作品タイトル不明
【22】
翌日にはアメリーが仕立て屋を屋敷に呼んだ。なんとなく既視感のある状況である。再び体を採寸され、夜会用のドレスが注文され、今の体形に合った服を見繕われる。少し腰回りと上半身が苦しいと思っていたが、やはり数値が大きくなっていた。
「やっぱりキレイになったわね」
アメリーがドレスを試着するグレースを見て言った。前よりもより似合っている、と感想をもらった。
「少し太ったと思うのですが」
「今の状態で普通だと思うわ。……はっきりと言うと、胸が大きくなったのだと思うけれど」
「……」
アメリーが本当に直球に言うので、グレースは思わず自分の胸元に視線を落とした。どう見ても発育不良だった結婚当時と比べれば、明らかに肉がついている。かろうじてあるのがわかる程度だった胸も、手でつかめるくらいにはなっていた。
「揉めば大きくなるらしいわよ」
「俗説ですよね?」
「そうとも限らないわよ」
義理の母と何の会話をしているのだろうか。領地から戻ってきてから思うことは、結婚したばかりのころ、アメリーはグレースにかなり気を使ってくれていたのだな、ということだ。こういうさっくりしたところが、ジョゼットと似ていて親子だと感じる。
「ついでにネグリジェも買いましょうか」
眠れれば何でもいい、と言える雰囲気ではなかったので、アメリーに合わせてうなずいておいた。アメリーは満足げにうなずく。
「グレースさんには清楚なものが似合いそうね」
そう言うと、仕立て屋に一式を出させる。慣れている仕立て屋はネグリジェも持ってきていた。曰く、
「年若いご夫婦がいらっしゃるので、必要かと思いまして」
とのことだった。商魂たくましすぎる。
「あの子は多分、正統派なものが好きね。白いレースとか、フリルとか。グレースならレースかしら。グレースも、ユーグに着てほしいものがあれば言うのよ」
「……そう言うのは、よくわからないのですが……」
嫁いできた当初に比べればだいぶ自分の好みもわかってきて、意見を言えるようになったと思うが、人に着てほしいものと言われるとわからなくなる。
「ユーグ様は格好いいので、何を着ても似合うと思いますが……」
周囲が沈黙した。しばらくして気づいたグレースがアメリーの方を見ると、これ見よがしにため息をつかれ、グレースはびくっと体を震わせた。
「案外、似たもの夫婦ね、あなたたち」
「は、はあ……」
グレースはあそこまで朴念仁ではないと思う。たぶん。
結局、アメリーは勝手に息子のパジャマを購入した。グレースは思わず苦笑してしまう。グレースのネグリジェと対になるようなデザインだ、と気づいたのは注文した後のことだった。アメリーはやり手だった。もしくは、グレースが鈍いかどちらかだ。どちらもの可能性もある。
多少は目が肥えてきたとはいえ、まだアメリー任せの部分が多い。情けなくてため息が出る。
「どうした。疲れたか?」
仕事から帰宅したユーグが、グレースの顔を覗き込んだ。グレースはふるふると首を左右に振る。
「いえ……ちょっと自分が情けないだけです」
「グレースは情けなくはないと思うが」
「……服飾のこと、まだよくわからなくて……今日も、結局アメリー様に選んでいただきました」
「ああ……」
ユーグは納得したようにうなずき、慰めるつもりなのか言った。
「大丈夫だ。俺も苦手だ」
きっぱりと言い放ったが、それはそれでよいのだろうか。
「……ユーグ様、服飾系の商会のお仕事、向いていないのではありませんか」
「……自分でも思っている」
人見知りなところがあるし、服飾のこともよくわからないと言う。それは向いていないと言うのではないか。好きでやっているのならともかく、ユーグの普段の振る舞いを見る限り、服飾が好き、と言うこともなさそうだ。
「……それを努力で補っているのがすごいと思います」
生来の生真面目さが発揮され、それなりに見えているのだと思う。おそらく、ユーグは経営自体は苦手ではないのだ。真面目に勉強し、自分ができるように作業を落とし込み、革新的ではないが堅実に運営している。グレースは自分の祖父に似ているな、と思った。
「……お前は優しいな」
ふっと表情を緩め、ユーグは言った。フォートレル男爵家の領地に行ってから、こうした少し気の抜けた表情を見せてくれるようになったな、と思う。アメリーもだが、男爵家のみんなもグレースに慣れてきているのだ。
手を伸ばして隣に座ったユーグの頭を撫でてみる。ユーグは目を細めると、グレースをぎゅっと抱きしめ、その膝に頭を乗せた。いわゆる膝枕状態だ。
「夕食の前に起こしてくれ」
「わかりました」
グレースがうなずくと、ユーグは満足げに目を閉じる。グレースはもう一度、その髪をゆるりとなでた。