軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20.1人目の攻略対象者

ローズとの約束の日。

今、私たちは第二王子宮の執務室でノエルの帰りを待っている。ウィル様と側近の皆様は執務を、私は針をチクチクと刺しながら。

ローズはノエルがお金に困っていると思っているし、こちらとしてもどれくらいの接触回数が必要か分からない。だから今後は既製品のドレスを手直しすることになったんだけど……。

税金の無駄遣いは良くない! って言い出したのは私だから、本当は手直しを手伝うつもりだったの。でもウィル様の機嫌が悪くなるから、私は孤児院への寄付用に着なくなった自分のドレスに手を加えている。

そんな風に過ごしていたらノエルが帰ってきた。先に報告すべきだと思ったのか令嬢のままだ。

「彼女の目的は、クラウディア様の推測通りでした」

「上位貴族との婚姻か?」

「はい。それも夢で見たと言っていました」

……それはただの夢じゃない? 乙女ゲームの内容を全部『夢』ってことしたんだなって私は分かるけど、下位貴族令嬢が上位貴族令息と結婚する夢なんて、ローズ以外も見てるでしょ。

「キース様を狙っているそうです」

「キースを?」

「はい。キースという名の伯爵令息と仲良くなる夢を見た。と」

出てきた名前に驚き、ウィル様と顔を見合わせてしまう。

「なんでもその令息は一番攻略が簡単だそうで」

……攻略難易度が違うゲームだったのね。

「詳細は聞いたのか?」

「はい。なんでも——」

ノエルの話から推測される乙女ゲームの内容はこう。

学生寮で生活するヒロイン。慣れない生活で早朝に目が覚めてしまい、気分転換で散歩に出かけるも道に迷ってしまう。気が付くと剣術の授業も行われる訓練場にたどり着いていた。

その訓練場で朝練をしている1人の男子生徒、それが攻略対象者の1人である伯爵令息だ。

そしてその伯爵令息は迷い込んだヒロインに気が付き、声をかけ、学生寮まで送る。

これが2人の出会い。

ヒロインは寮まで送ってくれたお礼にと、厨房を借り差し入れ用のパンを手作りする。そのパンがあまりに美味しく、伯爵令息は『また食べたい』と言ってしまう。

それを聞いたヒロインは、また食べてほしいとお願いするのだ。なんでも料理好きで毎回作りすぎてしまうそう。差し入れを断る理由はないからと了承。それをきっかけに仲良くなり対象の悩みを解決へと導くことが攻略の鍵。

って、突っ込みどころしかないわ。

まず婚約者がいるんだから差し入れは断ろう? それに料理好きって……男爵令嬢が厨房に立つわけないじゃない! 拾った元子爵令息まで学園に行かせることができるくらい、男爵家はお金に困っていないのよ? 料理人がいないはずないでしょうが。

それにしてもキース様ねぇ。

キース様と初めて会ったのは王妃様のお茶会。でも私とウィル様が初めて話したのは……

✽.。.:*・5年前・*:.。.✽

今日はなんと! 私とウィル様の婚約を発表するためのお茶会なの。

場所は側妃様とウィル様の住む王宮で、ユリの花をたくさん飾ったのよ。そして今、ちょうど最終確認が終わったところ。

お揃いで仕立てたドレス。お互いの色を身に着けて……たったそれだけで婚約したんだと実感する。

「ドキドキします」

「僕も」

さっき従者の1人が近づいた後から、手を後ろにしてモジモジとしているウィル様。

トイレにでも行きたいのかな?

「ディ、ディア!」

「はい」

「これっ、これをっ、付けてほしぃ」

「っ!!」

顔を真赤にして、自信なさげに差し出してきたのは一輪の青いユリの花。

「いいのですか……?」

公式の場で青い色を身につけられるのは王族と王族の伴侶となる者のみ。しかも青い花となると……自宅で栽培したり自分のために購入するのはよくても、決して誰かに贈ってはいけない。

それが許されるのは王族のみ。それくらいこの国にとって青は特別な色なのだ。

「ディアに身に付けてもらいたいんだ」

「ありがとうございます///」

……トイレを疑ってごめんなさい。

「僕が付けてもいい?」

「はいっ! お願いします」

ウィル様が髪に飾ってくださった後『こちらも合わせて飾ってよろしいでしょうか』とポーラがごくごく自然に手直ししてくれる。

きっと先に情報を得ていたのだろう。ユリの花がより引き立つ物を事前に準備しておいてくれたみたい。

……侍女の情報網って前世のSNSを超えるのでは?

「ポーラもありがとう」

「いえ。楽しんできてくださいませ」

時間になり、ウィル様のエスコートでお茶会会場へと向かう。

着実に痩せてきているウィル様を見て、みんなどんな反応をするだろう。でも今日ウィル様の魅力に気が付いたってもう遅いんだからねっ!

「ウィル様、よそ見はダメですからね」

「えっと……何の話?」

婚約者の座は渡さないもん。