作品タイトル不明
45.白骨樹の森を更地にして、アスファルト道路を敷く
鋼鉄の城壁が完成し、拠点の守りは完璧になった。
次はいよいよ、領地の中心にある「廃棄都市」への進出だ。
廃棄都市デッドエンド。
それは色んなモノ――壊れた道具から、生きた人間まで――が捨てられ、形成された巨大なゴミ捨て場だ。
伝承によれば、昔この森に「役立たずの召喚者(異世界から召喚された勇者候補)」が捨てられたことがきっかけで、あの都市は造られたという。
そこもわたしの領地の一部であり、そこに住まう人々はわたしの領民だ。
彼ら、彼女らを養い、幸せにするのも、領主であるわたしの仕事である。
しかし、あそこはあまりに巨大なゴミ捨て場であり、無法地帯すぎて、今までは手つかずだった。
そもそも領主であるわたしの衣食住すら整っていない状況で、助けに行く余裕なんてなかったからだ。
けれど、今は違う。
SSR級の家臣が増え、拠点も盤石になった。
地盤は固まった。いよいよ、廃棄都市の領地改革に乗り出す時だ!
だけど、まず、そこには大きな問題があった。
道がないのだ。
「うへぇ……相変わらず不気味な森だねぇ」
わたしは、屋敷から少し離れた場所に広がる森を見上げて、げんなりとした声を出す。
そこにあるのは、緑豊かな木々ではない。
まるで骨のように白く乾いた木が、墓標のように立ち並ぶ「白骨樹の森」だ。
地面は木の根で凸凹だし、ぬかるんでいる。
ここを馬車で通ろうとすれば、車輪がハマって動けなくなるだろう。
しかも、物陰からは魔物が虎視眈々とこちらを狙っている気配がする。
「ここを抜けないと、廃棄都市には辿り着けない。……よし、やろっか、トール」
「うむ。餓狼団の連中を使って、周辺地図は作成済みじゃ」
凄腕職人のトールが、作業台の上に大きな羊皮紙を広げる。
そこには、ガラたち餓狼団が調査した地理情報が書き込まれていた。
一番手前の安全地帯が、わたしたちのいる【領主の館】。
一番奥にある巨大な黒いシミが、【廃棄都市デッドエンド】。
そして、その間を遮るように広がっているのが、この【白骨樹の森】だ。
「問題は大きく二つ。白骨樹海に魔物がおること、そして道がガタガタであることじゃ」
そもそも舗装なんてされておらず、あるのは獣道くらいだという。
「ごめんね、トニー」
一緒に話を聞いていた、少年の部のリーダー、トニーに、わたしは頭を下げる。
「え、どうしたんだよ、リオン様?」
はて、とトニーが不思議そうに首をかしげる。
「こんなガタガタな道、往復させちゃって」
彼ら少年の部には、資源回収のために廃棄都市でのゴミ拾いを任せていた。
トニーや桜香たちが「大丈夫」と言うから、特に気にせず任せてしまっていたけれど……。
こんな危険で歩きにくい道を、毎日往復させていたのだとしたら、子供の彼らにかなりの負担を強いていたことになる。
「ごめんね」
「ああ、いいっていいって。俺ら、昔から通い慣れてるしさ。それに桜香姉ちゃんがいるし」
桜香はこう見えて、結構強いのだ。
火の異能を扱い、襲ってくる魔物をド派手に追っ払ってくれるらしい。
「ありがとう」
でもやっぱり、対応が後手に回ってしまっていたのは良くない。
領主として、領民の暮らしを向上させるのが第一だ。
これからは、安全で快適な職場環境(通勤ルート)を提供しなくては!
わたしは覚悟を決める。
道がないなら、作ればいい。
それも、魔物すら寄り付かない、最高の道を。
「ガラ、グーラ、周囲の警戒をお願い。ちょっと派手にやるから」
「おうよ! 任せときな、ご主人様!」
「リオン様の『お掃除』ですね。楽しみです」
護衛の二人を下がらせ、わたしは白骨樹の根元に手を触れる。
イメージするのは、目の前の障害物の「消去」。
一本一本切っていたら日が暮れる。
わたしのスキルは、もっと豪快だ。
「範囲指定……対象、白骨樹および障害物!」
脳内でグリッド線が展開され、視界の中の森がロックオンされる。
「――遠隔……【買取】!」
ズボボボボボボボボボッ!!!!
凄まじい音が響き渡る。
光の奔流が森を飲み込み、範囲内の木々、岩、隠れていた魔物ごと、根こそぎ吸い込んでいく。
数秒後。
そこには、森を一直線にくり抜いたような、広大な「更地」が出現していた。
これが、わたしのスキル【リサイクルショップ】の機能の一つ、買取。
ゴミを買い取り、ポイントに変える力だ。
ゴミとは「所有者のいない不要品」のこと。
すなわち、誰も管理していない枯れ木や石ころなども、わたしにとってはゴミ(資源)に分類されるのである。
前は一個ずつ触れないと買い取れなかったけど、レベルが上がって、こうして広範囲のゴミを一気に拾えるようになったのだ。
「ひゅ~! 相変わらずデタラメだねぇ!」
「これで視界は確保。……が、主リオンよ」
ガラが感心し、グーラが足元の土を突く。
「木はなくなったが、地面は泥だらけじゃのう。これでは馬車は走りづらい」
「うん、そうだね。だから――ここからが本番だよ」
わたしは【 貯蔵(ストック) 】を開く。
取り出したのは、黒いドラム缶だ。
蓋を開けると、中にはドロドロとした黒い液体が入っている。
「リオン様、なんです、その……臭いお水は?」
「うっ、鼻が曲がりそうな臭いじゃな……」
アナがハンカチで鼻を押さえ、トールも顔をしかめて覗き込む。
この世界の人には馴染みのない、独特の刺激臭だ。
「これは『廃油』だよ」
「はい……ゆ……?」
「前回の戦いで、戦車や船を 分解(リファイン) した時に出た残りカスさ」
そう、アスファルトの原料だ。
アスファルトというのは、簡単に言えば「砂利」と「油」を混ぜて固めたものだ。
この世界には、石や砂利なら腐るほどある。
そして油は、イキリ太郎たちからの「プレゼント」が大量にある。
「砂利と油を混ぜて……【 仕様変更(リメイク) 】!」
わたしは更地にばら撒いた砂利と廃油に魔力を通す。
イメージするのは、現代日本の「舗装道路」。
継ぎ目がなく、平らで、雨の日でも滑らない頑丈な道だ。
ジュワァァァァ……!
黒い油が砂利の隙間を埋め、熱を持って結合していく。
土の上に、漆黒のカーペットが敷かれていくようだ。
わたしはそのまま走り出し、更地の奥へと舗装を伸ばしていく。
「できた……!」
数十分後。
そこには、森を貫く一本の「黒い道」が完成していた。
まだ熱を帯びているけれど、冷えれば岩よりも硬くなる。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
試しに馬車を走らせてみたトールが、仰天して声を上げる。
「揺れん! 全く揺れんぞ! 石畳のようなガタガタがない! まるで氷の上を滑っているようじゃ!」
「これなら、物資を積んだ馬車でも全速力で走れますね!」
家臣たちも大絶賛だ。
この世界の道は、良くて石畳、基本は土だ。
振動がなく、泥はねもしないアスファルト道路は、まさに革命と言っていい。
わたしは完成した黒い道を見渡す。
これで、廃棄都市への 補給線(ライフライン) は確保した。
さあ、いよいよ乗り込むぞ。魔窟の大掃除に!