軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十六話:工学的干殺し

天文五年 六月 / 西暦一五三六年 六月

和泉での勝利は、決して上洛への切符ではなかった。むしろそれは、畿内の既存勢力を「本気にさせた」に過ぎなかったのである。

「和泉で薬師寺が不覚を取ったのは、あやつが猪武者だったゆえよ。……稚児の泥遊びなど、数で押し潰せば終わる話だ」

そう豪語したのは、細川晴元の腹心・**三好政長(宗三)**である。彼は和泉の敗報を受けるや否や、京へ通じる要衝、摂津の「芥川山城」に三千の精鋭を収容。さらに周辺の国人衆を糾合し、計六千の兵で三郎の進路を完全に封鎖した。

「若君。芥川山城は、峻険な山に築かれた難攻不落の要害。力攻めをすれば、三好の兵が幾らあっても足りませぬぞ」

三好長慶が苦々しく告げる。山上の城からは鉄砲や弓矢が降り注ぎ、三郎たちが「石の街道」を延ばそうとする足元を正確に狙い撃ってくる。

三郎は、四歳の小さな身体に似合わぬ重厚な甲冑を纏い、観測鏡で山城を見上げた。

「……長慶、無理に登る必要はないよ。城っていうのは、山の上にあるから強い。でも、山の上にあるからこそ『致命的な弱点』があるんだ」

「弱点……? 貴殿、それは何にございます」

松永久秀が、三郎の横で好奇心に目を輝かせる。

「水だよ、久秀。あの城の唯一の水源は、山腹から湧き出る細い枯れ井戸だ。……柳斎先生、工兵隊を動かして。城に攻め込むんじゃない。城の『下』を掘るんだ」

三郎が命じたのは、前世の「グラウト(注入材)工法」と「水路転換」を組み合わせた、残酷なまでの科学的攻城術であった。

夜陰に紛れ、三郎率いる工兵部隊は、城の背後の谷へと潜入した。彼らが手にしたのは槍ではなく、大量の「速乾性石灰」を混ぜた泥の詰まった袋である。

「若君の計算によれば、ここが地下水の脈ですな」

柳斎の指揮のもと、工兵たちは岩盤に深く穴を開け、そこへ三郎特製の「石灰コンクリート」を大量に流し込んだ。

地下を流れる水脈を、物理的な「壁」によって遮断し、城内の井戸へ流れる水を強制的に山の下へと排水させる。

「城を落とすのに、血を流す必要はない。……血の代わりに、水を止めればいいんだ」

三郎がそう呟いた三日後。

芥川山城内は地獄と化した。飲み水は一滴も出なくなり、兵たちは自らの尿を啜り、馬の首を斬ってその血を飲む惨状に陥った。

耐えかねた兵たちが、渇きに狂って山を駆け下りてくる。そこへ、待機していた三好の鉄砲隊が容赦のない十字砲火を浴びせた。

「卑怯なり、泥公方! 正々堂々と戦え!」

山の上から政長の罵声が響くが、三郎は冷徹に次の図面を広げていた。

「久秀、投石機の準備を。次は水の代わりに、石灰の粉を打ち込む。……肺を焼かれたくなければ、明日の朝までに開城しろと伝えて」

四歳の設計者が振るう「土木のタクト」は、武士たちの名誉を粉砕し、ただ圧倒的な「結果」だけを積み上げていく。

芥川山城の陥落は、上洛という名の、長く、そして凄惨な連戦の序章に過ぎなかった。