軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09 四天王ドロイエ、後悔する(四天王side)

ダリエルが魔王軍から追放され、人間族の村にて第二の人生を始める。

同じ頃、ダリエルを追いだした魔王軍ではどのようなことが起こっているだろう。

魔王軍は、魔王を守るための軍隊である。

魔王は貴重な存在である。

魔族は、魔王の加護によって魔法が使えるのだと言われている。

魔法という万能の力を使い、他種族を圧倒できる。

すべて魔王あってこそ。

だから魔族たちは魔王を讃え、魔王に絶対服従する。

そして同時に、魔王を殺さんと攻めてくる人間族の勇者を、全力で迎え撃つ。

魔王を守るために。

魔族最高の力を守るために。

そのために組織されたのが魔王軍である。

魔王軍の頂点として設置されているのが四天王。

魔族最高の使い手を厳選し、魔王軍の実質的司令官として全権を委ねられている。

通例として魔法の四大属性――、地、水、火、風のポジションが割り当てられ、世代それぞれの属性最強者が就任することになっている。

当代の四天王は、つい最近交代したばかりの新世代。

それは先代の四天王が、同じく先代の勇者と壮絶な激闘の末に相討ちとなって果てたから。

四人いる四天王が一斉に顔ぶれを変えるのは、長い歴史の中でも珍しい。

魔王軍の中では『こんな若輩者ばかりで大丈夫か?』という不満の声も広がりだしていた。

「どういうことよ!?」

四天王の一人、『華風』のゼビアンテスがテーブルを叩いた。

その体は、傷と包帯でボロボロとなっていた。

「聞いてないわ! 勇者が新しい仲間を加えていたなんて聞いてないわ!!」

「それでおめおめ負けて帰って来たというわけか……?」

同じく四天王の一人『絢火』のバシュバーザが言う。

魔王軍にとって、魔王討伐を目指す勇者こそ宿敵。

勇者を撃退し、魔王を守ることこそもっとも重要な職務だった。

四天王が代替わりしたのと同様、人間族側でも新しい勇者が誕生したという。

その新人がまた歴代最強クラスの猛者というので、四天王一人一人では太刀打ちできないほどだった。

迎撃には出るのだが撃退されて逃げ帰ってくる。

「情けないねえゼビアちゃん? 人間ごときに遅れをとるなんて、華麗なる風使いの名が泣くよ?」

というのは同じく四天王『濁水』のベゼリアである。

ねちっこい嫌味たらしい口調で他の全員から嫌われていた。

「だから! わたくしが遅れを取ったのは勇者が連れていた新しい仲間のせいなのだわ! 風の魔法を掻い潜る槍使いよ! いかにわたくしの風魔法が華麗にて最強でも、相性の悪さは覆らないのだわ!!」

「だから逃げ帰ってきたと?」

バシュバーザは苛立たしげに溜め息をついた。

「では聞くがゼビアンテス。その勇者が連れていたという新顔の槍使い、何故事前に察知できなかった?」

「うッ!?」

「戦いの前の敵情視察は基本中の基本。敵の陣容に変化があるとわかれば、いかようにも対処できるだろう?」

それをせず、無策で突撃してまんまと敵の術中にはまる。

懲罰に値する怠慢行為であった。

「それは……、あ、アイツが悪いのだわ!」

ゼビアンテスは、苦し紛れに視線を横に向けた。

「新しい四天王補佐! 偵察はアイツに任せていたのに、槍使いの存在を見逃したのはアイツのせいなのだわ!」

四天王が囲む円卓の外で、若い騎士風の魔族が縮こまっていた。

ダリエルの代わりに就任した四天王補佐で、バシュバーザたちの好む折り目正しいエリートだった。

はずだが……。

「おい」

バシュバーザの眼光が燃え上がった。

エリート四天王補佐は、それだけで腰砕けとなって震えあがる。

「お前はクビだ。失せろ」

「ひいいいッ!?」

エリート補佐は逃げ去っていった。

「また補佐を選び直さないといけないな……!」

「無能ばかりで困ってしまうのだわ」

実のところ、補佐の交代はこれが最初ではない。

一番初めのダリエルもあるが、彼を解雇してから、さらにもう四、五度も補佐をとっかえひっかえしている。

何か少しでも落ち度があれば、容赦なく責めを負わせるのだ。

「本当にそうなのか?」

「ん?」

「失敗が立て続けなのは、本当に補佐のせいなのかと聞いている」

そう言ったのは四天王の一人『沃地』のドロイエだった。

当代四天王において最年少ながら、地属性魔法を自在に使いこなし才媛と讃えられる女。

腕組みの上に、豊かな乳房が重苦しげにのしかかっていた。

「なんだドロイエ? 我々の判断に異論があるのか?」

「いや、実際のところ補佐に問題があるのはたしかなのだろう」

ドロイエはもったいぶったように言う。

「一番最初の補佐……ダリエルは、徹底した偵察をしたものだった。ただ敵情を探るだけでなく、入手した情報を吟味、分析して、どのような対処を取るべきかまで考えて報告してくれた」

「……」

「あそこまで行き届いた補佐をしてくれたのは、これまでクビにしてきた中ではダリエルただ一人だ」

それだけではない。

少なくともダリエルは、補佐官という職において常に完璧以上の仕事をしていた。

物資の供給を滞らせたことがなく、質問して答えられなかったことなど一度もなかった。

古今の戦術に通暁し、戦場における予想も外したことがない。

四天王の健康管理にまで気を配っていた。

ドロイエ個人の体験だが、月のもので歩くこともままならなかった際、周囲に知られぬようそれとなくフォローしてくれたのはダリエルだった。

思い出すたびに赤面するが、大いに助かったのも事実。

最下級の暗黒兵士でありながら四天王補佐に抜擢されたダリエル。

それを行ったのはバシュバーザたち当代の四天王ではなく、その先代だという。

先代が引退したあともダリエルは現場に残り、新任者たちの補佐を続けてくれたが、その新任者は惜しげなくダリエルを切ってしまった。

最強と名高い先代に、珠のごとく愛された逸材の価値が、失われて実感できてくる。

「不愉快な名を口にするな……!」

しかし『絢火』のバシュバーザは認めなかった。

「ダリエルなど、前世代の遺物でしかない。しかもガラクタだ! 先代は、あんな無能を気にかけるなど不見識をするから、勇者ごときと相討ちになった。醜態を晒したのだ!」

「先代は、歴代最強と謳われる猛者揃いだぞ。しかもその一人はバシュバーザ、アナタの実のお父上ではないか」

ドロイエからの指摘に、バシュバーザはグッと息を飲んだ。

「先人を不用意に貶めるものではない。アナタ自身の価値をも下げる行いだ」

「煩い! ボクは四天王のリーダーだぞ! リーダーに口答えするのか!?」

「…………」

ここまで来ると、ドロイエも抗弁する気になれず口を閉じた。

この男はあまりにも小さい。

ドロイエは忌憚なくバシュバーザを評価した。

それに比べたら、あのダリエルはどれほど大きな存在だったことか。

彼に落ち度があるとすれば、魔法が使えないこと。

魔族にとって致命的な落ち度であったが、ダリエルの至らぬところはたった一つそれのみだった。

並み程度でもいい。彼が魔法を使えていたのなら。

彼自身が四天王の一人となり、四天王を率い、勇者との戦いを有利なものとしていたかもしれない。

そんな愚にもつかない空想を、ドロイエはここ最近何度も繰り返していたのだった。

「ともかくも今、問題とすべきは勇者だ」

そう、今は現実問題が急務である。

「こうしている間にも、勇者はこの魔王城に迫りつつある。魔王様のお命を奪わんがため。……いかにして阻む?」

既に『華風』ゼビアンテスは敗退。

四天王の一角は崩れ去っている。

「次は誰が行く? ベゼリア、キミはどうだ?」

「ええ? 私はこないだ行ったばかりじゃないか?」

「そうよ! アナタだって偉そうに言いながら既に勇者に負けているのだわ!」

彼らにとって敵は巨大だ。

歴代最強と呼ばれた先代四天王。

その先代と相討ちにまで持ち込んだ先代勇者。

その先代勇者のあとを継いだ当代勇者は、既に先代を上回る実力と聞く。

「なりふりかまっていられないのではないか?」

ドロイエが冷静な意見を述べた。

「一人一人と言わず、四天王全員で迎撃すべきだ。そうしてやっと勝ち目が出る」

「バカな! ドロイエ、キミにプライドはないのか!?」

バシュバーザが色をなして反論する。

「我が魔族最強の四天王が、下等な人間族相手に全員でかかろうなど笑いものだ! ボクはそんな恥知らずなマネはできない!!」

「わたくしも戦ったばかりだから。負傷が治るまで出撃は勘弁願いたいのだわ……」

「面倒くさいよねえ?」

ゼビアンテス、ベゼリアまでもが追従し、ドロイエは少数派に立たされた。

ダリエルを解雇した時もそうだった。

ドロイエ自身、ダリエルという俊才を評価していた。

手放すなど愚かな行為でしかないと思っていた。

しかしバシュバーザの独断に、他二人の賛成が加わっては、彼女一人だけの反対ではどうにもならない。

結局最後には同意するしかなかった。

それでもあの頃のドロイエは楽観的だった。

ダリエルの的確な補佐を失うのは痛いが、魔族最強として選び抜かれた四人が一丸となれば、打倒勇者も不可能ではない。

そう信じていた。

今はただ、甘い見通しだったと認めざるをえない。

「そうだドロイエ。キミが行くといい。四天王二人が敗れた今、三人目はキミしかいない」

まるで他人事のように気楽なバシュバーザ。

「キミが負けた時こそ、このボク、四天王のリーダーであるバシュバーザ出陣のいいタイミングとなろう。精々ボクの手を煩わせぬよう奮戦してくれ」

「…………わかった」

ドロイエは席を立った。

何の実りもない四天王会議だった。

だがそれでも、ドロイエにだって四天王に抜擢された自負がある。

最初から負けるつもりで挑むことなどできなかった。

「魔王様の御辺を乱してなるものか。四天王『沃地』のドロイエの名に懸けて必ず勇者を押しとどめる!」

そのためにも何より必要なのは。

やはり彼の力。

ドロイエは素直にそう思った。