軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第123話 夢が夢であるために、夢を追い続けよう

バジャヴラを倒したその後も、《王背追随》は終焉の大陸での戦闘を続けていた。

ただ少しだけ状況に変化があり、それは集団にゴブリンが加わって戦闘を行っていることだ。最初のように完全に別の集団が同時にいるだけではなく、完全に一つの集団として、全員で連携をしながら戦闘をこなしている。

「うおぉぉ!! 【自己集中砲火】ッ!!」

「今じゃあぁ! やれい!」

ゼイトが攻撃を受け止め、その隙をつくように飛び出したビスケンに魔物の気が引かれた。ビスケンは待っていたとばかりに合図をだすと、飛び出したのは二人のゴブリンだった。片腕に黒い紋様を入れたゴブリンと、同じように青い紋様を入れたゴブリンだ。

二人はビスケンとゼイトが作った隙を逃すことなく、攻撃を魔物に加えた。強力ないい一撃だ。連携も悪くない。

しかしやはり終焉の大陸の魔物は、強かで一筋縄ではいかない。傷ついた体を脱ぎ捨てるように脱皮し、すぐさま全員の攻撃をなかったかのように再生する。

また攻撃の加え直し……と思っていたが、唐突に現れたシーケットが急所に攻撃を加える。急所は特に防御が厚くて難儀していた部分だが、シーケットはその防御の上から攻撃を加えていた。一瞬それでは無理だと頭によぎるも、攻撃は防御を越えて深々と魔物の体に刺さっていく。どうやら脱皮したことで体が柔らかくなっていたようだ。この頃合いの良さを考えるに、シーケットはずっと機会を窺っていたのだろう。

事切れた魔物が音を立てて倒れる。バジャヴラに引けを取らない魔物が、ゴブリンらと連携をすることでこうも倒すのが早く、楽になるものか。別の魔物を倒しながら、遠目に様子を伺っていたウェイドリックは、そう密かに感心をする。相手にできる魔物の数や強さも上がり、効率も格段に良くなっていた。

「むうっ……また振られたでござるっ!」

「盗られた、だろ。バカ。だが、確かに盗られっぱなしはムカつくな」

「ふっ……なら、精進するんだな……」

「むきーーっ!」

「ちっ」

「わしらが敵を追い込んだからの結果よ。つまりは全員の勝利ッ! これが連携の基本じゃあ。がーはっはっ!!」

聞こえてくる会話も、最初の頃に比べれば随分と打ち解けたものだった。それは他の場所にいる別のメンバーのところでも同じだ。

バジャヴラとの戦いでゴブリンたちに何か心境の変化があったのか。接し方が変わり、会話も心を開いたものになっていた。そのおかげか、緊張感を保ちながらもどこか雰囲気がいい。ウェイドリック自身もゴブリンと幾度か会話を交わしてみたが、凶悪な体つきと人相とは裏腹に、無邪気で活発的な良い意味で子供っぽさがある連中だ。いい年こいた夢追い人なこちらにしても、案外問題なく長いこと付き合っていけそうな相手である。魔物だからとこちらも構えすぎていただろうか。

「よし、こいつを解体して運ぶぞ」

「むっ!? 黒! それよりもっと戦うでござる、もったいない! レベルを上げるピャンスでござるよ!」

「ピャンスってなんだよ……。せめて何かある単語で間違えろよ。チャンスな。そもそも青……お前今俺の担当の時間なのにいつまで外に出てきてるんだよ。さっさと戻ってろよ」

「かーーーっ。ケチくさいでござるなぁ。こんな大漁な時なんて、そうそう無いでござろう! 狩れる時にたくさん狩ったほうがいいでござる!」

「……だったらこいつを運ばねえと、なおさら意味ねえだろ。仕事しろよ」

途中からしれっと戦闘に加わっていた青い紋様のゴブリンと、最初からいた黒い紋様のゴブリンが軽く言い合っている。だが険悪な雰囲気ではなく、戦っている最中にも思っていたが随分仲が良さそうな二人だ。強さも二人とも王背追随のパーティーに加わったところで、遜色することはないだろう。

そんな周囲の様子を一瞥して、近くにいるユキハラに告げた。

「一回春殿の所へ戻る。一旦任せるぞ、ユキハラ」

分かったと頷くのを見て、開いた『ドア』にいる春殿の所へ向かう。

「順調のようですね」

近くにまで来ると、春の方から、ウェイドリックに声をかけてきた。

「あぁ、おかげさまでなんとか、という感じだ」

「もう少し時間はありますが、まだお続けになりますか?」

「できればもう少し──いや」

答えきる前に一度、周囲の状況を目に入れる。

一部のゴブリンたちは倒した魔物を解体して【門】へ運び、それ以外のゴブリンやパーティーメンバーは相変わらず一緒に魔物との戦闘を続けていた。

「ぼちぼち切り上げ時か。さすがに色々とあったからな。大事を取り、今日の引きあげは早めるべきかもしれん。欲を言えばもう少し続けたかったが」

その言葉に、春は少しほっとした様子で言葉を返した。

「えぇ、それがいいでしょう。欠員も出ていますし、戦闘も連続になって長引いています」

「そうだな。シヴィラの様子も見に行かなければ。心配しているだろうからな」

「彼女の容態は私も少し心配しています。本来は私が完治まで治せれば、一番でしたが……」

若干落ち込んだような声で、春が言う。

ウェイドリックとしては命が救われただけでも感謝したりないものだが、それでも春の中ではあまり納得のいく結果ではなかったのだろう。

「そこまで気にしなくてもいいんじゃあねぇの。少し鈍ってたんだろ、シヴィラもよ」

「ちょっと、やめなさいよ! 傷も癒えていない内に、本人がいないところで!」

背後から別の二人の声が、会話に割り込む。『ドア』に近い少しだけズレた位置で休んでいたヒリッヂとエンリだ。継戦力を保つためゴブリンと合流をしてから、交代で休憩を入れるようにしていた。丁度今順番で休んでいたのが、この二人だった。

「本人だってそう言ってたんだから、しょうがないだろ? 結果としてそうなっちまったんだし。言わないとどんどんパーティーで腫れ物扱いになっちまうぞ。まぁ、これでちっとは研究より実践に比重を傾けるようになるだろ」

「あのね、本人が言ってたからってそんな簡単に口にしていいわけないでしょ! 冗談でも自分で言うのと、人に言われるのとじゃ、傷つく度合いが全然──」

『『『『『暴君です!!!』』』』』

突如として声が響き渡る。

ちょうど過熱していく二人の会話に呆れつつ口を挟もうとしたときだった。あちこちから同時に発されて聞こえる声。それは全て均一のおそらくは同一人物による声が、何重にも重なって耳に届いた。

──なんだ、と。

そんな短い疑問を口にする隙すらもなかった。

気づけば、ウェイドリックは地面を転がっていた。

「うっ……」

地面に手をつく。

その感触があまりに柔らかいため、すぐに外でなく『部屋』の内側にいることがわかった。

周囲を見回しながら立って、それからみつけた春にすぐ視線を定めた。なぜかといえばウェイドリックが今こうなっていた原因がまさに春だったからだ。尋常じゃない速さで腕を掴まれ、『部屋』に引っ張り込まれた……ように思う。

おそらく。微かに、一瞬見えた限りでは。

「どうしたのだ、春殿。急に引っ張って。何があったのだ?」

春の方へ歩きながら、尋ねる。

しかし答えが返ってくるより先に別の声が耳に届いた。仲間の声だ。視線を向けると想像通りの人物がいた。

「うぉー……指グネった……なんだってんだよ、いきなり……」

「あの……どうして急に私たちを……?」

エンリとヒリッヂ。

ちょうど休憩で『ドア』の側にいた二人が床に座り込んでいる。同じように引っ張られ、床に転がされたのだろう。ただなぜ自分より『ドア』から離れていたはずの二人が、より内側で転がっているのか。若干不思議に思ったものの、それよりも春のところへと急いだ。

「春、殿」

春の表情を目に入れてあまりにも視線が険しいことに気づき、一瞬声が詰まる。

これまでで一番大きな表情の変化。それに驚いたものの、言葉はそのまま続けた。

「さっきの声は一体なんだったのだ? そもそも、何がどうしたと言うんだ、急に……」

「…………」

「?」

返事が返ってこない……。

よく分からないがウェイドリックは、ひとまず春が視線を向けている方向……開いた『ドア』の外に視線を向けた。

「は?」

外の景色は──『更地』だった。

「なんだ? これは」

あまりにも信じ難い光景に視線が『外』と春を忙しなく往復する。

見渡す限りが、剥き出しとなった黄土色の土。

それがだだっ広く広がっているだけの景色。

記憶と重なるべきものがすべて消え、直前まであった物は何一つとして無くなっている。

大樹が生え揃う豊かな森も、絶え間なく襲いかかって来た魔物も、切り分けられて置かれた素材も、作業をしていたゴブリンも。

そして──戦っていた仲間達も。

「……仲間達は、どうした?」

気づいて、声に出したと同時に『ドア』から外へ足を踏み出していた。正直いえば危険だ。状況が掴めず、何が起きるか分からない。そうすべきではない。

だがパーティーのリーダーとして、ここでじっとしていることもまたありえない。むしろあまりの光景に一瞬リーダーとしての思考が飛んでいたことのほうが、自分に苛立ち罵って恥じたい気分だった。

外に踏み出した瞬間、体の均衡を崩して思わず転びそうになる。

思っていたよりも随分と地面の位置が低かった。中からは気づかなかったが、よくみると『ドア』の土台となる部分を残して周りの土が綺麗に全てなくなっている。そしてスプーンで一帯を削って掬ったかのように、周囲の地面が削られて全体的に低い。

地面に立ち、周りを見渡すと、左右の遠目に見覚えのある植生の『森』が見えた。

どうやら全てが完全な更地になったわけではないようだ。とはいえ、見つけられたのはそれだけ。左右には微かな環境の残滓が確かに残ってはいるが、『前後』には削った地面の光景がどこまでも続いている。ここから見た限りでは少なくとも終わりは見えない。

遅れて『外』に出てきたエンリとヒリッヂと共に、呼びかけて仲間の姿を探す。

「シーケットッ! マルベリークッ! どこにいるッ!?」

「ジィサル! ミーファ! 聞こえてる!? 返事をして!」

「ホムラー! ゼイトー! ビスケンのオヤジー!! いねえのかよー!」

返事がない。

あれだけ喧騒が絶えなかったはずなのに、今は不気味なほど静まりかえっている。それに障害物も無くなっているので、幸いなことに声はよく通っている。近くにいれば聞こえないはずはないだろう。

そうだ。

ユキハラなら、今【模倣魔法】で【通信魔法】が使えるはずだ。

「ユキハラ!! 【通信魔法】を使えッ!! それなら喋られない状態でも届くはずだ!!!」

……シン。

声が反響しながら遠くまで響き渡り、少ししてまた静寂に戻る。

少しの間、返事を待ったがただ静けさをより深めるだけの時間だった。

そんな静寂に耐えきれず、エンリとヒリッヂが声を上げる。

「みんなッ!! 返事をしてッ! お願いよ!」

「誰かいねえのかッ! 誰かよォォッ!」

二人の声が感情的になり、微かに震えている。

……なぜだ?

今は感情的になるときではない。

やるべきことを、まずはやらなければならない。そのはずだ。

「俺がこの先を見てくる。二人は付近に仲間の姿がないかを探してくれ」

二人は今、冷静ではない。これでは普段通りの実力を十分に出せないだろう。

それを踏まえて指示を出し、返事を待たずに武器を取り出して歩き出した。

周囲を観察しながら進む。

今歩いている土の部分と端に見える森との境目では、不自然に地面が隆起して、土が盛り上がっているのが見える。確か魔獣国にも、あんな『魔物の痕跡』があったはずだ。現地の人間から手ほどきを受けたことがある。

……いや何を考えてるんだ。

そんなことは今関係がない。状況が違うはずだろう。そんなわけがないのだから。この道が何か──『巨大な魔物が通ってできた跡』なんてことは。

たった……ほんの一瞬の出来事でしかなかったのだ。

それより先を見にいくと言って歩き出したが、『先』というのは一体どちらだ?

歩き出してから、自分が把握していないことに気づいた。

いやそれだけでない。根本的にすべてをわかっていない。何故こんなことになっているのかも、一体何が起きているのかも。それなのに一人で飛び出してきてしまっている。あまり正しい判断をしている気がしない。

「(俺も冷静でない、のか……?)」

それでも進むしかない。

行かない選択肢など、あるわけがないのだ。他にどうすればいい。

歩いていると、煌々と輝く虹色の光が行手を阻む。

空中にまばらに現れた、いくつもの魔素溜まりだ。

剣を構え、戦闘体勢で魔物の出現に備える。

だが魔素溜まりより先に、地面の中から別の魔物が襲いかかってきた。不意をうたれ、対応がギリギリになる。

「くっ……」

「ギャ!?」

だが襲いかかってきた魔物は、絶好の機会に攻撃もせず、元いた地面へと急いで逃げていく。魔素溜まりから出現した魔物も、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。どちらも近づいてくる凄まじい気配を恐れたようだった。

背後から近づいてくる、その気配の持ち主に振り返って視線を向ける。

「手を貸そう。魔物は吾輩に任せるといい」

「……助かる」

確か……錦と呼ばれていた『使用人』。

彼の言葉に、少し迷ってから頷き、さらに先を目指す。

それから進んでも進んでも、見える景色は変わらない。ずっと同じ景色に距離感もおかしくなりそうだ。

振り返った時に見える『ドア』だけが、唯一の距離の指標となった 。しかしその『ドア』も随分と小さくなってきている。

「どこまで続いているんだ。この道は……」

「…………」

「もしかして……どこまでも、なのか……?」

「…………」

同行する使用人からの返事は、特にない。

少し後ろから黙ってついてきているだけで、気にしなければほとんど一人で歩いているようなものだ。そのため最初から、特に呟きに返事を求めていたわけでもなかった。

「っ! あれは!!」

道の先でようやく見つけたものがあり、走り出す。

それは地面から少しだけ飛び出した服だった。そこについてすぐ、地べたを這って剣と素手で掘り起こす。まるでねじ込まれるように地面の深くまで埋まっているが、一体何があってこうなったのか。

ひとまず埋まっていた物は、掘り返して取り出すことができた。

だというのに持っている服の布は、片手で握りしめると、その手から少しはみ出るほどしかない。明らかに服全体でなく、一部分の切れ端だ。

しかし他のものはそれ以上掘っても何も見つからず、諦めて一度掘るのをやめる。

そしてひとまず手に持っている服の切れ端を広げた。

布は土色に変色し、かなり土が刷り込まれ汚れている。そのため最初はわからなかったが、広げればすぐに誰のものかが分かった。

あまりに一目瞭然だ。

見慣れた人物がすぐに思い浮かんだ。この服を着ていた仲間の顔が。

いや──『家族』の顔が。

「マルベ……リーク……」

途端に、ぐにゃりと持っている切れ端が歪む。

いや……それ以外のすべての世界も、歪んで見えた。

あるいは自分こそが歪んでいるのかもしれない。そう思うほど強烈な動揺に、精神と感覚の均衡が保てなくなる。

込み上げてきそうな、酸っぱい感覚を抑えるために喉に手を当てる。

堪えるように唾を飲み込み、ふらふらとおぼつかない足で立ち上がった。周りを見回して、確かめるようにつぶやく。

「……いない、のか? 誰も……いないのか?」

急激にくっきりと浮かび上がって、真に迫ってきたような気がした。

微かに頭をよぎりながらも、無理やり排除していた可能性が。

それはヒリッヂとエンリがとうに気づきながら、見ないふりをしていたものだ。

更地には、あまりにも何もなかった。

誰もいない上に、呼びかけた返事も返ってこなかった。

ならば浮かび上がる可能性は何か。それが分からないはずがなかった。

「……死んだ……のか?」

ありえない、そんなことは、ありえない、そんなのはあるわけがない。

まだ夢の一歩目の……こんな、こんなところで……終われるはずが……。

ぶつぶつと一人呟きながら、さらに先を進んで歩く。

「あ、あぁぁぁぁ…………!!」

自分があまりにも弱々しく情けない声を出していることなど、全く自覚もせず、新しく目に入った痕跡へ条件反射のように走りだした。

ついた途端に崩れるように膝をつき、縋るように地面に手を当てた。

手の平の先……触れている地面には『血の跡』がついている。あってほしくなかった痕跡。それでも唯一見つけられた、手がかりとなる痕跡だ。

顔をあげて、血の跡が続く方向へ目を向ける。

血の跡は今いるこの土の道のように、果てしなくどこまでも、伸び続けていた。

薄く……引き伸ばしたかのように。

「この先に仲間が……」

血の跡を辿って歩き出そうとすると、使用人が阻むように、道の先で立ちはだかった。

「これ以上、進ませることはできない。後ろを見たまえ。ここはすでに『ドア』が見えるギリギリの場所。先へ行けば『ドア』は見えなくなる。出された条件を、忘れたわけではないであろう」

「……止めないでくれ。この先に、仲間がいるんだ」

「やめておくべきだろう。救われた命を、わざわざ無駄にする必要はあるまい。吾輩も、これ以上は生命の保障をしかねる」

無視して走り出すが、容易く体を掴まれる。

「もう少しだけッ! もう少しだけだッ! お願いだ、頼む!! 行かせてくれ!!」

「駄目だ。それに見たまえ。すでにもう、『環境』が変わり始めている」

言われて、気づく。

両側の森から、木々の間をぬうようにして現れた『水』が大量に注ぎ込まれていることに。

どこにいるどんな魔物によってその水がもたらされているのか。相変わらず理解が及ばない。ただ今いる場所の底部分ではすでに水が溜まりはじめ、さらに微妙にある高低差でうっすらと流れようとしている。

まるで『川』ができていく光景を早送りで見ているかのようだ。瞬く間に水嵩が増していく。

「──『環境魔獣』がやってくる。他所から生き残って現れる『流れ』の個体だ。バジャヴラの比ではない強靭な個体だろう。今引き上げなければ、環境に飲まれる。この環境は、卿には向いていない」

「あぁぁ……! ダメだ、やめろっ! 消える……! 止まれ……! 止まってくれっ……!」

錦の言葉を聞かず、地面に這いつくばる。

水嵩がどんどん増すことで、血の跡に水が被さろうとしていた。なんとかしようと、必死に血のついた土の部分をかき集める。それでも集まった土は半分が泥混じりだった。

そんな手の中にある土に愕然としながら、血の跡があった場所に視線を戻すと、すでに血の跡は水に流されて何も見えなくなってしまっていた……。

残った痕跡はもう、今手に持っている泥混じりの土だけだ。

絶望感に膝から崩れ落ちそうになったとき、胸ぐらを掴まれ無理やり立たされる。そのままの勢いで持ち上げられて、荷物のように肩に担がれた。使用人が一歩歩くたびに振動で体が揺れ、正面に見える『ドア』が少し近づく。強制的に『部屋』へ戻されようとしていた。

抵抗しても尋常じゃ無い力に為す術がない。ただ絶望感に飲まれていく思考で尋ねた。

「……俺の仲間は、死んだのか」

「……おそらくは」

「だが……痕跡が全くないのは、おかしいはずだ。どこかで、まだ……」

「この有様の中、物や人がその形を保っていられるとは……吾輩は到底思えん」

包帯を巻いた不気味なほど凹凸のない球体が、くぐもった低い声で答えた。

「可能性は……全く無いのか……?」

「……絶望的であろう」

そこで思い切り、錦の顔を殴りつける。

まるで金属の塊を殴ったような感触だった。殴られた錦は、びくともしない。

だがそんなの気にしていられないほど、気が立った。

「なぜ黙っていた! こんなことが起こり得ることをッ!」

さらにもう一度、殴りつける。結果は当然、同じだ。むしろ自分の拳の方が傷ついて、錦の巻く包帯に血がつく始末だった。

錦自身は気にもとめず、大暴れする男を担いだまま、足元でちゃぷちゃぷと音を鳴らしながら淡々と進んでいく。

「卿が断ったのだろう」

「断っただと!?」

「そうとも。我が長は、諸君らに伝えようとしていたではないか。『注意しても仕方がないこと』として」

「……ッ」

──このまま日が沈むまで注意点を教えて差し上げたかったのですが……。それこそ『注意しても仕方がないこと』まで……。

「そんなのは……ただの軽い会話の流れだろうッ! これだけ重大なことならば、是が非でも、告げるべき事のはずだッ! こっちは、仲間が巻き込まれて死んでいるかもしれないんだぞ!! そんなことで済ませられるはずがないッ! ちゃんと言われていれば、きっと何か出来たことが──」

──黒……。

微かな声がふと耳に届いて、言葉を止める。そして声の方へ目を向けた。

そこにあるのは、『ドア』と『門』だ。ゴブリンが出入りをするのに使っていた、おそらく彼らの棲家へと繋がる専用の出入り口。

そこの開いた出入り口に、何人ものゴブリンがつめかけている。

声を発したゴブリンは、そんな群衆の一番前にいた。見覚えのあるゴブリンだ。ついさっきまで一緒に戦っていた『青い紋様』の入ったゴブリンが立っている。それに『黒い紋様』のゴブリンも、無事のようだ。『ドア』の幅の関係で姿は見えないが、青い紋様の彼と手を繋いでそこにいる。

次の瞬間、青い紋様のゴブリンは呆然とした様子で握っていた『腕を抱きしめた』。

ひょい、と。あまりにも軽く簡単に動く、その腕に、脳が一瞬起きている事態を把握できない。しかしすぐにおかしな点に気づく。

彼が抱く黒い紋様のついたその腕には──『胴体』がついていなかった。

「あれだけ人のことを注意しておいて……自分がしていたら、意味がないでござるよ……」

青い紋様のゴブリンは腕を抱きながら、落ち込んだようにそう言った。

怒りが霧散する。

強烈なやるせなさに体に力が入らなくなる。

もう十分理解させられた現実に、さらなる追い討ちをかけられた気分だった。

……被害が出たのは、自分たちだけではない。

その場で一緒にいて一緒に戦っていたのだから、考えれば当然のことだ。

──『彼らは我々の『身内』といっていい存在だと思います』。

いたずらに王背追随を追い詰めるためだけに伝えなかったのであれば、こんなにも身内に被害を出す必要はない。

そもそも身内と言うのであれば、少なからずゴブリンはこの出来事について知っていることがあるはず。それなのに甚大な被害をこうして出していることが、自然と答えを浮き彫りにさせた。

「仕方がない──ことなのか?」

「……そうだとも」

「やりようは、なかったのか?」

「ずっと怯え、『ドア』に張り付いているわけにもいくまい」

「もう、どうしようも……ないのか?」

「今は……黙って受け入れる他にないであろう……」

錦からの返答のたびに、体から力が消えていく。

放心状態となり、無抵抗となったウェイドリックは黙ったまま運ばれた。

同じように放心するゴブリン達を横目に、『部屋』の中へと戻される。

『Sランク』冒険者パーティー《王背追随》。

彼らの、初めての終焉の大陸での冒険は、こうして終わりを迎えた。

……ウェイドリックと錦が『部屋』へと戻った後。

未だゴブリンの姿は、開いたままの『ドア』と『門』にあった。

そんな言葉もなく呆然とするゴブリンの群衆が、突如として綺麗な二つに割れていく。

その間をのしのしと歩いてくる、一際大きなゴブリンの影。

「また……大勢が死んじまったなぁ。特にお前とは一番長いこと一緒にいたぜ、なぁ黒。あぁ本当に……随分長いこと一緒にいられたもんだ。全く……今日はまた、一段と寂しくなりやがるな」

ゴブリンの長──『剛』は、隣にいた青鬼から黒鬼の腕を受け取る。

描かれた黒い紋様を少しだけ眺めた後、その腕を剛は外へ投げた。

「それじゃあな。お別れだ……あばよ」

ぽちゃりと水面に落ちた音が鳴り、それは流れていく。

それからその姿が見えなくなるまで、ゴブリンたちは『外』を眺めた。

「今日はもう終いだ。こんな時に続けても碌なことにならねえ。『外』もこんなんだしな。全員引き上げろ」

剛の合図と共に、パタリ、パタリと『ドア』が閉まる。

秋が築き上げた『領域』。

いまや地形も環境も全てが異なり、活動する人影も見えない。

ただ普段とは打って変わる静けさと、微かに清流の音だけが、その場所を覆うのみだった。

八つ当たりによって、蹴り飛ばされた椅子が宙を舞う。

「なんなんだよ!! なんなんだよ、これはよッ!!」

『ラウンジ』で怒鳴り声が響く。

それは《王背追随》のメンバー、ヒリッヂ・ホームスによるものだった。

「お前ら俺らを嵌めやがったな!! 何も知らない奴らをレベルが桁違いの場所に黙って放り込んで、無様に足掻いて死ぬのをお高い所から見学ってか!? 随分な趣味だな、クソがッ! 愉悦に浸る強者ごっこは楽しかったかよ!!」

静まり返り重い雰囲気が支配するこの場において、ヒリッヂの声はよく通った。

少なくとも、そこにいる全員が声に耳を傾けている。それぞれがそれぞれの理由で、反応をしない。あるいはできなかったとしても。

「クソどもが……てめえら全員、俺らを見下して嘲笑いながら俺の仲間達を殺したんだ! そうなんだろッ!!」

だが……。

いつまでも好き放題に、言いたいことを言わせておくほど、気の長くない『使用人』が。

たまたまその時に、そこにいた。

「──おい」

「あぁ!? ……ぐっ」

声をかけられ、振り向いた途端に胸ぐらを掴まれるヒリッヂ。

すぐさま視線は、絡んできた態度の悪い少女へ向けられる。

「そうだよ。全部テメェが言っていた通りだ。弱い奴が死んだ。強い奴が殺した。それだけのことだ。その程度のことでガタガタ喚いて、お前こそなんなんだよ。あ?」

「てめぇは……」

ヒリッヂが即座に使用人の胸ぐらを掴み返す。

使用人の少女は自分の服を触られたと分かった瞬間、目に見えて怒りが増幅した。

押しつぶされる錯覚を抱きかねないほどの膨大な魔力が、乱暴に空気中に放たれる。

「お前ッ! ……今自分が何触ってんのか、分かってるのか? アタシの服のボタン、1個でも取ってみろ。マジで、殺す……」

「っ……上等だぜ。最初からそのつもりだったんだろうが、クソ共ッ!」

自分に怒りを向ける少女との実力差に、一瞬慄きながらもヒリッヂは毅然と言葉を返す。

実際、実力差は酷なほど明白だった。少女の使用人は高まる苛立ちにヒリッヂを持ち上げる一方で、宙に浮いた大の男であるヒリッヂは、どれだけ力をいれようが少女を持ち上げられない。

そんな明白な実力差を理解しながら、例え言葉だけでも引けを取らなかったことが、ある意味『Sランク』として彼らが賞賛される所以なのかもしれない。

しかし結果として、お互いに引けをとらない態度の応酬は、場を満たす殺意をより増幅して濃密にさせるだけだ。

このまま引っ込みがつかなければ、おそらく確実に、行くところまで行くだろう。

周囲がその結末を思い描いた時、渦中の二人とは全く関係ない場所で別の大きな音があがる。

それはラウンジの机が、凄まじい力で粉々に砕かれた音だった。

飛び散った破片が、使用人の少女の視界を掠めた。それをみた少女は自分に文句がある人物の仕業だと断定し、殺すような目つきを音があがった方に向けた。

しかし目に入った意外な人物に、すぐさまその目が大きく開かれる。

「……申し訳ありません。少し……頭を冷やして参ります」

粉々になった机の側にいた春は、誰に向けるわけでもなくそう言って、ラウンジから出ていく。

珍しい光景だった。そもそも普段、感情的になることすら珍しい。そんな人物が感情をむき出しにし、ましてや物に当たるなんて。当然見たのは初めてで、困惑せずにはいられなかった。もはや服を掴まれてることへの殺意も霧散し、去っていく春に向けていた視線はその後、どうしたらいいかわからずひたすら泳いでいた。もはやヒリッヂの胸ぐらを掴んでいることすらも、惰性でしかない。

一方で、掴まれて宙に浮いているヒリッヂは目の前の少女を変わらず睨み続けている。

殺意に怯えて動けなかったパーティーの仲間が、威圧が和らいだのを感じ、すぐさまヒリッヂに声をかけた。

「ちょっともうやめなよ、ヒリッヂ!」

声をかけてきたエンリに、ヒリッヂは一瞬視線を向けるもすぐに元へ戻す。

そして視線を向けないまま、エンリに向けて言葉を投げた。

「……お前はよくそんなにのうのうとしていられるよな。俺たちは、仲間を殺されたんだぞ! こいつらに!」

その言葉に反応した使用人の少女の視線がヒリッヂへと戻る。

状況が元に戻ろうとしていた。だがそんな少女とヒリッヂの間に、すぐさまエンリが割って入った。

エンリは伸びたヒリッヂの腕を掴みながら、少女を睨む仲間の方を向いて言った。

「この子が私たちを咄嗟に引っ張ってくれなかったら、私たちも死んでたのよ!」

ヒリッヂの目が見開く。

微かな疑問はずっとあった。本来は『外』に居た自分たちが、なぜ無事なのかと。

咄嗟に一瞬で『部屋』に引き込まれたのはなんとなく感触でわかる。ただそれを誰がしたのかまでは、わかっていなかった。

同じように引っ張られたエンリは、その答えを目にしていたのだ。

「くっ……」

そしてヒリッヂは表情を隠すように俯き、全身の力を抜くようにして使用人から手を離した。

「…………」

一方、ヒリッヂを掴み続ける使用人の少女は、正直にいえば相手への興味はすでに失せていた。なのでこのまま手を離しても良かったが、逆に興味がないからこそ、さっさと殺して魔物の餌として『外』に放り出しても良かった。

どちらにしようか考えていると、伸ばしている腕を誰かに掴まれる。

「こら── 蛟(みずち) 。お客さんに何をしているんだ」

この場に新たにやってきた使用人……紅は優しく微笑みかけながら言った。

「私が仕事をしてる間は大人しくしてろと言っただろう?」

そんな紅と、態度の悪い使用人の少女──『蛟』との視線が数秒、交差する。

「チッ……ウザ」

紅からそっぽを向いた蛟は、掴んでるものを適当に手離した。

地面に落ちたヒリッヂは座り込みながら、咳をして息を整えている。

「それよりも、何かあったかな? なんだか少し場が──」

「クソッ! クソッッ!! クソォォォッ!!!!」

乱暴に閉じられた『ドア』から大きな音が上がる。

音のあがったエステルの屋敷へ繋がる『ドア』の方へ紅が視線を向けると、出ていったヒリッヂの姿はもうそこにはなかった。

そのまま周囲を見渡すようにしながら、紅は言葉を再開した。

「……荒れているようだね。それに雰囲気もなんだか、あまり良くない」

「別に。ただ《暴君》が目の前を通って、雑魚がたくさん死んだだけだ」

紅の目が見開く。すぐにその目は鋭いものへ変わった。

普段の紅があまりしない目つきに、蛟はなんとなく興味がわき紅へ視線を向ける。

「《暴君》が……」

紅は、唐突に体の向きを変える。その正面には、居場所が無さそうにするエンリがいた。急に意識を向けられたエンリは怯えたように体を一瞬びくつかせる。

そんなエンリを紅は全身で優しく包み込む。

「それは……とても辛かったね」

唐突な抱擁にエンリの目が驚きで見開かれる。

状況を少しずつ受け入れていくと、徐々にその瞳には涙が溜まって潤んだ。

「我慢をしないでいいんだよ……今だけは……」

「うっ……うあぁぁぁあ…………」

紅の胸にうずくまるようにして、感情を吐き出す。

そんなエンリを優しく撫で続ける紅は、落ち着いた頃を見計らって告げた。

「今は……。残念だけど、もう何が出来るわけでもない。ひとまず一度、休んで落ち着いた方がいい。『客室』へ案内するよ。ついておいで」

泣き腫らしたエンリと、放心するウェイドリックを紅が引いて連れていく。

やがて戻ってきた紅は一人だった。案内を無事に終えたのだろう。

残った面子は多くなく、自然と互いに顔を突き合わせて会話が始まる。

「……《暴君》」

最初に口を開いたのは、紅だった。

「奴が来るたびに、不幸がばら撒かれる」

明るく、元気で、はきはきとしている。それが普段の紅だ。

しかし現在の紅はそんな普段からは考えられないほど暗く、重たい。

今日は意外な紅の姿を良く見る。そう思いながら、興味深そうに蛟は紅に視線を向けていた。

答えが返ってきたのはそんな蛟ではなく、残るもう一人の方だった。

「この大陸の頂点に君臨する、正真正銘の災害たる魔物の一体。環境魔獣でないながら、振り撒く暴威は、他の災害と比較しても遜色がない」

錦は感情の読めない渋い声でそう言った。

「やはり対応は難しい……。そう言わざるを得ない。我が君にして『体を保つのがやっと』と言わせる魔物。微かに出来えた対抗策ですら、悪あがきにしか過ぎなかったようだ。それでも四人の命が助かったのは、随分な進歩であり僥倖であるが……。この調子ではとても、喜べまい」

錦の言葉を受けて、紅は歯を食いしばって言った。

「……夏さんも、あいつが」

「…………」

空気が一層重くなる。萎むように二人の会話が途切れた。

そんな中、空気を読まない蛟は気になったことを気になったまま尋ねる。

「あ? 夏? 誰だよ、それ」

「いや……」

「…………」

返事が思うように返って来ない。

少しの沈黙の後、蛟は苛立った様子で舌打ちをした。

「ジジイとババアが。一生辛気臭い昔話でもやってろよ」

「HUSHAaa────ッ!」

「っせーんだよボケがッ! 調子に乗りやがって、ぶっ殺す!!」

開いた『ドア』から聞こえてくる魔物の咆哮に怒鳴り散らかす。

咆哮をあげた魔物は、今『外』を流れている川の元凶。他所からやってきた流れの、『水』の環境魔獣だ。

そんな厄介なはずの魔物の元へ、蛟はずかずかと歩いていき『部屋』を出ていく。かなり乱暴に、バタン!と音を立てて『ドア』を閉めながら。

それからぼんやりと『ドア』の先から、物騒な戦闘音が聞こえ続けた。

少しして一際大きな物音が鳴ると、ぴたりと音が止んで静かになる。

乱暴に叩きすぎたのか、きっちり閉まりきっていなかった『ドア』が、ひとりでにゆっくり開いていく。開き切った『ドア』の先では、物言わぬ屍に成り果てた魔物が横たわっていた。不思議なことにその魔物は、溺死しているように見える。鼻や口、エラなどから水と泡を吹き出して。

その魔物は川を作った元凶で、水に適応し水に特化した、水の災獣のはずだ。

──晴れた空から夕暮れが差し込む。

ぽたぽたとどこからか降ってくる水滴の一つ一つが、日差しを反射し、キラキラと輝くガラスの粒のようだった。

横たわる災獣を踏みつけ、その上に立つ蛟は感情的に叫んだ。

「ムカつくんだよ、どいつもこいつも!!!」

『ドア』の中にいる錦と紅が、外で喚く蛟に視線を向ける。

「雑魚が慰め合うように身を寄せ合って、何が強さだ。あ!? 全然違うだろうがッ!! この結果のどこに強さがあるんだ!! 淘汰されてるじゃねーか!! 何よりも脆弱なことの証明だ、こんなのは!!」

興奮したように一方的に叫び散らかす。止まる様子は全くない。

「今回だって簡単に想像ができたし、結果もわかりきっていた!! ずーっとそうだった! だから今回もそうなはずで、実際そうだった! それだけのことだろ!! それが嫌なら、強くなるんだろッ! 《暴君》のように、力と無機質さを突き詰めるんだ!!」

そこで一度言葉が止まる。だが全てを言い終えて満足した、なんて様子ではなかった。

無差別に当たり散らかすようなこれまでの言葉と違い、明確に『部屋』の二人に向け、瞳に灯る凶暴な光を強めながら蛟は言葉を続けた。

「あたしにとっては全部『通過点』だ。使用人になったのも、部屋にいるのも、住民なんてやつらと一緒に戦ってやってるのも!! こんなのは、全部、全部、全部!! 一時的なんだよッ! 結局なにもかもが、そういうふうにできてるんだ。それなのに仲間……家族? はっ……。いずれあたしは全てを捨てて、また『一人』になる。──秋のようにッ! 純粋な力だけの『現象』になるためにだ! それがッ!! 生きるということで、強いということで、命なんだろーが!! 世界が肯定する、唯一の正しさだッ!!」

それから蛟は、止まらない苛つきを吐き散らかすかのように、周囲の魔物を蹂躙していった。

その様子を『部屋』の中から遠巻きに、紅と錦は見つめている。

「貯まっていたツケが……ついにここまできている、ということなのであろう」

「……錦」

「我らが君──『灰羽秋』に終焉の大陸に染まって欲しくないと願いつつも、我々の未熟さが我が君を終焉の大陸へと駆り立てている。結局その強さに依存しているのが、どうしようもない我々の現状なのだ」

紅は目を伏せながら、錦の言葉に耳を傾けた。

少なからず苦難や痛みを伴うものだ。自分自身の『現実』や『弱さ』に向き合う行為というのは。

「『RP』の収支が赤字であることが、如実にそれを物語っている。冬がいなくなり、『部屋』は終焉の大陸から流入する魔素の濃度上昇を抑制することが必要となった。それは『RP』によって今のところ対応がなされているが、それによる使用ポイントは我が君にとって微々たるものでも、我々にとってはかなりのポイントだ。事実、普段の活動で収支をゼロにすることすら我々は至れていない」

「…………」

「つまるところ『部屋』での生活とは、大部分が我が君の尽力でのみ成り立っており、唯一冬だけが幾分かそれを支えている。それが紛れも無い現実だ」

「……そうだね」

「それは真っ先に克服しなければならない、我ら自身の課題。その解決の糸口のために我が長と話し、新たな交流が何かのヒントになればと吾輩は彼らを招き入れた。その結果がこのような、互いが不幸になる形で終わってしまったのは残念でならない。彼らには本当に気の毒なことをしてしまった」

「でも彼らがいなかったら……おそらく……」

紅の言葉に、錦は頷いて答えた。

「使用人の中から、犠牲者が出ていたであろう。我々は彼らに『代わり』をさせてしまったのだ。今回使用人に犠牲者が出ずにいるのは、強いからではなく、ただの偶然にすぎない。ゴブリンからも多くの犠牲者がでてしまった」

『部屋』の外で暴れ狂う身内に、錦は再び視線を向ける。

そしてため息をつくように、首を軽く横に振りながら言った。

「蛟の言葉に、言い返す言葉もありはしない。我々は、未だ……この大陸であまりにも脆弱だ」

「そうだね、錦。あの子も含めて、ね」

錦と同じように。

紅もまた『外』に視線を向けて、そう答えた。

◇◆◇◇◆◇

仲間たちがいなくなった光景が、思考の中で繰り返し蘇る。

寝ても起きてもそれは変わらない。そんな悪夢のような起床と睡眠に精神が疲れ果てて、最後には少しだけ深い眠りにつけたのが皮肉だった。

フラフラとした状態で寝台から立ち上がり、ウェイドリックは『客室』の出入り口へと向かって歩く。あまり休んだような体調ではなかった。それに時間の感覚もなくなっている。そのため今が何時かはわからないが、窓から入る日差しを見ると日は跨いだみたいだった。この窓が一体どこにつながっているのかは、定かではないが。

部屋から出ると、長い廊下に出る。

ラウンジには四隅からまっすぐに伸びた廊下がそれぞれあり、そこの一つを進んだ途中にあるこの部屋に、先日案内されたことを今更ながら思い出した。

「ウェイドリック……」

「サイセ、か……」

部屋からでてすぐ声をかけられる。

どうやらずっと廊下で待っていたらしい。

どこか普段よりも暗く、小さい声で、サイセは会話を続ける。

「すまない。俺の認識が甘かった……。ここまで隔絶したものがあると思っていなかったんだ……」

「……いいや。お前は十分に忠告をしてくれたさ、サイセ。気に病む必要はない。これは……俺自身の責任なのだからな……」

「違う、俺が……。いや、悪い。今はもうやめておこう」

そう言ってサイセは軽く首を振る。

そして声の調子を上げて、話を再開した。

「一応、食事はそこに用意してある。無理はしなくていいが、喉を通るようなら食べておいてくれよ。やっぱ飯は食べておかないと、だからな。かなり旨いんだよ、ここの飯は。あぁ、それとエンリに会いたいなら正面の部屋にいるからな」

「あぁ……」

「……それと、シヴィラには俺の方から先に言っておいた。出過ぎた真似だったら悪いが、一人後からっていうのも、お互いしんどいだろうからな……」

「そうか……助かる……」

「それじゃあ何かあったら呼んでくれよ。ラウンジなら誰かしらいると思うからな」

「……サイセ」

「……? なんだ?」

「……ありがとう」

「あぁ、いいさ。これくらい。気にすんなよ」

そう言って、サイセはラウンジの方へ去っていった。

その後ろ姿を少し見た後、一度置かれている食事へ視線を向ける。先ほど出たドアの横に配膳台がおかれていて、その上に蓋で閉じられた食事が乗っている。

さすがに食事の気分に、今はなれなかった。サイセには悪いが、喉を通る気がしない。

そのため視線を正面へ移す。そして目の前にあるドアを、軽くノックして言った。

「俺だ、エンリ……。ウェイドリックだ。起きているか。起きていたら……少し、話がしたい。開けてくれないか」

……誰かが生きてくれていてよかった。

こんな時だというのに、心から感謝したくなる。

起きてからずっと得体の知れない、のしかかる感覚に押しつぶされそうになっていた。もし自分以外に誰もいなければきっと、この押しつぶされる感覚に身を任せ、自分から動くのをやめていただろう。

今、唯一リーダーとしての責務だけが、思考と体を動かす原動力となっていた。

──カチャリ、と。ドアが開く。

「……入って」

開いたドアの隙間からそう言ったエンリは、再び部屋の中へ姿を消す。

ウェイドリックも中へと入る。背後でドアが閉まる。部屋の中の作りは変わらないがカーテンが閉められているためこちらの方が暗く、光が最小限しかない。

ベッドの上に腰をかけるエンリ。暗く、憔悴していて、普段の活力が消えていた。それに野営の時ですら最低限欠かすことのなかった化粧や髪の手入れすら、やる気力がなさそうにすべて投げ出している。

きっと自分も似たようなものなのだろうと、近くにある椅子にウェイドリックは腰掛けた。

それから話さない時間が長く続いた。

会話もないシンとした部屋の中、昨日という一日が延々と頭で何度も繰り返される。

何か出来たことや引き返せたかもしれない所を見つけては、歯を食いしばる。もっと言えば髪を掻きむしり、自分を思い切り殴りつけたい衝動にかられた。そこまでいくと、今度はそんな自分を抑えつけることに神経をすり減らす。一体自分が何をしたいのかわからない。なんなんだ。なのにこの行為を自分で止めることができない……。

そこで、エンリと話すために来たことを思い出してはっとする。

せっかく部屋にまできて、まだ一言も会話をしていなかった。

ようやくウェイドリックは、エンリに声をかける。

「エンリ……」

エンリの体が驚きでびくりと揺れる。

そのあとはっとしてエンリの視線がこちらを向いた。

どうやらエンリも同じようなものだったらしい。

「……何?」

疲れ果てた声と目を向けられて、尋ねられる。

そんなエンリの目を長い事見ていられず、目を逸らしながらウェイドリックは答えた。

「すまない。ジィサルも、ミーファも……俺のせいだ……」

「…………」

二人とエンリは特に長い付き合いだった。それこそ王背追随に加わる前にいた、軍隊からの仲だ。

パーティーの勧誘に乗って除隊した隊長のエンリを追って、ついてきた同じ隊の部下二人。ジィサルとミーファ。パーティーに入ってからも三人は訓練をかかさず、ひとたび戦闘になれば二人はまさにエンリの両腕だった。

その二人を亡くしたエンリの喪失感は、計り知れない。

「──舐めないでよ」

「……?」

怯えるように、エンリへ視線を向けていた。

先ほどまで疲れ果てていたはずのエンリの瞳には強い意志が宿り、生気を取り戻しながらウェイドリックを直視している。

「確かにパーティーのリーダーである以上、今回の結果はあなたの責任よ」

「あぁ……。もちろん、そうだ……」

「でもそんなの、他人から見た名目だけの話じゃない。私達はみんな同じ志を持った、本当の仲間だった。心の底からあなた一人に責任を押し付けたいと思う人なんて、誰もいるわけない。そうでしょ。それに私たちは終焉の大陸を目指していたの。みんな口にはせずとも、誰かが犠牲になることだって頭の片隅では想像して、覚悟もしていた。それは私も、ジィサルとミーファだって同じ」

そうまっすぐに言ってのけるエンリにとても強い気丈さを感じる。

ウェイドリックはそんな彼女の振る舞いに、心の底から仲間として尊敬と誇りを抱く。

だからこそ……張り裂けそうな気分だった。

これほどの仲間を辛い目に合わせ、また同時に何人も失ってしまったのだ。

失くしてしまったものの大きさを、これでもかと実感として分からされる。分かっていたはずなのにだ。張り裂けて、えぐれるような胸の感覚に、荒くなる息を抑えられず思わず胸を握りしめた。

「それにミーファとジィサル、だけじゃない」

「……?」

「みんな……みん、な……」

エンリの声が、途中から震えていく。

その時にようやく、逸らさずにエンリの目を受け止めることができた。

「かけがえのない……仲間だったわ……」」

こちらを見つめる瞳には涙がたまり、それが溢れ落ちていく。

つられて、ウェイドリックもまた視界がぼやけた。

「……そうだ。そうだとも……」

俺たちは……ずっと……。

一緒になって、途方もない夢を追い続けてきたんだ……。

「みんないなくなって……。話しあうことも、笑い合うことも、背中を預け合うことも。声をきくことも……もうないなんて。もう皆と会えないなんて……。覚悟をしていても、それでも寂しい……。昨日までずっと、一緒だったみんなが……。うっ……うぅぅあぁぁぁああ……」

「くっ……」

エンリは堰がきれたのか、子供のように泣いていた。

ウェイドリックもついに堪えることができなくなり、片手で顔を握るように目元を覆った。痛みを感じるぐらい、強い力を込めて。

このまま痛みが涙か、自分自身をそのまま消し去ってくれればいい。どれだけそう願っても、そうはならないのが、どうしようもない今という現実だった。

「まだ……信じられないの……。私たちの冒険が……こんな結末なんて……」

エンリは泣き疲れた様子で、それでも溢れる涙を拭いながら、弱く震えた声で言った。

「…………」

「もう全部……終わってしまったなんて……」

その言葉を聞いてウェイドリックは反射的に答えていた。

「──終わらせない」

「…………」

泣き腫らした目が、こちらに向けられる。

「俺たちが、追い求め続けてきた場所を……悲劇の場所としてなんて、終わらせるわけにはいかない。絶対に」

──そうか。

今俺が《王背追随》のリーダーとしてすべきことは、それなのか……。

最初は自分ですら驚いた反射的な自分の言葉が、すんなりと心に溶け込んで、言葉と気持ちが一体となる。

「俺は……挑み続ける。これからも。生き残ったからには、当然そうすべきなんだ。間違いなんかではなかったはずなんだ。俺たちの追ってきた夢も、一緒にいた日々も、歩んできた道も決して間違いなんかではない。だから冒険者として……いや、もはや冒険者としてでなくてもいい。ただあのあまりに過酷で凄惨さを極める『終焉の大陸』を……夢が終わった場所でなく、俺たちが追い求めた夢の場所としてあり続けさせるために。そのためになら俺は何でもする」

不思議だった。

それはエンリに告げているようで、自分の行く道を照らしているかのようでもあった。

「俺は──諦めない」

最後にはまっすぐにエンリへ向けて、そう告げていた。

「いいじゃない……それでこそ、私たちのリーダーよ」

エンリは涙を拭い、ほんの少しだけ口角を上げて、そう答えた。

それからゆっくりと……海の底から水面まで上がるように、とりとめのない昔話をした。

長く泣き、少し笑い、疲れてまた長い沈黙があった後、エンリが口を開く。告げられたのは、これからの話だった。この頃にはお互いに活力が戻ってきていて、普段接している様子に大分近くなっていた。

「……私はヒリッヂを追いかける。バカだけど、心配で放っておけない。それに仲間の家族にも結末をちゃんと告げてあげないと……。目的が目的だから覚悟はさせてたけど、ずっと知らせないなんて残酷なこともできないわ」

「俺は……」

「リーダーに指示を出すようで悪いけど、あなたはここに居続けるべきね。これからも終焉の大陸に挑むのであれば、最低限接点は保ち続けなければならない。私のすることが、本来はリーダーのすべきことなのはそう。でもこの場所に有能な個人としてでなく、なんらかの集団として受け入れてもらうには、その先に集団の匂いがある『リーダー』にしかそれは務まらないわ。だからここは、手分けでいきましょう」

「……すまない。助かる。頼んでいいか」

それは頭に浮かんでいた案だったが、ウェイドリックからは言い出しづらい提案だった。

言わせてしまったことに感謝と謝罪を伝えると、エンリはなんてことないように頷いた。

「もちろんよ。私だって、戻ってくるときに居場所がないなんて事になってたら困るから。そのかわりしっかり居場所を確保しておいて頂戴。頼むわね、リーダー」

「あぁ、そっちも必要になればすぐに声をかけて欲しい。辛くて、挫けそうな時期だが……。どうにか一緒にパーティーを立て直そう。頼む、サブリーダー」

その言葉にエンリは目を見開き、複雑そうに目を泳がせた。

しかし最終的には強くこちらへ頷き、頼もしく「任せて頂戴」と言った。

──『治療室』。

ベッドの上で上半身を起こしたシヴィラに、エンリが抱きついていた。

この場所に訪れたのは、時間で言えば随分前のことだ。

サイセの用意してくれた食事を軽くいただき、話せそうならシヴィラも会話に加えたいということで様子を見に訪れたのだ。

場所がわからずにラウンジをうろつくワーウルフに場所を尋ねるなんて奇妙な体験を挟みつつ、無事に辿り着いてからは三人でいろんな話を長い事した。エンリとしたような辛い話や真剣な話。そして昔話やとりとめのない話なんかを。全員で泣いたり笑ったり落ち込んだりしながら……。

そして話が一段落した現在。

エンリはこれから一度テールウォッチの宿に戻り、そして街を発つ。そのためシヴィラと別れの挨拶をしているところだった。慌ただしいが一人飛び出したヒリッヂが心配な以上、のんびりもしていられない。

「……また必ず戻ってくるわ。その時まで必ず生きて、元気に再会しましょう。ね、シヴィラさん」

「うん。エンリも道中気をつけて。あなたにだけ任せてごめんなさいね。ヒリッヂのこと、頼むわね」

別れを惜しむように、ゆっくりと二人は体を離す。

さらにお互いの手を最後に握り合ったあと、エンリはシヴィラに背を向けた。

『治療室』から出ていく間際、エンリの視線が一瞬ウェイドリックに向けられる。その視線に頷いて応え、出ていくエンリを見送った。言葉はなかったが、別れはすでに済ませているのでこれでよかった。

残されたウェイドリックは、シヴィラに視線を戻す。

散々泣き腫らしたシヴィラの目も、ウェイドリックに向いていた。

シヴィラの容態は想像できないほど回復し、火傷も治っている。

改めて驚異的な回復だと、シヴィラを見て思う。

一応大事をとって治療室にいるが、すでに平常時と同じく動ける感じはするらしい。

しかし唯一気になるのが、焼けて再生した部分の皮膚の色が、少し違う色に変わってしまっていることだ。特に火傷のひどかった顔でそれが顕著に表れているため、治せたはいいもののくっきりと火傷の跡が分かるようになってしまっていた。これでは鏡を見るたびに火傷のことを思い出してしまいそうだ。それに単純に女として辛い状態だろう。

だがシヴィラは現状を受け入れて、気丈に振る舞っている。

それにエンリが居た際に散々とこの話をしたため、今更改めて指摘は野暮だろうと触れることはなかった。

「でも……よかったわ。これでおしまいだなんていわれてたら、どうしていいかわからなかったから……。もしかしたら、あなたのことを殴っていたかもしれないわね。ウェイドリック」

「正直……気分的にはそちらの方が良かったがな……」

ベッドのそばにある椅子に座りながら、自嘲的に笑って答えた。

「……ねぇ、覚えてる? 昔あなたたちパーソン兄妹と私たち兄妹が険悪でライバルだったときのこと」

「忘れるわけがないな」

今度は自然な笑みを、少しだけ浮かべる。

シヴィラがどこか満足そうにくすりと笑った。

「尤もライバルだったのも険悪だったのも、妹同士だけのことだったが……。俺は一つ上のシーケットとはすぐに打ち解けて、仲もずっと良かった」

冒険者学校時代のことだ。

有望な二組の兄妹が同時期にいるものだから、いつも周りに比較され、囃し立てられていた。

「そういえばそうだったわね……。いつの間にか、兄同士で仲良くなっていたわ。マルちゃんと私は、最初の頃はずっと険悪でいがみ合ってたのに。まぁ今となっては仕方がないと思うわ。同い年で、同じ魔法重視の戦い方。意識しあっちゃうじゃない、どうしても。掴み合いの喧嘩も一回、したことがあったわ」

「……あれは子供過ぎて見ていられなかったな」

「ふふふ」

この二人になると、昔話も相当昔のものになる。

エンリですら混ざれないような、子供の頃の話。それをあてもなく、ふらふらと散歩でもするかのように、思いつくまま話を紡ぐ。

だが自然と吸い寄せられるかのように話題はシーケットやマルベリークの話になった。二人は仲間であると同時に、どうしようもなく家族だ。なのに二人の死を悲しみすぎると、どこか他の仲間たちを軽んじてしまっているような気がして、憚る気持ちが生まれる。そんなことを責めるような狭量な仲間たちでないとわかっているのに、どうしても。

きっとシヴィラもそう思っていて、長い付き合いだ、お互いに同じ考えであることがわかっていたのだろう。そして自然とお互いが家族を思い合うように昔話をした。この会話が、二人に向けた家族としての追悼になればいい。そう願いをこめて。

話の最中に、シヴィラから涙が溢れ落ちる。

それを拭うシヴィラは「火傷した方はまだ涙が出てくるのが少しだけ遅いの」と寂しげに笑った。

「本当に昔は……若くて、子供だったわ。当たり前なんでしょうけど……。でも今じゃ考えられないもの。マルちゃんと魔法で張り合うなんて。あの子は本当に魔法の天才だった……根本的な魔法の親和性が違う。使える属性は私が多くても、小さな魔力で発現する現象量、一つの魔法でできる自由度が桁違いだった。それに精霊ともぽんぽん契約してるのを横で見ていたら……競る気も失せて負けを認めていたわ。そして実践より研究に軸を移していくにつれ……次第にマルちゃんとも打ち解けていった……」

少し自嘲的にシヴィラは言っているが、研究と称して作成した魔道具による収入は《王背追随》全体のおよそ三割を担っている。

その上で、どんな危険地帯への遠征も欠かさずについてきて、パーティーの一員として戦闘をこなすのだから……。確実にパーティーにおける稼ぎ頭はシヴィラだ。つまりシヴィラもまた十分大概なのだが、それを仲間といくら伝えても、本人が受け入れる様子は未だにない。

「……これを見て。ウェイドリック」

シヴィラは卓上に、一つの瓶をコトリと置いた。

「これは?」

「『大森林の葉』という、特別な素材で作った回復薬だそうよ。私に処方されたのもこれと同じものだったの。とてつもない効果な事は、言わなくてもわかるわよね?」

頷く。今のシヴィラの状態が、そのまま薬の効果と考えれば、驚異的なのは火を見るよりも明らかだ。

しかし全く聞いたことのない素材だな……。

「大森林の葉……大森林……終焉の大陸にそういう場所があるのか? だとしたら随分安直、というより他と区別がつかなさそうな名称だが……」

シヴィラは首を振る。

「私も詳しいことは分からないの。でも間違いないのはきっとこれは、世界でまだ誰も知らない未知の素材であるということよ」

「それはそうだろう。あのバジャヴラですら、見たことがない生態に全身未知の素材だ。おそらく想像以上にこの大陸では、そんな素材がゴロゴロと転がっているようだな。かつて『千金大陸』と呼ばれたのも、あながち間違いでないのかもしれん」

「その言い回し、マードリック・パーソンの本にも似たこと書いてあったわよ」

「…………」

くすくすと、シヴィラが笑う。

「でもね。こんなふうに素材を変化させたり、加工して、別の何かにして使うってこと。ここの人たちはあまりやってないみたいなの。ここを築いた人物だけが唯一いろいろとやっていて、この薬もその人が作ったものらしいのだけど。なんかね、あんまりそんな文化や考え方がない感じみたいなのよね。だからどう使っていいかもわからない素材が、倉庫にたくさん転がってるって」

「……それは」

聞く人が聞けば、埋蔵金のように思える話だ。手にいれる苦労を身をもって知った今、そんな降ってわいたもののように扱うことはとてもできそうにないが。間違いなく、それは文字通り血反吐を吐いて手に入れた、戦利品だ。

「それを聞いて、思ったのよ。きっとここの人たちは、終焉の大陸の厳しさばかりを身に受けていながら、恩恵の部分は全然受けられていないんじゃないかって。もしかしたらとてつもない範囲で、まだまだやれることが残っているんじゃないかしら」

確かに、と頷く。

シヴィラの聞いた話が本当であれば、十分にありえそうな話だ。

「私たちは今回、とても大きなものを失った。他に代わりになるものなんて、ないほど大きなものよ。でも失ったことばかり考えて、これからずっと嘆くことしかできないなんて……そんなの嫌。ムカつくし、あんまりじゃない、そんなの……。今回のことは確かに振り返っても辛いことばかりで、思い出すだけで挫けて折れそうになるけれど、探せばきっと次に繋がることや得るものが何かあるはずよ。今は無理やりでも、それを考えて数えて集めたい。だからウェイドリック……前を向いて進もうとするあなたの考えを、私は支持するわ。私だってまだ、何も諦めたくない……」

その言葉を正面から受け止め、言葉を返す。

「……そうだな。このまま終わりなんてことには、必ずさせない。まだ何ができるかはわからないが……これから見つけていこう」

シヴィラは大きく頷いた。

そして少し沈黙があった後、どこか遠慮がちに尋ねられた。

「ねぇ……皆の遺品は……本当に何もないのかしら……」

「……すまない。微かに残っていたかもしれないものも……すぐに水に流されてしまい……これぐらいしか持って帰れなかった……」

ポケットから、ぐずぐずの血のついた土と、汚れ切った服の切れ端を取り出す。

それはウェイドリックが錦に連れ戻された時から、ずっと手に握り続けていたものだった。

それを見た途端に、シヴィラの表情は悲痛に歪んだ。その気持ちは痛いほどわかった。

ベッドに腰掛けたまま伸ばされるシヴィラの両手は、遺品を持っているウェイドリックの両手をさらに覆うような形で添えられる。

何かに堪えるように下を向くシヴィラは、表情が見えないまま震えた声で言った。

「……これで皆のお墓を作りましょう。きちんと……みんなとお別れができるように」

「あぁ……そうだな……」

すまない……みんな……。

懲りずに割り切って……前を向いて進み続ける俺をどうか許してくれ。

そして遠くからでも……見ていてほしい……どうか……。

◇◆◇◇◆◇

──違う、俺が……。

「くそっ……何やってんだ……俺は……」

直前にした、ウェイドリックとの会話を思い出し、拳を額に強く当てる。

衝撃的な日から一晩経っても、未だに全く落ち着かない。当事者でないってのに、意味もなく無駄にそわそわと体を動かしちまう。

俺は……こんなことになっちまうなんて思わなかったんだ……。

俺が……。

俺がもっと……。

「ここにいたか」

「アンタは……」

渋い声に呼び止められて振り向くと、錦がいた。

「サイセ。『彼女』が、君を呼んでいる。行くといい。それはきっと君のためにもなるだろう」

「……誰が呼んでるって? 彼女? 行くってどこへだ?」

「はぁー……なんなんだ……」

階段を登る。

この階段の段数を、もう何度暇つぶしに数えたかも分からない。

上りきると、まっすぐの通路がある。

その通路の先は、分かれ道になっていて、片方の道は行き止まりだ。見渡しのいい右の通路を選んで進むと、同じような分かれ道にまたつく。それを四回続けると再び階段が見えてくるのでまた階段を登る。

登った先は、また同じ通路……。

ぐるぐると……ずーっと同じ場所を同じように進む。

……いや、こんなの気がどうにかなっちまうだろ。

本当にいつまで続くんだ? 終わりがまだまだ見えない。

通路も、階段も、内側にある柵も、床に敷き詰められた絨毯も、壁に置かれた『ドア』も。景色にも変化がない。だから無限に続くんじゃないか? なんて不安にかられる。

一度柵から軽く体を乗り出して、登った階数を確かめる。

「……遠いな」

俺が錦に声をかけられた『ラウンジ』の一階は、豆粒のように小さく、遥か遠くに見えた。もののついでに上も確かめると、まだまだ天井は遠い。思わず息を吐き出し、再びラウンジを進む作業へ戻る。

そう……『ラウンジ』だ。俺が今登ってる場所は。

広場のような一階にも割と驚きがあるが、縦への大きさはその比じゃないな。チークテック商会の高い建物にだってまったく負けちゃいないだろう。旦那があれを見て少し驚いた様子だったのが意外なくらいだ。

なんでこんなに高いのかといえば、あれだ。ここには『終焉の大陸』の各所に繋がる『ドア』を置いてる。ラウンジの外周にそった一周分の通路に、一定の間隔でな。そしてさらに多く『ドア』を置ける場所を確保するため、こうして縦に伸びたみたいだ。

記憶にはないが俺が転がり込んできたのも、この『ドア』の中のどれからしい。どれなのかは聞いちゃいないのでわかりはしないが、気になっても自力で探し当てるのは無理だろうな……。

なんせ四十階以上登ったってのに、まだ途切れることなく『ドア』が置かれ続けている。一体この『ドア』もどれだけ置かれてるんだ? 半端じゃない数だぞ。千や二千じゃきかないだろうな。

この『ドア』も十年近い年月をかけて旦那が置き続けたそうだが、想像しただけでも途方も無い労力と代償がかかっている。さらに加えて、これらをやってのけたのが『終焉の大陸』ってのがな……。ヤバさに拍車をかけていると思う。

「なんか登山してる気分になってきたな……」

このラウンジを毎日、上から下まで往復するだけで相当な鍛錬になりそうだ。

だがそうなるとふかふかな絨毯とどこからか聞こえる音楽が、心地が良すぎて鍛錬する意思が削がれるな。やっぱり鍛錬には向いていないかもな。素直に『トレーニングルーム』にでもいったほうがよさそうだ。

「……あぁ、もう。あっちいってくれ」

立ち止まり、頭を振る。

少しでも気を抜くと、昨日の出来事を考えてしまいそうになる。

変わらない景色に単調な歩くという作業が嫌でも思い浮かばせやがる。

だが俺が考えたり、くよくよしたってしょうがないだろ。

どうかんがえても今は、俺が考える番ではない。ウェイドリックたちが一番辛いんだ。それなのに俺の方が落ち込んで、辛い奴らに気を遣わせてどうする。そんなのは最悪だろ。

だから今はもっとくだらないことを考えとけばいい。

さっきウェイドリックに、そんな最悪なことをしかけたことも。全部。考えることはすべて後にすべきだ。

「もういっそ走るか……。鍛錬に使えるのか、本気で確かめてやるぜ」

そして俺は走り出した。

「ぜー……はー……」

まさかこんな階数を……まだ登らされるなんて……。

走り始めた時にいた階数と、同じくらいの階数を俺は登った。途中からこんな長いのかよと、やめそうになったがもはや意地だ。俺は最後まで走り切ってやった。

どこか達成感を感じながら、息を整える。

途中から壁に設置された『ドア』がついに途切れて、本当に飾り気のない通路になったときは景色的に見ていて辛かった。だが逆に、天井とシャンデリアが見えてきたときにはとても感動した。

……これ本当に登山じゃないよな?

「ふぃー……なんだ?」

息が整ってきて、最上階から真横に見えるシャンデリアへ視線を向けると、そのうちの一つに変な鳥の巣みたいなのが作られているのがあった。

「まぁいいか……」

それより、本当にこんなところで待ってる人なんているのか……?

最上階の階段を登ったばかりの場所から通路を進む。

そして正真正銘、最上階の一番奥にまでついた。

別の階ならそこに階段がある。だがここは最上階なので当然ない。本来そこはただの行き止まりだ。

そのはず……なんだが……。

行き止まりだと思っていた場所の壁に、一つだけポツリと『ドア』が設置されていた。

どこに繋がってんだ……これ……。

明らかに毛色の違う雰囲気の『ドア』に少しだけ躊躇う。

だがここまで来て行かないわけなんていかないし、戻るなんてもってのほかだ。

意を決して、ドアノブを掴んでドアを開く。

「ここは……」

周りも見回しながら、部屋へ入り、中を進む。

「なんの部屋なんだ……? ここ」

思っているような部屋ではなかった。

暖かい雰囲気のラウンジとは対照的な、寒色を基調とした清閑な廊下だ。どこか浮世離れしているようにも見える。

しかし道が奥まで続いているからひとまず廊下といったが、そうではないかもしれない。

というのも片側の壁に印象的な『絵』が飾られているからだ。反対側にも一応美術品らしきものが置かれているが、目が引かれず、どこか既製品のようにも見える。だから絵の方にばかり、視線が吸い寄せられるのだが、どうも構造としてそうさせられている気がするんだよな。

なんでここは廊下というより、絵を飾ってみるための部屋といった方が正しいのかもしれない。

実際、飾られてる絵はすべてが個性的で、どれも目がひかれる。

「──『追憶の回廊』」

そんなことを思いながら見ていると、横から声をかけられる。

振り向くと、そこには確かに『彼女』がいた。

錦が言っていた俺を呼んだ人物だ。

「俺を呼んだってのは『鞠』の嬢ちゃんだったのか」

「うん」

とてとてと子供っぽく走って、側に寄ってくる。

「鞠たちはここを、そう呼んでる。

……本当は【廊下】と【美術室】が合わさったものだけど」

「そうなんだな」

……なんだか鞠の嬢ちゃんの様子、いつもと若干違うような……。

少しきっちりしているというか……。普段はもっと眠そうにしてたり、だるそうにしながら、うにゅうにゅ言っている感じなんだが。今はあまりそんな感じではない。

「少し、見て歩く?」

「……いいか? ちょっと気になってたんだよな」

なんとなく絵に視線が向いてたのがバレていたようで、鞠の嬢ちゃんの気の利く提案をきっかけに俺たちは『追憶の回廊』の先へ向けて歩き出した。

正直なことをいえば、俺は美術や芸術なんていうのはからきしだ。懐中時計や機械みたいな細々として複雑に入り組んだものは好きなんだけどな。興味を持ったことすらこれまでなかった。

そんな俺でも見ているだけで、何かが思い起こされそう気がしてくるから、不思議な絵だ。

小さな生まれたばかりの、双葉の絵。

黄色い大きな、太陽に向かって咲く花の絵。

冬の雪の中で咲く花の絵。

砂漠で影を作る大きな植物の絵。

溶岩の中で咲く燃えた木の絵。

雨宿りをするように寄り添いあう二つの小さな花の絵。

何枚もある絵を順番に見て歩いていた。

中でも一際目を引く絵があり、思わず立ち止まる。

それは横に長い『草原』の絵だった。

くっきりとした青い空の下で、ふかふかの絨毯のように一面敷き詰められて生える、柔らかい雑草。それが風に靡いている絵だ。

見ているだけで爽やかな風と、安らぐ自然の香りを錯覚しそうになる。

《大森林》を遠目で見た、あの丘のことを少しだけ思い出した。

「この絵はなんなんだ? あ……あそことあそこに花がついてるのがあるな」

尋ねている最中に、雑草の中に黄色と白色の花をつけた草を見つけた。

紛れて見つけにくいのを見つけて、なんだか得した気分だ。

「……この絵は──死んでしまった者を想うための絵」

「…………」

浮かれた気分が掻き消え、言葉を失う。

そしてひとたび意味を聞いてしまえば、もうその絵にしか見えなくなってしまった。

これは、『ゴブリン』の絵だ……。

すぐにわかった。丁寧に描き分けられたこの草の一本一本が、別れていったゴブリンたちだということが。ゴブリンをまんま描いているわけではないのに。なぜか直接見るよりもずっとはっきりとした姿が、心の中に描かれ、思い起こされてしまう。

「終焉の大陸は、何かが残ってる事の方が、珍しいから」

そう鞠の嬢ちゃんは、付け加えた。

「サイセ。今回のことは、残念だった」

「……あぁ」

「どうにもならないことは、ある。どうしようもできないこと。『不幸』なことが……今回もそうだった」

──『不幸』。

「いや……違うんだ……」

「?」

鞠の嬢ちゃんは、可愛らしく小首をかしげる。

そんな子供のような鞠の嬢ちゃんに、気づけば俺は内心を吐露していた。

「俺が……俺がいけなかったんだ」

……どこか強い奴らに、投げやりだったんだ。

強いからなんとかなるだろって……俺の力なんか本当は必要ないって……。

俺が勝手に引け目を感じて、適当に考えを放り出していた。だからこんなバカみたいな間違いをしちまったんだ。王背追随のやつらに……。

──そして『使用人』たちにも……。

仲間なんて言ってたのは名目だけ。

どこか雲の上の強さを持つ仲間たちを受け入れてないのは、他ならぬ俺の方だった。

だから知らなかった。こんな追い詰められた、切羽詰まった状況だったなんて。思ってもいなかった。

でもそれは信じられない力を持つ仲間を見て、俺が勝手に決めつけて、知ろうともしなかったからなんだ。

「もっと俺が投げ出さずに歩み寄っていれば……知ってさえだけでもいれば何かが違ったんだ……。弱いなりに……何かができてもおかしくなかった……。その小さなことでも結果を変えられたかもしれないってのに……。こんな簡単なことを、俺から放りだしたんだ……」

「サイセ……」

肩に手を置かれる。本来なら鞠の嬢ちゃんは、身長差で届かないはずだ。

そこで初めてみっともなく自分が地べたにうずくまっていることに気づいた。顔をあげると、鞠の嬢ちゃんの顔がすぐそこにあって、いたわるような優しい瞳でこちらをみている。

「焦っちゃダメ。時間がいる。サイセが私たちの仲間になったことには、必ず意味がある。いつか良かったと思う日がくる……本当に『人』として私たちがこの大陸を生き残っていこうとするなら。だから自分の弱さに負けちゃダメ。諦めちゃダメ。でもやっぱり……焦ってもダメ。日暮は焦った。ずーっと焦ってた。そんな子だった。だからダメだった。サイセならもっとうまく私たちと頑張れる」

その時俺はようやく、励ますためにここに呼んでくれたのだと気づいた。

俺が距離を作ってへましてる間に、この人たちは俺のことを考えて歩み寄ってくれようとしていたんだ……。

「立って」

立ち上がる。

その間に、鞠の嬢ちゃんは何かを持ってきていた。

それは元々、部屋の壁に立て掛けて置いてあったようだ。

「今のサイセには、これが必要」

「……これは」

渡されたのは、絵だった。

個性的で形も色も違う、花々。

それぞれがとても主張が強い花なのに。仲良く一つの花壇の中で、同じ方向を向いて咲いている。

それを見て心に思い浮かぶのは誰なのか。そんなのは分かりきっていた。

「あの人たちの──」

《王背追随》の、絵。

見ているだけで鼻の奥に刺すような刺激を感じて、視界が歪む。

目を拭って鞠の嬢ちゃんへ視線を向けると「あなたが飾って」と壁に視線を向けて言われた。

「……本当は、秋様によって勝手に絵が作られる。だけど今回は、秋様は彼らと出会ってないから、たぶん作られない。だから今回は特別に、春様が作ってくれた」

「そうか……。それなら春の姉御には感謝しないとな」

そうして俺は受け取った絵を、草原の絵の横にある空いた場所に飾った。

少しの間飾られていた絵を眺めた。鞠の嬢ちゃんも黙って長いこと付き合ってくれた。

そして満足するまで眺めた俺は最後に言葉を投げかけた。

「……やっぱりあんたらは、俺の憧れだ。

これからは俺も……あんたらみたいになれるよう、頑張るから見ていてくれよな」

どこかで聞いてくれればいいな……なんてことを思いながら。

そして用事を終えたため、俺たちはラウンジへと戻るために歩き出した。

その……直後のことだった。

「あ……」

鞠の嬢ちゃんが、声を出して足を止める。

横に視線を向けながら、何かに気づいた様子だった。

俺は鞠の嬢ちゃんと同じ方向へ視線を向ける。そこにあるのは、あの『草原の絵』だ。

ん……あれ?

さっきまで花がついた草は、黄色と白色の二つだけじゃなかったか……?

その草原の絵に──『黒い花』をつけた草が増えていた。

俺は疑問を尋ねるため、鞠の嬢ちゃんへ視線を戻す。

だが尋ねられなかった。

あまりにも絵を見つめる鞠の嬢ちゃんの表情が、悲しげに見えて。

それからその表情を……俺はなんとなく忘れることはなかった。

そして漠然ともっと使用人の……仲間たちの力になりたいと思うようになり、一層この役割に精を出し、のめり込むように身を投じていくことになる。

……一方その頃。

ラウンジ、一階。

『図書室』に繋がるドアが、ゆっくりと控えめに開いていく。

音を抑えて開いたドアの隙間から、首が飛び出し、周囲を伺うようにきょろきょろと見回した。

やがて問題ないと判断されたのか、二人の少女がドアから姿を現した。

「今なら誰もいないよ。大丈夫……ほら千夏ちゃん、いこっ」

「う、うん……」

テルルと千夏は、『部屋』を抜け出していた。

◇おまけ

「……ところで毎回この階数を登るの大変じゃないか?」

「……? わざわざ階段を登ってきたの?」

「え……? 他に登り方があるのか?」

「道理でくるのが遅かった。帰りに近道の位置教えておく」

「そういうのは早く教えといてくれよ……(がっくし)」