軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

125 密偵セルメト、愚痴る

「正確には現四天王の決定で!!」

あー。

なんか話が見えてきた。

諜報機関は魔王軍の重要セクションの一つ。

情報を制する者が世界を制すると言われているぐらいだ。

その価値は大いに認められ、魔王軍の頂点に立つ四天王が直接指示を出していた。

正確には補佐である俺からだけど。

しかしそれも過去の話。

先代四天王も引退され、当代四天王に入れ替わってから情勢は大きく変わったというべきだろう。

「私は、今思い出しただけでも歯噛みします! 当代四天王の……、あのバカども唐変木さには! ……はらわたが煮えくり返る!!」

怒りが燃え上がるような様子だった。

……。

少なくとも俺が魔王軍にいた頃は諜報機関に手は加えられてなかったはずだったんだがなあ。

「ダリエル様が魔王軍から追い出されて、すぐでした……!」

すぐなんだ……!?

「いきなり諜報機関の解体を言い渡されて……! 理由すら告げられませんでした。しつこく通信を繰り返してやっと返答が。しかもその返答がクソそのものみたいな内容で……!」

以下、セルメトから伝え聞いた返信文の内容。

『魔王軍は誇り高き正義の組織である。それゆえ卑怯卑劣の徒に居場所などない。諜報機関など卑劣の代表のような組織。正面から戦わず、陰に隠れてコソコソ立ち回る虫けらのような存在である』

『真の誇りある魔王軍精鋭は、正面から正々堂々と戦い、実力にて敵を粉砕するものである。貴様らごとき卑怯者の助けはいらぬ。むしろ迷惑である。貴様らのごとき害虫を一匹残らず駆除して初めて魔王軍は真の清浄を取り戻す』

『本来なら捕縛し、反逆罪の名の下に火あぶり刑に処すところを、追放だけで済ませてやっているのは当方の慈悲である。その慈悲を感じ取ったのならば心を入れ替え、正当なる方法で魔族と魔王軍に貢献できる道を模索すべし』

『四天王大筆頭『絢火』のバシュバーザ』

……と、最後に署名されていたんだそうな。

語り終ると同時にセルメトの感情が爆発した。

「最悪ですよあのクソ坊ちゃん!! 諜報を! ズルとしか捉えていないんです! 敵と真正面から向き合って『ヨーイドン』で始まるのが戦いだとか勘違いしてるんですよ!! 過去歴代の人間族魔族が、あらゆる手段を駆使して争い合ってきたか歴史を学べばすぐわかるでしょうに、まったく学んでないのがクソ坊ちゃん!!」

「はああああ……!?」

今日までよほど鬱憤が溜まっていたのだろう。

それが一挙に爆噴した感じ。

しかし、バシュバーザが魔王軍の諜報機関を解体に追い込んでいたとはなあ。

そこまで意外ではない。

ヤツが常に華麗で、見栄えのよい戦いを求めていたことは確かだ。

自分の人生をそういう風に演出したかったのだろう。麗しく華々しく光り輝く自分でありたかったのだ。

「あのクソ坊ちゃんの魂胆はわかっています! あれもダリエル様イジメの一環だったのですよ!」

「ええ? 俺ぇ……?」

セルメトの憤懣はまだ吐き出し尽きない。

「だってそうじゃないですか! 魔王軍の諜報機関を立て直したのはダリエル様ではないですか! そのダリエル様の功績に嫉妬してたんですよ!!」

「そんなこともあったなあ……」

元来人の集団というものはナマモノだが、諜報機関ほどナマッぷりが極まる集団はない。

情報を真っ当に扱える人材がいなければ無用の長物だし、敵の防諜機関に叩き潰されることだってある。

そうした関係で魔王軍の長い歴史の中では、諜報機関が弱い期間もあればまったく機能していない期間もあった。

今から二十年ほど前もそうだった。

当時はグランバーザ様が総指揮をとっていた先代時代ではあったが、最強完璧に見えるグランバーザ様もあれで案外欠点もあって、それこそ諜報を含めた搦め手はけっこう苦手な人だった。

最強であることの弊害とも言えるだろう。

そんな折、当時グランバーザ様の下で兵士見習いをしていた俺に『何か魔王軍に役立つことをしてみよ』という課題が与えられた。

当時のグランバーザ様にとっては可愛い部下へのからかい半分といったところだろうが、俺は期待に応えたくて奮起した。

旧い資料を読み漁って、かつて組織されていた諜報網の跡を発見、人員を配置し長いこと停止していた諜報機関を復活させた。

その功績でもって正式に四天王補佐に就任してからも、ずっと魔王軍の諜報機関は俺の直轄として扱われていた。

そのものズバリ『ダリエル機関』と呼ばれることもあったか。

「……バシュバーザが毛嫌いするのも仕方のないことか」

「そうですよ、偉大なるグランバーザ様の才能をこれっぽっちも受け継がなかったあの無能は、血は繋がらないけどグランバーザ様の正当後継者であるアナタが大嫌いだったんです! だからアナタを追い出した。アナタに関わりあるすべてを魔王軍から抹消しようとした!!」

そのあおりをセルメトたち諜報部も受けてしまったということだよな。

いわばとばっちり。

「巻き添えを食わせてしまってすまないな」

「何を仰います! むしろ私たちはあの事件を通じて確信しました! 私たちは魔王軍のために働くのではない、ダリエル様のために働くのだと!!」

「それもどうかと」

「バシュバーザのクソが死んだことは聞いています。心がスカッとしますザマ見ろです! そしてダリエル様はそれを好機にいよいよ魔王軍に返り咲くんですね!?」

さすが諜報員耳が早い。

バシュバーザ横死を当然のように窺知していて、さらにその先のシナリオまで予見しようとしている。

「今の四天王は温室育ちの無能だらけです! 真面目なだけが取り柄のドロイエ、調整役のベゼリア、アホでしかないゼビアンテス!!」

「一人一際酷くない?」

評価が。

「こんな連中が三人寄っても魔王軍を回せることは到底思えません。いずれ遠からず破たんします。……いえ、既にバシュバーザが好き勝手してきたことにより破綻寸前、これを立て直せる有用の人材はダリエル様を置いて他にありません!」

セルメトさらにまくしたてる。

「ダリエル様が魔王城に戻られる時には我々全力をもって力添えさせていただきます! 政敵となるであろう現役四天王の隅々まで調べ上げ、弱みを焙り出してみせますが!!」

「いや、いいです」

そういうのいいです。

「セルメト、キミらがそんな苦汁を舐めさせられていたとは。今まで気づかなくて本当に申し訳なかった」

「い、いえ、そうして気遣ってくだされるだけでも、ダリエル様が無能四天王とまったく違うことを実感できます……!」

「しかし、俺はもう魔王軍に戻るつもりはないんだ。新しい生き方を見つけた。俺はその道を邁進していくつもりだ」

「新しい道、ですか……!?」

「キミに連絡をつけたのも、その手助けを頼みたかったからだ。……でもまいったな、キミらの状況の方がずっと酷いとわかれば図々しいお願いなどできない」

むしろ俺にできることがあれば何でも言えよというべきところだ。

「とりあえずは魔王軍に、キミたちの復帰を働きかけてみよう。キミらの言うようにバシュバーザは死んだ。率先してキミらを排除しようという勢力は鳴りを潜めたはずだ」

集団的軍事行動において情報収集より大事なことはない。

それを知らないバカばかりな魔王軍ではないはずだ。

「お心遣いまことに感謝いたします。ですが私たちも魔王軍には何の未練もありません」

「そうなの……」

「先ほども申しました通り、私たちは魔王軍ではなくダリエル様に忠誠を誓っているのです。今の魔王軍に、私たちを縦横無尽に使いうる人材は存在しません。頂点の四天王ですら無能揃いです。そんなヤツらの下に就きたくありません!」

「言い方酷いなあ。そこまで無能? 仮にも全魔族から選び抜かれた最強の魔導士たちだよ?」

「最強と賢明は違います。私たちを使いこなすには浅薄な力より、深遠な知恵こそ必要なのです。今の四天王にはそれがまったくありません」

「そんなことないでしょう? 今の四天王だって頑張って軍を回そうとしている……、ホラ、ドロイエみたいな人が」

「アイツはただ真面目なだけです。真面目なだけでは騙し騙されが日常の諜報を使いこなすことはできません」

「たしかに……?」

「唯一見込みがあるとすれば水の四天王ベゼリアですが、あの男は功を求めることよりも調和を重んじます。相互不信の虚を突くぐらいなら、その不信の穴を埋め、組織の保全を優先する男です。我々とは性が合いません」

「ん?」

この評価は俺から見て新鮮だな。

四天王『濁水』のベゼリアが調和を重んじる男とは。

むしろ皮肉屋で嫌味ばっかり言って、和を乱す方向性の方が濃いと思っていたんだが。

まあそういう人による評価の違いを楽しむのは置いておくとして。

「じゃあ最後に、ゼビアンテスはどう?」

やっぱり置いておけなかった。

この際残存する四天王全員の評価を聞いてみよう。

「アイツが一番ダメです」

予想はできていたがまたバッサリと切ってきた。

「アイツはハッキリ言って上に立つ器ではありません。自分勝手で気紛れ。統率者として資質に欠け、逆に余計な性格ばかりが目白押しです」

それからも、ゼビアンテスのどこがダメなのかということを事細かく明確に、かつ具体的に列挙するのであった。

「……という感じで、ゼビアンテスこそバシュバーザに次いで四天王に相応しくない女です。組織の病巣です。彼女いる限り魔王軍はまだまだ安泰にはならぬでしょう」

「そう……」

俺の視線がするりと横を向いた。

そこには当のゼビアンテスがいた。

アイツがウチを出入りしているのはいつものことだが……。

図らずも当人の目の前でボロカスにダメ出ししているということで、ゼビアンテスのヤツはレーディの胸に抱かれながらシクシク泣いていた。

お嬢様だけあって案外打たれ弱かった。