軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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それから数ヶ月。

季節は冬に差し掛かり、あれだけいた魔虫も一斉にその姿を消した。

アメリアは服飾の街に帰り、これまで通りマテオと暮らしている。

ハルバートは仕事に復帰したが、週の半分はアメリアの家に帰ってくる。

王都では家には戻らず、一人暮らしをしているらしい。

アメリアの家のベッドはサイズが大きくなり、ダイニングには椅子がひとつ増えた。

「二人暮らし」から「三人暮らし」になった実感がする。

ーーアメリアとハルバートはまだ結婚していない。

『できるかもわからないしね』

イーヴランド家に帰っていないとは言え、まだ彼は離籍を許されていない。アメリアとの関係性だって、公にはなっていない。

あの虫の竜騒ぎの時一緒にいたのは、あくまでアメリア母子のサポート役として認知されている。勿論、ハルバートとマテオの容貌を面白おかしく言う口さがない者もあったが。

イーヴランド家当主が徹頭徹尾貴族優生思想であるが故、先はなかなか厳しいと思う。

『安全には十分気をつけなきゃ』

ハルバートの子がいると噂になった今、マテオの安全の確保は急務であった。幸いそのあたりは魔術師協会が大いに力を貸してくれている。

今日も変わったことはないか、と『金の隊』が訪ねてきてくれたところである。

「報償を賜る」

アメリアはきょとん、と目の前の人物を見つめた。

「そうよ。

今年の魔虫被害の一番の功労者にね」

『金の隊』フリッカーは白い湯気が立ち上るカップに上品に口を付けた。

「年末の王宮での夜会よ。

年を締めくくる、一年で一番大きな夜会。

その際に、この一年国に貢献した者に報償が与えられる」

「ええ、一応知ってます」

平民でも知っている、いわば一般常識だ。

つまりとてつもなく凄いことだ、という表れでもある。

「その中にあなたが選ばれたわ」

「ええー・・・?」

アメリアは頭を抱える。

「なんで喜ばないのよ」

「だって、私は孤児ですし。

王宮に上がるマナーなんてとても」

「別に普通でいいわよ。

報償授与の作法は事前にレクチャーがあるし」

「それに、顔を知られるのもちょっと抵抗が」

「なぜ?」

「マテオの安全のためです。

私が目印になってマテオが狙われるかも」

「うーん、逆だと思うけど」

「逆?」

「多少の功なら貴女の懸念ももっともだけど。

今回の場合国王直々の報償だからね。

国中から尊重され、尊敬される存在になるの」

「はあ」

「ピンときてないわね。

簡単に言うと、そうね。

私たち単騎隊は誰も貰ったことないわね」

「そうなんですか」

「報償を賜った者っていうのはね、

平民であっても貴族と同じように敬われるのよ。

いや、ある意味報償者のほうが上ね」

「そ、そうなんですか」

「だから報償を受ければ、

あなたは誰からも侮られることはなくなる」

「は、はあ」

「あなたがマテオの最強の盾になるのよ」

「私が・・・」

「何よりマテオはこれから、

あなたの傘に守られて堂々と目抜き通りを歩ける。

誰から逃げる必要もない」

「逃げなくても、いい」

「受けるでしょ?」

「・・・受け、ます」

フリッカーによる卓越したセールストークにより、アメリアは陥落した。

フリッカーは気分が良さそうに脚を組む。

「じゃ、準備をしないとね。

年末まではもうあっという間よ」

「ああっ!どうしましょう!

私、王宮に着ていける服なんて持ってません!」

「そこは安心して」

「魔術師のローブじゃ駄目でしょうか?」

「馬鹿言ってんじゃないわよ。

我が主が手ぐすね引いて貴女を待ってるわ」

「我が主?総帥?ギルド長ですか?」

「いいえ、マダム・カリファよ」

そうしてアメリアはあれよあれよという間にマダムの店に連れ込まれ、全身採寸され、そして「2週間ちょうだい!」と鬼気迫ったマダムに叩き出されてしまったのだった。

見送りに来てくれたのも助手姿のフリッカーだ。

「慌ただしくてごめんなさいね、

イチからデザインを考えるんですって」

「あ、ありがたいです。

お代はまた相談させてください・・・」

「マダムはお代を頂くつもりはないわよ」

「そんな!」

「だって、貴女にお仕事してもらうつもりなんだから」

「・・・え?」

ーーーーー

そして迎えた、歳末の夜会。

「どうしよう、緊張で脚が震える・・・」

「ママ、見て、キラキラ!」

慣れないドレスアップをし、飾り立てられた馬車に乗り、アメリアとマテオは王宮へと辿り着いた。馬車止めまでに幾台もの馬車が並び、自分の降車を待っている。

王宮は塀や庭木に雪の結晶を模した装飾が多く施され、冷たく澄んだ夜の空気の中に白い光が煌めいている。

マテオは降車までの間、窓の外をのぞき込んで嬉しそうだ。

アメリア母子は1週間前から王都に詰め、

やれリハーサルだ、やれフィッティングだと大忙しだった。

服飾の街からはマダムが一緒に来てくれて、

夜会でのマナーや作法について細かくフォローしてくれている。

付き人として夜会にも参加してくれるという。

その後ろに当然のようにフリッカーがいるのにも、

もはや慣れてしまった。

滞在中のホテルにはたくさんの来客があった。

「やあ、アメリア」

最初に来てくれたのはかつての上司、スウェイン卿だった。

「ギルド長!

その節はご迷惑をおかけして・・・」

「いらんいらん、そういうのは。

報償おめでとう」

「ありがとうございます」

土産に、と渡された花束を受け取り、

ふたりはソファセットに腰掛ける。

「あと、防虫カーテンもありがとう。

こっちに託してくれたのは嬉しかった」

「いえ、こちらこそ匿名で送りつけてすみません」

「まぁ、ジルは当然のように看破したけどな」

「さすがです」

アメリアは笑い、スウェイン卿に平らな箱を手渡した。

「これは?」

「贈り物です。お会いできたら渡そうと思っていて」

箱の中には美しいシルクのタイが入っている。

アメリアの光魔法の刺繍入りだ。

ありがとう、とそれをしばらく眺めていたスウェイン卿は切り出した。

「なぁ、アメリア」

「はい?」

「ギルドに戻ってくる気はないか?」

スウェイン卿の真剣な眼差しに、アメリアは笑った。

「申し訳ありません、ギルド長。

私、今の生活を気に入っているんです」

「・・・そうだろうな。忘れてくれ。

今後の活躍を祈るよ、魔術師クロシェ・サンドイッチ」

「ありがとうございます」

次に訪れたのは、意外にも学生時代の同期の貴族令嬢だった。

ロビーの応接スペースで対峙した令嬢は、相変わらず居丈高な態度だ。

「あの頃はごめんなさいね、

あなたがこんなに素晴らしい魔術師だと思わなくて」

まるで素晴らしい魔術師ではなかったら虐めて良いと言わんばかりの言い草に、アメリアは苦笑いを浮かべた。

「ところで、ハルバート様の噂は本当なの?

あなたと恋仲だとか、子があるとか」

蛇のような視線でこちらを検分する令嬢に、アメリアは切り返した。

「あなたはそれを聞いてどうなさるのですか?」

「どうって・・・

同期のよしみで聞いておきたいだけですわ。

ほら、今後も仲良くしていくにあたって、ね」

「仲良く・・・」

アメリアは吹き出してしまった。

ふふ、と笑いを堪えきれず、

「ご令嬢、どうやら人違いのようですわ。

あなたがお探しなのは魔術師クロシェでしょう?」

「え、ええ。でもそれって」

「あなたの同期である私はただのアメリア・ハーバー。

あなた方の嫌う平民の、さらに孤児の出ですわ」

「そ、それでも、ねぇ」

「出過ぎた真似はいたしません。

貴族の皆様と交わるなど、恐れ多くてとてもとても」

「え、えっと」

「お時間取らせて申し訳ございません。

年末のお忙しい時期。

次のお心あたりをお探しくださいな」

アメリアは風魔法を使い、令嬢のお尻をわずかに浮かせた。

「きゃあ!」

それに驚いた令嬢が立ち上がる。アメリアも一緒に立ち上がり、

「ご令嬢、どうぞこちらお持ちになって。

わざわざお越し頂いた御礼ですわ」

と一枚のショールを手渡した。

こちらもアメリアの光魔法のレースが施されているものだ。

「学生時代、あなたが散々破いてくださったものです。

ようやく完成しましたのよ」

そうして令嬢を強引にエントランスから送り出し、「ちょ、ちょっと」という声を聞かなかったことにして深々と頭を下げたまま扉を閉めた。

ふぅ、と扉を背に安堵の息をついたその時、

「お見事」

扉の中で笑ったのはイアンだ。

実は先に訪ねてきていたのはイアンのほうで、令嬢が来たので隠れていてもらったのだ。

「ごめんなさいね、

先にお越し頂いていたのに」

「なんのなんの。

貴族令嬢のご来訪とあらば、

いくらでも待ちますよ」

報償授与おめでとうございます、

との言葉を添えて、たくさんの焼き菓子をくれた。

「あと、これはマテオ君に」

箱に入った贈り物はたくさんの本だった。

「舶来の絵本もあります。

楽しんでくれるといいな」

「ありがとう!きっと喜ぶわ。

では、私からも贈り物よ」

アメリアはイアンにランタンを渡す。

イアンは魔力を持たないため、アメリアが代わりに光らせて見せる。

「これ、魔石を入れて手持ちでも使えるから、

良かったら使ってください」

「これは素晴らしい!

ぜひうちの商会に卸して欲しいね」

ハルバートが『蒼の隊』として復帰し、「空飛ぶ商人」商売ができなくなったイアンは残念がっていた。その代わり、飛行術が得意な魔術師と新たに契約を結ぶことを考えているらしい。「さすがにバート以上はいないな」と愚痴をこぼしていたが。

「夜会はバートのエスコートで?」

「ええ。

竜退治のときサポートしてもらったよしみで、

ってことになってるわ」

「それは腕がなるな」

「?どういう意味?」

「まぁ、奴にも贈り物があるってことです。

儲けさせてもらった御礼をしないとね」

パチン、とウインクするイアンに、アメリアは笑った。

その後もルーナや同期たちが来てくれたり、

意味もなく単騎隊たちが遊びに来たりした。

カインはとても可愛い真っ白なウサギの魔獣を連れてきて、マテオと遊んでくれたりした。

お土産に、と霊薬アウズンブラの乳を持ってきたときには腰を抜かしそうになったが、せっかくなので美味しく頂いた。

その度にアメリアは小さな贈り物を渡し、

逆に渡された贈り物で部屋はいっぱいになった。

そして、とうとう今日の日を迎えた。

少しずつ進む馬車はついにアメリアたちの降車の番になる。

大きく深呼吸をして、扉を開けて貰うのを待つ。

「魔術師クロシェ・サンドイッチ様、

並びにご令息マテオ様。どうぞご降車を」

従者の号令に従い、降りやすいよう扉に体を向ける。

キィ、と高い音を軋ませて開いた扉の向こうには、

「待っていたよ、アメリア、マテオ」

盛装のハルバートが、エスコートのために待っていた。