軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

確認をとり、

「その手の品は何でしょうか……?初めて目にします」

セドリックの問い掛けに、カラムはリュックから取り出した発明を自分でも目で確認した。

ネイトの発明など数えるほどしか見たことがないカラムだが、その発明は一目で何なのかも用途もわかった。プライドが彼に依頼したその発明を男子寮でこっそり作っているのも目にし、更にはレオンの前でプレゼンしている姿も確認した。

映した姿を投影し姿絵のように紙へ映し出す発明は、操作方法もシンプルだった。

カメラを手に、カラムは一度だけネイトへ確認を取るように視線を合わせる。

セドリックの人格を信用しているからこそこの場に出しても問題ないと判断したが、ネイトがどうかは本人に聞かないとわからない。彼の反応によっては、この場で一度諦めてセドリックへ方便か黙秘を望む必要もある。

これから世間に出る品でもあれば発明の存在自体は知られても問題ない。ならば作ったのが彼だということだけでも伏せるべきかと冷静に思考を回す。

カラムの視線を受けたネイトは、その背中から半分だけ身体を出したまま恐る恐る口を開いた。

「それは……」と零しながら、取り合えずカラムが止めないなら王族相手だし言っても良いんだよなと考える。この場にはカラムと同じ騎士と、そしてレオンと同じ王族であるセドリックしかいない。カラムとも仲が良いなら話しても平気だろと思いながら、素直に「俺が作っ、りました」と核心から放った。

両眉を上げて見返すセドリックへ、この目が怖くなったことにほっと息を吐いてから言葉を続ける。

相手が王族だと、やっと緊張感を思い出してきた。取り敢えず言って良いならちゃんと素直に白状しないといけないと思いつつ、しかしカラムに隠れたままの体勢は変えない。

自分の発明であることから、どのような仕様かも説明すればセドリックも「おお!」と声を上げて目の焔を輝かせた。

「発明の特殊能力者については私も存じております。しかし、そのような発明は初めて聞く。聞いただけでも胸が躍るようだ。ネイト殿、貴方は素晴らしい才能をお持ちらしい」

お知り合いのカラム隊長も鼻が高いでしょう。と、惜しみない賞賛を口にするセドリックに、ネイトの表情筋も一気に緩んだ。

初対面の相手に褒められた上に、相手は王族でしかもカラムも鼻が高いと言われば嬉しくならないわけがない。ぐにゃあと顔全て緩んでしまい、狐色の目がきらりと輝いた。

自分への緊張が緩んでくれたらしいネイトの表情に、セドリックも優しい笑みで返す。子どもらしい明るい表情はディオスにも似て見えた。

ネイトのその表情に、これが王族相手でなければもっと調子に乗って前のめりになったのだろうとカラムは口を閉じて思う。

あまりに強い誉め言葉の羅列に、自分の背後でネイトが「え……」「はな……?」と零しているのが一部だけだが聞こえてきていたから確信にもなる。改めて、彼と取引するのが信頼できるレオンで良かったと思う。彼の性格では、善人の皮を被った悪人に簡単にまた乗せられ利用されかねない。

「ネイト。先にも言ったが、あまりひけらかし過ぎないように。たとえ教師でも安易には決して」

「ッうっせー脳筋のくせに‼︎お前が出したから説明してやったんだろ‼︎」

また同じ説教をしてくるカラムに、ネイトも八重歯を向く。

脳筋、という言葉が響いた直後セドリックとエリックは同時に目を丸くした。あまりにカラムに似合わない言葉とネイトの口の悪さを前に、さっきまでのしおらしい印象が音を立てて崩れていく。

アラン一人が腹を抱えて笑ってしまう。一体どういう関わり方をしたらカラムがそう見えるのかと、詳しく聞いてみたくもなった。

ネイトの暴言にも「王族の前では他者にも言葉を選ぶように」とだけ告げるカラムは、そこで一度セドリックに断りネイトへ振り返る。

姿勢を低めて片膝を折りしゃがむ。膨らんでいるリュックを地面に降ろすことなく、軽々と左肩に背負ったままバランスを崩さない。

カラムが突然視線を自分と同じ位置まで合わせてきたことに、ネイトはまた何か叱ってくるのかと細い眉を寄せた。

ネイトへカメラを持った右手を掲げ、赤茶色の瞳に自分を映すカラムは

「使うぞ」

「え?」

カシャッ、カシャッ。

「こちらを向いてくれ」という声掛けから二拍後だった。カラムの言葉と視線に引っ張られるままネイトが顔を上げれば、カメラが掲げられた右手から二度シャッターが鳴らされた。

軽やかな音が二度響いたと思えば、自分の発明に狙われるという体験にネイトは硬直した顔が直後に大きく伸びた。撮られた!とはわかっても一体何のつもりかわからない。

「なに使ってんだよ!」

そう声を荒げたのは、カメラから一枚目の写真が出てきてからだ。

自撮りをするつもりでカメラに顔を向けたカラムと違い、ネイトは丸い目のまま瞬きの向こうを見つめるだけだった。格好悪くなった顔を撮りやがってと思いながらも、つま先立ちで写真を覗き込む。

絶対間の抜けた顔になったと睨めば、二枚とも想像通りの顔だった。ただでさえ泣いて擦って赤く腫れた部分も多い中、狐色の自分が写真の向こうで見開いている。しかも自分でシャッターを押したカラムまで笑顔ではなく生真面目な表情でこちらを見据えていた。

姿絵と言えば家族絵などの肖像画のイメージが強いカラムには、その表情が正解だった。

「きちんと発明を掲げて見せただろう」

「自分で撮れるなんか思うわけねぇだろ馬鹿!そんなやり方俺だって知らねぇのに!」

何かを撮る用だった発明を、まさかそうやって撮るとは想像もつかなかった。

しかし写真を見れば、二枚ともピントも配置もずれることなく二人の上半身が一枚一枚に収まっている。写真を撮るのは当然初めてのカラムだが、レンズの角度と位置さえ留意すれば見事成功できた。

後輩であり部下にも相応するエリックに頼めないこともなかったが、自分の荷物を既に持ってくれている彼に頼むのも気が引けた。アランは王族の護衛、そしてセドリックは言うまでもない。結果、自分で撮るのが一番適切だった。

カメラを向けた時点で察しが付くと思っていたカラムだが、開発者のネイトだからこそそういう使われ方は想像できなかった。

カメラが向けられていてもその持ち手はカラム自身。まさか自分と一緒に撮るつもりとは思いもしなければ、まさか自分との姿絵を撮ろうとするなど驚きが大きすぎて反応が間に合わなかった。

ネイトが心の準備ができていなかったことに、カラムも後から理解すれば「それはすまなかった」と素直に謝罪した。一応撮る前に顔を背けるでも隠すでもできるだけの時間は与えたつもりだったが、それでも足りていなかったのは自分の落ち度だ。

「嫌ならやり直すが、もしくは破棄してくれても良い。どちらにせよ一枚は君に渡そうと思っていた」

アラン達がそれぞれ目線を浮かせてその場から気になるように写真を覗きたがる中、カラムはその一枚をネイトに手渡した。

えっ。とネイトが一音を零せば、目の前に差し出されるのは殆ど同じ顔をした写真の一枚だ。

二秒だけ写真を眺めてから片手で受け取ったネイトは、穴が空きそうなほど見つめてしまう。間抜けな顔の自分とカラムが一緒に写る写真を凝視しながらも、ぽかんとした表情が治らない。ネイトが戸惑っていることも汲んだ上でさらにカラムは口を開く。

「君が許可してくれるならもう一枚は記念に貰っておきたいのだが……どうする?没収かやり直すか」

場合によってはもう一回分だけ追加で補充してもらえると助かる、と続けながらカラムは自分の分の写真をネイトに提示した。

一緒に写っている本人が嫌がるのなら、自分が写真を所持できるかどうかも彼に判断させようと考えるカラムにネイトは思わず喉を反らした。

写真の顔が間抜けなのが気に入らないのは本心だが、同時にせっかく撮ったものを捨てたくもないし撮り直すのも勿体ないような気持ちになってしまう。しかも今まで私物没収までされかけた自分が逆にカラムから姿絵を没収すると考えれば違和感もあった。

なにより、自分と記念に言ってくれたのにそれを手放させることが言いようもなく憚られる。じわじわと嬉しさと恥ずかしさが込み上げてくるのを食い縛って堪えながら、ネイトは代わりにカメラの方を乱暴にカラムの手から掴み奪った。

「~っっしょっ、しょうがねぇなあ⁈どうしてもって言うなら、まぁ⁈どーっせカラムじゃ何度やっても使うの下手に決まってるし?!俺〝も〟貰っておいてやるけど!!」

目の前にいるカラムに対し必要以上に声が大きくなりながら顔を逸らす。

同時にカメラへ触れて残量を一回から三回へ補充したネイトは、ぴらぴらと自分の分の写真を反対の手で揺らしてみせた。ネイトの「どうしても」という言葉に、別に無理ならば破棄も辞さないと言った筈だと思うカラムだが、敢えて口にはしない。彼が皮肉と照れ隠しでついそう言ってしまっていることも理解している。

「そうか」と仄かに笑うカラムはそのまま自分の分の写真を慎重に懐へと皺がつかないようにしまった。

あまりにも分かりやすい態度に、見守っていたアランとエリックも離れた距離から目を合わせて肩を揺らす。セドリックの目にもネイトの子どもらしい言動と照れ隠しは微笑ましく見えた。……まさか自分も第二王女から照れ隠しを常に受けているなど絶対的な記憶の中で思いもしない。

カメラの補充を終えたネイトはそのまま手を離すと、フンと鼻息荒く胸を突き出した。

「カラムはどうせまた下手だし仕方ねぇから三回にしてやったから!!もうやんねぇからな⁈どうしてもならちゃんと頼みに来いよ⁈」

「ああ、ありがとう。補充も安易に受けない方が正しい。君の身体にどこまでが害がないかもわからないだろう」

「ハァ⁈余裕だし‼︎そんな一つや二つでどうにかなるわけねぇだろ!!」

敢えて期待と違う返答をしたカラムに、ネイトが目を尖らせムキになる。

今まで伯父からの暴力を受けた時以外で体調を崩したことはないからわからない。もともと通常の発明の特殊能力者よりも製作ペースからして早い上、昨晩もカラムに渡したい発明を作る為に徹夜をしても全く疲れてすらいない。

しかし、カラムからすればこの褒められ弱い性格の彼が今後人の注目を浴びるようになってからが心配になった。調子に乗って一から十に、十から百にもなりかねない。

前髪を指で払い、カメラを改めてリュックへしまう。その間、セドリックは一秒もその発明から目が離れなかった。「素晴らしいな」と独り言のように呟きながら、二歩さらにカラム達へ歩み寄った。

「今の姿絵、拝見させて頂いても宜しいでしょうか。姿絵がこのように一瞬で出来上がるなど素晴らしい」

良いけどッ⁈と。短くひっくり返るような声で返したネイトは言葉を整え忘れた。

レオンに続き王弟にまで興味を持たれ、顔が緩みかけながら強張る。レオンのような明らかに王族という別世界の風貌も緊張したが、セドリックのような存在感の強さは圧迫感も強かった。

許可を出したことに反し、自分の写真を懐にしまったネイトはそれ以上は言えず上目でカラムを見上げた。彼の視線を受け、「君が良いならば私が後でお見せするが」とだけ断った。

大きく頷き、許可だけでカラムに丸投げするネイトはそこでふらりとカラムの背後からも更に後ずさる。

それに合わせ、カラムからも「そろそろ帰りなさい」と一言かけた。

「ご両親が心配するだろう、しっかりと家でも予習復習を怠らないように」

「うっ……うるせぇ‼︎‼︎言われなくても帰るからな⁈ほんとに帰るからな‼︎ちゃんと約束通り学校来いよ⁈」

来ねぇと許さねぇからな‼︎

セドリックの圧に押されるように叫びながらも、とうとう校門の外へと距離を開けていく。指を差しつけ、背後足に駆ける。

捨て台詞にも聞こえるそれは、ただの命令口調にも念押しにも聞こえる意気の良さだった。

「わかっている」と一言返すカラムに対し、眉を釣り上げながら「ばーか‼︎‼︎」と声を荒げるネイトはそれを最後に駆け出した。

最後まで王族の御前とは思えないほど息巻く少年を、セドリックを含め全員が何とも言えず見送る。

王族を前に……、と少し言いたくなったカラムだが、これ以上彼を引き止める方が問題と考え口を噤む。駆け出し逃げるネイトの背中を見送りきった後、セドリックへ数度目になる謝罪をした。