦戦しつつもなんとかつけて見せる。
「似合っていますか?カズヤさん」
「うん、すごく綺麗だよ」
シンプルな装飾だがそれがセレスの素材の良さを引き立てる。本当に俺に語彙がないことが悔やまれる。
「店員さん、これって男性用ってありますか?」
「え?」
俺が彼女に見惚れているとセレスはそんなことを言い出した。
「もちろんございますよ。少々お待ちください」
「ありがとうございます」
「セレス、俺にはそんなの似合わないよ」
「大丈夫ですって、絶対似合いますよ」
指輪以外の装飾品は点で縁がなかった俺はむず痒さを覚える。
「お待たせしました」
店員さんが男性用のネックレスを持ってきてくれた。
男性用も月がモチーフのチャームは女性用よりもよりシンプルだ。
俺も試着させてもらったが、名札以外を首からかけることがないので不思議な感覚だ。
「うん、やっぱり似合ってます」
「似合っていますよお父様」
「なんだか小恥ずかしいな」
「お揃いですね」
そう言われるとなんとも言えない充足感を心を満たす。
「この二つをいただいても良いですか?」
「カズヤさん、良いんですか?」
「もちろん、そのためにここにきたんだから」
「ありがとうございます」
このままつけていたいと言うセレスの要望に応え、箱だけ受け取り会計に向かう。
アリシアは何かないのかと聞いたが、特段必要ないとのこと。もしかしたら気を使わせてしまったのかもしれない。
「ありがとうございました」
店員さんに見送られて店を出る。ふと時計を見ると18時を過ぎた頃だ。
「そろそろ良い時間だし、帰ろうか」
「お父様、その荷物で電車大丈夫なのですか?」
「大丈夫、帰りは母さんが車で迎えにきてくれることになってるから」
「まあ、あとでお礼をしなければ」
「気にしなくていいよ?」
「ですが……」
「ほら、俺たちは家族なんだからさ」
「……わかりました。今度は皆さんで出かけましょう」
「賛成です!」
そんな会話をして母さんが来るまで待つ。星が瞬き始め月が一つ天に登る。今日も1日平和だった。