作品タイトル不明
第10話 魔法と魔術
「やっぱり 魔(・) 法(・) ってすごいのねぇ」
セレスが空中で本を浮かせてパラパラと動かして見せていると母さんがそんなことを口にした。
「私よりも 魔(・) 術(・) の腕が立つ人はいくらでもいらっしゃいますよ?」
「私たちは使えないもの、十分すごいわ!」
照れ臭そうにしているセレスを見て俺は口角を上げると同時に不思議な感覚を覚えた。
「セレスさん、魔術と魔法ってどう違うの?」
「同じじゃないの?」
唯は引っかかりを覚えたのか聞いてきた。母さんもそれに便乗する。
「少々難しい話になりますが、魔術というのは魔力と呪文を精霊に渡して、理に則って行使することを指します」
現代でいうところのコンピュータのそれに近い、実行内容を記述したものと電力で記述した通りに実行する。
「魔法は、精霊を介せず直接変換して行使する。奇跡に近い技です」
世界の理を度外視するのが魔法、例に挙げるならば重力を反対方向に働かせるなどが挙げられるだろう。
「その中でもセレスは精霊魔術が得意なんだ」
「我々エルフは精霊と密接な関係にありますからね、その分適性が高いんです」
「普通の魔術における精霊は会社の取引先で、精霊魔術は友達みたいな感じだ」
俺たちの言葉に唯は興味半分な返事を返す。まあ、座学的な内容だし仕方がない。
「魔術は人の生活に寄り添うものだけど、本質は武器。お父様たちが魅せる魔術は本当に珍しいのです」
「ええ、魔術で人を楽しませるなんて発想は私たちにはないものでした。これもカズヤさんが教えてくださったんですよ?」
「俺は単純にこういうことができたら楽しいだろうなって思っただけだよ」
そう言って俺は魔力を操作してテーブルに夕飯を配膳する。
「魔術に関しては私たちは感覚的に理解していることが多くて、あまり解説らしいことはできないのです。申し訳ありません」
「良いのよ、私たちも使えるようにならないかしら?さっき和也がやったみたいなことができればお掃除がもっと楽になるわ〜」
「私も!重い荷物とか浮かせて持ってきたい!」
期待する二人に俺たちは申し訳なさを感じる。
「悪いがこっちの人に魔術や魔法を教えるのは神様から禁止されてるんだ」
「私たちが使う分には問題ないとのことなのですが....申し訳ありません」
その答えに二人は少し残念そうな表情を浮かべるも受け入れてくれた。
「ただいまー」
そうこうしていると父さんが帰ってきた。
時計を見ると19時過ぎ。結構話し込んでしまったようだ。
少しして5人で夕食を囲む。
3人で囲むには広すぎたが、5人だと流石に狭く感じる。新しく用意するべきかもしれないと考えつつも、アリシア選りすぐりの食材から作られたご飯に舌鼓を打つのだった。
◇
時計は回り、22時頃。家に帰った俺たちは食後酒を楽しんでいた。
「この世界では未成年だから飲んじゃダメなのかな?」
「今更じゃないですか?」
「それはそうだけど」
そう言ってまたグラスを煽る。酒は異世界でしか飲んでいないので、こちらの世界の酒がどうなのか試してみたい所だ。
「今日はどうだった?」
「楽しかったです。向こうではどうしても立場というものがありましたから、あそこまで距離が近いのはすごく新鮮でした」
「学校に行くのはもっと後でも良かったんだぞ?こっちの世界に慣れてからでも遅くないし」
「この世界についての情報はイーディス様から頂いていますし、何より――」
セレスから近づき唇が重なる。数秒経って名残惜しそうに離れた。
「あなたと1秒でも長く一緒にいたいから」
「セレス……」
今度は俺からセレスに近づき口づけをする。ナイトドレス姿に嫣然とするその姿がなんとも愛おしい。
「明日はどこに連れて行ってくださるんですか?」
「確かほど近いところにショッピングモール、いろんな店が一ヶ所に集まっている場所があるんだ。そこでアリシアと君の服を買おう」
「確かに、こちらの世界の服は制服しか持っていません」
「休日だし、多分人が多い。大丈夫?」
少し思案顔を見せた彼女は聞いてきた。
「具体的にどのくらい人がいるのですか?」
「そうだな……昼過ぎの王都市場ぐらい、かな」
「まあ、それは賑やかですね」
そう言ってセレスは俺の肩に頭を預ける。
「ちょっぴり大変かもですが、守ってくれるのでしょう?」
「もちろん」
「だったら安心です。そして私もあなたを守りますよ」
「行ったことない場所なのに?」
「ええ、私はあなたの半身なのですから」
そんな会話をしながら夜は更けていく。
明日の買い物もきっと楽しいことになるのだろう。そう確信しながら今日も床に着いた。