軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4話:旅は過酷なものですわ

ガタゴト、という振動で目が覚める。

「ん……」

どうやら私は、盛大に爆睡していたようだった。夢も見なかったわ……。

体を起こすと、対面の座席にはルーズヴェルト卿とクラインベルク様がいた。二人とも、既に起きているようだ。

先に目が合ったのは、クラインベルク様だった。

「おはようございます、レディ・リンシア。よく眠れましたか?」

「おはようございます、クラインベルク様。お陰様でよく眠れましたわ。ですが、ごめんなさい。私、あの後すぐ眠ってしまいましたのね」

「お疲れだったのでしょう。魔道具調整で五日間も城に詰めておられましたから。少しでも回復されたなら良かった」

クラインベルク様の言葉に、私は曖昧な笑みを浮かべて答えた。

(魔道具調整もそうだけど、トドメはまた別なのだけどね……!!)

それから、私は大事なことを思い出した。

そうだわ!!呑気に寝こけている場合ではなかった。

「ルーズヴェルト卿!!早駆けの腕輪は──」

「それなら、問題ありません。確かにあれは、吸われる魔力量が規格外ですね。多少気分が悪くなりましたが、今は全く」

「問題ない……!?結構な魔力を持っていかれたはずですわ。気分が悪いとか、倦怠感があるとか、発熱があるとか……そういうのはありません!?」

「はい」

私の勢いに、ルーズヴェルト卿が苦笑して答えた。

(ほ、本当に~~~~!?)

思わず、ルーズヴェルト卿をまじまじと見つめてしまう。

フェルスター卿と王太子殿下の魔力量が豊富、というのは分かるわ。魔力というものはよほど薄くなければ、その流れが視認できるもの。だから、二人の魔力量の高さも教えられなくとも知っていた。もちろん、セリーナの魔力量も高い。流石は聖女様である。

だけど……

(ルーズヴェルト卿はあまり魔力量が高いと思わなかったのよね……)

失礼かしら。失礼よね。

だから本人には直接尋ねなかったのだ。

でもそうとしか思えない。魔力の流れが薄いとか、魔力量が極端に少ないとかそういうわけではない。

ただ、平均的なのだ。ルーズヴェルト卿もクラインベルク様も、魔力の高さはごくごく一般的……のように感じられた。

だから、魔力が高いというルーズヴェルト卿の自己申告には驚かされたし、少し半信半疑だった。

彼から魔道具の調整を依頼された時、念を押して確認したのもそれが理由だ。

でも、これで証明された。今のルーズヴェルト卿は、無理をしているようには見えない。顔色も悪くはなさそうだ。

それならルーズヴェルト卿は早駆けの腕輪に、エルヴァニア国民の平均魔力量を持っていかれても問題ないということになる。その程度には魔力量に余裕があるということだろう。

それなら今度は『どうして魔力量の高さが視覚できないのかしら?』という疑問が湧いてくるが、今は放っておくことにする。

(ひとまず体調に問題ないようでなによりだわ……)

あの疲労困憊は、二度と味わいたくないくらいには酷いもの。

私がそう思っていると、ルーズヴェルト卿が短くため息を吐いた。

「確かに一度、酷く体調を崩しましたが……休憩を取ったら落ち着きました」

「回復したのなら良かったですわ」

早駆けの腕輪で吸われた魔力は、本来僅かな休憩では回復しない。それこそ数日間はグロッキーになることが約束されている。

そう思ったが、黙っておいた。根掘り葉掘り深く聞かれても、ルーズヴェルト卿も困るだろう。それに、エルドラシアに向かうにあたって、特別重要なことでもなかった。

私が適当に相槌を打っていると、ルーズヴェルト卿が首を傾げて、今度は私に問いかけてきた。

「しかし、本当にものすごい量を持っていかれるのですね。弱った人が使ったら、一発であの世行きになるのでは?」

「……なるほど。確かにそういう使い方もありますわね」

もはや殺人兵器のような扱いをされる早駆けの腕輪だが、その一方で私は意外な用途に目を瞬いた。しかしすぐに懸念点に気がつく。

「ですが、弱っているなら私でもトドメをさせそうですわ……。わざわざ魔道具を起動させるのは効率が悪いかと思います」

「それもそうですね」

今度はルーズヴェルト卿が納得したように頷く。

クラインベルク様だけが困惑顔で

「ご令嬢が手を下す必要はないかと思いますが……」

と突っ込みを入れた。それにハッとした。淑女が話す内容ではなかったことに気がついたのである。まだ睡眠が足りていないのかもしれない。

その後、私はもう一眠りしよう、と決めると、カーテンの隙間から窓の外を覗いた。もう陽はすっかり高くなっていた。

ここから、一週間かけて港に向かう。

そこからは十日の船旅だ。

一週間かけて港に到着した私たちは、タイミングよくその日の定期船に乗ることが出来た。

乗船初日の夜。個室のベッドで横になった私は、クッションを抱いて、今後の予定を頭の中で確認していた。

(エルドラシアの港で降りたら、そこからまた十日の馬車旅……)

良いクッションを用意したので臀部に痛みはないが、前回は苦労した。主に、お尻が痛くて。あんなに馬車旅が体に負担をかけるなんて、知らなかったのよ……。これでも私は、箱入り娘だったのだから。

だけど今回は、前回の反省を活かして、最大限心地良さを追求した。おかげさまで、腰も臀部も悲鳴をあげていない。

やはり、クッション。柔らかなクッションが決め手だったのだ。

船旅も、前回は船酔いしてしまって目も当てられない惨状だった。トイレの住人と化していたのは言うまでもないだろう。

今回は対策をして、あらゆる魔道具と薬を持ち込んでおいた。そのため、多少気分は悪いものの、前回に比べれば雲泥の差である。

(早く寝ましょう。寝てしまえば、あっという間だわ……)

とは言っても、まだあと九日あるのだけどね!!

そうして、船酔いと戦いながら、ようやく九日が経過した。その間、私は全く使い物にならなかったことは言うまでもないだろう。

エルドラシアの港に到着し、船を降りると、そこには思いがけない人が私を待っていた。

「待っていましたよ、リンシア。よく来てくれましたね」

「マリア先生……!?」

船着場のスロープを降りてすぐ、荷降ろしをしていると、声をかけられたのだ。振り向けば、そこにいたのはエルドラシア魔法学院でお世話になったマリア先生……の、 生霊(ドッペルゲンガー) がそこにいた。

彼女の姿は薄く透けていて、影もない。正しく生霊のようだ。こんな昼間から活動する生霊は嫌だけど。

「ドッペルゲンガー、ですの……?」

私が恐る恐る尋ねると、マリア先生の笑みが深くなった。

「私を超常現象扱いとは、面白いことを言いますね、リンシア。これは投影魔法の1つですよ。私が開発したものです」

凄いことをあっさり言ってのけるが、彼女が規格外なのはいつものことだ。