軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

04.古い物をリメイクし、高級ベッドと寝巻きを作る

わたしとアナスタシア(長いから『アナ』って呼ぶことにした)は、夕焼けに染まる白骨樹海を抜けて、拠点となる屋敷へと戻ってきた。

「ここが、リオン様の……お城、ですか?」

「うん。まあ、今のところは『廃墟』だけどね」

目の前に聳え立つのは、屋根が半分抜け落ち、壁が苔むしたボロボロの洋館だ。

扉は腐り落ち、窓ガラスは一枚も残っていない。

隙間風がヒューヒューと吹き抜け、中からはカビと埃の饐えた臭いが漂ってくる。

アナが、引きつった笑顔で固まっていた。

無理もない。彼女は元公爵令嬢。こんなお化け屋敷みたいな場所、見たこともないだろう。

「あの、リオン様。わたくし達、今夜はここで……?」

アナの声が震えている。

彼女は不安そうに自分の腕を抱き、華奢な肩を小さくすくませた。

海に捨てられ、死にかけ、連れてこられたのがこの廃墟だ。

彼女の目には、ここが「絶望の終着点」に見えているのかもしれない。

でも、わたしの目には違う景色が映っていた。

(ばあちゃんが言ってたっけ。『家も道具も、人間と一緒さ。壊れてるんじゃあない、疲れてるだけなんだよ』って)

前世の長野の山奥。

雪深い田舎で、古道具屋を営んでいたおばあちゃんの背中を思い出す。

ボロボロの鎌も、欠けた茶碗も、おばあちゃんの手にかかれば、また立派な「現役」に蘇った。

今のわたしには、その 魔法(スキル) がある。

「大丈夫だよ、アナ。家がちょっと疲れてるだけだから。今からわたしが肩を揉んであげる」

「か、肩……ですか?」

キョトンとするアナの手を引き、わたしは屋敷の中へと足を踏み入れた。

中はさらに酷い有様だった。

床には腐った木材が散乱し、天井の穴からは一番星が見えている。

「よし、まずはお片付けだね! 全部しまっちゃおう!」

わたしは張り切って、床に散らばる瓦礫や、腐った家具に次々と手を触れた。

まずは手当たり次第に【在庫(収納)】へ放り込み、後でゆっくり選別すればいい。

そう思っていたのだけれど。

ブブーッ!!

突然、脳内でけたたましい警告音が鳴り響いた。

わたしは慌てて、スキルの詳細ウィンドウを展開する。

~~~~~~~~~~

【警告:倉庫容量オーバー!】

▼現在のステータス

倉庫レベル:1

最大容量 :四畳半(物置クラス)

空き容量 :0%(満杯)

▼これ以上【在庫】にできません。

続けて回収するには、以下のどちらかを選択してください。

①【 在庫(キープ) 】:倉庫の中身を整理して、空きを作る。

②【買取(売却)】:対象物をその場で消滅させ、ポイントに変える。

~~~~~~~~~~

「ええっ!? もう一杯!?」

わたしは驚愕してウィンドウを二度見した。

容量が『四畳半』しかないことは知っていたけれど、まさかこんなに一瞬で埋まるとは思わなかった。

家具や瓦礫のかさばり具合を甘く見ていた。調子に乗って詰め込みすぎたせいで、もうパンパンになってしまっている。

「うぅ……なんでもかんでもポケットに詰め込む子供みたいになっちゃった」

わたしがガックリと項垂れると、アナが心配そうに覗き込んでくる。

「どうなさいました?」

「ううん、なんでもない。……よし、作戦変更!」

わたしは気を取り直して、パンパンと両頬を叩いた。

無限にしまっておけないなら、ルールは簡単だ。

「いるもの」はキープ。「いらないもの」はポイントに変える。

ここからは、容赦ない「選別(断捨離)ゲーム」の時間だ。

「アナ、あの腐った床板は?」

「使い物になりませんわ」

「じゃあ、 売却(サヨナラ) !」

わたしは床板に触れ、念じる。

――【買取(売却)】!

シュンッ!

手元からゴミが消滅し、代わりにチャリンという音が鳴る。

倉庫を圧迫していた産業廃棄物が、一瞬にしてポイント(資源)に変わったのだ。

「すごい……ゴミが消えていく……」

「ゴミじゃないよ、アナ。これは『次の誰かの役に立つための旅立ち(ポイント化)』なの」

おばあちゃんの口癖を借りて、わたしは次々と不用品をポイントに変えていく。

カビたカーテンは売却。

でも、汚れを落とせば使えそうな銀の燭台はキープ。

片足の折れた椅子も、直せば使えるからキープ。

そんな風に、二人で宝探しのような掃除を続けること一時間。

屋敷の中は見違えるほどスッキリし、わたしの懐には掃除で稼いだ『450RP』が貯まっていた。

「よし、資金は十分。……アナ、今日の寝床を作ろう」

わたしは2階にある、かつての主寝室へと向かった。

部屋の中央には、天蓋付きベッドの残骸が鎮座している。

わたしは、おばあちゃんが道具を慈しむ時のように、優しくそのフレームに手を触れた。

「今までお疲れ様。……さあ、もう一度綺麗になって、アナを温めてあげて」

心を込めて、スキルを発動する。

――【 商品修繕(リペア) 】!

ヴィィィィン……ピカーッ!

温かな光が部屋を満たし、カビ臭い空気が一掃される。

光が収まると、そこには王族が使うような最高級ベッドが蘇っていた。

磨き上げられた黒檀のフレームは濡れたような艶を放ち、雲のように分厚いマットが誘うようにそこにある。

シーツは雪のように真っ白で、清潔なリネンの香りがふわっと漂う。

「……ふわぁ」

アナが感嘆の息を漏らし、吸い寄せられるようにベッドへ近づく。

そっとシーツに触れる指先が、その柔らかさに震えた。

「魔法みたい……。あんなにボロボロだったのに」

「言ったでしょ? 磨けば光るって」

わたしはエッヘンと胸を張った。

でも、そこでふと気づいた。

アナの華奢な肩が、小刻みに震えていることに。

無理もない。彼女はさっきまで海に浸かっていたのだ。ドレスは生乾きで重く、肌も潮風でベタベタしているはずだ。

これじゃあ、せっかくのベッドも濡れてしまうし、何より風邪を引いてしまう。

「ごめん、気が利かなくて。……お風呂はまだないけど、せめてこれを使って」

わたしはさっき【在庫】しておいた、虫食いだらけのカーテン(かつては高級なシルクだったもの)を取り出した。

これをただ直す(リペア)だけじゃ、新品のカーテンに戻るだけだ。

だから使うのは、もう一つのスキル。

イメージするのは、吸水性抜群のタオルと、肌触りの良い寝間着。

「形を変えて、役立っておくれ。――【 仕様変更(リメイク) 】!」

ヴィィィィン……ピカーッ!

淡い光と共に、古びた布切れが、真っ白でふかふかのバスタオルと、滑らかな絹のネグリジェへと姿を変える。

リメイクしたての商品からは、乾燥機から出したばかりのような、お日様の匂いがした。

「はい。これで身体を拭いて、着替えるといいよ」

「……あ……」

アナは涙ぐみながら、温かいタオルを受け取った。

濡れた髪と肌を丁寧に拭い、さっぱりとした着心地の良い服に身を包むと、彼女はようやく人心地ついたようだった。

「じゃあ、わたしは隣の部屋で寝るから。おやすみ、アナ」

わたしは寝室のドアに手をかけ、振り返った。

最高のベッドと着替えを提供した。これでもう不安はないはずだ。

「あ、あのっ!」

背後から、服の裾をキュッと掴まれた。

振り返ると、アナが真っ赤な顔をして、俯いている。

「……その、リオン様」

「ん? どうしたの?」

「い、いえ……ベッドは素晴らしいのですけれど……」

彼女は言い淀み、それから蚊の鳴くような声で言った。

「……一人だと、広すぎて……少し、怖くて……」

アナは上目遣いでわたしを見つめ、恥ずかしそうに頬を染めている。

その言葉を聞いて、わたしはハッとした。

裾を掴む彼女の手は、小刻みに震えている。

昼間の恐怖――暗い海に沈んでいく感覚が、夜の静けさと共に蘇ってきたのかもしれない。

こんな広い屋敷に一人ぼっちじゃ、心細いに決まっている。

(……そうだよね。物は直せても、心の傷はすぐには直らないか)

わたしは自分を恥じた。

機能や効率ばかり考えて、一番大切な「安心」を忘れていたなんて。

おばあちゃんにも笑われてしまう。

わたしはアナの手をギュッと握り返し、困ったように笑ってみせた。

「まー、わかったよ。主人が部下のメンタルケアをするのも、仕事のうちだからね」

「……いいのですか?」

「もちろん。背中くらい、いくらでも貸してあげる」

わたしがベッドに飛び込むと、ボフンッと心地よい感触が体を包んだ。

続いて、アナも遠慮がちに隣へ潜り込んでくる。

「……温かい」

アナがほっとしたように息を吐き、わたしの背中に身を寄せてきた。

背中越しに、彼女の体温と、トクトクという心臓の音が伝わってくる。

「おやすみ、アナ」

「……はい。おやすみなさいませ、リオン様」

その夜、廃墟の屋敷に、小さく穏やかな寝息が二つ重なった。