軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4-1 準騎士アリス・ホールデンの第一歩

白鹿騎士団員となった初日。

アリスは灰色の制服に身を包み、再び騎士団本部に足を踏み入れた。

(早く白い制服を着られるように頑張ろう!)

白鹿騎士団の象徴となるものが、白い制服だ。

ところが、準騎士の制服はデザインが少々異なる。

一部が灰色で、白鳥の雛みたいな印象だ。実力的にも、実際にひよっこという扱いだった。

正式な制服の着用が許されるのは、見習い期間が終わってからとなるのだ。

さらに、現在十名しかいない隊長になると、衿に隊長の証となるひし形の階級章がつく。

二名の副団長は衿の装飾と階級章が豪華になり、団長であるハーヴェイは公の行事のときにはマントを羽織ることになっている。

当面の目標は、しっかりと職務をこなし、正騎士となることだった。

アリスたち三人は、騎士団本部で一番大きな部屋――大会議室の廊下で、入団式の始まりを待っていた。

アリスが真ん中で、両隣をそれぞれジュリエットとブラッドリーが陣取っている。

この部屋は大規模な作戦を行うときに司令本部となったり、今日のような式典の際に会場となったりする場所らしい。

「どの部隊に配属されるか楽しみね、アリス。……まぁ、私はフロックハート隊って決まっているんだけど!」

自慢げに語っているのは、同じ制服に身を包むジュリエットだ。

彼女はいつの間にか、アリスのことを呼び捨てにしはじめた。

(……ジュリエットさんってすごく前向きで、なんだか清々しいわ)

先日彼女は、ハーヴェイからギリギリの合格と言われていた。

さらに「フロックハート隊長に面倒を見させれば、まともになる」という理由で所属部隊が決まったのに、堂々としている。

対戦相手として戦うとかなり厄介で嫌な相手だけれど、底抜けの明るさは魅力的だ。

同僚としては、案外いい人なのかもしれない。

「新人のうちは、第一部隊……ザカリー・ヒューム隊長の下で学ぶのが、ここ最近の慣例になっているみたいだよ」

そう言ったのはブラッドリーだった。

さすがにハーヴェイのいとこというだけあって、いろいろと詳しい。

「だったら私は特別ってことね! ……それにしてもどうしてヒューム隊なの?」

「……十人の隊長の中で、一番良識を持っていて厳しい人だから、らしい」

アリスを挟んで二人が会話を始めた。

「へぇ、良識? それってなんだか、つまらなそう……。だけど、あなたたちと気が合いそうだわ! おめでとう」

「黙れ、問題児」

真面目なブラッドリーと、自由なジュリエット。この二人はとくに相性が悪そうで、アリスはため息をつく。

「ジュリエットさんもラドクリフ様も……私を挟んで喧嘩しないでください……」

「……ラドクリフ様? 名前でいいよ。騎士団の中では同じ階級なんだから」

公爵子息を親しげに呼ぶのは少し気が引けるけれど、身分が高いという理由で、同期への接し方を変えるのも間違っているのかもしれない。

アリスは少しだけ悩み、彼からの提案に乗ることにした。

「わかりました、ブラッドリーさん。同じ隊になるのでしたら余計に、これからよろしくお願いします」

「あぁ、アリスは真面目そうで、僕の足を引っ張らないだろうから、同期としてよろしく頼む」

「ちょっと! なんか私のこと無視してない?」

ジュリエットがアリスの肩に手を乗せて身を乗り出し、ブラッドリーをにらんだ。

「だって……君と話すと疲れるし、不毛に感じるから」

「なんですって!?」

このままでは、本格的な喧嘩に発展してしまいそうだった。

「待機中ですよ……お二人とも」

するとブラッドリーがツンとして視線を逸らす。

その態度に、ジュリエットが益々腹を立てて、飛びかかりそうな勢いになってしまう。

(もう……猫みたい……)

ジュリエットもブラッドリーも、それぞれタイプの違う猫みたいだ。

アリスがジュリエットの肩を掴んで、暴挙を止めようとしていたところで、入室の命令があった。

二人ともすぐに姿勢を正す。凄まじい切り替えの早さだった。

アリスも気を引き締めて部屋に入る。

正面の壇上にマント付きの制服で正装したハーヴェイと、ランドルの姿があった。

(ハーヴェイ殿下が格好いいのは当然だけれど、ランドル兄様も……)

制服姿で、引き締まった顔を維持していると、ランドルはとても格好いいのだ。

ランドルの剣技は、アルヴェリア国内でトップだと言われていた。

言われていた――というのは、たった数年でハーヴェイが剣術の達人になってしまったからだ。

以降、剣術の腕前としてはアリスたちの目の前にいるこの二人が二強と言われている。

さらに一段下がった場所には、五人の隊長の姿がある。

一人は白鹿騎士団で唯一の女性隊長マルヴィナだ。前回は変装のため、地味なマントを羽織っていたが、やはり騎士の制服がよく似合っている。

隊長はあと五人いるはずだけれど、やはり任務があるから、全員集合とはならないようだ。

左右には先輩騎士たちの姿もある。

多くの騎士が集まり、けれどもシンと静まり返った場で、入団式が始まろうとしていた。

「それでは、これより入団式を始める。アリス・ホールデン、前へ」

本日の司会進行はランドルで、最初に名前が呼ばれたのはアリスだった。

「はい」

元気よく返事をしたアリスは、事前に渡されていた資料を思い出しながら、まっすぐに前進し、ハーヴェイの前に跪く。

「アリス・ホールデン。この国――アルヴェリアと、王家に忠誠を誓うか?」

「私、アリス・ホールデンは、白鹿騎士団の一人として、アルヴェリアと王家に、忠誠を誓います!」

「よろしい。……では、王家の守護者として、そなたに剣を授ける」

アリスは顔を上げ、立ち上がる。

目の前には一振りの剣を持ったハーヴェイがいた。

アリスはさらに一歩前に歩み出て、両手でしっかりと、剣を受け取る。

「この剣に恥じぬよう、騎士として精一杯努めさせていただきます」

アリスは片手で剣を持ち替えてから、敬礼をし、元の場所へ戻る。

続いてジュリエット、ブラッドリーの順で、同じやり取りが繰り返された。

それぞれが受け取ったばかりの剣を、帯剣ベルトに装着する。

次に、直属の上官となる隊長が前に出た。

「私は第一部隊隊長ザカリー・ヒュームだ。ホールデンとラドクリフは、第一部隊の所属となる」

アリスとブラッドリーは、ヒュームに向かって敬礼をした。

ヒュームは二十代後半の、灰色の髪の騎士だった。

清潔感のある短い髪をしていて、やや眼光が鋭い。野性の狼みたいな人である。

もう一人、一歩前に出たのがマルヴィナだったため、より威圧感が強調されていた。

「私は第三部隊隊長マルヴィナ・フロックハートです。ジュリエット・ノックス準騎士には、我が部隊に所属していただくことになりました。一緒に頑張りましょう」

マルヴィナがそう言うと、ジュリエットが目を輝かせて敬礼をした。

「それでは、本日よりさっそく、各部隊ごとに王宮の警備及び訓練を行うこととする。以降は部隊長からの指示に従うように」

「はい!」

ランドルがまとめ、入団式は無事に終えることができた。

アリスはなんとなく、左手で剣の柄と鞘を撫でてみる。

身長に合わせ、軽く細身の剣になっているのだが、実際の重量よりも重く感じる。

騎士となった責任を象徴するものだから、そう感じたのかもしれない。