軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ここから先は後日談になるが。

歳末の夜会の翌日、新聞の一面はそりゃあもうド派手だった。

報償の授与に現れた魔術師クロシェの美しさ、その衣装の煌びやかな技巧、作成したのが何者であるかに続き、クロシェとハルバートの恋物語がかくやおとぎ話のように綴られていた。

あまりの美化、あまりの持ち上げられ方にはじめ苦虫を噛みつぶしたような顔をしたハルバートとアメリアだったが、その新聞がふたりを窮地から救っていたのを知ったのは後日である。

服飾の街の市場でいつものように買い物をした際、卵屋に言われたのだ。

「いやぁ、

誰もバートさんが『蒼の隊』だと思わないだろう。

バートさんを捨てて『蒼の隊』に走ったかと驚いたぜ。

あの新聞を読んで、姿を変えていたと分かったけどな」

新聞記事を書いたのが誰か知らないが、

記者に対して拝み倒したくなったふたりであった。

新聞効果はさらに連鎖する。

実はあの夜会の後、ハルバートの父であるイーヴランド侯爵はまだケチを付けるつもりだったようなのだ。

いくら国王の許可が下りたとて、離籍を許されていないハルバートの婚姻届には当主のサインが必要である。何が何でもそのサインをしないつもりだったのだ。

しかし新聞がそのあたりも細かくケアしていた。

『もし今後速やかにふたりが結婚できない場合は、何らかの妨害が入ったと見ていいだろう。例えば、呪いの竜に屋敷を焼かれた某父侯爵とか』

この一文で、世間の目はイーヴランド侯爵に向いた。

世論の圧に押され、ついにハルバートは貴族籍からの離脱を許されたのである。しかも、「イーヴランド」姓は引き続き名乗って良いとの破格の条件だった(侯爵としてはハルバートの功績に便乗して家の評判を上げたい思惑もあるだろうが)。

「今のうち!」

と周りに急かされ、あれよあれよという間に二人は夫婦と相成ったのであった。

窓口で婚姻届を出し、玄関に向かって歩き出したその時、手を叩きながら細身の男が現れる。

イアンである。

「やぁやぁおめでとう、ふたりとも」

「イアン!どうしてここに」

「俺とバートの仲だ。

阿吽の呼吸、虫の知らせってやつよ」

と馴れ馴れしくハルバートと肩を組む。

「君は本当に情報通だな。

恐ろしいくらいだ」

「まぁな。

ところで、あの記事読んでくれたか?

傑作だったろう」

「は?何を言っている?」

じゃーん、とイアンは身を翻し、懐から何かの用紙を取り出し広げて見せた。

見るとイアンの字で小っ恥ずかしい恋愛小説が描かれている。

「あの記事の原稿は俺が書いたのさ。

新聞社のコネにはちょっと自信があってね。

最初っから一面を予約しておいたのさ」

絶対面白いことが起こるから一面空けておけ、ってね。

「方々丸く収める良い記事だったろう?」

にやりと不敵に笑われ、ハルバートは思わず彼と握手したのだった。

ーーーーーーーー

高魔力児専門保育師であるモーリーは腕を組んだ。

彼女の視線の先にはマテオがいる。

今は畑の高い木になった果実を、風魔法で収穫しようと奮闘している。

『とんでもないサラブレッドね』

両親が類い希なる魔術師だと知った今、彼はモーリーのいち研究対象である。

『竜退治のとき、

マテオは自分の魔力が足りなくなったから、

父親の魔力を借りたと言ってたわ。

そんな事ができるなんて、初めて聞いた。

・・・やっぱり子供って不思議ね。

他人であるふたりの血を受け継いで、

結びつけちゃうんですもの』

大きなリンゴを落とすことに成功し、

「これ食べていいー?」

とこちらに呼びかけるあどけない声。

「いいわよー!よく洗ってねー!」

「はーい!」

元気に駆け出す彼を見て、モーリーは思う。

『ま、いっか。

彼が健やかに成長してくれれば何でも良いわ』

これだから子供っていいのよね、

とモーリーは上機嫌でマテオの後を追ったのだった。

ーーーーーー

「今日も大口注文ですねえ」

「ええ、嬉しい悲鳴続きだわ」

案の定、その後アメリアは大忙しだった。

マダムが依頼書を持ってきて、そして慌ただしく帰って行く。

今日は非番のハルバートが、アメリアとマテオのために昼食を作っている。三人で過ごす時間が長くなればなるほど、マテオはハルバートに懐いた。

たくさん食べて膨れた腹で昼寝を始めたマテオを眺めながら、ハルバートは呟いた。

「しかし、俺はいつまでたっても君に追いつけない」

「ええ?ハルバートのほうがずっと上じゃない」

「そんなことはない。

君は自分で自分の価値を作り出せる希有な人だよ。

今回だって、俺が迎えに行こうと思ってたのに、

あっさり俺より高みに上ってしまった」

「そんなに凄くないんだけどなぁ・・・」

「まあいい。

これから君はますます売れっ子になるんだろう。

俺も頑張らないとな」

こめかみを軽くぶつけ、顔を見合わせて笑い合う。

魔術師クロシェは今日も編む。

魔法を、レースを、そして人の縁を。

そしてその隣にはいつだって、

ハルバートと、マテオがいるのだ。

ーfinー