軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未來の皇家③

しばらく、誰も口を開かなかった。

灯火が静かに揺れる。

遠くから、夜の京の音が微かに聞こえていた。

戦国という争いの絶えぬ時代。都である京は、荒れていた。

人々も飢えに晒されていた。

けれどこの小さな部屋だけは、不思議と穏やかだった。

やがて… 方仁親王がぽつりと呟かれる。

「……未来の者たちは、皇家を不要とは言わぬのか」

その問いは、あまりにも静かだった。

その中に滲んでいた不安に気づいてしまった私(長慶)は、即答できず私(長慶)は息を詰めた。

今の、戦国の皇家は弱い。

武もない。銭もない。軍もない。あるのは権威だけ。

だからこそ、誰よりも分かっているのだ。

“必要とされなくなる恐ろしさ”を。

私(長慶)はゆっくり答えた。

「言う者はおります」

嘘はつけなかった。

なぜなら、未来では、様々な意見があるからだ。

天皇制を重んじる人もいれば、不要だと言う人、もっと変えるべきだと言う人もいた。

それは当然だ。二千年以上も続けば、一つの考えだけになるはずがない。

私(長慶)の言葉に『はるちゃん』が少し不安そうに目を伏せた。

私(長慶)は言葉を続ける。

「けれど」

顔を上げる。主上の顔を見る。

「それでも、残したいと思う者の方が多いのです」

主上が静かにこちらを見る。

「何故だと思うか?」

主上の問いの応える。

「……安心、でしょうか」

「安心?」

「はい」

私(長慶)は続く言葉を探した。

「未来の国は、この時代とは比べものにならぬほど豊かになります」

戦国の時代に比べれば、信じられないほど贅沢だ。

日常的な命の危険に晒されることは、少なくとも令和の日本ではなかった。

憲法によって認められた『生存権』によって、行政の保護も受けられた。

食がある。服がある。家がある。多くの人が、飢えずに生きられた。

けれど…

「豊かになっても、人は不安を失いません」

孤独。災害。争い。分断。病気。

時代が進んでも、人の心は簡単ではない。

「そんな時、“変わらず在るもの”は、人を安心させるのです」

静かな沈黙。

「千年前にも居た。今も居る。たぶん千年後も居る」

私(長慶)は主上を見る。

「それだけで、救われる人がいます」

主上は、しばらく黙っておられた。

「……祈りのようなものか」

「近いかもしれません」

方仁親王が、ふっと笑われる。

「面白いな」

「え?」

「余はずっと、皇家とは“権威”であると思っていた」

静かな声。

「だがそなたの話を聞くと、まるで“記憶”のようだ」

私(長慶)は息を呑んだ。

その表現は、あまりにも的確だった。

記憶。

確かにこの国が、ずっと積み重ねてきた時間そのものかもしれない。

嬉しかったこと。苦しかったこと。栄えた時代。滅びかけた時代。

全部を抱えながら、それでも続いている存在。

それが(未来の)天皇制なのかもしれない。

『はるちゃん』が、そっと主上の袖を握る。

「おもう様」

「なんだ、はる」

「未来まで続くのでしょう?」

幼い問いだ。

主上は、娘の頭を優しく撫でられた。

「……そうらしい」

その声は、どこか安堵していた。

すると、方仁親王が、こちらを見ながら不意に言った。

「稀仁」

「は」

「未来の者たちは、余をどう見る」

その問いに私(長慶)は固まった。

いや待って。それ本人が聞く?

しかも後の正親町天皇本人が? 歴史オタクなら卒倒案件だ。

「その……」

どう言えばいい。

戦国の混乱期における織田信長との関係?

いや、今の時点であれはまだ不確定要素だよね、信長産まれてないはず。

でも史実で彼(方仁親王/正親町天皇)が行ったことを加味して考えてみる。

朝廷維持。禁裏修復。未来では、かなり重要人物扱いだ。

私(長慶)は慎重に答えた。

「“苦しい時代に、皇家を繋いだ帝”と」

方仁親王が少し目を細める。

「良く言いすぎではないか?」

「事実です」

私(長慶)は真っ直ぐ言った。

「未来から見ると、今は本当に危うい時代です」

断絶していても、おかしくなかった。

「それでも続いた」

それは絶対簡単なことではない。絶対的な権力者(天下人)から皇家を守ったのだから…

「後の世の人は、ちゃんと見ています」

方仁親王は、しばらく黙っていた。

やがて、小さく笑う。

「……それなら」

その顔は、少しだけ青年らしかった。

「もう少し頑張ってみるか」