作品タイトル不明
3-08
「…というわけで、内田様と私が嫌いな佐久間氏が、隣の学校に来ることになるかと思います。ごめんなさい。先に謝ります」
「…はぁ〜〜〜」
過去最大のため息。そりゃそうだよな。嫌いって公言しちゃうくらいだもん。
「もう決定事項なんだな?」
「はい、残念ながら勝様がそのように動いてます」
「それが学校にとって、調所にとって効率が良いと判断したんだな?」
「はい、恐ろしく効率が良いです」
「…はぁ〜〜〜」
二回目。
「とりあえずこの屋敷と学校を行き来できんよう、壁を作れ」
「はい、手配済みです。横須賀の建築費に乗せて請求するよう、親方には伝えてあります。内田様の持ち出しはありません」
「…いや、ちょっと待て。横須賀に移ったら、あの学校はどうする?」
「何も決まっておりません」
「ワシが買う。関流の塾として使う。今まで散々振り回されて来たんだ。それくらいのワガママ、勝様に飲ませろ。お前の役目だ」
「かしこまりました。では壁はどうしましょうか?」
「ワシが親方と、どのような壁にするか打ち合わせすると伝えておけ」
「はい」
それでも壁は作るのね。でも内田様、上手い着地点だ。良い落とし所だと思う。どうせ幕府は上手く使えない。場所も広さも中途半端。持て余す箱物なんか、さっさと払い下げた方が得。早速勝様に、と思ってたら、思わぬ来客。
「御免、内田殿は?あれ?藤二?藤二じゃないか。まだ元服してないのか?」
越前に帰ってた橋本さんだ。
「ご無沙汰してます。お元気でしたか?まだ諸般の事情により、藤二のままです」
地震のゴタゴタの後すぐに越前に帰られたが、また江戸に戻って来たとのこと。そんな話をしてたら今度はまた知った顔。あの広いデコはそうそういない。
「大村さん!」
「藤二か!?」
どうも話を聞くと、お二方とも、藩の立場があると自由に動けないらしい。なるほど。得難い人材は引き抜くに限る。これも勝様に要相談。無茶振りされた分だけ、無茶振りし返さないと。
とりあえず横浜行きの船に2人を乗せ、勝様のお宅へ向かう。実はこの2人の名前は、前世からきちんと覚えていた。橋本左内と大村益次郎。でも、お得意の「何をしたか具体的に覚えてないけど、必ず幕末に出てくる有名なバイプレイヤー」的な記憶。当てにならない。だからこそ、以前調所に来た時には変な先入観を持つ可能性を鑑みて、積極的な接触は控えてた。でもまあ、2人とも相当賢い。紛れもない天才。特に大村さんは友さんと並び立つんじゃないか、ってくらい学者肌な印象。橋本さんは橋本さんで、杉先生の次くらいにお若いのに、切れ者とか聡明って表現の方がピッタリかも。
あれ?この2人いれば佐久間氏要らなくね?多分ここ数年のブランクを埋める時間が多少は必要だろうが、学生と並ぶほどの時間は必要ない。なんならいきなり教師をやらせても、教えるために教科書読みながら理解してくれそう。
勝様のお宅へ到着、家主の帰りを待たせてもらう。コンペの結果を持って来た。だいぶ悪辣な方法で案が出来上がった。各国に案を出してもらう。A案からE案まで5つのアイディアが出揃った。自国が出した以外の4つの案を見せてどういう点が優れているか、弱点はどこか、補強すべきはどこかをシミュレーションしてもらうってことを5ヶ国同じタイミングで仕掛けた。
「オタクの案、素晴らしいね。出してもらった案を参考にしようと思うから特別に見せるけど、これ他の国の案、どう思う?」
まぁ他国の案を貶しまくってくれる。いくら政治家然としてようが、元は軍人。その国の保有する最高技術まで推察可能なくらい喋ってくれる。アルコール入れば更に効果覿面。簡単に踊ってくれて、労せずにアイディアの種が手に入った。ちなみにコンペの賞金は綺麗に5等分、原資は賭けの胴元で手にしたお金。結果として元手かからずアイディア入手。満足満足。
あとは各々が持ち寄ったアイディアを叩き台にディスカッションしていくだけ。他の人がどう思ったかは分からんけど、個人的には同じ島国のイギリスが、一段上の視点で考えてるように思えた。感覚として「港を守る」ではなく「島国を守る」って意識なのかな?あとはどうしても今後、軍港の数が必要になるだろうし、スタートこそ金かかる。可能な限りスモールスタートにしておいて、拡張性と汎用性を兼ね備えた方が効率的だろう。
わずか2週間ちょっとでここまで進めば御の字じゃないかな?経過報告としては上々だろう。そんなこと考えてたら勝様帰って来たっぽいな。足音が近づいて来てる。いつも悩むんだよな、どのタイミングで頭を下げておくべきなのか。
「藤二!佐久間のヤツ、せっかくの誘いを断って来たぞ。『まだ京都でやるべきことが残ってる。だから動けん』だと。どうする?」
「そうですか。じゃあもう必要ない、とでも返して下さい。それよりも引き抜いて欲しい人がいます。幕命で調所に寄越してください。長州の大村益次郎さんと、越前の橋本左内さんです。お願いします」
「要らない?あれだけ欲してたのにか?その二名については可能だと思うが」
「良いです良いです。そのお二方がいる方が、調所にとっても海軍学校にとっても何十倍も有益です。むしろ余計な神経使わなくて良い。もっと早く気付けば良かったです。すいませんでした」
「じゃあ佐久間にはそのように返事書くぞ。本当に良いのだな?」
「はい」