軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3話:淑女verもあるわよね。そうよね。

その後、蔵書室に向かった私は、すぐに弁護士名簿を確認した。名刺に記載された名前は、確かに名簿に載っていた。それに胸を撫で下ろす。

(……他人の名前を借りてる別人、という可能性もゼロではないけど、流石にその線はないわよね?)

何せ、お父様とは学生時代からの付き合いだというもの。時間があるなら、もう少しこの人物を調べたいところだけど……。生憎、明日には私はこの地を出立してしまう。

本当に、お父様はなんというタイミングで話してくれたのかしら……。

お父様を放置していたのは私だけど、もっと早くに教えてほしかった。

弁護士名簿を閉じると、私は自室に戻り、今度は名刺を別紙に書き写した。本当はこの原本、ではなかった。名刺を手元に置いておきたいのだけど……。

お父様が保管するのなら、構わないか。ないとは思うけど、紛失したり破棄したりしないよう伝えておかなければ。

それが済んで、諸々気になることを整理していれば、あっという間に時間は深夜を回っていた。

(夜中……夜中、だわ……!!)

頭を抱えたくなった。今日は早くに眠るつもりだったのに……!!

フローラが眠気覚ましに、と淹れてくれた紅茶を口にしながら、私はため息を吐いた。

(まあ、馬車で眠れるからいいか……)

馬車は、ルーズヴェルト卿と同乗することになるだろう。

魔道具の効果範囲からしても、馬車を二台用意するのは難しい。そもそもこの魔道具の対象は馬二頭だ。

馬車を二台用意しても、後続の馬車はあっという間に置いていかれてしまう。そのため、私とルーズヴェルト卿は同じ馬車に乗ることとなったのである。

……だけどさすがに、二人きりというのは差し障りがある。ありすぎる。

そう思った私は、王太子殿下に掛け合い、従僕の同行を許してもらった。

つまり、クラインベルク様もこの旅に同行する。

(本当はフローラを連れていきたかったのだけど……)

聖女対策本部の存在は、極秘だ。たとえフローラが相手でも、明かすことはできない。

そのため、私たちの同行者には【セリーナに違法魔道具使用の疑いがあることを知っている従僕、あるいは侍女】が求められたのだ。

そして、白羽の矢が立ったのがクラインベルク様だったのである。

ちらりと壁時計を見ると、時刻は三時を示していた。

「ひゃー……」

もはやそんな声しか出せなくなった私は、一つ伸びをしてから立ち上がった。

いい加減寝ないとまずい。というか現時点でまずいわ。だって起床まであと一時間しかない。

これは間違いなく馬車で寝る。確定だわ。

でなければ、寝不足のあまり変な言動をしてしまいかねないもの。

私は諦めの境地で考えながら、ベットに飛び込んだ。

(…………婚約者でもない異性に寝顔を見せるのは、淑女として言語道断!……だけど、もう仕方ないわ。背に腹はかえられない。このまま寝不足でふらついて事故を起こすよりはマシなはず……)

魔道具の起動を誤って問題を起こすよりは、ずっとマシなはず。そう考えた私は、ベッドに入っておやすみ数秒、一分後には爆睡していたのだった。

起床、四時。

出発、五時。

食事を摂ってから玄関を出ると、そこには既にルーズヴェルト卿とクラインベルク様の姿があった。

(睡眠不足のあまり)フラフラとそちらに向かうと、ルーズヴェルト卿が私の様子に気がついて眉を寄せた。

「おはようございます、レディ・リンシア。具合が悪いのですか?」

「おはようございます、ルーズヴェルト卿、クラインベルク様。これはただの睡眠不足ですの。お気になさらず……ふふふ」

あまりの眠さに、乾いた笑いが零れる。

なにせ、私はここ数日、睡眠時間を削りに削っていたのである。

本来私は、たくさん寝る人間なのだ。魔道具造りをしている時はつい、睡眠を疎かにしてしまうこともあるけれど、それが済めば死んだように眠るのが私の特徴である。

魔道具造りが一段落したためにアドレナリンも完売状態なので、つまり、今、普通に眠い。

「レディ・リンシアがよろしければ、馬車の中では眠ってください。私も寝ます」

「私も少し仮眠を取らせていただきたく……」

ルーズヴェルト卿はキッパリ、そして意外なことにクラインベルク様まで苦笑いでそう続けた。

二人とも睡眠不足なのね……。王太子殿下の【過労死目前の対策本部】という言葉が頭をリフレインする。

私もこれで仲間入りってやつかしらね?ものすごく嫌だわ、ふふふ。

「天気が崩れていなくて良かったですわ」

馬車に乗り込みながら、私は空を確認した。

この後の天気は分からないが、ひとまず今は雨の気配は無さそうだ。

冬になったら、馬車旅は難航する。旅程は、今の倍は見ておいた方がいいだろう。

続いてルーズヴェルト卿とクラインベルク様が乗り込むと、フローラが駆け寄ってきた。手にはバスケットを持っている。

「お嬢様、こちらお持ちくださいませ!」

「これは?」

「サンドイッチとビスケットですわ。サンドイッチは、本日の昼食に。ビスケットは、非常食としてお召し上がりください」

クラインベルク様が、フローラからバスケットを受け取る。私を見ると、フローラの目が潤んだ。

「お嬢様……。どうぞご無事で」

「戦地に行くのではないわよ?」

「ですが、とても、とても心配ですわ……。お嬢様はとってもお可愛いらしいですから、変な輩に絡まれでもしたらと思うと、私はいてもたってもいられず……」

フローラの言葉に、私は苦笑した。だけど、彼女は本気で心配してくれているのだろう。それが分かっていたから、私は彼女の言葉を否定せずに、背後のふたりを窺って答えた。

「大丈夫よ、フローラ。心配には及ばないわ。クラインベルク様とルーズヴェルト卿も同行してくださるもの。ね?」

「もちろんです。ご令嬢は私が責任を持ってお守りいたします」

「ああ。あなたの心配もわかるが、どうか私たちに任せて欲しい」

クラインベルク様とルーズヴェルト卿がそれぞれ答えるが、それでもフローラは落ち着かないようだった。

「ですが……お嬢様は最近、とても明るくなったとランキングを急上昇されておりますのよ。この勢いではトップスリーに入るのも時間の問題──」

フローラが最後まで言い切る前に、二人が尋ねた。

「ランキング?」

「トップスリー?」

私は2人の言葉を遮るようにして、手を叩いた。

「さ!そろそろ出発しないと予定が狂ってしまいますわね!フローラ、気持ちは嬉しいわ。ありがとう、だけどエルドラシアに向かうのはこれで二度目だし、あまり心配しないで!さあ、馬車を出してちょうだい!」

最後は御者に向けて言う。今のでちょっと目が覚めたわ……!!

フローラの言うランキング、とは絶対、以前口にしていたやつだろう。

(やっぱり淑女verもあったのね……!)

今現在、私が何位かは少し気になったけれど、紳士verには、ルーズヴェルト卿がランクインしているのだ。聞いていないけれど、クラインベルク様も入っているかもしれない。

少なくとも当事者がこの場に一人はいる以上、話題にするのは避けた方がいいでしょう。こういうものは当事者が知ると気を悪くすることもあるし。

そう思って急かすとようやく馬車は動き始めた。こうして、泣きそうなフローラに見送られて、私たちの馬車旅は始まったのだった。

幸先いい……のだろうか。分からないわ。

とにかく眠い。難しい思考は後回しにした私は、馬車が動き始めるとすぐに寝落ちしてしまったのだった。