軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19

大きな大きな船で、大量の穀物がやってきた。

商人ギルド長とイアンは異国人の船長にしきりに頭を下げ、船長は彼らの背中を叩いて激励している。

「上乗せしてたくさん積んできてくれた。

これで少しは足しになるはずだ」

イアンは涙ぐみながら、また船長に頭を下げた。

「さあ、運ぼう。

一カ所に集めると虫の被害が心配だ。

分散して倉庫に格納するぞ」

商人たちがせわしなく動く間、ハルバートは手持ち無沙汰である。よく休んで魔力は十分、重量のある穀物を運ぶため、安定した飛行ができる荷車もすでに用意済みだ。

なにもやることがないハルバートは、魔術師ギルドへ向かった。

扉を開けて中に入ると、受付嬢のキキが何やら揉めている。

身なりの良い中年の男と言い争っているようだ。

「ですから、そのような魔術師はこの街におりません!」

「隠し事は勧めんぞ、ギルドがどうなってもいいのか」

「こちらをご覧ください、この街の魔術師一覧です!

ほら、いないでしょう、アメリア・ハーバーなんて!」

ハルバートはどきりとした。

あの者もアメリアを探している。

『何が目的か知らないが』

そうロッチ卿は言っていた。

ハルバートはアメリアを害されてなるものか、と戦闘態勢に入った。

「アメリア・ハーバー?」

変化した赤毛の姿のまま、ふたりの間に割って入る。

「お主、知っておるのか」

中年の男は居丈高にこちらに向き直る。

確かにこの身なりは貴族に連なる者だ。

侍従か、下男か。

「ああ、魔術学園時代の同期だ。

久しぶりに名を聞いたな」

「おお!この街にこの者がいると聞いたが、

お主居所を知っておるか」

「いや、卒業以来縁はないし、

そもそも彼女、確か王都の出身だろう?

なんでこの街にいるんだ」

「どうやらこの街に赴任したらしいのだがな。

この女が口を割ろうとせん」

受付嬢をぎろりと睨む。

「いや、俺はこのギルドの常連だけど、

ここでアメリア嬢を見たことはないぜ」

「そ、そうか」

「そもそもなぜアメリア嬢を探しているんだ?」

「そうだ、お主、

彼女が学生時代に作っていた生地を知らんか」

学生時代の生地。

思い当たるのはたった一つ、あの光魔法のレース編みだ。

ハルバートは怪訝な顔をし、

「いや、知らないね。どうかしたのかい」

「特殊な生地があってな、それを我が主がご所望だ。

王都中の生地屋を調査したところ、

アメリア・ハーバーという女学生が一時生地屋に持ち込んでいたということが分かった。

だがその者は王都の魔術師になり、

その後は生地を作っていないようなのだ」

「じゃあやっぱり王都にいるんじゃないのかい」

「いや、魔術師ギルドはこの街での任務の後、

そのまま退職している」

「なるほどな。

でもここで彼女に会ったことはないよ」

「本当か?隠し立てすると良いことはないぞ」

「ああ。誓って言えるね。

何せ俺は学生時代、彼女に懸想していた男だからね。

見間違える訳はないさ」

気まずそうに頬をかけば、それ以上の追及は無粋と諦めてくれた。

「その生地とやらも知らないが、

そんなに良い生地なのかい」

「ああ。

我が主はアメリア嬢を屋敷に迎え入れ、

我が家の主力産業として売り出すおつもりだ」

「へえ。待遇はいいのかい」

「貴族のために仕事ができるなど、名誉なことであろう?」

なるほど、名誉職。

実際はまともな給料も支払われないかもしれない。

ハルバートはそう察し鼻で笑った。

「なるほどな。

じゃあ、健闘を祈るよ」

「ああ、情報をありがとう」

満足したらしい男は魔術師ギルドを去って行く。

・・・アメリアを守らなくては。

ハルバートは自室に戻り、王都ギルド長スウェイン卿に手紙鳥を書いた。

もし、アメリアの居所を知っていたら、

彼女を狙う貴族から守ってほしいと。

返事はすぐに来た。

「すでに対策済みだ」

と。

ーーーーーーー

「うまく受け取ってくれて良かったわ」

「ええ」

マダム・カリファと黒髪の新人助手は並んで歩いている。

「悪いですね、こちらの仕事に巻き込んで」

黒髪の助手はそう言ってカリファに目配せをする。

「いいえ、望むところですわ。

わたくしのことまで気に掛けて頂けて恐縮です」

カリファは軽く立ち止まり、恭しく頭を下げる。

「いいえ、あなたに危害が及べばアメリア嬢も悲しむ」

肩をすくめて助手は受け流す。

「でもやっぱり、ただ者ではなかったのですわね、彼女」

「ただ者だと思っているのは彼女自身だけですよ。

アメリア嬢は面白い人で、

褒めちぎるとかえって逃げていくんです。

しかし此度の国難にも、

素晴らしいアイデアを提供してくれましたね。

実に彼女らしい」

「ええ。この街の宝ですわ」

「大事にされているようで良かった」

助手は嬉しそうに笑った。

ーーーーーーーー

「ごめんくださいませ」

魔術師ギルドの魔術師詰め所に、場に似つかわしくない嫋やかな声が響いた。

キースは書類仕事の手を止めきょろきょろと見回すが、他に誰もいない。

最近は火事のこともあり、夜間待機の仕事も増えたため、日中は少し手薄になっているのだ。あいにくどの隊も出払っているらしい。

キースは立ち上がり、声のした出入り口のほうへ向かう。そこには軽いデイドレスを着た色の白い女性が立っていた。

その華奢な鎖骨や滑らかな髪、線の細さにキースは目を奪われる。

「あの、依頼でしたら階下の窓口でお受けしておりますよ」

王都ギルドは大きいため、依頼は1階窓口で申請し、上層階に詰める魔術師と直接交渉することは基本的にはない。

「ええ、あの・・・

わたくし、ダフネと申します。

あの、ハルバート様の・・・」

ここまで声に出すと、女性はちらり、とキースを窺い見た。

キースはピンと来た。

この美しい女性は『蒼の隊』ハルバート・イーヴランドの婚約者の姫だ!

『さすが貴族の姫、なんて淑やかなんだ』

キースは慌ててあたりを見回す。

やはり誰もいない。

これは自分が応対しても許されるはずだ。

「すみません、今は僕しかおりませんで」

「いいえ、構いませんわ。

もしよろしければお話できますかしら」

「も、もちろん!

ちょっと待っててくださいね!」

キースは詰め所奥の応接スペースに飛び込み、大慌てで空気を入れ替え、紅茶のための湯を沸かした。

「ど、どうぞこちらへ!」

応接スペースにダフネを迎え入れたキースは、椅子を引き着席を促し、拙い手つきで紅茶を淹れた。

「お口に合うかどうか」

「お心遣い痛み入ります。ありがとう」

にこりと微笑まれ、キースは頬の熱が上がるのを感じる。

「そ、それで、本日はどういったご用件でしょうか」

こくりと紅茶を一口飲み込み、話すのをしばし逡巡したダフネは、ごく小さな声でこう切り出した。

「・・・わたくし、ハルバート様に拒絶されてしまいましたの」

「『蒼の隊』が婚姻を拒んでおられるとは聞きました。

でもまさか、お相手があなたのような美しい方だとは」

「ありがとう、優しいのね」

「そんな・・・」

ダフネはもう一口紅茶を飲む。

「他に好いた方がいらっしゃるとか、

お家の方針に抗っていらっしゃるとか、

色々とお聞きするのですけれど。

わたくしは、彼の口から、

彼の言葉が聞きたい・・・」

そう言って、白魚のような両の手で顔を覆った。

『泣いておられるのか』

キースは盛大に戸惑った。

「あ、あの、ダフネ様」

「・・・わたくしは、彼に会いたいのです。

わたくしのことをどう思っているのか、

どうして拒まれるのか。

どんなに残酷でもいいから、

お姿を見せて欲しい・・・」

そう肩を震わせるダフネを見て、キースの内なる正義の炎はふつふつと燃え上がった。

『ハルバート様は確かに凄いお人だが、

このような美しいご婚約者を泣かせるなど、

男の風上にもおけない!』

「なるほど、

ダフネ様はハルバート様に会いたいのですね」

「はい。

魔術師の皆様ならば何か、

彼の行き先に心当たりがないかと思ったのです。

例えば、彼の思い人の心当たり、とか」

指の隙間からダフネの濡れた視線がキースへ絡む。

それに気づかぬキースは鼻息荒く宣言した。

「わかりました。

あなた様の願い、このキースが叶えます」

「・・・え・・・」

「お任せください。

必ずやあなたの御前に、

ハルバート様をお連れしましょう」

「え、あ・・・」

ありがとう、ときょとんとするダフネを見て、

なんて可愛らしいのだろうかとキースは脂下がった。

魔術師ギルドを通さず依頼を受けることに決めたキースは、私的な連絡先をダフネに渡す。ダフネからも屋敷の連絡先を聞き出し、また鼻息荒くエントランスまでエスコートした。腕にかかる細い手をちらりを盗み見、己の今日の幸運に感謝した。

「それでは。

近いうちにご連絡致します」

「ありがとう。

ね、念のため、なのですけれど・・・

どういう策を取られるか共有していただける?」

「もちろん。

あなた様の望みはすべて叶えましょう」

では、また後日。

名残惜しそうに振り返っては去って行くダフネの背中を見送ると、キースはきりりと顔を上げた。

『彼女を救うのは僕だ。

もしハルバート様が彼女の元を去ったとしても、

僕ならお慰めできる』

もう少し先になるかもしれないが、単騎隊の称号を得た際には堂々と彼女の手を取ることもできる。

『策を練ろう。完璧な策を』

今日予定していた火付け玉の投入は延期だ。

『お友達』に会いに行こうと決め、キースは拳を強く握った。